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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
一章 そこにある何かの縁
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一、そこにある何かの縁【11】


「ねぇリズさん。あの時の話なんだけど」

 リズは首を傾げ、

「あの時?」

「私が助けたこの人のこと」

 と、ミリアーノは自分の後ろに寝かせたままでいる彼を指で示す。

「この人誰なの? 有名な人?」

 その問い掛けに、リズは「まぁね」と知り合いであるかのごとく頷いた。

「毎年優勝しているチームの一人さ」

「チーム?」

「そう、チーム。つまり一緒に参加してくれる仲間ってこと。イベントに出場するならチームワークがないと誰にも勝てないよ」

「ちーむわーく?」

「グループ対抗ってこと」

「そんなのがあるの?」

「そういうイベントなんだけど」

 知らないとは言えなかった。そこまで調べなければならなかったのだ、イベントのことを。旅の目的も神々の島に行くことを重点にしていたし、教えてくれた情報屋もまさかミリアーノがイベントに参加するなど思いもしなかっただろう。

 参加してくれる仲間などミリアーノには居ない……。

 ミリアーノはがっくりと肩を落とした。項垂れる。

「そんな急に、仲間なんて……」

 リズが笑って「大丈夫」と慰めてくれる。

「まぁそんなに落ち込まなくてもいいよ。仲間なんてこの島ですぐにでも見つかるだろうから」

 ミリアーノは不安残る顔を少しだけ上げて訊ねる。

「本当?」

「まぁ絶対なんて保証はないけどさ。でもせっかくこの島まで来たんだから諦めるなんてもったいないよ。とりあえず参加することだけを目的に、この島で仲間を集めてみたらどうだい?」

 ミリアーノは自信なく頷く。

「……うん」

「大丈夫だって。ここは地上と違ってみんな親切だから安心しなよ。怖い人に出会ったら森の精霊にお願いすれば、大抵なんとかしてくれるから」

 ミリアーノは薄く笑みを浮かべて頷いた。

「……うん、わかったわ。ありがとう」

 リズがぽんと手を打つ。

「あ、そうだ。どんな仲間を集めるのかを教えておかないとね」

 きょとんとするミリアーノ。

「え? 出場したいって人じゃダメなの?」

「もちろん出場したい人を集めるんだけど、チームにはそれぞれ役割分担ってのがあるのさ」

「役割分担?」

「そう」

 リズが親指だけを折り曲げた手の平をミリアーノに向ける。

 呆けた顔でミリアーノ。それを見つめて小首を傾げる。

 するとリズは、解説を交えながら残る四本の指を一つずつ折り曲げていった。

「チームに必要な人数は最低でも四人──あんたを入れてあと三人ってとこだね。ポジションは全部で四つ。使い手、道具屋、魔法使い、そして知識者」

「知識者?」

「知らないのかい?」

「えぇ。道具屋と魔法使いは分かるんだけど、知識者ってなに?」

 嫌な顔一つせず、リズは笑って答えてくれた。

「わかった。じゃぁまずはそこからだね。知識者っていうのは神具作りに欠かせない人物──つまり、神具のレシピ担当のことをそういうのさ。

 例えば、あんたが今その手に持っている乾パン」

「これ?」

「そう。どんなに良い材料と道具をそろえたって作り方がわからないと乾パンは出来ないだろう?」

「うんうん」

「つまり、その乾パンを神具に置き換えて話すと、良い神具を作るにはある程度の知識が必要だってこと」

「え? でも神具って一つ持っていればいいんじゃないの? 幻影を競い合うイベントなんでしょ?」

 リズは片手を振って苦い顔をする。

「ダメダメ。競い合うは競い合うでも幻影同士を戦わせて競い合うイベントだからね。予選はけっこうサバイバルな感じになるから神具一つじゃ最後までもたないよ。

 それに最近じゃ、剣の神具がよく使われているから神具はすぐにボロボロになる。だからストックをたくさん準備しておく必要があるのさ」

「もしかして凶器で戦いあったりするの?」

「まさか。神具を凶器に使ったら神具じゃなくなる。使うのは幻影の基盤作りの為だけ。剣の方が幻影に鋭いキレが生まれるからみんなが愛用するのさ」

「鋭い……キレ?」

 急にリズは開いた手の平を突き出してきた。

「おっと、ここまで。あたいがそうポンポンとライバルに手の内を明かすと思うかい?」

 言われてみればそうである。ミリアーノもリズと同じ、神具の使い手。そう、彼女は初心者であるミリアーノをライバルとして見てくれているのである。

 そう思うと、ミリアーノの心の中でだんだんとやる気がみなぎってきた。興奮気味に両拳を握ってリズに言い迫る。

「私、仲間を集めて絶対このイベントに参加してみたいの。どんな人を探せばいい?」

 リズは馬鹿にせず質問に答えてくれた。

「いいよ。それだったら教えてあげる。アドバイスをするとすれば、心身強い奴を探せってとこかな」

「拳で語り合えってこと?」

「そうじゃなくて。まぁとりあえず最後まであたいの話を聞いて。

 予選で求められるのは、幻影の技術力と戦闘力」

「技術力と戦闘力?」

「そう。予選は幻影同士を戦わせるイベントだからね。どんな内容かは毎年変わるからアドバイスできないけど……うーん、まぁそうだね。なんていうか、参加してみればわかるって感じだね」

 ミリアーノは重いため息をついた。

「なんだか難しそう。私にも出来るかしら?」

「あたいが『やめときな』って言ったらやめるのかい?」

「そうだよね。はぁ……。イベントって想像していたのと全然違うわ。てっきり誰が一番美しい幻影を作り出せるかを競い合うものだとばかり思っていたのに」

「それは決勝戦」

「え?」

「決勝戦で競われるのが美術力。つまり、あんたが言っていた通り最終的には『誰が一番美しい幻影を作り出せるか』で今年の優勝者が決まる」

「じゃぁ、最初のサバイバルみたいな競い合いには何の意味があるの?」

「特に意味はないよ」

「じゃ、いったい何の為に?」

「イベントをより面白くする為の一工夫ってやつさ。その方が見ている観客も退屈しないし、大いに盛り上がるからね」

「そんなのひど過ぎる! こっちは一生懸命やっているのに!」

「イベントの苦情をあたいに言ってどうすんだい? そんなに文句があるなら──」

 と、リズの視線が銀髪の彼へと向く。冷たい目で見やりながら吐き捨てるように、

「アイツに言いなよ」

 ミリアーノもその視線を追うようにして振り返り、後ろで寝ている彼を見つめた。

 

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