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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
二章 奪われた神具
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二、奪われた神具【19】


 巨乳女性は見下すような目でグランツェを一瞥いちべつし、鼻で笑った。

「へぇ……」

 腕を組んで、程よい距離まで歩み寄ってくる。もちろんガラの悪い三人の男を背後に引き連れて。

「見ない顔だね。あたい等を氷河大帝国と知っての言動かい? その勇気は褒めてやるけど覚悟するんだね。どこのチームだい?」

 グランツェはきっぱりと告げる。

「どこのチームでもない。ただの道具屋や」

 すると巨乳女性の背後にいた男が一人、睨みをきかせながら前に出てくる。

 巨乳女性はそれを手で制した。

「お待ち。先に手を出すんじゃないよ。ここは神々の島。先に手を出した方が負けだよ」

 仕方なく指示通りに退く男。

 巨乳女性は何を思ったか、急に踵を返して少年のところへ歩いていく。

 少年のところに辿り着くと同時、少年の手の中にある瓶を奪い取って高く掲げる。

「あっ!」

 少年が立ち上がる。奪われた瓶を取り戻そうと必死に手を伸ばす。

「か、返してください!」

 巨乳女性は目ざとく少年と突き飛ばし、地面に転ばせた。そして手にした瓶をくだらなそうな顔つきで眺め、わざとらしい口調で、

「ほんっと汚い瓶だね。あー古臭い。こんな物から出てくる幻影なんて、きっとヘドが出るほどつまらないものだろうね。売っている奴の気がしれないよ」

 ミリアーノは言い返そうと口を開いたが、その前にグランツェが声を大にして言い返す。

「その瓶を侮辱するな!」

 と、拳を固める。

 巨乳女性はそれを見て噴き出し笑った。自分の頬を指先で示しながら、

「殴りたければ殴りなよ。さぁ好きにおし。ここは神々の島。殴り合いの喧嘩が出来ない場所だよ」

 汚らしい物を持つかのような手つきが瓶を振る。

「こぉーんなゴミの為に精霊から石にされるなんて馬鹿馬鹿しいと思わないのかい?」

 そう言って「きゃはは」と腹を抱えて笑い出した。

 グランツェが無言で拳を振りかぶって構える。

 周囲からあがる悲鳴。

「やめて、グランツェ!」

 ミリアーノは体を張ってグランツェの腕に飛びついて止めた。

 それを見た巨乳女性がさらに笑う。自分の頬を再び指で突いて示しながら、

「どうしたんだい? ほら、殴りに来なよ。殴らせてやるって言ってんだから来ればいいじゃないかい。それともなんだい? やっぱりこんな貧乏くさい物の為に石になりたくなっていうのかい?」

 グランツェが歯軋りに呻く。

「てめぇ、言わせておけば……!」

「グランツェ!」

 ミリアーノは必死に止めた。

「ダメだよ! このままあの人に殴りかかって石になったら絶対後悔する!」

 巨乳女性はひとしきり笑った後、その笑いを一旦止める。

 そして企みある笑みを浮かべ、再び瓶を手の平に載せ、高く掲げた。そのまま手の平を下へ傾けていき、

「あ~ら、手が滑っちゃった」

 故意的に手の平から瓶を落とす。

 瓶は落下し、地面で乾いた音を立てて砕け散った。

 砕けた瓶の中から出てきたのは丸々と太った手乗り梟のフレスヴァ。急に明るくなった視界に、きょろきょろと不思議に周囲を見回す。

「おや? ここはどこですかな?」

 それを見た巨乳女性と三人のガラの悪い男は噴き出し笑う。

 笑い堪えながら巨乳女性。

「ほらごらんよ。やっぱり汚い物から生み出される幻影はこんなもんじゃないかい。これは豚かい? それにしても不細工な生き物だね」

 フレスヴァの悪口を言われ、さすがにミリアーノもカチンときた。グランツェと一緒になって睨む。

 その視線に気付いた巨乳女性はミリアーノへと目をやる。

「なんだい。あんたもやる気かい? かかってきなよ。殴らせてあげるって言ってるだろう? ほら、やりなよ」


「幻影に殴られたことはあるか?」


 声は別の方からした。

 巨乳女性が視線を巡らせ声主を探す。

「誰だい!」

 全ての視線が一点に集った。ミリアーノもグランツェも振り返ってその先に目を向ける。

 そこにはもう、ウサギの姿ではないクレイシスの姿があった。

 巨乳女性の顔が恐怖に引きつる。

「お、お前……! 大魔法使いクレイシス!」



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