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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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襲撃への備え

 ヘイズさんが襲撃された翌日、俺は眠い目を擦りながら目を覚ました。

 昨晩は、オルフェスから夜中に連絡があり、ボエルさんとの通話を試してみたり、帰還したオルフェスから報告を受けたり、新たに通信の魔晶石を造ったりしていたため、睡眠時間が少ない。

 ただ、オルフェスたちは俺のことを心配して遠慮していたのだが、俺も気が立っていて眠れそうになかったため、こちらから申し出たのだ。そうでもしないと、様々なことが頭の中を駆け巡って気が滅入りそうだったので、これで良かったと思っている。

 ちなみに、オルフェスからの報告によると、ボエルさんたちは途中の街でアゼルを見たと言う情報を得て、かなりの強行軍をとっていたようで、あと一日もすればヘイズさんたちに追いつけたみたいだ。このこともあり、かなり悔しがっていたようだ。


「フェイル様。もう少し眠られては如何ですか?」

「いや。早く街に到着しないといけないんだ。そんな我儘は言ってられないよ」


 目覚めて起き上がった俺を心配して、ネルフェアが声を掛けてきた。

 正直眠いが、だからといって眠れるわけでもないので、それなら少しでも前に進んだ方がいい。

 俺は立ち上がって早々と身支度を済ませると、馬車に乗り込んだ。


「フェイル殿、寝不足のようですが、大丈夫ですかな?」


 馬車の中で向かいに座った魔法師団長までもが心配して声を掛けてくれる。


「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です」

「左様ですか。しかし、無理はなされぬようにしてくだされ。いざという時に力が出せぬようでは困りますからの」

「はい。馬車の中で寝られそうなら寝させてもらいます」

「うむ。そうしてくだされ」


 魔法師団長からは睡眠不足の気配は感じられない。昨晩も騎士たちに説明した後、早々に眠っていたので、睡眠が足りてないということはなさそうだ。

 これも経験の差というやつだろう。戦場では仲間が殺されても寝られる時に寝て体調を整えないと、次は自分が殺される可能性が上がる。こうした経験が俺には圧倒的に足りていない。

 それでも若さゆえか、頭はしっかりと働いている。

 俺は忘れないうちにと、鞄からあるものを取り出した。


「そういえば、これをガレリックさんにも渡しておきますね。基本的に俺たちと一緒にいるので使うことはないかと思いますが、念のため持っておいてください」


 俺は昨晩のうちに造っておいた通信の魔晶石を魔法師団長に差し出した。

 魔法師団長はそれを受け取ると、興味深げに眺めている。

 よく考えると、通信の魔晶石を魔法師団長がしっかりと見るのは初めてのことだ。前回は直接ヘイズさんに渡したし、昨日は魔法師団長が見る間もなく回収し、ボエルさんに持って行ってもらっている。


「これが通信の魔晶石でござりますか。魔法陣が積層型になっておるのですな。これでは中の魔法陣が分からぬゆえ、再現するのは無理そうですじゃ」


 流石、魔法を専門に扱う部署の団長というだけのことはある。中の魔法陣を見て、再現の難しさに言及している。

 実際には積層型ではなく、単なる隠蔽のための魔法陣が被せてあるだけなのだが、それで再現が困難になっているのなら、隠蔽の効果があったということだ。


「そうですね。再現が難しい方が盗難があっても安心ですからね」

「うむ。そうでござりますな。いや、助かりますじゃ」


 俺としては再現されること自体は困らないのだが、それによって再現した者の命が狙われるのは勘弁願いたい。

 俺が造った物が原因で不幸な事故が起こると、俺に責任がないと言われても気にしてしまう。

 昨日、王様からも言われたが、もっと割り切って考えるべきなのだとは理解しているのだが、簡単にはいかないものだ。


「それで、少し試してみたいのですが、よろしいですかな?」

「ええ、大丈夫ですよ。ただ、魔力をそれなりに消費するようなので、一言だけにした方が良いでしょうね」


 俺はヘイズさんにした説明と同じことを魔法師団長に説明した。

 使い方は至って簡単だ。魔晶石に魔力を込めて、頭に浮かんだ魔法陣に意識を向ければ通話できる。

 基本的にこれで連絡が来る場合は緊急事態なので、俺が通話を拒否することもない。

 この説明を受けて、早速魔法師団長が魔晶石に魔力を込め始めた。すると程なくして、俺の頭の中に魔法陣が浮かび上がった。


『フェイル殿、聞こえてますかの?』

『はい。聞こえてます。じゃあ、切りますね』


 俺たちは一言だけ会話すると、手早く通話を切った。


「うむ。確かに相当の魔力を消費しますの。これは儂でなければ半分程度は持っていかれそうですじゃ」

「ああ、ヘイズさんもそう仰ってましたね。ガレリックさんはどれぐらい消費したんですか?」

「うむ。五分の一から四分の一というところですじゃ」


 思った以上に消費していなかった。これも魔法師団たる所以だろうか。

 魔法師団長の魔力はヘイズさんの倍以上はあるみたいだ。

 これなら使い物になるかもしれない。


「ふむ。ただ、ヘイズたちにはまだ剣がありますが、儂は魔法のみですでな。魔力は多くとも、少々使いどころは選ばんといけませんの」


 ああ、駄目でした。そりゃ、そうか。ヘイズさんは騎士だけど、ガレリックさんは魔法師だ。魔力が尽きれば応戦の手段が完全に失われる。ただ、それでも魔力量が基礎能力に直結している以上、ヘイズさんに剣があるといっても、ガレリックさんの方が幾分優位な気はするが。


