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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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本命の襲撃

「フェイル様、大丈夫ですか?」

「ああ、ネルフェア、ありがとう。大丈夫だ」


 オルフェスとの念話で、俺は眉間に力が入ったままだったようだ。

 ネルフェアがそれを心配して小声で問い掛けてくれる。

 俺はネルフェアの心配にお礼を言うと、一つ大きく息を吸って、肩の力を抜いた。


「ふむ。フェイルよ。そう緊張せずとも、準備も順調に進んでおるのじゃ。気楽に待っておれば良い」

「ガレリック様、ありがとうございます。お気遣い感謝いたします」


 魔法師団長は俺の機微が不審に思われないよう、襲撃への緊張感からきていると思わせるように誘導してくれる。

 俺たちは魔法師団長の後ろに控えているので、魔法師団長には、俺の顔は見えていないはずだが、恐らく、ネルフェアと小声で話した内容が聞こえたのだろう。それで何かを感じ取ったようだ。

 魔法師団長には念話の話はしていないが、それでも、通話の魔晶石が造れる俺たちには何らかの通信手段があることは察していると思われる。その証拠に、先程俺が魔法師団長に相談した時も、何も言わずに応じてくれている。


「皆の者たちも同様じゃ。緊張せずに待つが良い」

「そうでございますね。作戦は完璧ですので、問題ないでしょう」


 バルアさんも事情は分からずとも、何かあることは察して、これに乗っかってくれる。

 これで、この場の空気も、幾分落ち着いたものになった。

 この後、平穏を取り戻したこの部屋に、慌ただしく騎士たちが出入りし、報告と指示を仰ぎにこの部屋に訪れるという時間が流れていった。


「魔法師団長、全ての準備が整い、騎士たちも配置につきました。いつでも作戦を開始できますので、決行のご指示をお願いいたします」


 そして、日も沈んだ頃、最後の騎士がこの部屋を訪れ、全ての準備が整ったことを告げてくれた。


「ふむ。では、三刻後に決行としようぞ。それまで、騎士たちには暫しの休息を取るよう伝えてくれるかの」

「はい。かしこまりました」


 魔法師団長が騎士の報告を受けて、作戦の決行時刻を告げる。

 三刻後といえば、丁度、多くの住民が眠りに就く頃だ。それでもまだ、酒場などは開いているだろうが、それを待っていては、いつまで経っても作戦が決行できなくなる。


「それでは、それまでの間に、食事が摂れるよう準備させましょう」

「ふむ。エスワール殿、忝い」


 ウィアズ伯爵は後ろに控える騎士に食事の準備を申しつけた。

 それから程なくして、この部屋に侍女が台車に食事を乗せて運んできた。

 そこには此処にいる人数分の食事が乗っているように見える。魔法師団長、ウィアズ伯爵、ティルセア様の分の三つは別皿に取り分けてあるが、それ以外は大皿に盛られている。

 侍女は取り分けられている皿を、予想通り、魔法師団長、ウィアズ伯爵、ティルセア様の前に置くと、『申し訳ございませんが、騎士の皆様は、この大皿からお取りください』と言葉を残し、邪魔にならないよう素早く一礼して退室していった。


「うむ。それでは、いただくとしようかの。バルア、フェイル、其方らも食べるがいいぞ」


 完全に魔法師団長から離れるのも護衛として不自然だ。そのため、護衛としての警戒は残しつつ、順番に食事を摂ることになる。


「ベルフェ、ネルフェア、俺は魔法師団長についてるから先に食べてくれ」


 ベルフェが俺の方に一歩踏み出そうとしたのを見て、俺は先に声を掛けた。

 こういう有事の時は、素早く食べるのが礼儀だが、それでも俺は少しでも味わって食べたい。しかし、後が控えていると思うと、味わうこともできなくなり、空腹を満たすという作業になってしまう。その点、ベルフェやネルフェアは食べなくても問題ないし、此処に出されている程度の食事なら味わう必要もないと思い、先を譲った。

