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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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襲撃の予兆

 俺たちが街に到着した翌日、俺たちは騎士舎の食堂で手早く朝食を摂ると、魔法師団長の護衛に就いた。

 しかし、その日は襲撃もなく、静かに過ぎていった。

 相手の動きが分からないというのは、精神的に堪える。俺が直接手を下せるなら、これほど疲れもしないのだが、

支援に限られている現状では、周囲の疲弊が気になり、どうしても気が休まらずにいる。

 だが、俺の心配とは裏腹に騎士たちの緊迫感は高まる一方だ。ただそれだけに、襲撃がない日が続けば、日に日に疲労も蓄積され、いつか限界を超えることになる。そうなってから襲撃されたら堪ったものではない。

 襲撃が来ないでほしいと気持ちと、早く来てくれという気持ちが綯交ぜになった心境で、俺は三日目を迎えた。


 そんな三日目の昼を過ぎた頃に、一人の騎士が魔法師団長の部屋に息を切らせて飛び込んできた。

 その騎士の様子を見て、この場に緊張感が走る。


「魔法師団長にご報告申し上げます。本日、怪しい者を発見し捕縛いたしました」


 騎士が報告してきた内容で、緊張感が更に高まった。

 魔法師団長とバルアさんの顔にも険しさが現れている。


「うむ。それはどのような者なのじゃ?」

「はい。身成は農民の恰好をしており、その者が牽いていた馬車の荷も問題はございませんでした。ですが、念のため監視を付けておりましたところ、荷を売り払った後に油を大量に買い込み、街を出る様子もなく、街の様子を探る素振りを見せましたので、尋問いたしました。すると、慌てて逃げ出したため急遽取り押さえた次第です。また、捕えて分かったのですが、農民には不釣り合いな短剣を所持しておりましたので、只今、牢屋にて尋問中でございます」


 騎士が語った詳細を聞く限り、白とも黒とも判別がつかない微妙な感じに思える。


「それで、何と言っておるのだ?」

「はい。短剣は旅人から貰った物で護身用に携帯しており、油は村で使うためと申しております。それ以外は、自分は何も知らないし関係ないの一点張りでございます」


 俺はそれを聞いて、なんとなく黒だと思えた。


「うむ。『知らない』と言ったのだな?」

「はい。そう申しておりました」


 魔法師団長も俺と同じように感じたようだ。騎士の返答を聞いて思案気に考え始めた。

 騎士の尋問内容にも依るが、普通自分が無関係なのなら、『関係ない』とは言っても、『知らない』とは言わない。


「ふふふ。それは面白そうですね。フェイル様、私が尋問してもよろしいでしょうか?」

「え? ベルフェがか?」


 ベルフェが楽しそうな面持ちで、尋問を申し出てきた。

 確かに悪魔のこいつなら尋問に適している気はするが、俺たちは魔法師団長の護衛なので此処から動けない。

 そう思い、判断を魔法師団長に委ねる意図で、魔法師団長の方に視線を送る。


「ふむ。そうですな。では、儂も尋問に立ち合いましょう。そうすれば、怪しまれずに済みましょうからの」

「それでは、牢屋から人払いをした方が良いですね。おい、至急、関係者以外を牢屋から遠ざけておけ」

「はい。かしこまりました」


 魔法師団長の言葉に迅速にバルアさんが反応し、騎士に指示を出した。

 もし、この怪しい農民が襲撃の先遣だった場合、一刻を争うことになるため、魔法師団長もベルフェに尋問を任せる判断をしたようだ。

 この指示を受け騎士が駆け足で去っていった。


「うむ。それでは、儂らも牢屋に向かいましょうかの。尋問するなら早い方が良いでしょうからの」

「はい。分かりました」


 そう言って席を立った魔法師団長に続き、俺たちも後に付いて移動する。

 こうして牢屋まで移動すると、すでに人払いも完了していて、俺の知る数名の騎士のみになっていた。

 そこで俺が見た農民の第一印象は、太々しいだった。別にそれ自体はおかしなことではないが、その態度から絶対に解放されるという自信が伺えるようで、どうにも怪しく思えた。

 俺がそんな眼で農民を見ていると、ベルフェから念話が繋がってきた。


『ふふふ。あれは間違いなく盗賊でございますね』

『ベルフェ、どうして分かるんだ?』

『あの者から血の臭いがします。大方、馬車も荷も農民から奪った物でございましょう』

『そうか、分かった』


 俺は念話を切ると、ベルフェから聞いた内容を、小声で魔法師団長に伝える。

 俺が毒を盛られた時もそうだが、こいつらは、俺たちには分からない臭いまで嗅ぎ分けることができる。そういった点からもベルフェの言葉を信じても良いと思える。


「ふむ。それではベルフェ、尋問を頼む」

「はい。かしこまりました」


 魔法師団長とベルフェは、一応、捕えた農民改め盗賊の目を意識して、此処では冒険者のベルフェを演じるようだ。

 そのベルフェは魔法師団長からの指示で、牢屋の中に入っていった。

 そして、盗賊の前に立つと、徐に帯刀している短剣を抜いて、無言で盗賊の肩に突き刺した。


「うっ! いきなり何をしやがる!」


 肩を刺された盗賊が呻き声を上げて、ベルフェを怒鳴りつけた。


「ふふふ。何もどうも、喋る気がない者に尋問など不要でしょう。丁度、襲撃の前に新調した短剣を試せる相手が欲しかったのです。ですから、この短剣の試し斬りに存分に付き合うことを許しましょう」

