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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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迷惑な襲撃

『フェイル様、今フィリエから連絡があり、妖鬼が攻めてきたそうです』

『え? 今か? あ、いや、ちょっと待て。今すぐ考える』


 ベルフェから念話が繋がり、話を聞いてみると、森の方でも襲撃が始まったとの報せだった。

 え? なんで今? ねぇ妖鬼君、君たち馬鹿なの? 今がどういう時か分かってる?

 俺は心の深層で、思わずそんなことを呟いてしまった。

 そうは言っても、こちらの都合など気に掛けてくれるはずもなく、寧ろ妖鬼からすれば絶好の機会だ。

 今は、こちらも襲撃に備えてすでにオルフェスたちの役割も決まっている。作戦が開始された段階で魔法師団長と俺たちは北門に向かい、そこでオルフェスたちは幻術で姿を消し、騎士たちの支援に向かう手筈になっている。

 このため、わざわざ街を知り尽くしたこの街の騎士たちには、街中の防衛を担当してもらい、王都から来た俺たちの事情を知る騎士たちだけで北門と南門で敵を迎え撃つという風に仕向けたのだ。

 それなのに、今オルフェスたちの誰かが姿を消すのは不自然だし、この作戦的にも問題がある。

 俺は思考を高速で回転させて対応策を考えた。だが、作戦らしい作戦は思いつかず、それでも俺の答えは、何があってもフィリエさんたちを放置できないというものだった。

 俺は致し方なしに、今俺たちが置かれている現状を魔法師団長に小声で耳打ちして伝える。

 魔法師団長はそれを聞いて、眉間に皺を寄せながらも、真剣な顔で対策を考え始めてくれた。


「ふむ。エスワール殿、人払いをお願いできますかの? それと、バルア。人払いがされた後、至急この部屋への出入りを禁ずるようにするのじゃ」

「はい。かしこまりました」

「え? ガレリック様、お待ちください。それはどういうことでしょうか?」


 バルアさんは俺たちの様子から何かを察して迅速に動こうとするが、ウィアズ伯爵は慌てて魔法師団長に問い返した。

 当然のことながら、ウィアズ伯爵にもこの街の騎士が護衛に就いている。それを追い出せと命じられて、おいそれと応じられる者などいないだろう。

 隣にいるティルセア様もウィアズ伯爵の後ろに立っている騎士たちも、驚きを露にし、魔法師団長とウィアズ伯爵の間で忙しなく視線を動かしている。

 だが、そんなウィアズ伯爵たちとは異なり、魔法師団長はウィアズ伯爵に真剣な眼差しを向けたまま腕を組んで、口を開く様子もない。そこには無言の圧力があり、これが命令であるかのように思わせる威厳があった。


「…分かりました。ただ、ティルセアだけは此処に残らせてもよろしいでしょうか?」

「うむ。よいじゃろう」


 魔法師団長の圧に根負けしたウィアズ伯爵が、息を一付いて姿勢を正した。


「ありがとうございます。そういうことだ、お前たちは下がって、別室で控えてくれ」


 ウィアズ伯爵が後ろに控える騎士たちに退室を促した。

 騎士たちは、戸惑いながらもその命令に応じて退室していく。

 それを見届けたバルアさんが、扉の外に立つ騎士たちに何やら告げると扉を閉じて戻ってきた。


「うむ。ウィアズ伯爵、これから話すことは国家の機密事項だ。これが外に漏れた場合、国王陛下の名の元、いかような手段を用いても、一族郎党全ての者が処分されると心得よ」


 人払いが済んだ静かな部屋で、魔法師団長がいつになく真剣な面持ちで口を開いた。

 それは、今までとは異なりウィアズ伯爵の呼び方の違いからも感じられる。これは個人的なことではなく公式であることを暗に示しているとも言えた。

 それを聞いたウィアズ伯爵とティルセア様が息を呑んだ。ウィアズ伯爵に至っては、緊張のあまり、額に汗が滲んでいる。


「分かりました。お聞きします」


 ウィアズ伯爵は腹を括ったのか、居住まいを正すと、魔法師団長に向かい真剣な眼差しを向けた。

 これから語られるのは、俺たちの事情だとは分かっていても、この場の空気に緊張感が押し寄せてくる。

 今までウィアズ伯爵と接してきた限りでは、貴族然とした方ではあるが、信用はできると思える。魔法師団長もそう判断してのことだと思えるので、万が一のことは起きないと思いたいが、それでも情報を知る者が少ない方が良いに決まっている。俺としても一族が処分されるかもしれない状況など増やしたくはない。

 だが、それでも申し訳ないが、フィリエさんたちを、それ以上に放置できないのだ。


「うむ。それでは説明するかの―――」


 そして俺たちが何者であるか、どういう目的で旅をしているか、ここに至るまでの経緯など、簡潔に語られた。

 それを聞いていたウィアズ伯爵とティルセア様の顔が、驚きや驚愕、苦渋や苦悶など様々な表情へと変化する。

 それと同時、時折俺たちの方に向けられる視線には、恐怖が混じっていることも感じられた。

 この際、幻術を解いて本来の姿も見せている。これによって、オルフェスたちの本当の姿が晒されてことも、恐怖心を煽った原因の一つかもしれない。


「そういことじゃ。これでお主たちも分かったであろう」

「「………」」


 魔法師団長が締め括った言葉にも、ウィアズ伯爵とティルセア様は無言で固まっていた。


「うむ。エスワール殿たちの心境も分かるが、フェイル様方は気安いお方たちじゃ。それほど緊張せずとももっと楽になされよ」

「は、はい…。分かりました…」


 あまりに硬くなり過ぎているウィアズ伯爵とティルセア様に、魔法師団長が気楽な言葉を投げ掛ける。

 敢えて俺の敬称を『様』にしたままにしたのだろうが、それでは緊張など解けるはずもないし、俺たちが外に出た時に困ることになる。そればかりか、このままでは、ばれるのも時間の問題になってしまう。


