二、奪われた神具【4】
人工島の出入り口として聳える見事な大門をフレスヴァと一緒に見上げる。
まるで要塞の門であるかのように大きくて重厚だった。
ミリアーノは間抜けにぽかんと口を開けて呟く。
「す、すごい……」
「南無南無」
フレスヴァがポシェットから両翼を合わせて大門に向かって拝む。
「神々の島ってすごいね、フレスヴァ」
「あのぉ、ミリアーノお嬢様? 島はまだ先──この門を過ぎ、橋を超えた向こうにございます」
「わ、わかっているわよ、そんなこと」
言い間違っただけじゃない。
ミリアーノは恥ずかしさを隠すように足早に進んだ。
大門を潜り抜け、そこで見えてきた光景にミリアーノは「わぁ」と息を呑む。
人工島と街とを架ける長い空中桟橋。
白い雲が桟橋の下を魚のようにゆるりと泳いでいく。
それを多くの観光客が橋の上から見下ろし、写真を撮ったり絵を描いたりしながら楽しんでいた。
神々の島でしか見ることのできない風景。
ミリアーノは駆け出し、橋にあふれる人ごみをすり抜けて、興奮ながらに橋の手すりから身を乗り出した。
「ねぇ見て見てフレスヴァ! 雲だよ、雲!」
橋の真下を流れる雲を指差し、喜々とはしゃぐ。
「あのぉ、ミリアーノお嬢様。わたくしめには見えませんが」
「ごめんごめん。ポシェットから出してあげるね」
ポシェットからフレスヴァを取り出し、橋の手すりにちょこんと置く。
「ね? どぉ? すごいでしょ! 雲だよ、雲!」
テンション低めのフレスヴァ。半眼で、
「雲と申されましても……。いつもレイグルの上から見ている風景とどう違うのでございますか?」
「違うよ! だって橋の下に雲なんて絶対通らないもの」
フレスヴァは顔を渋めて言葉を濁す。
「しかし……。わたくしめにはどこも同じに見えるのですが」
「ンもぅ! フレスヴァとなんか来るんじゃなかった!」
気分を台無しにされ、ミリアーノは不機嫌にツンとそっぽを向いて橋の手すりから離れた。
「あ、ちょっとミリアーノお嬢様! わたくしめを置いていかないでください!」
橋の手すりから慌てて羽ばたいて、フレスヴァが人ごみの足場へと舞い落ちる。
踏まれそうになりながらもフレスヴァはギリギリのところで何とか身をかわしていた。
「お? おお? お? ──ぎゃぁッ!」
あ、踏まれた。
フレスヴァの叫び声を聞いて、ミリアーノはうんざりと肩を落としてため息を吐いた。
元来た道を戻ってフレスヴァを迎えに行く。
フレスヴァの傍で腰を下ろし、ミリアーノはポシェットを開けた。
「おいで、フレスヴァ」
「ミリアーノお嬢様!」
とてとてと。フレスヴァは泣きじゃくりながら走ってきて急いでポシェットの中に飛び込む。
ふぅ。
ミリアーノはもう一度ため息を吐いて腰を上げた。
神々の島へと目を移す。
(あともう少し……)
この橋を渡れば、国際交易都市に入ることになる。
ミリアーノは大きく息を吸い、そして吐き出した。
気持ちを落ち着け、いざ歩き出す。
目指すは彼との待合場所。
(何も起きなければいいけど)
不安を抱えながらも、ミリアーノは橋を渡った。