一、そこにある何かの縁【12】
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ミリアーノはリズへと視線を戻すと小首を傾げた。
「どういうこと?」
「チームが優勝した時、神具の奉納と引き換えに一つだけ願い事ができるのさ」
「願い事が……?」
リズが頷く。
「その時彼が『神具は最強で最高の物じゃないといけない』って言って、イベントのルールを全部変えたのさ」
ミリアーノはあまりに勝手なやり方に怒りを覚えて拳を握り締めた。
「そんなことしたら優勝者に有利な条件になってくるわ!」
「まぁね」
「『まぁね』って……」
当然とばかりに返してくるリズに、ミリアーノは呆気にとられた顔で拳を緩める。
リズはフフと笑う。
「不満があるなら優勝すること。チャンスが無いわけじゃないんだから」
「チャンスって、例えばどんな?」
「んー、そうね……。しいて言うなら審査員の目を惹くってとこかな」
「審査員?」
リズが疲れたように肩を落としてため息を吐く。
「あんた、ほんと何も知らないんだね。イベントの歴史を考えればすぐにピンとくると思ったんだけど」
「イベントの歴史を?」
「そう。元々これは神様に奉納する幻影を選出する為のイベントなんだよ? だから当然、神殿の教皇様や司祭様たちが審査員になられるのは常識だと思うんだけど」
「じゃぁ教皇様や司祭様たちの目を惹くような幻影を作ればいいってことね」
「簡単に言ってくれるね、あんた」
「え?」
リズは言葉を払って、
「まぁどうあれ。あんたも優勝を目指すんだったら本気でやらないと、彼のいるチームには絶対勝てないよ」
「そんなに強いの? この人のチーム」
「毎年優勝しているって意味、わかっている? 嘗めてかかっていると痛い目に遭うよ」
「毎年……?」
リズが真顔になる。急に声のトーンを落とし、怖い話でもするかのように重々しく口を開く。
「そういやあんた、彼のことを知らないって言っていたよね?」
彼女の雰囲気に圧されてミリアーノは動揺ながらに頷く。
「え、えぇ」
「じゃぁ彼がどこの帝国の名を背負って参加しているのかも当然──」
ミリアーノはこくりと頷く。
「知らないわ」
「それじゃ一つ忠告しとくけど、これ以上彼に関わるとあんたもタダじゃ済まなくなるよ」
「済まなくなるって……どういうこと?」
「彼の背負う帝国の名はファルコム大帝国。それを言えば、いくら箱入りのあんたでも全てがわかるでしょ?」
「ファルコム──って、えっ! あの独裁軍事国家で有名な!」
その名を聞いてミリアーノは身震いした。ファルコム大帝国といえば中央大陸をわずか一代で武力制圧し、巨大な帝国を築き上げた侵略型大帝国である。そんな国に目をつけられたら武力の弱い水の帝国は簡単に滅亡してしまう。
「そ、そんな……」
リズが頷く。
「そう。だから彼には関わるなって言っているのさ。彼はこの島じゃ有名な厄介者でね、毎年この時期になると島の周辺でファルコム大帝国の兵士に追いかけられては他人を巻き込んでいるって話だよ」
「どうして追いかけられているの?」
「彼はイベントに出たくないみたいなんだけどファルコム皇帝がそれを許さないらしいんだ。地上じゃ彼にとって何かと不利なところがあるからね。だからこの島で逃げるチャンスをうかがっているって話だよ」
「それって無理やり参加させられているってこと?」
「国じゃよくある話だよ。それに、彼は『大魔法使い』と恐れられるほどの凄腕の魔法使いだからね。だから余計に野放しにできないんじゃないかな」
「この人、魔法使いだったんだ……」
ミリアーノは振り返り、後ろで寝ている彼を一通り観察した。小首を傾げてリズへと視線を戻す。
「魔法使いって、もっとこう──邪悪な服を着て、暖炉で毒々しく煮えたぎる液体の大釜をかき混ぜながら『イーヒッヒ』と笑ってそうなイメージだったのに」
リズが肩を滑らせ、げんなりとした顔で呟く。
「あんた……いったいどんな魔法使いとチームを組むつもりだったのさ?」
ふと、彼が小さく呻くのが聞こえ、ミリアーノは彼へと振り返った。
「あ。気が付いたみたい」




