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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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【フィリエ視点】主様の御力・中

「患部に傷薬を塗り、汚れぬよう蔦で覆ってください」

「はい。かしこまりました」


 そして、わたくしが天幕の外に出ると、そこにはオルフェス様がいらっしゃいました。

 そのオルフェス様は、ガロア殿とアイネラ殿と話をされておられます。わたくしも急いでそこに向かいました。


「フィリエ、灰色狼の怪我はどんな状態だ?」


 オルフェス様は、灰色狼が負傷を負ったことと、それをわたくしが治療していたことをご存じでした。きっとガロア殿が報告してくださったのでしょう。


「はい。治療は完了しております。ただ、後ろ脚の足首を斬られており、繋げはいたしましたが、今後、狩りは難しいかと思われます」


 わたくしの報告を聞いて、全員の顔に険しさが浮かびます。

 魔物にとって狩りができないのは致命傷にも匹敵します。此処にいる者はそれを理解している者ばかりです。


「どの程度まで治りそうだ?」

「はい。狩りは難しいですが、力仕事をできる程度までに回復させたいと考えております」

「そうか、分かった。それでは、俺はフェイル様に状況を報告して指示を仰ぐ。それまでお前たちは待機していろ」


 わたくしが回復の目途をお伝えすると、皆の顔から少しだけ険しさが抜けるのが分かりました。

 此処にいる者たちは、誰しもが、この灰色狼が生き続けることを願っていることが伝わってきます。

 それから程なくして、オルフェス様がわたくしたちに向かって口を開かれました。


「フェイル様からの指示を伝える。襲撃してきた妖鬼は無力化して追い返せとのことだ。ただし、灰色狼に傷を負わせた者には容赦せず、今後、同じことができぬよう潰せと仰せだ。また、今後二度と此処への襲撃を起こさぬように恐怖心を植え付けろという指示だ。そういうことだから、俺は先ず外の妖鬼の対処に当たる。お前たちは、此処で体でも休めていろ」

「「「はい。かしこまりました」」」


 オルフェス様が出陣為されるのであれば、わたくしたちの出番はありません。寧ろ、わたくしたちがお供すれば足手纏いになるだけです。このため、わたくしたち大人しくオルフェス様の指示に従います。

 オルフェス様は、わたくしたちに指示を出すと、その場から姿を消すようにおられなくなりました。

 その直後、結界の外から、『ぐっ』『うっ』という呻き声のようなものが聞こえ始めました。しかし、その声も長くは続かず、程なくすると、オルフェス様が戻ってこられました。


「外の妖鬼は無力化して追い返したが、縄張りの外に出るまでは今暫く掛かるだろう。それまでは飛妖女の偵察以外は外に出るな。アイネラ、そういうことだ。この後、偵察隊を編成して監視させろ。それと、灰色狼に傷を負わせた者は、アイネラたちの弓で怪我を負って一度陣地へ引き返しており、外にはいなかった。俺はその妖鬼を追うついでに、妖鬼の集落に向かい二度と攻めてこぬよう恐怖心を叩き込み行く。フィリエ、俺に付いて妖鬼の集落まで案内してくれ。ガロアは此処で全体の指揮だ。俺が戻ってくるまでは、絶対にこの結界から誰も出ないようにしろ」

「「「はい。かしこまりました」」」


 オルフェス様は戻ってこられると、外の状況を教えてくださり、そのままわたくしたちに指示を出されました。

 この指示を受けて、早速、アイネラ殿が飛妖女たちに指示を出したのでしょう。飛妖女たちが結界から飛び立っていく姿が見えました。


「では、フィリエ行くぞ」


 オルフェス様はわたくしの傍まで来ると、素早くわたくしを抱き上げ、空へ飛び立たれました。

 それから上空で一度止まると、オルフェス様は辺りを見回し、口を開かれました。

 辺りには、飛妖女たちの姿も見受けられます。


「フィリエ、妖鬼の集落はどっちだ?」

「百五十リードほど南西に向けて進んだところにございます」

「こっちか。それなら、その途中に陣がありそうだな。奴らが向かってるのもそこだろう」


 オルフェス様は南西方向を眺めながら言葉を続けられました。

 この森で百五十リードといえば、妖鬼の足で数日は掛かります。このため、途中に陣を敷いて、灰色狼を傷付けた妖鬼もそこへ向かっていると推察されたようです。


「はい。わたくしもそのように思います」

「そうだな。では、行くぞ」


 オルフェス様は一言端的に告げると、かなりの速度で飛翔され始めました。その速度は、飛妖女たちとは比べものにならないくらい速く、あっという間に飛妖女たちを抜き去っていかれます。

