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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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襲撃者の扱い

「そうでしたか。それは不躾なことをお聞きして、申し訳りませんでした」

「いえ、お気になさらないでください。別に孤児であることを卑下したり、理不尽に扱われることを恨んだりしているわけではないですし、みんな必死に生きていれば、そういうこともあるというだけです」


 ティルセア様が眉尻を下げて、申し訳なさそうに謝罪してきた。

 俺が孤児院の前に捨てられていたのだって、俺を産んだ人たちにも理由があってのことだろう。

 まだ、そこら辺に捨てたり、非合法に売られたりしなかっただけ、良心的だと思っている。そのおかげで、俺はこうしていられるのだから。


「フェイル殿はお強いのですね」

「うん? それは、ティルセア様もでしょう? というか、俺は、必死に頑張って生きている人は全員強いと思いますけどね。まぁ、ティルセア様を襲ったような暴漢や、人に理不尽を押し付けても平気な人は除いてですが」


 俺が強いと言われても、それは、俺に限ってのことではない。

 誰しもが何かを抱えて生きているのだ。俺だけじゃない。

 しかし、ティルセア様は緩く首を横に振った。


「私は強くありません…。ありがとうございました。お話のお時間をくださって感謝いたします」


 ティルセア様は小声で何かを呟くと、顔を上げて感謝の言葉を述べてきた。

 そして、徐に席から立ち上がると、『このような時に、あまりお時間をお取りするわけにも参りませんので、これで失礼します』と言葉を続けて退室していった。

 俺は、突然のことに言葉も発することもできず、それを見守るしかなった。


「あの、ガレリックさん、俺、何か失礼なことを言ったでしょうか?」

「いや、フェイル殿がお気になされるようなことは、何も言っておられませんぞ。あれはきっとティルセア嬢の方に何か思うところがあっただけでござりましょう。それをフェイル殿が気にされても仕方ありませんからの」

「そうですね…」


 当たり障りのない言葉でも人を傷付けることはある。だが、魔法師団長の言う通り、それを気にしていては会話などできないというのも理解できるが、それでも、俺の言葉が彼女を傷付けたのなら、やはり気掛かりだ。とはいえ、俺に何ができるというわけでもないのだが。

 俺は、もう一度、ティルセア様が去っていった扉を見詰めた。

 それから、俺は一つ息を吐くと、立ち上がって、魔法師団長の護衛任務に戻った。

 魔法師団長は、それから紙に何かを書き始めた。これはきっと今日の晩餐の後に行う、報告と今後のことについて纏めているのだと思われる。

 そして、日が暮れた頃を見計らったように、侍女が晩餐の準備が整ったことを告げに来た。


「本日までお疲れ様でございました。それでは、アゼルとデルアックの捕縛、そして、この街が無事で守れたことを祝いまして、細やかではございますが、晩餐をお召し上がりください」


 晩餐に先立ち、ウィアズ伯爵が最初に祝いの言葉を述べた。


「うむ。エスワール殿、ティルセア嬢もお疲れ様でしたじゃ。それでは、いただこう」


 席についているのは、魔法師団長、ウィアズ伯爵、それとティルセア様の三名のみで、祝勝会というには厳かな、いつもと何も変わらぬ晩餐が始まった。

 魔法師団長もウィアズ伯爵とティルセア様を労い、食事を口に運び始める。

 そんな中、俺はティルセア様をちらりと見るが、魔法師団長の部屋を退室していった時の暗い雰囲気はなかった。これは、折り合いを付けられたのか、気にしないようにしているのか、それとも隠しているのかは分からないが、それでもあの雰囲気が消えていることに安堵した。

 それから、晩餐も終わり、応接室へ移動する。


「改めまして、お疲れ様でございました」

「うむ。エスワール殿も、お疲れ様でしたの」


 ここでもお互いを労うことから始まった。


「それでは、まずは私から、捕らえた者たちについて、ご報告させていただきます。囚人たちは、腕が立つ者ばかりですので、腕と足の腱や筋を切断し、その力を奪っております。また、魔法を使う者は、目を潰して魔法陣を構築できなくしております」


 報告を聞く限り、酷く残酷な気もするが、無力化しておかなければ危険なことも理解できる。彼らは殺人を犯している共犯者なのだ。護送途中に暴れられても困ってしまう。

 そして、俺は魔法を使う者の眼を潰したという報告で、彼らが魔法陣を描いているのではなく、書いているということを理解した。俺はこの国で魔法を教えられたわけではなく、オルフェスたちの協力で習得している。だから、この国の魔法師が、どのように魔法陣を構築しているのか知らなかったのだが、魔法陣を描いているのなら、眼が見えなくとも関係なく描くことができる。そうでないとすれば、構築される魔法陣を見ながら、書いているとしか考えられない。俺やガロアやアイネラたちも、最初はそうだったしな。


「うむ。それならば安心して王都まで護送できよう。その護送の件じゃが、明日は騎士たちを休ませて、明後日に此処を出立させようと考えておるが、それで問題ないかの?」

「はい。問題ございません。護送車もすでに準備させております。ちなみに、王都への護送は、アゼルたち蒼の龍の者たち、デルアック、それと盗賊の首魁と考えておりますが、それでよろしいでしょうか?」


