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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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襲撃の撃退

 こちらの戦力は、騎士が南門に五十、北門に百が配置されている。恐らく、立地上、北門に攻めてくるのが本陣と予測されていたので、この配置になっている。この結果、南門と北門共に敵味方の戦力はほぼ同じという拮抗した状態になった。

 この上で、戦闘を長引かせようとするのは困難を極める。下手をすれば自殺行為とも受け取れる。


『ベルフェ、戦況を見て劣勢の騎士を支援してくれ。ただし、弱体化させるだけでいい。ネルフェアも最初は騎士が優勢になる程度だけ奪ってくれ。アゼルがそちらに現れたら連絡を頼む』

『『はい。かしこまりました』』


 俺はベルフェとネルフェアに念話を繋ぐと、指示を出した。

 ベルフェはネルフェアのように集団の生命力を奪うことはできないが、個なら可能だ。このため、適時戦況を見て、個々に拮抗、もしくは、劣勢の騎士の支援を行ってもらうことになっている。

 ネルフェアの方は集団でも奪えるが、アゼルが北門と南門のどちらに現れるかが分からないので、それまでは盗賊にも戦ってもらう必要がある。このため、最初から一気に奪うことはせずに優勢になる程度に抑えてもらう。


「出陣せよ!」


 それから程なくして、外壁の上にいる騎士が大きな声を出した。

 それを合図に外壁の後ろに隠れていた騎士たちが、一斉に門を潜り街の外へ飛び出した。


「ふむ、始まったの」

「はい。あとはどちらにアゼルが現れるかです」

「うむ。それは待つしかないの。ただ、そう時間を置かずともすぐに現れるじゃろ」

「はい。こちらが殲滅するまでには現れると思います」


 飛び出した騎士たちとは異なり、門の後ろで待機する魔法師団長とバルアさんが会話をしていると、その会話に混じって、『カキン、ガキン』と剣が重なる音が聞こえてきた。


『右手に支援だ! 盗賊が右手に迂回しているぞ! 止めろ!』

「戦闘も始まったようですね」

「うむ」


 外壁の上では、戦況を見守りながら戦闘中の騎士に指示を出している声も聞こえ始めた。

 アゼルが現れるまで待機している俺たちの方まで緊張感が伝わってくる。

 そんな剣戟と騎士の喧騒を聞いていると、外壁の上にいる騎士が『来た!』という短い声を発した。

 この言葉が何を意味するのかは、この場にいる者なら誰しもが分かる。

 それとほぼ時を同じくして、外壁の上から赤い煙が上がった。


『ネルフェア、煙が見えているか? こっちにアゼルが現れた。そっちは盗賊たちが抵抗できない程度にまで生命力を奪って一気に殲滅してくれ。ベルフェも弱体化をしていってくれ。絶対に逃がさないように頼むぞ。それと、ネルフェアは殲滅が確認でき次第、こちらに来てくれ』

『『はい。かしこまりました』』


 アゼルが現れたのなら、盗賊はもう用済みだ。特に南門の盗賊は一気に殲滅して、戦力をこちらに向けたい。


「ふむ。では、儂らも出ようかの」

「はい。かしこまりました」


 魔法師団長の号令にバルアさんが応じて、俺たちも門の外に出る。

 門の外に出ると、騎士と盗賊が剣を交える姿が飛び込んできた。ただ、その戦況も端の方から決着が付き始めているのが見て取れた。あれはきっとベルフェが弱体化せていっている結果だと推測できる。

