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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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新たな同行者

「お父様、お聞きになられた通りです。私たちは、家の格式だの家格だのといったものに拘っている意味はないのです。フェイル様は孤児であらせられるのに、私たちよりも力を持ち、私たちよりも広い世界をご存じです。私も貴族のくだらぬ見栄に人生を賭けるのではなく、フェイル様と共に広い世界を見てみたいのです」

「しかし、それは、フェイル様だけであろう…」


 ティルセア様は、どうやら俺を引き合いに出して、自分の望みを叶えたいようだが、それは、ウィアズ伯爵が言ったように、俺が特殊なだけで、それで全てを語ることはできない。

 そもそも俺は、他国に渡り、この状況を隠して冒険者として生きていくので、なかった者として扱われることになっている。


「お父様、まだ分かりませんか。フェイル様が、アゼルを、デルアックを、そしてレイベド侯爵を追い詰めたのです。そして、ガレリック様も国王陛下でさえ、フェイル様の存在に動かされておられるのです。これが、フェイル様だけと言えるでしょうか?」

「あ、いや、ティルセア様、待ってください。今はというか、今回はそうなりましたけど、俺は他国で冒険者として生きていくつもりなので、これからは違います」


 俺は慌ててティルセア様の言葉を否定した。

 ティルセア様の言い方では、これからもこんなことが起こるかのように受け取られてしまう。

 しかし、俺の想いとは裏腹に、ティルセア様は緩く首を振る。


「確かにフェイル様のお望みも言われることも分かります。しかし、既に私たちは知ってしまったのです。例え、フェイル様のことが世に知れなくとも、私を含め、フェイル様を知った者たちが、今まで通りの生き方をできるとは思いません。ガレリック様もそう思われませんか?」

「うむ。そうじゃな。否定はできんの。フェイル殿がこの国にいてくだされば、この国は、いや世界は大きく変わったであろう。そのフェイル殿を追い出さねばならなんだ、この国の愚かさを正さずには、この世に後悔だけが残るでな」

「はい。それは、私も同じ思いです」


 ティルセア様の言葉に、魔法師団長のみならず、バルアさんまでも賛同する。

 俺は今を乗り切れば、これからは元に戻ると思っていた。しかし俺は、既に多くの人たちに影響を与えていたようだ。いや、俺がというよりは、オルフェスたちや魔物との共存共栄の可能性についてだと思われるが。


「フェイル様、お聞きになられた通りです。どうか私を共にお連れくださいませんしょうか?」


 ティルセア様がここで改めて俺に同行することを願い出てきた。

 ティルセア様の想いは分かるし、それを否定する気はない。だが、ティルセア様の願いを俺が叶えられるとも思えない。


「ティルセア様、申し訳ございませんが、それはできません」

「どうしてもでしょうか?」

「どうしてもです」


 俺がこの短期間で得た経験は計り知れないものだが、これからもそうかと言われれば、違うと答える。確かに俺の存在が、それを知った人たちに影響を与えたのだとしても、それをティルセア様を連れていく理由にされても困るのだ。


「分かりました。では、私はフェイル様のことを公表いたします」

「「「なっ!」」」


 ティルセア様は俺に拒否されたことで、何を考えたのか、とんでもないことを言い出した。

 それに、この場にいる全員が驚いた。オルフェスたちですら目を眇めいている。


「ティルセア、それがどういうことか分かっているのか?」

「うむ。ティルセア嬢、もし公表すると言うのなら、此処で其方の首を刎ねることになるが、それは分かっておるのかの?」


 ウィアズ伯爵と魔法師団長が厳しい顔で、ティルセア様を問い詰める。

 これが公表されるようなことがあったら、王様も只では済まない。それを魔法師団長が許すはずはないのだ。

 ティルセア様は、この魔法師団長の言葉を真剣な表情で受け取ると、すっと立ち上がった。

 そして、剣を兼帯しているバルアさんの前まで行くと、跪いてバルアさんに向かって首を差し出した。


「はい。理解しております。ですので、私が公表する前に、どうかこの首をお刎ねください。私はそれだけの覚悟を持ってお願いいたしました。それが断られた今、この想いを持ち続けて、貴族として生きることは私にはできません。ですから、此処で刎ねていただいて結構です」


 これには誰もが眉間に皺を寄せ、言葉を発することができず、この部屋に沈黙が訪れた。

 公表すると言うのは建前で、自分の想いと共に此処で殺せと言っているのだ。その覚悟の前にバルアさんもたじろいでいる。


「やれやれ、仕方ありませんね。ただし、フェイル様の隣はわたくしの席です。それを理解しておきなさい」

「へ?」


 この空気をぶち壊したのは、俺の横でさっきまでティルセア様に牙をむいていたネルフェアだった。

 誰もがその言葉に、意表を突かれたような視線を、ネルフェアに向けた。

 だが、当のネルフェアは、得意げな表情で偉そうにふんぞり返っている。


「なぁ、ネルフェア。お前、今の状況が分かってる? それに、どうしてお前が許可を出しているんだよ?」

「え? でも、フェイル様は、ティルセアの首が刎ねられるのは、お嫌ですよね?」


 俺は呆気に取られながらも、ネルフェアに注意した。

 しかし、ネルフェアは首を傾げながら、俺に質問で返してくる。


「いや、そりゃ、寝覚めも悪いし嫌だけど、でも、先ずはエスワール様とガレリックさんの許可が先だろう」


 俺はこういうのに弱い。フィリエさんやアイネラたちの時もそうだが、自分の想いに覚悟を決めて慕われると断れなくなるのだ。勿論、全てに対してではないし、俺を利用したり、理不尽な欲望には毅然とした態度で断る自信はある。だが、そうでない場合は、どうしても自分に重ねてしまって、無下に拒否することができなくなってしまう。