「なっ!」


 怒鳴りつけてきた盗賊に対して、ベルフェは嗤い顔を浮かべると、なんとも恐ろしいことを口走った。

 いきなり刺された側からすれば、こんなことを言われたら、恐怖を覚える以外にない。


「なっ、な、何を言っているんだ。なあ、頼む、お前たちも止めてくれよ」


 ベルフェが盗賊に一歩近づくと、盗賊は座り込んだまま、這うように後ろに下がる。

 盗賊は、ベルフェの常軌を逸した様子から、ベルフェに何を言っても無駄だと悟ったのか、俺たちに向かって助けを求めるように懇願してきた。だが、俺たちは、これもベルフェなりの尋問だと分かっているので、止める気など更々ない。常日頃、盗賊たちがやっていることだと思えば、何の罪悪感も湧くことなく、俺たちも平然としたものだ。

 そして、ベルフェが短剣を持つ手に力を籠める仕草を見せた途端、盗賊が焦ったように大声を発した。


「分かった! 分かったから、なんでも喋るから許してくれ!」


 余程ベルフェが怖かったのか、その後盗賊はべらべらと全てを教えてくれた。

 隣にベルフェが短剣をくるくると回しながら立っているのだから、喋らないわけにはいかないだろう。

 終始、震えながら、ちらちらとベルフェを盗み見ていたので、彼が抱いた恐怖心が尋常ではないことが分かる。

 それによると、この街の警戒体制が上がっていることで、魔法師団長がこの街にいると判断し、先遣としてこの盗賊が街に忍び込んできたという。そして、魔法師団長の滞在が確認できれば、各所で放火を行う予定だったらしい。その放火の煙を狼煙代わりとして、盗賊たちが此処へ攻めてくる手筈となっているとのことだった。

 ただし、この盗賊は下っ端のようで、どういう風に攻めてくるかまでは聞かされておらず、肝心な情報は得られなかった。それでも、これだけ分かれば充分だ。

 俺たちはその情報を携え、魔法師団長の部屋まで戻ると、これからの作戦を検討することにした。


 部屋に戻ると、魔法師団長が人払いを行った。

 これによってこの部屋には、魔法師団長とバルアさん、そして俺たちだけになる。

 部屋の外には騎士が立って、この部屋への入室を制限しているはずだ。


「うむ。オルフェス殿、ネルフェア殿、ベルフェ殿もお座りください。バルア、其方もだ」


 これに倣い、全員が着席する。

 それを見届けた魔法師団長が、卓の上にこの街の図面を広げた。

 その図面を元に、魔法師団長がアゼルたちの執りそうな襲撃方法と、それらに対抗するための布陣の案を説明してくれる。それに俺たちが意見を述べ、一刻ほどの後、俺たちの執る作戦が決まった。


「うむ。これならば、どのような襲撃であっても撃退できそうじゃな」

「はい。そうですね。これなら問題ないと思います」

「うむ。では、バルアよ。これを騎士たちに説明して準備に掛かってくれるかの。エスワールには儂が説明しておくので、そちらは気にせんでも良い」

「はい。かしこまりました」


 バルアさんは魔法師団長の指示を受けて立ち上がると、足早に退室していった。

 そして、魔法師団長も立ち上がると、俺たちもその後ろについてウィアズ伯爵の元へ向かう。

 本来であればウィアズ伯爵に合意をもらってから、騎士たちに準備に取り掛からせるのだが、今は緊急事態だ。多少の手順の前後は致し方ないだろう。それに、ウィアズ伯爵が反対するとも思えない。


「分かりました。我が騎士たちにも準備を協力させましょう。それと、この部屋の方が玄関に近いですので、この部屋を指揮官室としてお使いください」

「うむ。それは助かるの。それと、バルアがすでに騎士たちに伝えに行っておるので、エスワール殿からも一言申し添えてもらえると助かるじゃ」

「はい。勿論でございます。何しろ我が街のことですので、寧ろ、ここまでしていただいて感謝しております。ティルセア、そういうことだ。至急騎士たちに伝えてくれ」

「はい。お父様、分かりました」


 騎士服を纏い同席していたティルセア様がすぐに席を立ち、騎士たちの元へ向かっていく。

 これでウィアズ伯爵の合意も取れたので、後は滞りなく準備を行い、日が沈んで街に静寂が訪れた頃合いを見計らって作戦を実行するだけだ。

 ちなみに、ウィアズ伯爵への説明の間、ティルセア様が俺に視線を向けることはなかった。流石に襲撃への具体的な対応策ともなれば、そんな余裕はなかったのか、それともすでに終わったこととして認識しているのかは分からないが、いずれにしろ、俺には喜ばしいことであった。


 あとは作戦決行まで、俺たちは此処の部屋で待つだけとなる。

 暫くすると、バルアさんとティルセア様が連れだって戻ってきた。


「魔法師団長、作戦の準備に取り掛かりました。ウィアズ伯爵には感謝いたします。ウィアズ伯爵とティルセア様のお言葉もあり、この街の騎士たちも士気を高めております」

「それは重畳。バルア殿にもご苦労を掛けるが、是非とも我が街のためご尽力くだされ」

「はい。勿論でございます」


 ここからは時間との勝負だ。あと二刻もすれば日が沈む。それまでに準備を完了させる必要がある。

 と、そんな時、異変が起きた。

 とはいっても、この街ではない別の場所でだ。


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