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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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迎撃支援の方法

「ガレリックさん、ありがとうございました」


 俺は部屋に戻るなり、魔法師団長に感謝を述べた。


「いえ、儂らとしてもティルセア嬢との模擬戦は困りますからの。お気になされずにじゃ」

「そう言ってもらえると助かります。正直なところ、人相手だとまだまだ手加減が難しくて、下手をすると腕くらい簡単に吹き飛ばしてしまうので、本当に助かりました」

「「………」」


 爽やかな笑顔で応えてくれた魔法師団長に気が緩んだのか、俺はいらぬことを言ってしまったようだ。

 おかげで、俺の言葉を聞いた魔法師団長とバルアさんは声も出さずに絶句している。


「あ、いや、今はまだというだけで、その内ちゃんと手加減ができるようにするつもりですから」

「いや、そういうことではないのじゃがな…」

「はい。そもそも普通は簡単に腕など吹き飛びません…」


 俺は魔法師団長とバルアさんの様子を見て、慌てて言葉を重ねたが、それは望まれたものではなかったようだ。

 魔法師団長とバルアさんの反応からして、恐らく俺の力について驚いたのだと思える。しかし、それを驚かれても、説明するためには事実を赤裸々に語るしかなく、今以上に彼らを驚かせてしまうだけになる。

 このため、俺は頭を搔きながら苦笑いするしかなかった。

 だが、世の中にはそんなことなど意にも留めない者がいるのだ。


「フェイル様ならばそれも仕方ありません。わたくしたちの何倍もお強いのですからね。人間のような柔らかい者が相手であれば、わたくしたちでも苦労するのに、腕程度に抑えられるだけでも素晴らしいことです」

「「………」」


 俺はネルフェアの言葉に頭を抱えた。

 俺を擁護しようとして発した言葉なのは分かるが、それでは逆効果だ。

 しかも、柔らかいって何? いや、言いたいことは分かるけど、そうじゃないんだよ。

 俺もやらかした側なので、ネルフェアを注意できないのが、非常にもどかしい。


「ふふふ。フェイル様が我らより強いのは周知の事実でしょう。その強さを今更説明したところで意味はありません。それよりも、フェイル様がティルセアを傷付けずに済んだということが理解できれば、それで良いのです」

「うむ。そうでござりますな。今はそれが尤も重要でござりましょう」

「はい。そうですね、今更です」


 ネルフェアの仕出かしをベルフェが巧みに収めてくれる。

 流石、悪魔が人心の機微を操ることに長けているというだけはある。その逆もできるようだ。

 ベルフェが言うように、人間からすれば既にベルフェたちの力ですら想像の埒外なのだ。それなのに、その上を説明されても到底理解などできないし、単に強いで終わるだけになる。


「えーっと、感謝を伝えたかっただけなんですけど、いろいろ紛らわしいことを言ってすみませんでした」

「いや、お気になさらずですじゃ。フェイル殿の事情も分かりましたでな」

「はい。少し驚きはしましたが、ベルフェ様の言う通りですので、お気になさらないでください」


 俺は最後に自分の言葉で謝った。それが礼儀だと思ったからだ。

 それに魔法師団長もバルアさんも優しい言葉を返してくれた。

 するとその時、扉を二度叩く音がして、『失礼します』という声と共に数名の騎士が入室してきた。


「護衛の交代の時間です。私たちが今から魔法師団長の護衛任務に就きますので、フェイル様、オルフェス様、ネルフェア様、ベルフェ様は隣の部屋でお休みください」


 入室して来た騎士たちは、夜の護衛を行う騎士たちだ。

 此処へ着いてすぐに隣の部屋で仮眠していたはずだが、時間通りに起きてきたようだ。

 いろいろあって、いつしかそんな時間になっていた。


「ありがとうございます。それでは、ガレリックさん、俺たちは隣の部屋で休ませてもらいますね」

「ふむ。明日もよろしく頼みますじゃ」

「はい。では、失礼します」


 俺たちは簡単な挨拶を済ませ退室した。

 隣の部屋で休む前に、まずは腹拵えだ。

 俺たちは魔法師団長の護衛をしていたので、これから遅めの晩御飯を食べる。そのために騎士舎の食堂へ向かい、館の外へ出た時に、件の令嬢と出くわした。


「先程は、不躾な視線を向けてしまい、申し訳ありませんでした」


 ティルセア様は、俺たちを見つけると、足早に俺の前まで来て謝罪の言葉を述べた。

 こうなってしまっては、返事をしないわけにはいかなくなる。


「あ、いえ、お気になさらないでください。それでは、俺たちはこれで」


 俺たちのような者にも丁寧な口調を崩さないことに、少し違和感を覚えつつも、俺は仕方なく手短に返答だけして、その場を去ろうとした。


「お待ちください。その、もしよろしければ、お話をさせていただけないでしょうか?」


 だが、ティルセア様はそんな俺を呼び止めると、話しがしたいと言い出した。

 俺としては、折角魔法師団長が回避してくれたのを無駄にしたくない。下手に話をして再び模擬戦をするとか言い出されても困るのだ。しかも、魔法師団長のいないところでなど危険過ぎる。とはいえ、無下にするのも問題がある。


「えーっと、すみません。俺たちはこれから急ぎ食事を摂って就寝しないといけませんので、日を改めてではいけませんでしょうか?」


 俺の返答にティルセア様は一瞬考える素振りをする。


「そうですね。突然すぎますね。それでは、いつならご都合がよろしいでしょうか?」

「そうですね…。襲撃があるまでは時間が取れないと思いますので、その後でしょうか」


 食い下がるティルセア様に、可能な限り即答を避ける回答を考えた末に答えた。

 ただ、返答内容は至極真面なものだ。実際に襲撃があるまではティルセア様に時間を割いている余裕はないし、時間が取れるとしてもその後になる。それに、時間が空けば彼女が忘れてくれるかもしれないという期待もある。


