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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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襲撃の緊急連絡

 バルアさんの指南が加わって数日、俺たちは特に変わったこともなく旅を続けている。

 途中、アイネラから妖鬼を見掛けたという連絡が何度か入ったが、襲撃には至っていないとのことで、森の方も今のところは落ち着いている。


「バルアさん、念の聞き取りはどんな感じですか?」


 俺はある日、野営の天幕の中で、バルアさんに念の習得の進捗を尋ねてみた。


「あ、フェイル様、その、まだ聞き取れておりません。折角ご配慮いただいたのに、本当に申し訳ございません。ただ、もう少しだとは思うのですが…」


 バルアさんが頑張っているのは知っているので、謝罪を求めているわけでも急かしているわけでもない。

 ただ、どんな感じか知りたかっただけだ。

 俺の時は一日で習得できたが、魔法師団長は数日掛かっている。

 この差は、恐らく適性みたいなものや、思い込みなどによるものだとは思っている。それにもしかしたら、年齢的なものがあるかもしれない。

 そういったところを知っておきたいと思ってのことだ。


「あ、別に謝罪は不要ですよ。時間も限られてますしね。ただ、どんな感じかなと思っただけです。それに、その辺りも、今後の習得方法の参考になるかもしれませんからね」

「ふむ。確かにそれを知っておくことは重要ですな。バルア、どうなのじゃ?」

「そうですね。ぼんやりとは聞き取れるのですが、なんというか耳で聞いた声と混じっている感じなんです」


 俺が知りたい理由を説明すると、魔法師団長もそれに賛同してくれる。こういうことって、意外と他の人に教える時に役に立つのだ。

 俺はバルアさんの答えを聞いて納得する。

 どうしても、耳で聞いたものに意識が引っ張られてしまうのだ。特に今まで、耳にだけ頼って会話していたのだから、それを無視して念だけを聞き取れと言われても難しい。

 う~ん。それならば、会話として意識していない言語なら除外しやすいんじゃないだろうか?


「なぁ、テオ。お前も指南に加わってみてくれないか?」

「我もですか?」


 俺がテオに指南に加わって欲しいと伝えると、テオが首を傾げて問い返してきた。

 テオからすれば、会話できない者に教えろと言われても、対処のしようがないので、この反応も頷ける。


「ああ、お前たちの言葉って、俺たちには言語として聞こえないんだよ。だから、念だけに集中しやすいんじゃないかと思ってな。オルフェスたちがバルアさんに話している言葉と同じことを言ってくれるだけでいいからさ」

「そういうことであれば、かしこまりました」

「なるほど。それは有効かもしれませんな」


 俺がテオに説明した内容を聞いて、魔法師団長も顎に手を当てて何やら考え出した。きっと、習得方法にこれと同じような手段を取り入れられないか考えているのだろう。

 こういう視線を変えてみるのは、意外と効果があったりする。同じことを繰り返して壁に当たったなら、猶更違う試みをしてみた方が良い結果が得られたりするものだ。まぁ、時間の無駄になったりもするのだが、それは同じことを繰り返しても変わらないと思って諦めるしかない。


「それはありがたいです。テオ殿も、よろしくお願いします」

「いや、こちらこそお役に立つかは分からなぬが、よろしく頼みます」

「それでは、バルアよ。始めようか」

「はい。ベルフェ様、オルフェス様、よろしくお願いいたします」


 これが切っ掛けとなったのか、その日のうちにバルアさんが念を習得することができた。

 最初は、テオの言葉が鳴き声に聞こえ、喋っているように思えなかったらしいが、次第に慣れてきて、テオの鳴き声が言葉だと思えた途端、聞き取れるようになったようだ。

 念を聞きとること自体、思い込みを捨てることから始まるので、これも、それに漏れずと言ったところだろうか。


「フェイル様、ありがとうございました」

「いえ、俺は何もしてませんから、お礼なら、ベルフェとオルフェスとテオにお願いします」

「はい。皆様方にはすでにお礼を述べさせていただいております。ただ、フェイル様のご配慮にも感謝をお伝えしたかったのです」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます。それと、習得おめでとうございます。これで、訓練に参加できますね」

「はい。ありがとうございます。もう腕がうずうずしております」


 バルアさんの目的はベルフェとテオたちの訓練に参加することなので、その障害となっていた会話を手に入れて非常に嬉しそうだ。訓練への参加できることに、拳を握ってやる気を表現している。

 そして早速、その日の夜からバルアさんがベルフェとテオたちの訓練に参加し出したようだ。

 俺が寝てからなので、バルアさんの体調が気になるところだが、翌朝のバルアさんは溌剌としていた。

 翌日からは、天幕の中では全員が会話ができるようになっているためか、俺たちが合流した時よりも賑やかになっている。まぁ、テオたちも会話に加わっているため当然といえば当然だが。