 護送車とは、囚人たちを運ぶ際に使用される、護送用の檻が取り付けられた馬車のことだ。

 ちなみに、俺たちが、ヘイズさんたちに腱や筋を切断されず、護送車も使用せずに護送されていたのは、俺たちが囚人ではなく、国外追放者という扱いになっていたからだ。


「うむ。それで問題ないじゃろう。全てを護送できぬからな。それ以外の者たちは、エスワール殿の采配で処分して構わぬ」

「はい。かしこまりました」


 此処から王都まではかなりの距離がある。それを考えれば、当然の選別だろう。

 これがオルフェスたちに頼むなら全員を転移で運んでくれると思うが、流石に生きている人間を運んでは、不自然だし、そこから俺たちのことが怪しまれてしまう。

 それに、王様が派兵してくれた騎士が、王都に帰る際に一緒に護送すれば良いのだ。まさか百五十名にも及ぶ一団を襲撃しようなどと思う者もいないと思われる。


「それで、ガレリック様は、何名の騎士を護送に充てられるおつもりですか?」

「うむ。最初から連れてきておる者以外じゃから、百五十名強ほどの騎士じゃが、それがどうかしたのかの?」


 魔法師団長の返答を聞いて、ウィアズ伯爵が驚きの表情をしている。

 俺も魔法師団長と同じことを思っていたので、ウィアズ伯爵の驚きの意味が理解できない。


「それは、あまりにも危険すぎませんか?」

「うむ。それはレイベド侯爵のことを危惧しておるのか? そうじゃな…、すまぬがエスワール殿、人払いをお願いできるかの?」


 ウィアズ伯爵に指摘された魔法師団長が、何やら考えた後、またしてもウィアズ伯爵に人払いを要請した。

 俺たちに退室の声が掛かっていないことから、俺たちには退室させる気がないことが分かる。

 それをウィアズ伯爵の後ろにいる騎士たちが訝しむように魔法師団長を見ている。それもそうだろう、前回に続いて二回目だ。その上、冒険者が残っているのに騎士の自分たちが退室させられるとなれば、こんな表情にもなる。


「お前たち、退室して別の部屋で待機しろ」


 しかし、ウィアズ伯爵はそんな彼らを気にすることもなく、前回とは異なり即座に騎士たちに退室を命じた。

 それに驚いたのは、ウィアズ伯爵の後ろに控える騎士たちだ。


「早くしろ、何度も言わせるな」


 命令に従うことに躊躇っている騎士に、ウィアズ伯爵が再び命じる。

 これには流石に逆らうこともできず、騎士たちは渋々退室していった。


「エスワール殿、すまぬな」

「いえ、お気になさらず、国家機密を知らされた以上、今更です」


 魔法師団長がウィアズ伯爵に謝罪するが、ウィアズ伯爵は肩を窄めて、特に気にしている様子もない。


「うむ。助かる。それでは、レイベド侯爵の件であったな。あやつのことならもう儂らを攻めてくるとはないので、安心せよ」

「それは、レイベド侯爵が王都へ向かうからございましょうか? しかし、自棄を起こしてガレリック様を襲撃するということは考えられませんか?」


 魔法師団長とウィアズ伯爵の会話を聞いて、王都へ向かう騎士たちではなく、残った騎士だけで此処を立つ俺たちの方を心配していることが分かった。

 それは俺も気になっていたことなので、知りたいと思っていた。最悪、俺たちが撃退すれば良いので、深くは考えていなかったが、それでも王様から俺たちは協力だけと言い渡されているので、何か策があるなら知っておきたかった。


「うむ。それはないの。何しろ、あやつはすぐに掴まるでな」

「え? すぐに、とは、どういうことでしょうか?」


 俺もウィアズ伯爵と同様、魔法師団長の『すぐ』という言葉に疑問を抱く。


「うむ。エスワール殿も、あやつが非合法の人身売買に手を染めている噂は知っておろう。それを予てから、南西騎士団の者たちと、儂の領地の者たちで調査を進めておったのじゃ。だが、あやつは警戒心が強いゆえ、領地から離れようとはせんでな。怪しい場所は突き留められても、あと一歩というところで調査ができなんだのじゃ。しかし、今回、あやつが領地を離れたことで、今頃、その怪しい場所に南西騎士団が突入して、証拠品を押収しとるはずじゃ。それに、当然のことながら、あやつらにも騎士団が張り付いておるはずじゃからな。証拠品が押収されたり、あやつらが何か不審な行動を取れば、そこで終わりじゃ」


 それを聞いて、オルフェスたちを除いて、この場の全員が驚きの顔をする。

 この国には王都にいる王国騎士団の他に、南西騎士団、南東騎士団、東方騎士団が存在する。この三つの騎士団は、この国が広いために、事前に有事の際に備えて、遠方に配置された騎士団だ。

 そして、その南西騎士団の所在する領地が、魔法師団長の息子さんが治める領地ということだった。


「そういうことでございましたか」

「うむ。情報が漏れぬよう、内密に進めておったからの。そういうことじゃから、安心なされよ」


 俺は魔法師団長の話を聞いて、王様は王様で今回の件を利用しようと考えていたことを理解した。流石というべきか、老獪というべきかは分からないが、これはこれで、この国の役に立ったということだろう。


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