「ほっほっほっ。フェイル殿が許可されるのなら、儂に異存はございませんぞ。それに、ティルセア嬢のその様子じゃと、自分が原因でフェイル殿の件が漏れそうになったなら、自分の命を断つぐらいの覚悟はありそうですしの」

「フェイル様とガレリック様が許可を出されるなら、私にも異存はありません。ティルセア、お前の好きに為さい。フェイル様、至らぬ娘ですが、どうか一緒にお連れくださいませんでしょうか?」


 俺とネルフェアのやり取りを見ていた、魔法師団長が笑いながら許可を出した。

 これに続いてウィアズ伯爵も許可を出し、俺にまで頭を下げて願い出てきた。

 ウィアズ伯爵の顔には諦めと寂しさが現れているが、これも親心というやつなのだろうか。

 って、そうじゃない! あぁ、もう駄目だ。この流れでは絶対に断るなんて俺にはできない。

 いやまぁ、ティルセア様が首を差し出した時点で、そうなることは自分でも予想はできたけどね。それでもまさか、ネルフェアが先に許可を出すとは思わなかったよ。


「はぁ…、分かりました…」

「フェイル様、本当ですか…!? ありがとうございます」


 俺が肩を落として許可を口にした途端、ティルセア様が華やいだ顔ですっと立ち上がると、深々と頭を下げてきた。


「ええ。本当ですよ」

「フェイル様、ありがとうございます」


 俺がティルセア様に間違いないことを伝えると、ティルセア様が嬉しそうに再び頭を下げた。

 それから、何を思ったのか、ネルフェアの方に体を向けると、微笑みを浮かべて口を開いた。


「それと、ネルフェア様、先程のお話ですが、ネルフェア様の『お言葉だけ』は受け取っておきますね」

「ティルセア、それは、どういう意味ですか?」


 そして、何故かティルセア様とネルフェアが睨み合って、火花を散らし始めた。

 ティルセア様は笑顔なのに笑っているようには見えないし、ネルフェアに至っては完全に威嚇している。

 これを見て、魔法師団長は愉快に笑い始め、ウィアズ伯爵は首を横に振っている。

 いやはや、俺の隣の席なんかで揉めてどうするんだ。そんな些細ことで揉められると先が思い遣られる。


「ネルフェア、止めろ。ティルセア様も止めてください」

「「はい。分かりました(…)」」


 ネルフェアは渋々、ティルセア様は微笑みながら了承して、矛を収めてくれた。

 何故か、不穏な雰囲気を纏いながらも、こうして、唐突に俺の同行者が増えることになった。

 どうして、いつもいつも、俺の思惑を無視してこうなるんだろ? おかしくないか?

 そんなことを思ってみるが、こうなってしまったものは仕方ない。受け入れて進むしかないのだ。それに、俺の目標たる『楽しく笑って過ごせる人生』が脅かされたわけじゃないしな。なんとかなるだろ。


「うむ。では、ティルセア嬢も名前を変えねばならんじゃろ」

「それでは、ティフェアでお願いいたします。お父様、折角、お父様とお母様にお付けいただいた名前を変えることをお許しください。それと、お手数ですが、平民としての国民証を発行してはいただけませんでしょうか」

「お前の貴族としての籍がなくなるわけではない。それと、明日には国民証を発行しておこう」

「ありがとうございます」


 俺を他所にどんどんと話が進んでいく。

 いつの間にか、ティルセア様の名前に俺の名前の一部が混ざっているし、本当にこれでいいのか?

 まぁ、俺がとやかく言うことでもないので黙ってるけど。

 それからも話は進み、かくして、ティルセア様についての話し合いも終焉を迎えた。


 そして翌日。

 俺は、魔法師団長と王様の書斎へ転移し事の顛末を報告したり、オルフェスから森での報告を受けたりと、忙しく過ごした。

 王様は、俺たちが報告した結果にご満悦なようで、『これで、ヘイズさんたちの死も報われる』と喜んでいた。ティルセア様についても、俺の話が漏れぬのなら好きにして良い、と愉快そうにしていたし、これで、俺がオルフェスたちを召喚して始まった一連の出来事も、終わったと見做して良さそうだ。

 王様への報告も終わり、その後聞いたオルフェスの報告については驚きもあったが、まぁ、許容範囲に落ち着いたようで、森も日常に戻ったようだ。


 そんなこんなで忙しく過ごした翌日、俺たちは、アゼルたちを乗せた護送車を見送り、その足で他国へ向けて、この街を旅立った。この時、見送る者たちの中で、ティルセア様の護衛騎士たちが不服そうな顔をしていたが、それはウィアズ伯爵が何とかするそうなので、俺たちは見て見ぬ振りをして出てきた。当のティルセア様も楽しそうにしているので、気にする必要もなさそうである。


 この後、数日もすれば、俺たちは国境を越えて他国に入る。

 ヘイズさんたちの死という悲しい事件もあり、平穏な気持ちとはいかないが、きっと、みんなも前を向いて進んでいくだろう。

 俺の旅はまだ暫く続くが、再びこんな事件が起きないことを願って、俺はこの街を後にした。


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