 こうして、俺たちの旅は順調に続き、二つ目の街でも無事に補給を済ませて、いよいよ三つ目の街が近付いてくる。

 ちなみに、テオたちの食事だが、街で魔物用の安肉を仕入れてくれている。ただ、生食に近く日持ちはしないため、購入は数日分のみになっており、それ以外はテオたちは食事抜きという状態だ。このため、テオたちの食事を森から調達することも考えたのだが、テオたち曰く、森での食事もそんなものらしい。森での灰色狼たちの生活は、棲家を守る者と狩りを行う者が交代制で行われていて、毎日、豊潤な獲物が狩れるわけでもなく、その上、強い者や雌や子供から食事が与えられるため、弱い者が数日食べられないというのは当たり前のことだということだ。ただ、森の獲物も有限なので、狩り尽くさないためにも、仕方がないのだと付け加えてくれた。

 俺が灰色狼たちを従えて獲物を狩らせた時は、灰色狼全員が狩りに出た上に、俺たちの命で獲物を狩ったために、大量の獲物を持ち帰った。しかし、少しずつ落ち着き、今では妖鬼の件もあり、彼らの本来の生活に戻っているようだ。

 これを聞いて、俺はかなり悪いことをした気分になった。

 森の事情を知らず、自分の我欲で勝手に森に踏み込み、好き勝手にしていたのだと分かると、反省せずにはいられない。俺があのまま森にいたら、近い将来、ガロアたちの食料が枯渇して、縄張りを広げて争いを仕掛けなければならなかったとなれば、それを想像しただけで怖気が走る。これでは妖鬼と何も変わらなくなってしまう。