「分かりました。それでは、襲撃後にお願いいたします」

「はい。分かりました」


 なんとかこの場を凌げたことに、胸の中でほっと息を吐く。

 この件については、明日にでも魔法師団長に相談すればいいだろう。

 俺はそう思い、ひとまず、ティルセア様のことは頭の外に追い出して、食堂に向かった。

 そして、急ぎ食事を摂り、魔法師団長の部屋の隣の部屋まで戻ると、そのまま横になった。


『フェイル様、少しよろしいでしょうか?』

『うん? オルフェス、なんだ?』


 俺が横になった途端、オルフェスたちの姿が頭に浮かび上がったため、俺に応じるように念話を繋ぐ。

 この部屋には俺たち以外も出入りする。このため、これも誰かに話を聞かれないようにするためのオルフェスの配慮だと察せられる。


『一つお伺いしたいのですが、エスワールとの会談の際に、俺たちはガレリックの護衛だけを行うような話がありましたが、実際襲撃の際は、フェイル様はどう動かれるおつもりなんですか?』


 オルフェスの疑問は至極真っ当なものだった。

 王様からは、協力は許可されているが、俺たちが最前に立つことは止められている。

 とはいえ、ガレリックさんの護衛だけでは協力とは言い難い。


『う~ん。目立たず陰から支援できればいいんだけどな…。幻術で姿を隠して支援するとか…』

『それなら、わたくしの出番ですね!』


 俺が何か方法がないか思案しながら呟くと、ネルフェアが被せるように自己主張してきた。


『うん? ネルフェア、何か案があるのか? 魔法で支援するというは駄目なんだぞ?』


 自信満々なネルフェアに、俺はこいつが言い出しそうな案を先に潰しておく。

 ネルフェアも馬鹿ではないのだが、どこか周りへの配慮が欠けていることが多いのだ。


『はい。大丈夫です! わたくしが襲撃者の生命力吸い取れば、それで終わりです!』


 ネルフェアの回答に、疑問符で俺の頭の中が埋め尽くされた。

 内容自体は分かるのだが、それがどういう風に陰ながらの支援になるのかが分からない。

 こういう時は、オルフェス先生の出番だ。


『なぁ、オルフェス、どういうことだ?』

『ネルフェアは、視界に収めた者たちの生命力を奪えるんですよ。俺たちも対象が個ならできるんですけどね。ネルフェアは一斉に奪うことができるんです』

『生命力を奪ったら、どうなるんだ?』

『最悪、死にますね。ただ、加減して奪えば弱体化させられます』


 なんと、オルフェスから聞かされたネルフェアの能力がとんでもないものだった。


『ちなみに弱体化って、どうなるんだ? 魔力を奪うわけじゃないんだよな?』


 俺には生命力と魔力の違いが今一つ分かっていないので、弱体化と言われてもどういう状態になるのかが理解できない。これが魔力を奪うと言われれば、簡単なのだが。


『はい。基礎能力は魔力量で決まりますし、魔力を消費すれば弱体化します。しかし、生命力はもっと根幹の部分ですね。生物が動くために必要な力だと思ってもらえれば良いかと思います。ですので、生命力が無くなれば、魔力が幾ら残っていても関係なく弱体化します』


 なるほど。俺は生命力と魔力の違いを聞かされて納得した。

 これで俺が月桃を食べた時に力が湧いてきたのも、シリエさんを助ける時にネルフェアがしていたことも理解できた。


『でも、それって、集団でも大丈夫なのか? その、対象者を絞ったり、対象者毎に調整したりできるのか?』

『はい。それなら大丈夫です! 個々の生命力に合わせて奪えますので!』


 俺の質問はオルフェスへ向けたものだったのだが、ネルフェアがその回答を奪ってきた。

 俺はネルフェアの回答を聞いて、改めてネルフェアの能力に驚愕する。

 ネルフェアが生命力を操れるとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。

 相手に触れずに視界に収めた者を弱体化させられるなんて、最早戦う必要すらなくなる。しかも、殺すも生かすも自由自在となれば、敵なしと言っても過言じゃなくなる。ただ、こんな能力が無制限に使えるとも思えない。


『それって、制限とかないのか?』

『ありますよ。それなりに自分より弱い者にしか効果がありません。例えばそうですね…、ガロアやフィリエ、アイネラなら抵抗してくるでしょうね。弱らせてからなら話は別ですが、元気な間は無理でしょう』


 都合が悪い質問なのか、ネルフェアが口を閉じて、再びオルフェスが答えてきた。

 まぁ、そうだよね。でないと今頃ネルフェアがオルフェスたちを従えているはずだ。

 それでも、充分に凄い能力であることに変わりはないけど。


『分かった。ありがとう。ネルフェアの力をどう活かすかは、明日にでもガレリックさんに相談してみるよ』

『ええ、そうですね。ガレリックの傍から離れられないと意味がないですからね』

『ああ、そうだな。それとネルフェア、その時は頼むな』

『はい! お任せください!』


 俺たちが支援する方法も見当たったことに安堵する。最悪、幻術で姿を隠してオルフェスたちに支援してもらうことも考えていたが、これなら目立つこともなく、容易に支援できそうだ。

 明日、魔法師団長にティルセア様と、この支援について話せば、大方の俺たちの動き方が決まる。これで、俺たちも憂いなく襲撃を迎え撃てる。俺は明日話す内容を整理しながら眠りについた。

 そして、翌日、魔法師団長にこのことを話して、俺たちの動き方の方針を決めた。


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