 そして、飛妖女たちの姿も見えなくなった頃、オルフェス様はぴたりと飛翔するのを止められ、下を眺められました。


「あれか」


 わたくしもオルフェス様に抱えられながら、下を覗き込みます。

 すると、そこには木々の影に数体の妖鬼がいるのが見えました。あれがきっと妖鬼たちの陣でしょう。

 オルフェス様はそれを確認すると一気に降下されます。


「お前たちは何者だ!」


 妖鬼の二体が、私たちを視認すると素早く剣を抜いて構えます。

 その後ろには、腕を怪我した妖鬼と、それを治療している妖鬼、それを守るように隣に控える三体がいます。


「お前たちに用はない」

「「うぐっ!」」


 オルフェス様がそう言った途端、剣を構えていた妖鬼たちが胸を抑え青白い顔をして崩れ落ちました。

 きっとオルフェス様が何かを為されたのでしょうが、わたくしにはさっぱり分かりません。


「貴様、何をした!?」


 蹲った妖鬼たちの後ろにいた一体が気色ばんで、治療を中断して立ち上がりました。


「お前たちからは、灰色狼の血の臭いがするな。フェイル様の配下の灰色狼に傷を負わせたのはお前たちか?」


 オルフェス様は、妖鬼の問い掛けには答えず、逆に灰色狼に傷を負わせたかを問われます。


「灰色狼だと、それがどうした! もう少しで仕留められたものを、邪魔したのは貴様の仲間か!?」

「そうか。間違いないようだな」

「がっ!」


 オルフェス様が、確認できたことを口にされた途端、治療中だった妖鬼の肘と膝から一気に血が噴き出しました。そして、その直後、その傷口を炎が包み込みます。


「「うっ!」」


 間髪おかず、他の二体も同じように肘と膝から血を噴き出したかと思うと、それを包み込むように炎が覆います。

 それは、瞬きほどの時間で起こりました。オルフェス様の隣にいたわたくしですら、何が起こったのか認識できませんでした。

 これを崩れ落ちながらも蒼白な顔で見ていた妖鬼たちが、震えて怯えながら後退っていきます。

 それから、程なくして炎が収まった妖鬼を、オルフェス様が一箇所へ集められます。

 妖鬼たちは、余程の痛みに襲われたのか、白目を剥き、口から涎を流して気を失っています。


「フィリエ、そいつらを蔓で一纏めに縛り上げろ。これから向かう妖鬼の集落に連れて行くから、頑丈に縛っておいてくれ」

「はい。かしこまりました」


 わたくしはオルフェス様に言われたまま、妖鬼たちを縛り上げます。

 その際、彼らの肘と膝を見ると、抉られる様に斬り取られており、そこを炎で焼かれておりました。このため、出血は治まっていますが、治療することはできないでしょう。そして、肘と膝から先は、繋がっているものの、これでは使い物にはなりそうもありません。

 この妖鬼たちは灰色狼に傷を負わせたことで、二度と同じことができぬように潰せと、フェイル様からの指示が出ていた者たちです。確かにこれでは二度と同じことはできないでしょう。


「縛れたか。それでは、妖鬼の集落に向かうとするか。それと、お前ら、二度と灰色狼の縄張りに近付くな。次また見掛けたら、次はこの程度では済まんぞ」


 オルフェス様はわたくしが縛り終えたのを確認すると、そこから伸びている蔓の端を手に持ち、わたくしを抱き抱えられました。両腕で抱えられているとはいえ、脚側の手には蔓を握られているため、少々不安定な感じがいたします。それでも、オルフェス様であれば、わたくしを落とされるようなことはないと信じられますが。