「ウィアズ伯爵様、ティルセア様、俺の事情に巻き込んでしまい、申し訳ございません。それと、俺たちに敬称は不要ですし、今まで通り接してください。それとガレリックさん、敬称が違いますよ」


 俺は謝罪と共に、俺たちへの接し方について今まで通りにしてもらうようお願いした。

 ついでに魔法師団長にも訂正を求めておく。


「いえ、謝罪は不要でございます。ガレリック様からのお話にもございましたが、これも我が国のことを考えていただいてのこと。この国の貴族として感謝いたします。それと、そうでございますね。これが漏れぬよう、外ではそのようにさせていただきましょう。ティルセアも分かったね」

「はい。お父様、承知いたしました」


 俺はウィアズ伯爵の言葉を聞いて、少しばかり後ろめたさを感じる。

 この国のことを全く考えていないわけでもないが、概ね俺の希望を優先した結果だと思っている。

 王様からは、俺のこの思いは見当違いだとは言われているし、理解もしているのだが、それでも納得しきずにいる。


「うむ。それでは、フェイル殿、森へお急ぎくだされ」

「はい。ありがとうございます。それじゃあ、オルフェス、森へ飛んで、先ずは情報を聞いて、それを教えてくれ。その後のことは、それを聞いてから判断する」

「はい。かしこまりました」


 魔法師団長の許可を得て、俺はオルフェスに森へ行くように頼む。

 俺の依頼を聞いたオルフェスは、俺に幻術を掛けると、即座にその場から姿を消した。これに倣い、ベルフェとネルフェアも再び幻術を纏い人間に擬態している。

 それを見ていたウィアズ伯爵とティルセア様は、驚きのあまり目を見開いている。


「フェイル様、オルフェスで良かったのですか?」

「ああ、ベルフェとネルフェアには此処に残ってほしかったから大丈夫だ」

「かしこまりました」


 オルフェスが飛んだ後、ベルフェが俺に尋ねてきた。

 きっと、連絡を受けた自分が行くものだと思っていたのかもしれない。その思いには申し訳なく思うが、今はオルフェスに行ってもらうのが適任だと思っている。

 オルフェスに頼んだのは、簡単な理由からだ。ネルフェアは盗賊たちの生命力を奪い弱体化させるという仕事が待っている。これはネルフェアにしかできない。それとベルフェは、万が一別の盗賊が街に潜んでいた時なのどに備えて、尋問官として残しておきたかった。そういう意味では、防御系の魔法使いを演じているオルフェスも残しておきたいのだが、こいつらは作戦決行と同時に幻術で姿を消すので、これはベルフェでも代わりが勤まると考えてのことだ。


「うむ。それでは、バルア。この部屋の出入りを解いてくれるかの」

「はい。かしこまりました」


 こうしてこの部屋の出入りが許可され、再び指揮官室としての機能を取り戻した。

 程なくして、ウィアズ伯爵の護衛騎士たちも戻ってきた。

 戻ってきた騎士たちは、部屋の中を見てそわそわとしていたが、ベルフェがいなくなっていることにも言及せずに静かにウィアズ伯爵の後ろに控えた。この辺りは流石教育された騎士たちだと思える。

 この時、俺の頭の中にオルフェスの姿が浮かび上がった。


『フェイル様、今よろしいでしょうか?』

『ああ、大丈夫だ。それで、どんな感じだ?』

『はい。襲撃してきている妖鬼は五十体ほどです。こちらは結界があるので、フィリエたちが中から迎撃を行っていたようですが、あまり効果はなさそうです。それと、結界から出ていた灰色狼が一体、妖鬼と遭遇して怪我を負ったようです』


 俺は最後のオルフェスの言葉を聞いて、眉間に力が入った。


『それで、怪我の容態は?』

『はい。致命傷ではございませんが、この先、狩りをするのは難しいかもしれません。フィリエたちも必死で治療に当たっていますが、難しいでしょうね』


 俺はそれを聞いて、頭に血が上るのを感じる。

 森に生きる魔物において、狩りができないというのは死を意味する。勿論、ガロアの配下にそんなことをさせるつもりはないが、それでもきっと本人は気に病んでしまう。


『分かった。襲撃している妖鬼たちは殺さずに無力化して追い返せ。多少の傷は構わん。それと、二度とこちらにちょっかいを掛けて来ないように骨の髄まで叩き込んでおけ。ただし、灰色狼に傷を負わせた妖鬼だけは地の果てまで追ってでも、絶対に許すな。殺す必要はないが、二度と同じようなことができぬように潰せ。あとはオルフェスの采配に任せるから、そちらは頼む』

『はい。かしこまりました』


 これで、後はオルフェスがなんとかしてくれるだろう。

 生き死にの抗争にまで至ると、禍根が残り、負の連鎖が取り留めもなく続いていく。

 そうなれば全滅させるしかなくなるが、こちらに死者が出ていない以上、そこまでする必要もない。二度と攻めてこなければ良いだけだ。ただし、灰色狼に怪我を負わせた者だけは違う。この灰色狼と同じ思いを味合わせないと不公平というものだ。それに俺もだが、きっとガロアたちの気もすまないはずだ。


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