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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
二章 奪われた神具
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二、奪われた神具【10】


 ──そして。

 

 息抜きに街の外れに出て、深呼吸をする。

 青々とした丈の短い草原が広がる大地。でも広大というわけではない。どちらかといえば街沿いを囲むちょっとした庭、と表現した方が正しいか。

 ここから真っ直ぐに程よく歩いていけば、もう島の端だ。

 でもこれは島が狭いのではなく、島に許可されたスペースぎりぎりまで街が広がっているということなのだ。

 島の端へと向かって歩きつつ、ミリアーノは肩を落としてため息をついた。

「あ~ぁ。仲間探しって、なんでこんなに難しいんだろう」

 そして島の端──崖のように切り立った場所──に辿り着くと、その先端に腰を掛ける。島の外へと足を投げ出し、そのままぶらつかせた。

 退屈そうに地上を覗き込む。

 八つ当たりするように手短にあった草をむしって、崖下──地上に投げ落とす。

 パラパラと。

 舞い落ちていく緑の葉。

 それを見つめながら、ミリアーノは愚痴る。

「誰もみんな苦笑い。イベントに参加するなんて馬鹿げているのかなぁ?」

 足の下に広がる白い絨毯のような雲。その時々に見える青い海。

 火竜の背から見る風景とは、また違う風景。

 まるで地上を見下ろす天使にでもなったかのような気分で、とてもいい眺めだった。

 座る場所に生えた草、そして海の青さを見ると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。

 故郷が森と水に恵まれた豊かな国だから。

 気付けば自然と、故郷の歌を口にしていた。

 そんなミリアーノの隣に、ウサギが疲れたように腰を下ろす。

「お気楽な奴だな」

「え?」

「毎日悩みなんてないだろう?」

「あるわよ、失礼ね。今だって上手く仲間探しもできなくて──」

「お前がこだわるからだろう? 誰でもいいんだよ、仲間なんて」

「だって、やっぱりこう……なんていうの? 拳で語り合えるような、熱血あふれる猛者を──」

「格闘士でも目指すつもりか? 白羽使い」

「でも二次予選は戦闘なんでしょ?」

「戦うのは人じゃなく幻影だ」

 呆れるようにため息を吐いて、ウサギは背中を倒して草原に寝転がった。

 こちらに背中を向けたまま素っ気ない声で訊いてくる。

「この島には何しに来たんだ? 白羽使い」

「前にも話したでしょ。夢でお母さんに誘われたって。ただそれだけよ」

「それだけか?」

「他に理由があった方がいい?」

「……。いや、もういい。期待したオレが馬鹿だった」

 小うるさそうに手で払って、それ以上何も言ってこなくなった。

 ミリアーノは不思議に小首を傾げて訊ねた。

「そういえば、どうしてクレイシスはイベントに参加したくないの?」

「お前には関係ない」

 言い方にムッとしたミリアーノはツンと顔を背けると、口を尖らせてぼそりと続けた。

「何が最強の魔法使いよ。クレイシスって逃げてばかりですっごく弱そう。やっぱり魔法使いといえば邪悪な服を着て暖炉で毒々しく煮えたぎる液体の入った大釜をかき混ぜながら『イーヒッヒ』と──」

「魔法使いにどんなイメージを抱いているんだ、お前は!」

 ウサギが勢いよく身を起こして突っ込んできた。

 ミリアーノはウサギへと向き直ると真顔できっぱりと言い放つ。

「そう思わない?」

「…………」

 口を閉ざして沈黙したまま、ウサギは再びこちらに背を向けて寝転がった。

「無視、か」

 そう呟いて。ミリアーノは空へと視線を流すと、止めていた歌の続きを再開した。


 何呼吸かの無言を置き。


 ぼそりと急に、ウサギが認める。

「まぁな」

「やっぱりね。魔法使いは──」

「違う。オレが言っているのはそこじゃない。人としての弱さのことを言ったんだ」

 ミリアーノは目を二、三度瞬かせると、きょとんとした顔で小首を傾げた。

「人としての弱さ?」


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