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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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全滅と生存者

『ネルフェア、付いてこれてるか?』

『はい。問題ございません』

『そうか。それならそのまま付いてきてくれ』

『はい。分かりました』


 念のため、ネルフェアにも念話で確認をしておく。

 視認もできないし、上空では会話もできないので、逸れても困る。


 俺たちが転移してから一刻以上探しているが、ヘイズさんたちの姿を見つけることができなかった。

 ヘイズさんの通信からそれ程時間をおかずに転移してきたはずだが、場所が違ったのだろうか?

 地図を頼りに飛ぶと実際の距離と異なるので、オルフェス頼みだったが、それでも難しかったのかもしれない。

 高度を下げて、丁寧に探してみても見当たらないので、もう一度、高度を上げてみるしかないか。

 俺がそんなことを考え出した時、ネルフェアの姿が俺の頭に浮かび上がった。


『ネルフェア、どうした?』

『此処から西にもう一本、道が見えます』


 俺はそれを聞いて、オルフェスにも念話をつないで問い掛ける。

 オルフェスは俺と一緒にいるので、念話で話す必要はないが、ネルフェアの言葉を俺が仲介している時間も惜しい。


『オルフェス、ネルフェアがもう一本道を見つけたようだが、ネルフェアがどこにいるか分かるか?』

『ええ、ここの上空にいますね』


 ネルフェアは俺の考えを先回りして、上空から探っていたようだ。


『じゃあ、ネルフェアのところまで行って、その道を確認してくれ』

『分かりました』

『ネルフェア、今から行くから、そこで待っててくれ』

『分かりました』


 俺が指示を出し、ネルフェアのいる高度まで上昇すると、そこから西側にもう一本道があるのが見えた。

 どうもその道は、主要な街道から外れており、猟師などが森を迂回するために使っていそうな細い道だった。


『オルフェス、あの道って、俺たちが辿ってきた街道に分岐点がなかったか?』

『ええ、小さな道がありましたね』

『そうだよな。じゃあ、その分岐点まで戻って、あの道を探ってくれ』

『はい。分かりました。ネルフェア、付いてきてくれ』

『ええ、任せなさい』


 こうして俺たちが、もう一本の道を探り始めて間もなく、ヘイズさんたちを見つけることができた。

 しかし、俺が見つけた時にはすでに戦闘は終わっていて、目に入ったのは、横たわった騎士の皆さんたちだった。それ以外にも、騎士じゃない見知らぬ者たちも転がっているが、恐らくこいつらは盗賊か何かだろう。

 俺は変わり果てたヘイズさんたちを見て、悔しさと怒りが込み上げてくるのを感じる。


「オルフェス、この辺りにアゼルたちの気配はするか?」


 俺たちは見える範囲に人の気配がないことを確認してから幻術を解いて、ヘイズさんたちの亡骸の前にいる。

 幻術で見えないままヘイズさんたちに対峙するのが申し訳なく思えたからだ。


「いえ、気配はありませんね。ヘイズたちの様子からすると、戦闘から数刻経っていると思いますので、すでにこの辺りにはいないかもしれません」

「数刻ってどういうことだ? 俺がヘイズさんから通信を受けたのは二刻くらい前だぞ」

「分かりませんが、恐らく、アゼルたちがいなくなってから、最後の力を振り絞って通話してきたんじゃないでしょうか?」


 俺はオルフェスの言葉を聞いて、ヘイズさんが通信の魔晶石を試した際に言っていた『使い時も考慮した方が良いかもしれません』という言葉を思い出した。

 彼は、魔力を温存するために、アゼルたちと遭遇した時点では通信の魔晶石を使わなかったのだろうか。それとも、アゼルに通信の魔晶石を知られないためだったのだろうか。

 俺は、何故もっと早くに通信の魔晶石を使ってくれなかったのか、もっと強めに言っておくべきだったのか、そんな今はどうしようもない思考が、ぐるぐると俺の頭の中を駆け巡る。

 とはいえ、すでに通信があってから二刻程度経っている。先に連絡がもらえていたとしても間に合ったかは分からない。もっと事前に経路を調べておくべきだった。そんなことが浮かんでは消える。

