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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
二章 奪われた神具
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二、奪われた神具【8】


 大通りへと出て、ミリアーノはウサギの着ぐるみ姿の彼とともに街中を歩いていた。

 先へ先へとどんどん進んでいく彼の後ろを半ば駆け足でついていきながら、ミリアーノは問う。

「ねぇ、誰か紹介したい人でもいるの?」

 急にウサギが足を止めた。

 その背にぶつかる。

「痛っ!」

 ぶつけた鼻頭を手で押さえ、ミリアーノは文句を言う。

「ちょっと、急に止まんないでよね」

「なぁお前……」

 そこで言葉を一旦区切り、呆れるように顔を手で覆って項垂れてから続ける。

「もしかしてさっきからずっと馬鹿みたいにオレの後をついてきていたのか?」

「ば、馬鹿って何よ。そんな言い方──」

「よし。じゃぁこうしよう」

 急に明るく気持ちを切り替えるウサギに、ミリアーノはテンションを合わせられずに肩をコケさせる。

「な、何なの?」

「仲間探しはこの範囲でやろう。さぁ適当に選んでこい」

 驚き顔で目を瞬かせてミリアーノ。

「『さぁ適当に』って……何を、どうやって?」

「適当だよ。この辺をざっと見回してみて気に入った奴に声をかけていくんだ。魔法使いと道具屋はすぐに見つかるだろうから──」

「え?」

「いや、『え?』って……周りを見ればわかるだろう? この街で店を出している奴はみんな道具屋だ。道具屋なんて腐るほどいる。魔法使いも同じだ。魔法が使えれば魔法使い。使い手も神具を持っていれば使い手だ」

「なんかすごく当たり前のことを言われている気がするんだけど」

「当たり前のことを言っているんだ。まさかオレに手取り足取り探してもらおうとか考えていたわけじゃないだろうな?」

「違うの?」

「どんだけオレに気を許してんだ。言っとくが、イベントが始まればオレはお前の敵になるんだからな。わかっているのか?」

「え?」

「は?」

「決勝戦に行くまで手伝ってくれるんじゃないの?」

「何の義理でオレがそこまで世話しなければならなんだ?」

「……」

 ミリアーノは半眼になってぼそりと、

「神具どろぼー」

「誰がだ。持っていったのはリズだ。オレに言うなよ」

「わかったわよ。──で? ここにいる人たちに片っ端から声を掛けていけばいいの?」

 げんなりとした声でウサギ。

「オイ。そんなことしてたら日が暮れるぞ、白羽使い」

「じゃぁどうすればいいの?」

「もっと順序良く効率的に探せ」

「わかったわ。近くにいる人から順に範囲を広げていけばいいのね」

「余計悪化している」

「え?」

「もういい、わかった。──よし、そうだな。こうしよう。まずは知識者を先に探すんだ、白羽使い」

「知識者ってどんな人を探せばいいの? 本を持っている賢そうな優等生タイプの人?」

「うーん……」

 ウサギは唸り考え込む。耳元──たぶん本人の位置では頭──を掻きながら、

「そうだなぁ。どう言えばいいんだろう。えっと……。まぁいいか。詳しく説明してもアレだしな。

 じゃぁ今から問題を出すから、それを一字一句間違わずに暗記しろ」

「暗記?」

「そうだ。一字一句間違わずに、だ」

 するとポシェットから得意げ顔でフレスヴァが顔を出す。

「暗記とあらば、このわたくしめにお任せを!」

「そうね。任せたわ」

 ウサギが身を屈めてフレスヴァと位置を合わせる。

「よし。じゃぁ今から言うぞ。

 

 卵に三十パーセント未満の魔力を込めたとしよう。それを塩水に浸した布で丁寧に巻いた後、暗所で半日寝かせてみた。その後、直射日光の下で布を取って卵を風にさらした。


 ──さて、その卵はどうなったと思う?」

 顔をしかめてミリアーノ。

「なにそれ?」

 問い掛けに、ウサギがミリアーノへと顔を向ける。

「簡単なテストだよ。これの正解を言える奴が知識者だ」

 ミリアーノはポシェットにいるフレスヴァへと視線を落とした。

「知識者のテストだって。正解わかる?」

 フレスヴァがきっぱりと即答する。

「その問題は専門外でございますな」

 ミリアーノはウサギへと視線を戻した。

「──だそうよ。どうしよう」

「『どうしよう』じゃねぇだろ。オレにどうしろって言うんだ?」

「知識者ねぇ……」

 ミリアーノはぐるりと街中を見回してため息をつく。

「見つかりそうにないわね」

「諦め早すぎだろ、白羽使い」

「でもすごいのね、知識者って。こういう問題が本当に解けるの?」

「まぁな。だからこそ見つけ出すのがけっこう難しいんだが──」


「その問題、私が解いてあげる」


 会話に割り込んできた幼くかわいらしい声に、ミリアーノとウサギは目を向けた。

 いつの間に傍に来ていたのだろう。そこには長い栗色の巻髪をした翡翠色の瞳の女の子が、愛想ない顔でぽつんと立っていた。

 歳は七つそこそこだろう。

 見た感じ、名のあるご令嬢といったところか。黒いドレスに、頭には白いレースで結ったリボン。フリルの付いたショルダーバックに、手にはかわいい熊のぬいぐるみを抱いていた。


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