 だが、ベルフェとネルフェアは、俺のそんな我儘だとは知らずに、一瞬、ぴくりと眉を上げ、何やら申し訳なさそうに台車に向かっていく。

 その後、俺の順番が回ってきて、大皿のところまで移動する。

 その大皿に乗っている料理の見た目は、フィリエさんが作ってくれた朝食に似ている。簡単に言えば、パンに肉と野菜が挟んである料理だ。これだと手に持って食べることができるので、こういう時には非常に助かる。

 俺はそれを手に取ると、大きな口を開けて齧りついた。

 うん。美味しい。

 ただ…、美味しいは間違いないが、どこか物足りなさを感じる。

 たぶん、フィリエさんの料理に見た目が似ているせいで、フィリエさんの作ってくれた料理の味を期待していた所為かもしれない。あれは、魔法師団長たちも言っていたが、金貨を払うような高級食材を使っている。そんなものが、こんなところでおいそれと出てくるわけもなく、そもそも比較することが間違っている。

 う~ん。人間の世界で生きていく以上、これは、ちゃんと味覚を元に戻す必要がありそうだな。

 俺は、そんなことを思いながら完食し、魔法師団長の後ろに戻っていった。


「魔法師団長、そろそろ決行の時間となります」

「うむ。それでは、儂らもそろそろ北門に向かうかの」


 食事も済み、少しお腹も落ち着いてきた頃、バルアさんが作戦決行の時間が近いことを魔法師団長に告げる。

 この言葉に、魔法師団長が顔を引き締めて立ち上がった。


「是非とも、私もお供させていただけないでしょうか?」

「ティルセア、何を言ってるんだ!?」


 魔法師団長を追うように立ち上がったティルセア様が同行を申し出てきた。

 それを止めるウィアズ伯爵を気にも留めず、ティルセア様はずっと魔法師団長を見詰め返事を待っている。


「ティルセア嬢、護衛はつけられんのじゃ。此処で待たれよ」

「それは、理解しております。それでも構いません。私も自分の身は自分で守れます」

「ティルセア」


 魔法師団長が同行を許可できない理由を述べるも、ティルセア様が食い下がってくる。

 それに、ウィアズ伯爵と、後ろに控える騎士たちまでもが慌てふためいている。


「どうして、そこまでして同行したいのじゃ?」

「此処が私の住む街で、私が領主の娘として、騎士として守るべき街だからです。そして、私には全てを見届ける義務がございます」


 ティルセア様の言い分にも一理ある。

 役割分担として、王国騎士団が前面に出て、この街の騎士たちが街中を守るようになっている。

 しかし、この街の者が誰一人前面に出ていないのでは、面目も体裁も立たないことは理解できる。これは、俺がアゼル討伐を申し出た時に、それを断った王様の言葉にも通じるものがあるからだ。

 この言葉を聞いて、魔法師団長が顎に手を当て思案し始めた。


「うむ。よろしいじゃろう。ただし、儂の傍から離れないと約束できるのであればじゃがな」

「ガレリック様………」

「はい。ありがとうございます。その旨、しかとお約束いたします。お父様、領主としてのご決断を」


 魔法師団長が同行を許可したことに、ウィアズ伯爵が何かを言おうとしたのを遮るように、ティルセア様が受け入れた。

 そして、父親ではなく、領主として判断を下せと、ウィアズ伯爵に迫った。


「…分かった。しかと見届けてきないさい」

「はい。ありがとうございます」


 ウィアズ伯爵もこう言われては、これ以上、止める言葉もないようだ。

 ティルセア様の言葉を受け止めた魔法師団長が、すでに許可を出しているのに、此処の領主であるウィアズ伯爵が許可を出さないことなどできるはずもない。

 ただ、それでも後ろに控える騎士たちは、焦りを抱えているようだが、ここで口出しするほど豪胆でもなさそうだ。


 無事、ウィアズ伯爵の許可も取れたティルセア様が加わり、俺たちは北門へ移動する。

 そこではすでに騎士たちが配置に就いていた。


「ふむ。では、作戦開始じゃ!」


 作戦開始の合図を待っている騎士たちを見回した後、魔法師団長が号令を掛ける。

 それを受けて、伝達役の騎士が手を揚げた。続いて、そこから街の至ることころに配置されている騎士が順番に手を揚げていく。これで目的の場所まで作戦が開始されたことを伝えていくのだ。