 自分の愚かな行為に、自分を責めることしかできないのが、またもどかしい。

 もっと、行動する前に情報を集めないと、いつしか取り返しのつかないことになりそうだ。


「フェイル様、どうかされたのですか?」

「あ、いや、少し考え事をしていただけだ。何の問題もない」


 俺がこれからのことを、あれこれと考えていたのを横で見ていたネルフェアが心配そうに声を掛けてきた。

 俺が発した言葉一つで様々なことが動き出してしまう。

 俺は今でも自分が偉いなどとは思っていないが、周りはそうではないし、俺の言葉には俺が思っている以上の重みがあることを痛感して、考えずにはいられなかっただけだ。

 ただ、これは俺自身の問題なので、俺が何とかする以外に方法はない。


 と、俺がそんな反省めいたことを考えている時、突然、俺の頭の中に魔法陣が浮かび上がった。

 俺は素早くその魔法陣に意識を向けて、通信を繋げる。


『アゼルと…副騎士、団長が…、盗賊といっ…しょに…、襲って…』

『ヘイズさん、今どこですか!?』


 聞こえてきたのは、ヘイズさんの絞り出すような声だった。

 俺は咄嗟に思い付いた質問をしてみるが、ヘイズさんからの反応はなく、すぐに魔法陣が頭の中から消え去った。

 俺はそれに背筋に冷たいものが走り、馬車の中だというのに、慌てて立ち上がる。

 それを見た全員が俺に視線を集めたが、俺は今はそれどころではない。


「フェイル様、どうされました?」


 オルフェスが俺の様子を見て、慌てて声を掛けてくる。

 ネルフェア、ベルフェ、魔法師団長も眉間にしわを寄せて、俺を見詰めていた。

 俺はそんなオルフェスを無視して、魔法師団長の方に視線を向ける。


「ガレリックさん、ヘイズさんたちが襲われました!」


 俺が発した言葉で、魔法師団長の顔に緊張が張り、一瞬で険しくなる。

 オルフェスたちも同様に険しい顔をしている。


「ガレリックさん、ヘイズさんたちが今、どの辺りを進んでいるか分かりますか? オルフェス、ベルフェ、ネルフェア、お前たちは出陣の準備をしろ!」


 俺は一気に捲し立てるように言葉を吐いた。

 一刻も早く助けに行かなければならない、そんな思いが勝手に俺の口を突いていた。


「フェイル殿、お待ちくだされ!」


 俺の焦りを感じ取って、魔法師団長が強めの言葉で諫めてきた。

 俺はそれを聞いて、漸く自分が冷静でないことを悟ることができた。

 さっきまで俺の言動が周りに影響することを反省していたのに、何の役にも立っていないことに、更に落ち込みそうだ。


「すみません。冷静さを欠いていたようです」

「いえ、焦られる気持ちも、助けようとされているお気持ちも分かりますゆえ、そう落ち込まれますな。それより、今は何ができるか、どういう方法が一番かを考えましょうぞ」


 魔法師団長が俺を慰めてくれる。

 そうだ。何ができて、何が一番の方法なのかを考えないと助けるものも助けられなくなる。


「はい。そうですね」

「うむ。ではまず、ヘイズからどのような連絡があったか教えてくださるか?」


 俺はその魔法師団長の言葉で、まだ何も伝えていなかったことを理解した。

 駄目だな。これでは、俺の空回りに周りを巻き込んでいるようなものだ。

 俺は、大きく息をつくと、ヘイズさんが言った言葉をみんなに教える。


「ふむ。そうでござりますか…。それはすでに全滅しておるやもしれませんな…」

「いえ、まだ、決まったわけではないです。それに、生きている者もいるかもしれませんし」


 魔法師団長が俺の話を聞いて、沈痛な面持ちで言葉を口にした。

 俺は全滅という言葉から視線をずらしたくて、できる限りの言葉を紡ぐ。

 彼らが全滅したとなれば、それは俺の身代わりとして死んだということだ。そんなこと、到底受け入れられるはずもない。


「うむ。そうですな」


 魔法師団長も俺の言葉で気を引き締めると、鞄の中から地図を取り出して広げる。

 それをしばらく眺めてから、その地図のある部分に大きく指で円を描いた。


「恐らく出発してからの日数を考えれば、ヘイズたちはこの辺りで襲われたと思われますじゃ」


 魔法師団長が地図に描いた円はかなりの広範囲を示していた。

 ただ、その示された辺りは、小さな森が点在しており、襲撃に向いた地形をしているということだ。

 

「オルフェス、この辺りに転移できるか?」

「地図を頼りに転移するのは正直、難しいですね。ただ、凡その場所の上空には転移できるでしょうが、それでもその辺りとは限りませんよ」


 確かにオルフェスの言う通りだ。

 転移は一度行った場所や見える範囲であれば優秀だが、それ以外となると一気に優秀さが落ちる。その上、こんな地図を頼りに転移しろといっても、距離も何もかもが曖昧な場所に転移など難しい。


「凡そで大丈夫だ。それでも、此処から飛んでいくよりは早いだろ」

「ええ、まぁ、そうですね」


 取り急ぎ、オルフェスからも承諾は得られたので、あとは誰が行くかだ。

 俺やオルフェスたちが全員行ってしまえば、此処の守りが薄くなる。それに、馬車もこんなところに停めておけないので、この後移動して天幕を張った場所を知る者や、連絡役も必要だ。

 焦りはまだ残っているが、それでも冷静さは戻ってきている。


「ベルフェは魔法師団長と此処に残ってくれ。ヘイズさんたちのところには、俺とオルフェスとネルフェアで行く。魔法師団長もそれで良いですか?」

「はい。かしこまりました」

「うむ。本来なら儂も行きたいところですが、足手纏いになりそうですな…。分かりましたじゃ。ただ、くれぐれも身元がばれぬようにだけはお願いいたしますじゃ」


 魔法師団長の注意は尤もだ。

 俺の身元がばれては、折角のヘイズさんたちの行為が無駄になる。

 ただ、襲撃してきたアゼルたちにはばれているかもしれないが、その場合は、全員捕らえるか全滅させるしかない。


「はい。分かりました。オルフェス、念のため、幻術で姿が見えないようにしてから転移を頼む」

「分かりました。ネルフェア、聞いた通りだ。視認では俺たちの場所が分からなくなるから、転移したら俺の気配を追ってきてくれ」

「ええ、任せなさい」


 オルフェスは俺の言葉に了承すると、素早くひょいと俺を抱きかかえた。

 ネルフェアも、それに続いてオルフェスの腰に手を当てる。

 最初はオルフェスが俺たちを連れて転移する。その後は、オルフェスにヘイズさんたちの馬車を探しながら飛んでもらい、それをネルフェアが追うという段取りだ。


「では、ガレリックさん、行ってきます。何かありましたら、ベルフェを通じて連絡をください。ベルフェも頼んだぞ」

「うむ。お気をつけて、ご無理はされぬようにですじゃ」

「はい。かしこまりました」


 俺が魔法師団長とベルフェに声を掛けると、オルフェスが幻術を掛けて転移した。

 俺が上空から下を見下ろすと、最初に牢屋から転移した時より高い場所に転移したことが分かる。


「少し高度が高くお辛いでしょうが、我慢ください。鳥などに当たっても困りますし、この方が視界が広いので、少々、敢えて高度を高めに取っております」


 俺が下を見下ろしたことで、俺が高さを気にしていると思ったのか、オルフェスが丁寧に説明してくれた。

 オルフェスの言う通り、少し息が苦しいし、肌寒くはあるが、耐えられないほどでもない。


「ああ、大丈夫だ。それより先を急ごう」

「ええ、そうですね。恐らく、あそこに見える森が目的地かと思われますので、そこまで飛びますね」


 オルフェスの言葉で、俺は辺りを見回してみるが、俺の視界には森らしいものは見つけられなかった。

 以前、ネルフェアが森で月桃の木を見つけた時も、俺は見つけられなかったので、自分の視力の問題だろう。


「ああ、頼む。まずは街道を探して、それを道伝いに探してくれ」

「はい。分かりました」


 俺がオルフェスに言葉を掛けると、オルフェスは高度を下げて、目的地に向かって飛翔し始めた。

 森は見えても、そのどこかまでは分からないので、道沿いに探すしかない。


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