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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
二章 奪われた神具
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二、奪われた神具【9】


 女の子はミリアーノを見つめて淡々とした口調で答える。

「正解は『爆発する』だよ」

 ミリアーノは首を傾げた。

「爆発する? どういうこと?」

「神具を作る際、魔力は必ず三十パーセント以上じゃないとダメ。それ以下は全部アウト。

 あと卵に塩水はダメ。海で生まれたモノじゃないから純粋な水に浸した布でなければならないの。暗所で半日は正解。仕上げをするまで直射日光は禁止。あと風もダメ。風の入らない暗所で布を取って、最後に人の息をそっと吹きかけるの。

 これで神具は完成。幻影は鶏。ただ見て楽しむだけのもの。イベントでは役に立たない代物ね」

「す、すごい……」

 ミリアーノは呆気に取られた顔で目を丸くし、感嘆の声をもらした。

 解説し終えた女の子は鋭い目でウサギを睨みやり訊ねる。

「そうでしょう? クレイシス」

「え?」

 ミリアーノも追うように視線を向ければ、隣にいたはずのウサギはいつの間にか距離を置いた場所で背中を向けて固まっており、その場から逃げ出そうとしている格好だった。

 ウサギはぎこちなく首を回し、引きつる声で答える。

「き、奇遇だな、サラ」

 女の子──サラは肩を竦めて呆れる。

「素人相手に難題を出すなんて相変わらず面白いことしているのね。知識者が私じゃ不満?」

 慌てて両手を振ってウサギ。

「そ、そうじゃなくて……えっと、その、なんだ。あれだ。こんなところで何しているんだ?」

「退屈しのぎの散歩よ。あなたが早く捕まってくれないからイベントの登録が出来なくて暇なの」

「そ、そっか。悪いな、毎年迷惑かけて」

「気にしてないわ。結末としてあなたが捕まってくれればそれでいいから。試したい神具の知識があるの」

「それ試す際、オレに『死ぬほどの膨大な魔力を出せ』なんて命令しないよな?」

 サラは平然とした顔で答える。

「換えの魔法使いなんていくらでもいるわ」

「よし、サラ。まずは命の大切さについて学ぶことから始めてみようか」

「興味があれば学んでみるわ」

 ミリアーノは身を屈めてサラの視線に合わせた。

「ねぇサラちゃん。あなたクレイシスと知り合い?」

「そんなところね」

「知識者、だよね? もし登録がまだだったら私の仲間になってくれない?」

 サラはツンとそっぽ向いて、

「お断りするわ」

 即答で切り捨てられ、ミリアーノの気分は深海のごとく沈んだ。

 その場に膝を抱えてうずくまる。陰気くさくブツブツと、

「いいんだ、私なんて……」

「ミリアーノお嬢様」

 フレスヴァが慌てて励ます。

「そんなことありませんぞ。わたくしめがついております。絶対にそんなことは──元気をお出しください」

 その間にウサギがサラに詰め寄り、声を落として頼み込む。

「悪い、サラ。さっきコイツが言ったこと、あの皇帝には内緒にしていてくれないか? コイツをオレの事情に巻き込みたくないんだ」

 サラは顔色変えずに「別にいいけど」と退屈そうに呟いて、くるんと方向転換した。

 去り際に言葉を残す。

「他人の心配よりも自分の心配をしたらどうなの? クレイシス。ついでに言っておくけど、イベントの出場登録期限は今日までだから。次にあなたに出会った時、目が虚ろで決められた言葉しか話さない廃人になっていないことを祈っているわ」

 サラはそれだけを告げると、てくてくと人ごみに紛れ歩いていった。

 見送って、ウサギが呟き漏らす。

「強制参加かよ……」

 盗み聞きしたわけじゃないけども。

 ミリアーノはウサギのところへと歩み寄る。

「ねぇ、あの子何者なの?」

「知識者だよ。愛国心の強いファルコム大帝国宰相の愛娘だ」

「……。私、声を掛けちゃいけない人に声掛けちゃった?」

「あぁそうだな」

 ウサギは屈めていた腰を起こし、立ち上がった。

「ここでお別れだ、白羽使い」

「え?」

「これ以上一緒に居ても仕方ないだろう? あとはオレが言った通りに探して行け」

「で、でも!」

「探す相手はあと三人だ。知識者、魔法使い、道具屋。わかったな?」

 告げて、ウサギは背を向けた。

 ミリアーノはその背を掴もうとして──。

 察したのか、ウサギが忠告してくる。

「ファルコム大帝国に関わるつもりか?」

 その言葉に、ミリアーノは手を止める。

「そうだよね……」

 宙に浮かせた手を引き寄せて、ミリアーノはくるりと背を向けた。後ろ手を組んで、わざと明るく振舞う。

「大丈夫だよ。あとは一人で何とか探してみる。色々ありがとね」

「……」

 無言で。ウサギは背を向けたまま歩き出す。

 それをちらりと一瞬見送って。

 ミリアーノは気分を紛らわせるようにポシェットのフレスヴァに声を掛けた。

「さてと。仲間を探そう、フレスヴァ。手伝って」

「御意に」

 手っ取り早く、今通り過ぎた鳥人民族に声を掛ける。

「すみません。この近くに、邪悪な服を着て暖炉で毒々しく煮えたぎる大釜の液体をかき混ぜながら『イーヒッヒ』と笑う老婆の魔法使いを知りませんか?」

「どんな魔法使いを仲間にする気だ、白羽使い!」

 少し離れた場所で、ウサギが突っ込みを入れてきた。



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