 こうなれば、今からアゼルたちを探し出して報復するか。そんな衝動に駆られる。


「フェイル様、一人生きています」


 俺が取り留めのない思考に沈んでいると、ネルフェアの声がそれを遮った。

 俺はその声に慌ててオルフェスを伴いネルフェアのところに駆け寄った。


「確かにまだ生きてますね」


 オルフェスはネルフェアの元まで行くと、屈んで目の前に倒れている人に向かって丁寧に手を翳した。

 俺の目の前には、シリエさんがうつ伏せに倒れており、その上にポルグさんが折り重なるにして倒れている姿が写っている。


「ポルグさんか? それともシリエさん、どっちだ? 両方か?」

「シリエですね。まだ魂が繋ぎ留められてますが、危険な状態です。ネルフェア、彼女の生命力が尽きないように維持してくれ。俺は魂を繋ぎ留める」

「ええ、任せなさい」


 オルフェスは俺の質問に答えると、覆いかぶさっているポルグさんを丁寧に抱き上げて横に寝かせた。

 それによって、シリエさんの背中に隠されていた大きな斬り傷が露になった。

 オルフェスはそれを確認すると、ネルフェアに指示を出して、自らもシリエさんの背中に手を当てる。


「フェイル様、フィリエを呼んでください」

「え? フィリエさんを? どうしてだ?」

「あいつは、樹木の精なので、薬草と治癒に精通しています。それにあいつなら、フェイルさんの傍に顕現できます」

「ああ、分かった」


 俺はオルフェスの指示で、フィリエさんに念話を繋いで呼び出した。


『フィリエさん、今すぐ俺の元まで来てください』

『はい。かしこまりました』


 俺は、フィリエさんの事情も確認せずに、半ば強引にすぐに来てくれるように彼女に告げる。

 フィリエさんも事情を聴かずに応じてくれたが、彼女にも用事があるはずだ。それは後でちゃんと謝って埋め合わせしたいと思う。だが、今は一刻を争うシリエさんの命を優先したい。


「フェイル様、お待たせいたしました」


 フィリエさんは俺の呼び掛けに応じて、俺の前に跪いた状態で、すぐに姿を現した。

 フィリエさんは幻術で別人の姿をしている俺を見て、わずかに目を見開いたが、すぐに俺だと認識すると、再び頭を垂れた。

 この迅速な対応に感謝の気持ちが込み上げてくる。だが、今はそれどころではない。


「ありがとうございます。急で悪いですが、オルフェスの指示に従ってください」

「フィリエ、すぐにこちらに来て、この女の傷の治療を頼む」


 俺がフィリエさんへの感謝も程々にし、オルフェスの指示に従うようにお願いをすると、オルフェスもそれを受けて、フィリエさんを呼び付けた。

 フィリエさんは、オルフェスの声の方に視線を向けると、オルフェスの前に横たわっているシリエさんを見て、再び俺の方に向き直った。


「承りました。その前に、フェイル様。先日お渡しした傷薬はお持ちでしょうか?」

「ええ、ありますよ」


 俺はフィリエさんからもらった傷薬の瓶を鞄から出して、フィリエさんに差し出した。

 この状況で傷薬を使うとすれば、シリエさんの治療に関してだと容易に察しがつく。


「ありがとうございます。それでは、御前を失礼いたします」


 フィリエさんは俺から傷薬を受け取ると、急ぎ足でオルフェスのところへ向かっていった。

 残念ながら、俺にはシリエさんを治療する知識もなければ力もなく、誰かに頼むことしかできない。

 こういうところが、俺が自分を偉いと思えない所以でもある。オルフェスたちは、王たる知識も力もあり、それに見合った経験や判断力もある。それが俺には全くないのだ。周りに持ち上げられてばかりの自分が歯痒い。

 ただ、落ち込んでばかりもいられない。俺にもできることはあるのだ。


『ベルフェか。そっちはどうだ? こっちは―――』


 オルフェス、ネルフェア、フィリエさんに、シリエさんの治療を託し、此処で何もすることがない俺は、意識を切り替えると、彼らから少し離れた場所に移動しベルフェに念を繋いだ。

 そして、こちらの状況を伝える。と言っても、ベルフェにではなく、魔法師団長に伝えてもらうためだが。

 ヘイズさんの部隊が街道から外れた迂回路で全滅したいたこと、生存者はシリエさん一人で現在治療しており危篤な状態であることなどを簡潔に伝えていく。


『分かりました。しばらくお待ちください』


 ベルフェはそう言うと、誰かと会話し始めた。

 思念でつながっているので、ベルフェの声は聞こえるのだが、相手の声は聞こえない。

 それでも、ベルフェが話している相手は魔法師団長だと理解できる。あと、バルアさんもいるだろうか。


『フェイル様。ガレリックからの伝言ですが、私とガレリックは先に王都の王の書斎へ転移して待っているので、シリエの治療が済み次第、王の書斎へ彼女を連れて転移して欲しい、とのことですが、如何なさいますか?』


 如何もくそもない。シリエさんを助けるにはそれが一番だと俺にも分かる。それに、彼女は大切な証人でもあるので、安全に保護したいというのもあるだろう。


『そっちはバルアさんとテオたちだけになるけど、大丈夫そうか?』

『バルアはテオたちと話せるようになっておりますし、テオたちは私たちと念話ができます。それに私たちが戻るまで此処を動かないよう指示しましたので、いざという時は戻ることも可能です』


 テオたちなら何かあったら即座に念話で連絡してくるだろう。場所を移動していないなら、連絡があってからでもすぐに駆け付けられる。


『そうか、それなら問題なさそうだな。分かった。じゃあ、ヘイズさんとポルグさんの亡骸だけは一緒に連れていくけど、他に何かあるか?』


 ベルフェが再び俺の言葉を魔法師団長に伝えて確認を取っている。

 繋がりがある者としか念話ができないのは意外と不便だ。このために通話の魔晶石があるのだが、それも魔力の問題や機密情報の関係から、使いどころが制限されてしまうと、今回のことのようになってしまう。