 門の外に出た俺たちに、数頭の馬がこの戦場を回り込むように、こちらに駆けてきた。

 そして、俺たちの近くまで来ると、馬を降りて近付いてこようとする。


「魔法師団長、応援に駆け付けました」


 そう声を出した主が近付いてくるのを、魔法師団長が手を上げて抑止する。

 その手で来たか。俺はそう思うも、大して驚きもしなかった。これもすでに魔法師団長が予測していて、織り込み済みとなっている。


「うむ。アゼルか。それは助かるが、どうやって此処に盗賊が襲撃してくると知ったのじゃ?」

「それは、別の依頼でこの街に来る途中で、盗賊を見掛けたという情報を得ましたので、一も二もなく応援に参りました」

「うむ。で、その依頼とやらは大丈夫なのか?」

「はい。盗賊を片付けた後にでも間に合いますので」

「うむ。そうか、しかし残念じゃったの。お主らの手は借りんでも、もうすでに戦況は傾いておる」


 魔法師団長は戦場に向け、アゼルに参戦が不要な旨を伝える。

 アゼルもそちらに視線を向けて、『そのようですね』と何食わぬ顔で答えている。


「とはいえ、お主には、こちらも用があったのだ」

「それは、どのような要件でしょう?」


 魔法師団長の言葉は、ここから心理戦が始まることを意味している。

 だが、それを知らないアゼルには予想外の言葉だったのか、一瞬訝しい表情を浮かべ、魔法師団長に問い掛けた。


「うむ。その前に、お主、いつも肩に着けておる紋章はどうしたのじゃ?」

「ああ、これは此処に来る途中に、どこかに落としてしまったようです」

「うむ。それはマイゼル領の森でかの?」


 マイゼル領とは、マイゼル子爵が治める領地であり、ヘイズさんたちが襲撃された領地でもある。

 これを聞いて、アゼルの顔に一瞬、緊張の色が走った。しかし、すぐに平静な表情に戻すと口を開いた。


「何を仰っているのですか? マイゼル領は此処より遥か東の領地ですよ」


 そんなことは誰しもが知っている。

 勿論、王都から此処までの経路からも離れていることまで。


「うむ。しかし、そこでお主を見た者があるのじゃがの」

「そんなはずないですよ。俺がマイゼル領で見られているなら、此処にはいませんしね」

「うむ。そうか? 此処にいる盗賊たちと一緒に襲撃したきたのを、生き残った騎士が見ておるのじゃがな」


 魔法師団長が言葉を発すると同時に、獲物を視界に収めたような眼をした。

 これに対し、アゼルの顔から表情が消える。だが、それも一瞬で、すぐにおかしそうな表情を浮かべる。


「魔法師団長も冗談を仰られるんですね」

「うむ。こんなことが冗談で言えると思うとるのか?」

「いやだって、俺は此処に来るまで王都にいたんですよ。マイゼル領で襲撃があったなら、俺が王都を発ってからのことなんでしょうけど、それなら、そんな情報を魔法師団長がご存じなわけないじゃないですか」


 あくまでアゼルは白を切り通すつもりのようだ。

 アゼルの言う通り、普通ならマイゼル領から遠く離れたこの地にいる魔法師団長が知るはずはない。

 と、その時、北東の方から馬群が見えた。その馬に乗っているのは騎士たちだ。

 この騎士たちは、ヘイズさんの元へ派兵された騎士のうち、こちらに向かうように指示された半分の騎士たちだ。

この騎士たちが今此処へ来たのは偶然ではない。彼らはアゼルに遭遇しないように、アゼルたちよりも少し北側の経路を通って此処まで来た。そして、今日の昼間に此処まで辿り着いたのだ。ただし、彼らも慣れたもので、盗賊がこの街を監視している可能性を考慮して、そのまま街に入るのではなく、変装して先遣隊を街に送ってきた。そこで、この騎士たちには、街に入らず北東にある林に潜んでいてもらい、赤い狼煙と同時にこちらに向かってもらう手筈となっていた。それが今、此処に到着したわけだ。

