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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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要注意人物

「うむ。それと、これは杞憂かもしれませんが、エスワールには娘がおるのですが、そのティルセア嬢とは可能な限り目を合わせずに接触は控えてくだされ」

「それは、どうしてですか?」


 俺は、貴族のご令嬢を避けるようなことをして良いのかという不安もあり、尋ねてみた。


「うむ。それはですな―――」


 魔法師団長から教えられたご令嬢の情報は、俺としても全力で避けたいものだった。

 というのも、このご令嬢、令嬢なのに剣が好きで、一人娘なのに騎士団への入団を希望しているらしい。このため、腕が立ちそうな相手を見掛けると、すぐに訓練だと称して模擬戦を申し込む悪癖があるそうだ。しかも、伯爵の令嬢ということで、断ることもできず、かといって怪我をさせることもできない。にも関わらず、手を抜くと本気を出すまで挑み続けるため、非常に面倒臭いことになると言われれば、誰だって関わりるのを避けたくなる。

 しかも、この令嬢は、将来は自分より強く慈悲深い正義感に溢れた人物と結婚すると豪語していて、見初められると将来にまで影響するという、実に危険な人物なのだそうだ。

 その点、俺たちの場合、見初められる心配はないが、それでも永遠に訓練に付き合わされるのは勘弁願いたい。

 俺がそう思って聞いていると、周りの全員から俺に視線が集まるのを感じ、全員の顔を見回した。


「うん? 俺の顔に何か付いてますか?」

「ふむ。フェイル殿には自覚がござらぬようじゃが、ティルセア嬢に見初められぬようにご注意くだされ」

「そうですね。非常に厄介な女狐のようなので、排除の仕方を考えなくてはなりませんね」


 俺がみんなの視線を不思議に思い尋ねてみると、魔法師団長から見当違いな答えが返ってきた。

 それに追随するかのようにネルフェアが不穏なことを呟いている。


「いや、俺は理不尽が嫌いなだけで、慈悲深くも正義感も強くないですからね。それに剣が好きとか強くなりたいとかもないですし、楽しく生きたいだけですから、見初められることはないですよ。大体、身分も釣り合わないじゃないですか。それと、ネルフェア。不穏な発言はやめなさい! そのティルセア様は俺も関わりたくはないけど、お前の言い分だと、俺は将来結婚できないことになるだろ」

「はい。分かりました。では、警戒しておくだけにします」


 魔法師団長を含め俺のことをまるで理解していなそうな面々に向かって、説得力のある言葉で説明する。

 此処にいる者たちは、どうも正義と理不尽が嫌いなことを混同しているように思える。この二つは似ているが全く違うものだ。それをいい大人に向かって言って聞かせるのもどうかと思うので、細かい説明までは省いたが、これでみんなも納得するだろう。

 それに、そもそも慈悲とは目下の者に抱く感情で、俺たちのような孤児の底辺の民衆が抱く感情とは程遠い。

 そう思っていたのだが、何故かこの場にいる誰しもが首を横に振り、哀れな者を見る目で俺のことを見てきた。それを見て俺は溜息をついてしまう。

 はぁ~、理解してくれたのはネルフェアだけのようだ。真っ先にオルフェスやベルフェが理解してくれると思っていたのに、こいつらにはまだ理解されていなかったようで、少し悲しくなる。


「ネルフェアの言う通り、警戒だけはしておきます」

「ふむ。そうですな。それが一番確実でしょうからの」


 取り合えず警戒することを示し合わせた後も、細かい摺合せを行いながら襲撃に備える段取りを組んでいると、部屋の扉が数度叩かれて侍女が晩餐の準備が整ったことを告げに来た。勿論、扉の横に立っているオルフェスが、逸早く気づいて教えてくれたので、俺とネルフェアは、魔法師団長の後ろに移動し、護衛任務を続けていたかのように振舞っている。


「晩餐の準備が整いましたので、ご案内いたします」

「うむ。よろしく頼みますじゃ」


 そうして俺たちは晩餐の会場まで移動すると、扉の横に控えて晩餐を見守ることになった。

 とはいえ、領主館で行われている晩餐を襲撃してくる者など皆無だ。外には騎士が警備体制を強化している上に、街中も厳戒態勢が敷かれているので、暴漢が現れたとしても此処まで辿り着くことなどできない。

 ただ、唯一警戒するべき対象があるとすれば、ティルセア様だろう。ちょくちょく彼女の視線を感じる。事前に魔法師団長に教えておいてもらって良かった。ここまであからさまに視線を向けられると、知らなければ絶対に目を合わせていた自信がある。しかもこの令嬢、ドレスじゃなくて騎士服で晩餐に来るほどの筋金入りときたもんだ。

 ていうか、見てくるな! 見るならオルフェスたちを見てくれ! いや、それより魔法師団長たちの会話に参加しろ!