 その後、オルフェス様は周りで怯えている妖鬼に向かって警告を発しました。妖鬼たちも、それにがくがくと首を縦に振っています。この様子であれば、この者たちは二度と攻めてくることはないでしょう。

 オルフェス様はそれを見届けられると、再び空に向かって飛翔されます。それを追うように蔓で縛られた三体の妖鬼が吊るされてついてきます。


 それから二刻近く飛翔した頃、妖鬼の集落が見えてきました。

 オルフェス様はそれを視界に入れると、そのまま集落目掛けて降下されました。


「お前たちは、何者だ! なっ、それは、ゾルム様! 貴様、ゾルム様に何をした!」


 わたくしたちが集落に降り立つと、わたくしたちを取り囲むように、妖鬼が剣を抜いて構えます。

 そして、オルフェス様が引き摺っている妖鬼たちを視界に収めると、大きな声を出して威嚇し始めました。


「フィリエ、俺から離れるな」

「はい。かしこまりました」

「ああ、それにしても煩いな」


 引き摺られた妖鬼の惨状に戦慄したのか、妖鬼たちはこちらに襲い掛かろうとはしません。

 ただ、刻一刻とその数が増え、既に数百体という妖鬼がわたくしたちを取り囲んでいます。


「何をしている。かかれ!」

「「「ぐつ!」」」


 膠着状態が続く中、どこからともなく妖鬼たちへ攻撃の命令が下りました。

 その声で、妖鬼たちが動き出そうとした直後、蒼白な顔で苦しそうに呻きながら、一斉に崩れていきます。


「六体か。意外と多かったな」


 数百体の妖鬼が崩れ去った後、そこに立っていたのはわずか六体だけでした。

 しかし、オルフェス様はそれを見て、多いと感じられたようです。

 オルフェス様が今為されたことは、わたくしたちを襲撃してきた妖鬼の陣で為されたことと同じだと推測できます。


「お前、何をした?」


 仲間が崩れていくのを見ながら、残った妖鬼のうち一体がオルフェス様に問い掛けます。

 しかしその直後、「ぐっ!」と呻きながらその妖鬼も崩れ去りました。そして、そこに立っていたのはオルフェス様です。オルフェス様は一瞬で妖鬼に接敵し、他の妖鬼にされたことと同じことをその妖鬼にもされたのだと思われます。

 それからは瞬きする暇もなく、残りの五体も崩れ去っていきます。

 苦しそうに地に崩れながらも、それを見ていた他の妖鬼たちが、怯えるように震え始めました。


「さて、妖鬼たちも片付いたし、先を進むか」


 オルフェス様は、わたくしの元まで戻ってくると、集落の中心地を見詰めて言葉を発されました。

 そこには、この集落の中でも一際存在感を放つ個体がいることが感じ取れます。

 そう言うと、オルフェス様は、再び妖鬼たちを縛った蔦を持って、歩き出されました。

 それに合わせ、道に崩れている妖鬼たちが後退り、道を開けていきます。


「あの、オルフェス様、先程の妖鬼たちに何を為されたのでしょうか?」


 わたくしは歩みを進めながら、思い切ってオルフェス様に尋ねました。

 わたくしたちが知る必要もないのでしょうが、あまりにも唐突に崩れ行く様が気になってしまったのです。


「ああ、あれは魂を揺さぶっただけだ」

「魂を揺さぶる、でございますか?」

「ああ、魂を強引に身体から引き剥がそうとしただけだ。実際には引き剥がしていないから、死ぬことはない。フェイル様にも殺すなと命じられているからな」


 わたくしはそれを聞いて、自分の顔から血の気が引くのが分かりました。

 オルフェス様は簡単に仰いますが、一度にあれだけの数の者の魂を揺さぶったということです。それは、オルフェス様が本気であれば、あの数が一瞬で死ぬということです。

 勿論、それに抵抗することは可能なのだと思います。立っていた六体は漏れ出ていた魔力からわたくしと同程度の強さの妖鬼だと考えられます。このため、わたくしでも抵抗は可能なのでしょうが、あの後、その六体も崩れたことを考えれば、集団では抵抗できても、個に対して魂の揺りを掛けられると、抵抗できないということを示しています。


1リード=1.6kmになります。

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