 また、これと時を同じくして、ネルフェアからも念話が入った。


『フェイル様。南門の制圧は完了しました』

『そうか。それで、今はどこいるんだ?』

『フェイル様の後ろでございます』

『そうか。それなら、アゼルの後ろにいる冒険者と魔物たちを抵抗できない程度に無力化してくれ』

『はい。かしこまりました』


 俺がネルフェアと会話している間、魔法師団長の方でもアゼルとの会話が続いていた。


「うむ。アゼルよ。あの騎士たちは、お主が王都からいなくなってすぐに、ヘイズの元へ応援に派兵された者たちじゃ。あれが、どういう意味か、お主にも分かるじゃろ?」


 こちらに向かってくる馬群が何者かを聞いて、アゼルの顔からも余裕が消え、険しい顔へと切り替わった。


「お前たち、戦闘だ!」


 アゼルは即座に方針を変更して、こちらとの戦闘を他の冒険者たちに指示する。

 しかし、アゼルの声に応える者はなく、アゼルが後ろを振り返ると、そこには息も絶え絶えに立っているのがやっといった面々がいた。


「お前ら、何をやっているんだ!」

「わか…て、る…、うっ」


 アゼルが焦りを抱えて呼び掛けるも、後ろの冒険たちは、それに答える元気もないようで、今にも膝を折りそうになっている。

 どうやら、ネルフェアが指示通り、彼らの生命力を奪ったようだ。

 俺は生命力を奪われた人間を初めて見たが、なるほど、こういう風になるらしい。


「くそっ! 紅牙狼(こうがろう)行け!」


 アゼルは咄嗟にこちらに振り返ると、服従させている紅牙狼に俺たちを襲うように命じた。


「フェイル様、我が行きます!」

「え?」


 そう言うや否や、テオが俺の横から飛び出して、紅牙狼に接敵する。

 紅牙狼はそれを見て、向かってくるテオに向かって咄嗟に前脚を振り下ろした。

 だが、テオは、それを事も無げに躱して紅牙狼の横を通り過ぎると、即座に反転して、今度はテオが前脚を振り下ろす。

 貰った冒険者のための教本にも書かれていた通り、速度は灰色狼の方が優っているようだ。しかし、問題は攻撃力だ。本の通りなら、テオの攻撃は紅牙狼には通じない。

 俺がそう思った瞬間、紅牙狼に幾筋もの線状の斬り傷が走り、そこから大量の血が噴き出した。

 これによって、よろけるように紅牙狼が蹈鞴を踏む。

 テオはこれを見逃さず、飛び掛かるように紅牙狼の首元に牙を立てると、一気に首を横に振り抜いた。

 そして、再び紅牙狼の首から大量の血が噴き出し、そのまま紅牙狼はどさりと地に沈む。


「何!? 紅牙狼だぞ! 何故、灰色狼如きに負けるんだ!」


 見ている方も驚きの速さと顛末である。

 アゼルもそれに漏れず、叱責を飛ばしている。

 うん。まぁ、そうなるよね。

 オルフェスたちから、テオたちならば勝てると言われていたが、俺も勝てるとは思っていなかったもん。そのため、テオたちには戦闘をさせないつもりだったのに、いきなり飛び出したかと思うと、これですよ。

 俺の横にいるティルセア様も大きな口を広げて驚いている。

 今回は勝ったから良かったものの、これは後で注意しておかないとだな。


「テオ、もういい。下がれ」

「はい。フェイル様、かしこまりました」


 テオはその言葉に従い、俺の後ろに戻ってくる。


「テオ殿、あまり無理はされぬようにですぞ」

「ガレリック殿、ご心配痛み入る。しかし、あの程度の雑魚など問題ない」


 そのテオに、魔法師団長が小声で語りかけている。

 きっと魔法師団長も、テオが飛び出して驚いたのだろう。


「ほっほっほっ。さて、アゼルよ。頼みの紅牙狼もいなくなったが、さて、お主はどうするつもりじゃ?」


 魔法師団長は、テオの返事に笑い声を上げる。だがその直後、すっと顔を引き締めると、獲物を見詰める目でアゼルの方に視線を向けて挑発した。

 この一連の流れを端から見ていたら、魔法師団長の笑いはアゼルと紅牙狼に向けたものだと、誰もが思うだろう。

 アゼルは魔法師団長の挑発に、悔しげに『くそっ』と呟き、剣を抜いて構えた。

 アゼルが逃げ出そうにも、すでに周りを騎士が固めている状況では、これしか残された手がないことも分かる。


『ネルフェア、アゼルの生命力を奪え』

『かしこまりました』


 俺はそれを見て、間髪入れずに念話でネルフェアに指示を出す。

 その直後、アゼルの膝が一瞬、がくっと崩れた。

 それを見逃さず、周囲を固めていた騎士たちが、アゼルたちに襲い掛かった。

 ここまで来れば、あとは完全にアゼルたちを無力化して捕えるだけだ。

 俺が改めて周囲を見渡すと、すでに盗賊たちとの戦闘も終わっており、騎士たちが生き残った盗賊たちを縛り上げている光景が目に映った。

 そして、そんな俺の耳に、『アゼルを捕らえたぞ!』という騎士の声が飛び込んできた。

 それを皮切りに、『よし! やった!』という歓声が波紋のように騎士たちに広がっていく。


「まだじゃ! デルアックがおらん! まだ油断するでないぞ! 早々に生きている者を捕らえ、街の中に運んで牢に収容せよ。それが終われば、一旦、門を閉じて再度、襲撃に備えるのじゃ」

「「「はい。かしこまりました」」」


 アゼル討伐に湧き上がる騎士たちに、魔法師団長が大きな声で叱責を飛ばす。

 これを受けて、騎士たちも表情を引き締めると、魔法師団長の指示に従い、捕らえた者から順に街の中に運び込んでいった。

 その後、南門から駆け付けた騎士たちも交え、全員が門の中に入ったのを確認して、門が閉じられた。


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