 ネルフェアなんて完全に彼女の方に敵意を剝き出しで見ているのに、何故か彼女は俺の方にしか視線を向けてこない。これもきっと俺だけが剣を帯刀している所為だと思うが、本当に勘弁してほしい。


「それでは、そろそろ別室に移動して、寛ぎながらお話など如何でございましょうか?」

「うむ。では、そうさせてもらおう」


 よし。これでこの令嬢から離れられる。俺にも、そう思った時期がありました。

 魔法師団長が席から立ち上がり、ウィアズ伯爵について移動し始めたのだが、どういうわけか、このご令嬢まで一緒に移動してきた。

 なんで? 会話に混ざらないならお前いらんだろ?

 俺は素直な感想をぐっと飲み込んで、魔法師団長の後ろについて、応接室と思われる場所まで移動した。

 そして、魔法師団長とウィアズ伯爵が向かい合わせに席に着くと、伯爵の隣にご令嬢が腰掛けた。

 俺とネルフェアは魔法師団長の後ろに立っているので、ご令嬢が真正面に陣取ったことになる。

 俺は横目で扉の横に立っているオルフェスとベルフェに恨みがましく視線を向ける。だが、今更変われるわけでもなく、俺はひたすら真正面に視線を固定した。


「それで、ガレリック様からいただいた書状に書かれていることは、本当なのでございましょうか?」

「うむ。間違いない。バルア、あれを」

「はい。こちらをどうぞ」


 着席するなり、ウィアズ伯爵が書状の真偽を問い掛けてきた。

 これに対し、魔法師団長がバルアさんに指示を出し、バルアさんが抱えていた文箱を受け取った。

 魔法師団長はそれを開封すると、中から数枚の紙束を取り出して、ウィアズ伯爵に差し出す。ウィアズ伯爵もそれを受け取ると、それを真剣な眼差しで見始めた。


「それは、国王陛下が発行された手配書じゃ」

「なるほど。間違いないようでございますね」


 ウィアズ伯爵は手配書を確認すると、眉間に皺を寄せて、険しい顔をしている。


「うむ。それで、明日それをこの街の住民と冒険者ギルドに通告してほしいのじゃ」

「はい。分かりました。それで、彼らが盗賊たちと行動を共にしているというこですが、いつ頃、此処を襲撃してくるか、お判りになりますでしょうか?」


 ウィアズ伯爵は魔法師団長の依頼を二つ返事で承諾した。

 ただし、ウィアズ伯爵の気になる点は、アゼルたちの襲撃時期のようだ。

 この質問に魔法師団長は緩く首を振って、口を開いた。


「残念ながら、儂にも分からぬ。明日かもしれぬし、数日後かもしれぬ。ただ、はっきり言えることは、この街を襲撃してくるということだけじゃ」

「それは確かな情報なのでしょうか?」

「情報の入手元は言えぬが、確かな情報ということだけは間違いない」

「そうですか…、分かりました」


 どうやら魔法師団長は、襲撃の原因が俺たちだということは伏せておくようだ。俺たちが変装しているとはいえ、オルフェスたちの噂はこの街にも届いていることを考えたら、その方が無難だと俺にも理解できる。


「うむ。それで、儂と共に来た騎士たちをこの街の防衛に就かせたいのだが、問題ないかの?」

「はい。それは問題ございません。寧ろ、私共の方こそ助かるくらいです」

「うむ。それではバルア。この後、騎士たちにもこの街の巡回と警戒を行うよう申し伝えよ」

「はい。かしこまりました」


 これで話は纏まったようだ。事前に魔法師団長が書状に認めてくれたおかげで手短に済んだ。


「うむ。それでは儂らは旅の疲れを取らせてもらうとしようかの」


 魔法師団長がこの場を退室しようと腰を上げ掛けた時、例のご令嬢が声を発した。


「ガレリック様。お待ちくださいませ」

「うむ。ティルセア嬢、何ですかの?」

「はい。不躾なご質問かと存じますが、ガレリック様の後ろに控える冒険者の方は、お強いのでございましょうか?」


 うん。このお嬢様、馬鹿だわ。脳味噌まで筋肉でむきむきになっていらっしゃる。

 この応接室に来てから、視界の端に映るこのお嬢様ときたら、俺が真正面に視線を固定していたように、このお嬢様も俺に視線を固定していた。

 その挙句、最後にこの質問ですよ。本当に馬鹿以外の何者でもない。


「こら、ティルセア。このような時に、そのような話をするものではない!」

「お父様。このような時だから、でございます」

「ふむ。ティルセア嬢、其方の質問じゃが、彼らが強いことは儂が保証しようぞ。ただし、模擬戦などは禁止させてもらおうかの。エスワール殿の言う通りいつ襲撃があるかも分からぬ状況で、万が一でも怪我をされては困るからの」