「そうですね。ただ、だからといって事後に連絡があっても助けられないので、事前に連絡をもらえる方が良いと思います」


 これは別にヘイズさんを責めているわけではない。それを言うなら、寧ろ責められるべきは俺の方だ。ヘイズさんたちの進路の地形を把握していなかった俺に責がある。


「ふむ。そうですな。時と次第によっては、事後でも証拠を残せるならば、そういう判断をすることもござりましょうが、命は一つですからの。肝に銘じておきましょうぞ」

「はい。そうしてください」


 魔法師団長は色好い返事をくれたが、ヘイズさんも同じようなことを言っていたことを思い出し、過度な期待はできないと思えた。魔法師団長が言ったように状況によって判断は異なる。そして、それが彼らの職務だと考えると、彼らの選択を、俺がとやかく言うことが躊躇われて、多くを口にすることができなかった。

 俺がそんなもやもやした気持ちを飲み込んだところで、馬車が走り出した。

 馬車はいつもより速度を上げていて、振動が大きく、それを浮遊草の敷物が適度に軽減してくれる。この振動が心地好く、いつしか俺を眠りへと誘った。

 そして、俺が目覚めたのは夕方近くになってからだった。


「フェイル様。お目覚めになられましたか」

「ああ、ネルフェア、すまない。眠っていたようだ」

「いえ、お疲れでしょうから、お気になさらくてもよろしいかと思います」


 俺が目覚めると、ネルフェアが横で優しそうに労ってくれる。

 寝不足でも大丈夫だと思っていたが、それなりに疲れてはいたようだ。


「ガレリックさん、すみませんでした」

「いえいえ。ネルフェア殿の言う通りですじゃ。昨日はあれだけ飛び回られたのですじゃ、疲れていて当然でござりましょう。寧ろ、寝られて良かったですじゃ」


 魔法師団長も優しく労ってくれる。

 俺としては、昨日俺が何かをしたという記憶はない。力を使ったのも動いたのも、オルフェスやベルフェ、それにネルフェアたちだ。それなのにみんなに優しくされると思うわけがなくなってくる。

 ただ、それでも労いには感謝で答えるべきだろう。


「ありがとうございます。何もしていないはずなんですけどね。まだまだ鍛え方が足りないようです」

「ほっほっほっ。そのお考えは称賛に値しますが、ご無理はなさらぬようにですじゃ」

「はい、ありがとうございます。程々に頑張ります」


 俺の目的は楽しく生きることだ。そのため、過度に無理をするつもりはないが、それでも目的を成し遂げるためには、それなりの無理は必要だと思っている。

 うん。少しばかり気合を入れ直そう。俺は最近、オルフェスたちやフィリエさんたちに頼ってばかりで、気が緩み、身体が訛っているのだと思う。もっと、自分の力で何かを為せるように頑張らないと。

 俺は早速とばかりに、鞄の中から本を取り出して開いた。馬車の中で身体の鍛錬はできないので、まずは知識からだ。

 こうして、恰も一昨日以前の襲撃前に戻ったかのような時間が馬車の中に訪れた。


 この後、馬車はいつもより速度を上げて、いつもより少し長めに走った末、野営地に天幕が張られた。

 俺たちはその天幕に移動し、簡単な携帯食を摂ってから、王様の書斎へ転移した。

 最初、俺は行かなくても良いかと思ったのだが、騎士団長に通信の魔晶石を渡さなければならないことを思い出して、俺も一緒に同行することにした。きっと、騎士団長も通信を試してみたいだろうと思ってのことだ。

 このため、結局留守番は、テオたち灰色狼だけになっている。


「ようこそいらっしゃいました」


 俺たちが転移すると、昨日はいなかった給仕服を着た女性が、丁寧なお辞儀と共に俺たちを出迎えてくれた。

 俺もそれに倣い、できるだけ丁寧にお辞儀で返す。

「その女性は、シリエの母親です。彼女がどうしてもフェイル殿にお礼が言いたいと申すものでしてな。今日は此処にいることを許しました」


 円卓からこちらへ移動しながら王様が、出迎えてくれた給仕の女性を紹介してくれる。

 この女性は最初にこの部屋を訪れた時にもいたが、そうか、この女性がシリエさんの母親だったのか。そういう繋がりがあるとは思わなかった。


「シリエの母のセリエと申します。この度は娘をお助けいただき、ありがとうございます」

「いえ、シリエさんを助けたのは、オルフェスとネルフェアですので、感謝ならそちらにお願いします」

「はい。それは国王陛下よりお伺いしております。オルフェス様、ネルフェア様、ありがとうございました。そして、フェイル様もでございます」


 セリエさんに感謝されたが、俺は何もしていないので、辞退の意味も込めてオルフェスとネルフェアに話を振る。

 それに応えるようにセリアさんがオルフェスたちに感謝を告げたが、最後に俺もだと追加してきた。

 う~ん。こういうことを受け入れるから、周りも俺も勘違いが促進するんだろうな。

 ただ、執拗に辞退すると話がややこしくなるので、素直に受け取っておくしかないのだが。

 無駄な抵抗とは分かっているが、俺は無言で微笑んで頷きで返しておくに留めておいた。


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