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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第三章

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【ティフェア視点】旅の始まり・後

 私は口の中で咀嚼しながら、ガレリック様とバルア殿が絶賛する理由を理解いたしました。


「それで、ベルフェ殿、これは何の肉でござりますかの? 以前のとは少し違うように思いますが」

「それは、大角鹿(おおつのじか)ですね」


 ガレリック様の質問にベルフェ様がさらっとお答えになります。

 私はそれを聞いて、眼を見開きました。

 大角鹿といえば、幻の食材です。

 大角鹿は警戒心が強く、森の奥に生息しており、滅多に人前に姿を現しません。その上、見掛けることができたとしても、かなり俊敏で、すぐに逃げられてしまうのです。また、頭が良く、罠にも掛からないため、もし仕留めることができれば、平民であれば、一生暮らせるだけのお金が手に入ると言われているのです。

 そのため、王族でも数年に一度、食べられるかどうかといった食材になっています。


「あ、あの…、金貨何枚お支払いすれば、いいのでしょうか? できれば、これからのために少しでも残しておきたいのですが…」


 私は恐る恐る問い掛けます。

 お父様が持たせてくれたお金はございますが、まだ国境も超えていないのに、金貨を何枚も消費するのは想定外です。


「あぁ、お金はいらないですよ。ベルフェが森へ行ったついでに持ってきてくれた物ですし」

「えーっと…、これがついでなのですか…?」


 フェイル様のお言葉に眩暈がするのを感じます。

 肉の素材との調和を考えると、恐らく、肉以外のパンと葉物も普通の物とは違うはずです。それをついでと言われても納得できるわけがありません。


「う~ん。確かに、ついではフィリエさんたちに失礼ですね。あ、でも、お金はいらないですよ」


 フェイル様が私の言葉を受けて、すぐにご自分の発言を訂正されます。

 ただ、それでもお金は受け取られないようです。


「フェイル様、そのフィリエ様というのは、どなた様なのですか?」


 新たな名前が出てきたことを不思議に思い、私はフェイル様に尋ねました。


「あぁ、樹木の精を取り纏めてる大樹の精です」

「「「大樹の精!?」」」


 私はそれを聞いて卒倒しそうになりました。大樹の精と言えば、森に生息する魔物の中でも上位の魔物です。

 樹木の精ですら強い方に数えられるのに、更にその上位種がでてきたことに驚きです。

 ガレリック様やバルア殿も驚いていることから、私の驚きが間違いでないことが分かります。

 フェイル様は、そんな私たちの反応を見て、『えぇ、まぁ…』と頭を掻きながら苦笑いを浮かべれています。


「ふふふ。大樹の精如きで何を驚いているのですか? フェイル様の前では今更でしょう」


 それを見ていたベルフェ様が、おかしそうに笑いながら、私たちを窘めれます。

 私はベルフェ様の言葉を聞いて、そういえばそうですね、という冷静な感情が湧いてきました。

 既に目の前に、オルフェス様、ネルフェア様、ベルフェ様がいる時点で、驚くことではない気がします。


「うむ。そうですな。確かにベルフェ殿の言われる通りじゃ」

「はい、確かに今更ですね」


 ガレリック様が、落ち着き払った顔で、納得されました。

 私もガレリック様同様、納得の言葉を述べます。


「まぁ、そのフィリエさんたちも、お金を取るつもりで作ったわけじゃないでしょうから、気にしないで食べてください」

「うむ。そうでございますか。では、お言葉に甘えて、心置きなく食させていただきますじゃ」

「はい。ありがとうございます」


 納得している私たちを見て、フェイル様がお話を元に戻されます。

 そう言われては、納得するしかありません。

 きっと大樹の精は、フェイル様に気兼ねなく食べてもらうために、一緒にいる私たちの分まで用意してくださったのでしょう。そう考えると、魔物たちにも親近感が湧いてきます。