 ウィアズ伯爵が諫めても、ティルセア様は止まることなく、更に勢い込んだ。それに、すかさず魔法師団長が先回りをして待ったを掛ける。

 これで収まるかと思ったのだが、ティルセア様が止まることはなかった。


「しかし、実力も分からぬ者に背中は預けられません!」


 確かにティルセア様の言う通り、連携して戦うのなら味方の実力は知っておきたいし、知らなければ連携などできない。ただし、それは連携を行うという前提があってのことだ。


「ふふふ。私たちはガレリック様の護衛であって、騎士ではありません。ですので、騎士と連携して戦うことはございませんので、背中を預けていただく必要もございません」

「なっ!」


 俺が言おうとしたことをベルフェが先に口にした。

 流石に冒険者に言い返されるとは思わなかったのか、ティルセア様は正論をぶつけられて絶句している。

 ベルフェの物言いは辛辣だが、それだけに端的に確信を突いていて、反論の余地が見当たらない。

 それにしても、ベルフェが魔法師団長に敬称を付けていることに感心する。


「うむ。ベルフェの言う通りじゃな。彼らは儂の護衛じゃでな。儂が彼らの実力を知っておれば問題なかろう」

「そうでございますね。ベルフェたちの実力は我らも存じておりますので、魔法師団長の護衛という任務において、我らが彼らと連携することには何の問題もございません」

「うむ。ティルセア嬢、そういうことじゃ。まだ何かあるかの?」


 魔法師団長がすかさずベルフェの言葉を肯定し、バルアさんがそれを補足してくれた。

 これを止めとして、魔法師団長がティルセア様に最後の駄目押しをする。

 正直なところ、俺たちの真の目的が国外追放ということを考えると、模擬戦とはいえ、俺たちの実力が見られるのは避けたいのだ。ヘイズさんが命を賭して守ってくれたものを、こんな令嬢の我儘で露見させるわけにはいかない。


「いえ、それであれば何もございません」


 ティルセア様は肩を落として、魔法師団長の言葉を受け入れた。

 どうやら単なる我儘娘ということでもなく、我慢することもできるようだ。

 本来なら、冒険者である俺たちが伯爵令嬢に意見するなど許されない。不敬罪で処罰されてもおかしくないところだ。今は魔法師団長という盾があるが、それでも常時なら、彼女が声高に喚けば、重罪とはならなくても、何らかの処罰を加えることは可能だろう。

 それをせずに受け入れたということは、純粋に強さに憧れたゆえの行動なのだと理解できる。

 まぁ、それはそれで困ったものではあるのだが。


「ガレリック様、ティルセアが大変失礼なことをいたしました。私からも謝罪させていただきます」

「うむ。ティルセア嬢も襲撃に備えようと思うてのことじゃろう。気にせずとも良い」

「そう言っていただけると助かります」


 ウィアズ伯爵は感謝の言葉を述べると、今までとは異なり表情を引き締めた。


「それにしても、我らに意見を述べるとは豪胆な者たちですね」


 ウィアズ伯爵がベルフェに向かって鋭い視線を向けている。

 ウィアズ伯爵の謝罪は前振りだったのだろう。魔法師団長の許しを先に得て、その後、自分の意見を述べる。なんとも巧妙な言葉運びに感心する。


「うむ。だからこそ儂も命を預けられるのじゃ。その辺を理解して、彼らの無礼には目を瞑ってくれると、儂としても助かるのじゃがな」

「はい。それは勿論、理解してでございます」


 だが、そこは百戦錬磨の魔法師団長。ウィアズ伯爵の上を行っていた。

 貴族を冒険者が護衛する場合、冒険者が他の貴族の言葉に従うようでは、依頼主の貴族を守ることなど不可能だ。

 こう言われては、流石の伯爵も何も言えなくなる。


「うむ。感謝する。それでは、明日の件、頼んだぞ」

「はい。早急に周知するようにいたします」


 これで、一先ずこの街での下準備も完了したと考えて大丈夫だろう。

 明日街中に周知されれば、この街において、アゼルに味方する者はいなくなる。

 ましてや、アゼルたちがどのように攻めてくるかも分かっていない現状で、内に敵がいるようでは困る。

 後は、アゼルたち襲撃に備えて警戒を怠らずに備えればいい。

 その後も暫くの間、場を和ませるための歓談が続き、笑い声が響きだして落ち着いた頃を見計らい、俺たちは部屋に戻った。



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