 これは、大きい声を出さしたり狼煙が使えない時に、良く取られる常套手段だ。

 それから程なくして、街から煙が上がった。

 それから、少し間をおいて二つ目の煙が上がる。そして、その後も三つ、四つと上がりだした。

 ただし、これは街中で火事が起こっているわけではない。街の開けた場所の数か所に廃材で櫓を組んで、それに火を点けただけのものだ。

 盗賊から情報を聞き出してから、夕方までに騎士が慌ただしく準備していたのは、すべてこのためだ。

 これなら間違いなく、遠目から見れば、街中で火事が起こっているように見える。

 ここまでくれば、後は、この煙で誘き出された盗賊が襲撃してくるのを待つだけである。

 

「では、わたくしは南門に移動いたします」

「ああ、頼む」


 四つ目の煙が上がったところで、ネルフェアが俺に声を掛けてきた。

 それに俺が返事をすると、ネルフェアの姿が掻き消えた。

 一瞬で姿を消したネルフェアを見て、ティルセア様が目を見開いている。

 ネルフェアには、南門に盗賊が襲撃した際に、騎士を支援してもらう予定になっている。とはいえ、ネルフェアが直接手を出すわけではなく、盗賊たちを弱体化させるだけだが。このため、幻術で姿を消して、南門に移動してもらったのだ。

 そして、これと同時にベルフェも姿を消している。ただし、ベルフェにはネルフェアのように集団の生命力を奪うことはできないため、今は姿を消してもらっただけで、ベルフェのこれからの行動は臨機応変に俺が念話で指示することになっている。


「盗賊たちが攻めてきました。その数、百程度。全員馬に乗っております。砂埃で良く見えませんが、アゼルはいないように思われます」


 外壁の上で身を潜めて外を監視していた騎士が声を出した。

 ただし、それほど大きな声でもない。


『フェイル様、アゼルの姿は見えません』

『ベルフェ、ありがとう』

『ネルフェア、そっちはどうだ?』

『こちらも盗賊が攻めてきました。数は五十程度です。こちらにもアゼルはいませんね』


 外壁の上の騎士とは別行動で襲撃を監視していたベルフェから念話で連絡が入った。ご丁寧にネルフェアを同時接続対象に指定してくれているので、ついでにネルフェアに南門の様子を聞いてみた。


『そうか、分かった。ネルフェアは、盗賊が門に接敵したら弱体化せてくれ。ベルフェはこのまま俺が指示を出すまで待機だ』

『『はい。かしこまりました』』


 俺は簡潔に指示を出すと、念話を切って、ベルフェとネルフェアから得た情報を魔法師団長に報告する。


「うむ。想定通りか。それならば、やはりアゼルたちは、こちらが情報を得ているということを知らぬということじゃな」

「はい。それで間違いないと思います」


 アゼルが逃げたのなら、行動を共にしている盗賊が攻めてくるわけがない。だが、アゼルが盗賊と一緒に攻めてきた場合、アゼルが盗賊と組んだということが公となり、アゼルも犯罪者として扱われる。このため、そんな行動は取らないと推測されていた。


「うむ。では、街の外で盗賊を迎え撃つのじゃ。ただし、一気に殲滅せずに時間を掛けて長引かせよ」

「かしこまりました」


 魔法師団長から次の指示を受けたバルアさんが拳を握って手を揚げた。この拳はアゼルが現れるまで戦況を長引かせるということを意味している。

 これによって、この場の緊張感が一気に高まる。


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