 それから私たちは、純粋に料理を味わって食すことができました。

 それにしても、天にも昇る思いとはこのことでしょう。このようなものが食べられるとは、フェイル様とご一緒できたことに感謝します。

 その後、私は再び念の習得に勤しみ、就寝の時間を迎えました。

 そして、翌朝、私たちは素早く身支度を整えると、天幕を出て馬車に乗り込みます。


「え?」


 私が馬車の中に入って最初に発した言葉がこれです。


「あの、これ、フェイル様たちが椅子に敷かれている敷物でございますよね?」


 私の座っている場所にフェイル様たちが使われている敷物と同じ物が置いてあったことに驚いたのです。

 しかし、馬車の中を見回すと、ちゃんと私以外の皆さんの分もあります。


「ええ、昨日の夜、ベルフェはそれを取りに森に行ったんですよ」

「念に集中できないようでは困りますからね」


 私はそれを聞いて、驚きと共に、嬉しさが込み上げてきました。

 私のことを気遣ってくださっていることが、ひしひしと伝わってきます。


「フェイル様、ベルフェ様、ありがとうございます」


 私は嬉しさのあまり、頭を深々と下げて感謝を伝えました。


「ふふふ。フェイル様だけで結構ですよ。私は取りに行っただけですから」


 例えそうだとしても、冥界の王が私如きのために動いたことに、感謝の念しかありません。

 一体、この方たち何者なのでしょう。本当に魔物と言われる方たちなのでしょうか。それとも私たちの魔物の認識が間違っているのでしょうか。きっとそれは後者のような気がします。そう言えば、私はこの方たちとご一緒にいて、ベルフェ様たちを魔物だと思ったことが一度もないことに気づきました。確かに王としての威厳から、言動等は私たちとは異なりますが、ベルフェ様たちからは優しさや気遣いや配慮を感じます。例えそれがフェイル様へ向けられたものの一片であったとしても、間違いなく、私たちも含まれていることが分かります。

 私はフェイル様が為されていることを見て、『フェイル様』と御一緒したいと思いましたが、今は、それ以上の感情が湧いてくるのを感じます。そう、私は今、『この方たち』と御一緒したいと、思っているのです。


「ティフェア、いつまで突っ立てるのですか、早く座りなさい。修練が始められないではないですか」

「あ、はい。すみません。…、て、え?」


 ベルフェ様の叱責で私は慌てて席に腰を下ろしました。

 その途端、私の中を衝撃が走ります。

 何ですか、この弾力は!? こんな物が世の中に存在するのですか。

 それはまるで浮いているかのような感覚さえ抱くほどの弾力で、これなら馬車の揺れも全く気にならないと思えます。

 私はその感触を確かめながら、自分の中に湧き上がるわくわく感が抑えれなくなってきます。

 こんな物が世の中に、森にはあるのです。これから私はそれを自分の眼で見て、確かめて行けるのです。

 それも、フェイル様やベルフェ様、オルフェス様やネルフェア様たちと一緒に。いえ、それだけではないですね。テオ殿たちや森にいるというフィリエ様が見せるフェイル様への気遣いを考えると、きっと彼らも同じなのです。

 考えれば考えるほど、目の前に待ち受ける未来に期待が馳せます。

 そのためには、まず最初にやるべきことがございます。そう、私は絶対念を習得して見せます!

