二、奪われた神具【6】
※ お気に入りくださった二名の方、ありがとうございます。
心からお礼申し上げます。
ハンサムな男性と以下二名。この島に来る途中、小型飛空艇でクレイシスを追いかけていた人たちである。
ミリアーノは身を引くように一歩後退した。他人のフリをしようと顔を逸らして逃げるように背中を向ける。
すると声は唐突に掛かった。
「ミリアーノさん、ですよね?」
穏やかな、それでいて恐ろしくも冷たい口調で。
その男はミリアーノに訊ねてきた。
ミリアーノはびくりと身を震わせて、逃げ出そうとしていた足を止める。
(逃げられない……!)
自分の素性が相手にバレている。逃げても無駄だ。
覚悟を決め、ミリアーノは恐る恐る振り返る。
男はにこりと紳士的に微笑んで、
「彼の居場所、知っていますよね? 教えていただけませんか?」
これで彼を裏切ってしまえば厄介事に巻き込まれなくて済む。だけど彼との縁がここで切れれば、これから一人でリズさんから神具を取り戻さなければならなくなる。
取り戻す為にはやはり彼の協力が必要不可欠。その彼の協力を得るには──
「隠し立てするつもりですか? そうなると、イベント終了後にはあなたの故郷である水の帝国が大変なことになりますよ?」
まず、ファルコム大帝国の兵士に嘘をつくしかない。
ミリアーノの脳裏を過ぎる彼の言葉。
【ただし、一つ条件がある。ここから街までは別々で行こう。これ以上お前と一緒にいるとオレの事情に巻き込んでしまう恐れがある。だが別々になったからといって安心はするなよ。オレが捕まらないとなると今度狙われるのはお前だ。オレを追っていた奴らと遭遇しても『オレの行方は知らない』とその一点張りで答えるんだ。いいな? たとえどんなことを言われても、どんな脅しをかけられても絶対にだ】
フレスヴァが心配そうにポシェットからミリアーノを見上げる。
「ミリアーノお嬢様……」
「大丈夫、フレスヴァ。大丈夫だから」
ミリアーノは影でぐっと拳を握り締め、気丈に自分を奮い立たせた。
彼らを見据えてハッキリと答えを返す。
「知りません。彼なら目を離した隙にいなくなっていました」
「では、あなたは彼の行方を知らないと言い切るのですね?」
ミリアーノはごくりと生唾を飲み込む。そして、
「えぇ。彼の行方なんて知りません」
頷いてみせた。
男はミリアーノの言葉を受け入れる。
「そうですか。わかりました。あなたを信じましょう」
あとの二人を引き連れて、男は歩き出す。
ミリアーノの横を過ぎ去るその間際に、背筋も凍るような言葉を残していく。
「もし、あなたが嘘をついているとわかったその時は、覚悟してくださいね」
男と以下二名はそのまま静かに人ごみの中へと消えていった。
「…………」
しばらく呆然とその場に立ち尽くしていたミリアーノ。
やがて緊張の糸が切れたようにヘナヘナと膝を折って座り込む。
「どうしよう、私……とうとうあのファルコム大帝国相手に──」
嘘をついてしまった。
込み上げてくる後悔と恐怖に体が小刻みに震え出す。
(嘘がバレたらどうしよう。私の故郷が……)
自分の過ちのせいで大切な人たちが、土地が、何もかも失ってしまう。
心配そうな顔でフレスヴァが様子をうかがう。
「ミリアーノお嬢様?」
「どうしよう、フレスヴァ。私のせいで水の帝国がファルコム大帝国と戦争になっちゃったらどうしよう……」
今更になって不安になった。涙がぽろぽろと勝手に溢れてきて、ミリアーノは両手で顔を覆って泣き出した。
フレスヴァがポシェットから出てくる。
そしてミリアーノの膝の上に載って言葉をかけてきた。
「もう諦めませんか? ミリアーノお嬢様」
「え?」
ミリアーノは覆っていた両手を退けてフレスヴァを見つめる。
「奥様の形見はお忘れくださいませ、ミリアーノお嬢様。そしてさきほどの男達を追い、正直に話しましょう。彼の居場所を」
「でも──!」
「今ならまだ間に合います。さぁ追いかけましょう」
「でもフレスヴァ! 私、お母さんの形見取り戻せなかったら一生自分を許せなくなる!」
フレスヴァが急に怖い顔して語気を荒げる。
「何をおっしゃっているのです、ミリアーノお嬢様! そんな物より大事なのはお嬢様の命と安全でございます!」
「フレスヴァ……」
「もう諦めましょう? ミリアーノお嬢様」
諦める、か……。
ミリアーノは悩み、顔を俯ける。
すると後ろから何気にトントンと軽く肩を叩かれた。