 それも仕方ないとは思うが、それでもこういう点まで考慮して、もっと対策を練っておくべきだった。


『問題ないとのことでございます』

『分かった。それじゃあ、王様の書斎で待っていてくれ。俺たちも応急処置ができたら、そちらに向かうから』

『分かりました。それでは、お待ちしております』


 俺が念話を切ると、フィリエさんが俺を呼びに来た。


「フェイル様。応急処置は完了いたしました。これをお返しさせていただきます。本当は使った分を補充したのですが、ここでは難しいため、次に森へお越しの際に補充させていただきます」


 フィリエさんが俺に渡してきたものは、傷薬の入った瓶だ。

 中身を見ると半分以上が減っていた。といっても、それでも充分な量が残っているし、寧ろこれだけの量で治療できたことが驚きだ。この薬、思った以上に凄いのかも。


「フィリエさん、ありがとうございます。それで、容態はどんな感じですか?」

「傷は問題ないかと思いますが、生命力が微妙といったところでしょうか。ただ、それもネルフェア様が維持されておられますので、あと数刻もすれば持ち直すかと思われます」


 俺は瓶を受け取ると、オルフェスたちのところに向かって歩きながら、フィリエさんから容態を聞いた。

 生命力の維持がどういうものかは分からないが、ネルフェアの種族である幽鬼は、確か生命力の操作に長けていると聞いたことがあるので、そのネルフェアが対処してくれているなら、それが最善だと思える。


「オルフェス、ネルフェア。応急処置が済んだら、その後、ガレリックさんが王都で彼女を治療したいそうだが、シリエさんを王都に転移させても大丈夫そうか?」


 俺はオルフェスたちのところに辿り着くと、オルフェスたちにシリエさんの転移について尋ねた。

 ベルフェにはシリエさんを連れていくとは言ったが、命に関わるなら連れていけなくなる。

 その際、俺がシリエさんに目を向けると、彼女の斬り傷を覆うように、体に薄い蔦のようなものが巻かれていた。これはきっとフィリエさんが処置してくれたものだろう。そして、土気色だった彼女の手や顔色に少し赤味が差していた。


「それなら問題ありません。寧ろ安静にできる場所に移した方が良いですね」

「はい。もう少しすれば、生命力も安定すると思いますので、大丈夫かと思います」

「分かった。じゃあ、連れて行けるようになったら教えてくれ」

「分かりました」


 それから二刻ほどが経ち、空が赤味から紫色へと移り変わり始めた頃、オルフェスとネルフェアがシリエさんに翳していた手を放して立ち上がった。


「フェイル様、お待たせいたしました」

「ネルフェア、オルフェス、ありがとう。もう転移しても大丈夫そうか?」


 ネルフェアが俺に声を掛けてきたことで、峠を越えたことは察したが、念のため転移について確認する。

 ここで無理をするより、助けることを優先すべきだ。


「はい。問題ございません」


 俺の質問に、オルフェスが頷いて答えをくれる。

 俺はそれで、ほっと肩の力を抜いた。

 ヘイズさんたちは残念だったが、シリエさんだけでも助けられて良かった。ただ、それでも、アゼルたちのことを考えると、腸が煮えくり返るような思いが湧き上がってくるが。


「そうか、それじゃあ、ヘイズさんとポルグさんの遺体も連れていきたいので、シリエさんはネルフェア、ヘイズさんとポルグさんはオルフェスが抱えて転移してくれるか? オルフェスには二回ほど往復してもらうことになるだろうが、よろしく頼む」

「「はい。かしこまりました」」


 俺がオルフェスとネルフェアに指示を出すと、彼らは即座に動き始めた。


「フィリエさんもありがとうございました」

「いえ。お役に立てて何よりでございます。また何かございましたら、いつでもお呼びください」

「分かりました。ありがとうございます」

「いえ、滅相もございません。それでは、わたくしは失礼いたします」


 俺は隣にいるフィリエさんにもお礼を述べた。

 彼女には、もしシリエさんの容態が変わった時のために、森へ戻らずに此処で待機してもらっていたのだ。

 俺のお礼を受け取ったフィリエさんは、最後の挨拶をすると、霧散するように姿を消した。


「フェイル様、いつでも転移できますが、王都のどちらに転移すればよろしいですか?」


 準備が整ったことを告げてきたオルフェスの腕の中にはヘイズさんが横抱きにされている。

 そして、ネルフェアの腕の中にもシリエさんが横抱きにされていた。

 そのシリエさんの顔色も、かなり良くなっているように見受けられる。


「それなら、王様の書斎に頼む」

「分かりました。それでは、フェイル様。俺にお掴まりください。ネルフェア、それでは飛ぶぞ」

「ええ、分かりました」


 俺が素早くオルフェスに掴まると、それを合図にしたかのように俺の視界が切り替わった。


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