 私はもう一度、気合いを入れ直しました。


「ベルフェ様、オルフェス様、よろしくお願いいたします」

「ええ、それでは始めましょうか」

「ああ、それだけ気合いが入っていれば大丈夫だろう」


 それからは、念の習得に明け暮れる日々が続きます。

 夜には天幕の中で、テオ殿たちにも協力してもらいました。

 そして、いよいよ明日、国境を越えようという夜。私は天幕の中で、最終試験に挑みました。


「テオ殿、どうかよろしくお願いします」

「うむ。そう緊張せずとも、よろしかろう。最終試験と言っても、既に先日から話せておるではないか」


 テオ殿が仰るように、先日から念の聞き取りはできるようになっております。

 しかし、ちゃんと国境を越えるに相応しいかを判断してもらうためのけじめは大事なのです。


「いえ、これは私が共に歩めるものかどうかを判断していただくための大事な試験ですから」

「そうであったな。我が判断すべきことではないが、自信を凭れよ」

「はい。ありがとうございます」


 テオ殿が緊張している私を励ましてくれます。

 その気持ちが嬉しくて、私の口から自然と感謝の言葉が出てきます。


「うむ。しかし、フェイル様の周りには不思議な人間が多いな。ガレリック殿にしても、バルア殿にしてもそうだが、我らを怖がらず、楽しいそうに話しかけてくる。なんとも、不思議な感じがするな」


 私の嬉しそうな顔を見て、テオ殿が不思議そうにされておられます。

 ですが、今の私にはそれに返すだけの言葉があります。


「それはきっと、テオ殿たちを魔物とは思っていないからではないでしょうか。私もそうですが、最初こそ強さに恐れを感じますが、テオ殿たちを見ていると、普通の人間のように思えるのです。いえ、言葉が悪いですね。魔物も人間も違いがないのだと思えるのです。だからではないでしょうか?」

「うむ。確かにそうだな。我らも他種族と交わることで、今までの認識が間違っていたと知ったことがある。それと同じなのかもしれぬな」


 私がここ数日で感じた根拠をお答えすると、テオ殿もそれに共感されます。


「テオ殿たちにも、そういうことがおありだったのですね。もし、この試験に落ちることがあったとしても、これからは、是非、私もそのお仲間に入れてくださいませ」

「うむ。そうですな、我個人としてならば、こちらとしてもよろしくお頼み申す」


 私はテオ殿に共感していただけたことが嬉しくて、試験の結果に関わらず、テオ殿に私も仲間と思い続けてほしい、とお願いました。

 それを受けて、テオ殿からお優しい言葉が返ってきます。


「フェイル様、ティフェアは合格としてもよろしいのではないでしょうか? これなら私たちと一緒にいても問題ないと思われますが」

「ああ、そうだな。というか、これ必要だったのか? まぁ、分からなくはなけど。ということで、ティフェア様、これからもよろしくお願いします」


 私とテオ殿の話を聞いていたベルフェ様が、私の合格をフェイル様に進言してくださいました。

 どうやら念だけではなく、私の言動や考え方も審査されていたようです。寧ろ、今回の最終試験では、それこそが重要だったことが、ベルフェ様の言葉で分かりました。

 フェイル様もベルフェ様たちの心配を理解されていたようです。

 その上で、フェイル様の口から紡がれた言葉に、私は涙が出そうなぐらい嬉しくなってきます。


「フェイル様、ありがとうございます。それにベルフェ様、オルフェス様、ネルフェア様、テオ殿、テラ殿、テグ殿、テナ殿、皆様もありがとうございます! これからもよろしくお願いいたします」


 私はフェイル様を含め、皆様方一人一人に視線を向けて感謝の言葉を述べました。

 皆様方はそんな私に微笑ましい笑顔を向けてくださいます。

 その笑顔を見て、私は皆様方とお仲間になれたのだと、実感が湧いてきます。

 そう思った途端、私の頬を涙が伝って零れ落ちていきました。


「ティフェア、これから先は長いのです。そんなことで泣いていては、身体が保ちませんよ。もっとしゃんとなさい」

「はい。分かりました」


 涙を流し始めた私に、ネルフェア様がお言葉を掛けてくださいます。

 私は背筋を伸ばして涙を拭うと、背筋を伸ばしてネルフェア様に答えました。

 そうです。私はこれからもっともっと新しい経験を積み重ねていくのです。こんなところで泣いている場合ではありません。私の新しい人生は始まったばかりなのですから。


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