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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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豪華な夜食

「それでは、フェイル様。そろそろお夜食をお召し上がりになられては如何でしょう?」

「え? でも、ここじゃあ駄目だろ?」


 会話が一段落したことを受けて、ベルフェが夜食について進言してくれた。

 時間的にも夜食を食べる頃合いにはなっているので、それ自体は問題ない。

 しかし、此処には魔法師団長とバルアさんがいるので、その目の前で食べるのは問題がある。

 俺はさり気なく魔法師団長の方に視線を向け、ベルフェに返答した。


「それなら問題ございません。こんなこともあろうかと、少し多めに準備しておりますので」

「え? そうなのか?」

「はい。では、こちらを」


 ベルフェが問題ないとばかりに俺の前に箱を置いた。

 俺はフィリエさんから箱を受け取ったが、中身は見ていないので、数までは確認していない。

 これはたぶん、フィリエさんに夜食を準備させてたのはベルフェのような気がする。もしくは、フィリエさんが作る上で、ベルフェに相談したのかもしれないが、いずれにしろ、ベルフェが関与していると考えていいだろう。

 俺はベルフェが差し出した箱を開けてみる。その中には、フィリエさんが朝食にと作っていてくれていた、千病薯(せんびょうしょ)を練って薄く焼いたものに薄切りにした肉と茹でた葉を挟んだものが納めてあった。さっと数えた感じでは数は七個ほどあるように見える。


「もしよかったら、食べられますか?」


 俺は箱を開けたまま、魔法師団長の方に向けた。

 数は充分になるので、俺は魔法師団長に勧めてみる。


「これは何ですかの?」

「薯を練って焼いたものに肉と葉物を挟んだものです。夕飯が早かったので、夜食用に作ってもらったんです」

「これをいただいてもよろしいのですかな?」

「はい。バルアさんの分もあるので、良かったらどうぞ」


 俺は入っているものの簡単な説明をして、バルアさんにも勧める。

 というか、それを見たバルアさんの顔が明らかに食べたそうにしていたので、勧めないわけにはいかなかった。

 恐らく、俺たちのような者、しかも魔物が作った食べ物を勧めるのは、毒など様々なことを考えると間違っていると思うのだが、だからといって俺たちだけが食べるのも気が引ける。


「よろしいのですか?」

「はい。もし、不安なら俺が先に食べてみますね」


 俺はそう言うと、中から一つ取って口に入れた。

 本当なら、俺たちが先に食べるのは礼儀として間違っている気もするが、毒味としてなら問題ないだろう。

 うん。美味しい。

 冷めていても硬くなっておらず、程良い食感を保っている。

 そして何より、簡単に食べられて、その上、味も申し分ない。流石フィリエさん、いい仕事をする。

 俺が美味しそうに食べる様子を眺めていた魔法師団長とバルアさんが『ごくり』と喉を鳴らす。


「それでは、遠慮なくいただきますじゃ」

「では、私もいただきます」


 そう言うと、魔法師団長とバルアさんは箱から一つずつ取って口に運んだ。

 そして、それを口に含むと、ぱっと大きく目を開いた。


「これはなんという美味しさでござろうか…。薯のパンとでも言いましょうか。これが淡白でありながら、中の肉と葉物の味わいを引き立てていて、諄くもなくいくらでも食べられそうですな」

「ええ、私はこんな美味しいものを食べたのは初めてです」


 二人は口々に感想を言うと、二口目、三口目と食べ進めていく。

 バルアさんに至っては、一心不乱に食べているので、余程気に入ったのだと思える。

 まぁ、薯も肉も葉物も高級食材らしいので、それも大きいと思うが。

 フィリエさんの作った料理が気に入られて、俺も嬉しくなる。うん。やっぱり人間も魔物も関係ないんだよ。


「じゃあ、お前たちも食べたらいいぞ」

「「「はい。では、いただきます」」」


 俺はオルフェス、ネルフェア、ベルフェにも勧めて、みんなで食べることにした。

 その方が美味しいからな。

 いつもだと、人間は俺一人だけだけど、こうやって複数の人間と魔物が同じ卓を囲んで食事をするのは、なんとも感慨深いものがある。

 こういう食卓をもっと増やせればいいな。そうすれば、みんなももっと美味しいものが食べられる。

 うん。こういう楽しみもありだな。

 こうして全員が食べ終わっても、箱の中に最後の一つが残っている。

 俺は結構お腹一杯なので、魔法師団長かバルアさんに食べてもらうか? そう思った矢先、一人の騎士が天幕の中に入ってきて、魔法師団長に耳打ちし始めた。


「ふむ。それで良かろう」


 魔法師団長が簡潔に騎士に返答したことで話は終わったようだが、騎士が天幕の中を見回した後、箱の方に視線を向けた。

 天幕の中に籠っていた料理の匂いに気付いたのかもしれない。


「ほれ、何をしておる。さっさと行かんか!」

「はっ、申し訳ございません。それでは………」

「あ、ちょっと待ってください」


 魔法師団長が立ち止って箱を見ている騎士に退室を促したが、俺はそれに待ったを掛けた。

 このまま退室させたら何か大変なことが起こりそうだと、俺の頭の中で警鐘が鳴り響いたからだ。


「えーっと、もし良かったら、これ食べますか?」

「え? よろしいのでしょうか?」


 やはり騎士は箱の中身に気付いていたようだ。

 ただ、俺の勧めに応じて良いのか判断ができないようで、魔法師団長とバルアさんの方をちらちらと窺っている。


「ええ、ただ、その代わりと言ってはなんですが、このことは口外禁止でお願いします」

「ふむ。そうですな。こやつが言い触らしでもして、馬鹿な騎士がフェイル殿に要らぬ催促をしても困りますからな。ケイス、其方が口外禁止を守れるのならば、フェイル殿の申し出を受けても良いぞ」

「そうですね。おい、ケイス。口外したらどうなるか分かっているな?」

「ひぇぇぇ。バルア隊長、それはあんまりです…」


 俺と魔法師団長とバルアさんが揃って口外禁止を口にしたことで、ケイスさんは完全に怯えてしまった。これも偏にバルアさんの所為だけど。

 これでは、食べる食べないに関係なく、口外できる空気ではない。


「それでは、いただきます」


 全員を見廻し、一呼吸置いて居住まいを正したケイスさんが、覚悟を決めた様子で箱の中に手を伸ばした。

 そして、それを一口含むと、目を輝かせる。


「なんですか、これ!? ものすごく美味しいんですけど。え? こんな食べ物あるんですか? これ、何処に行けば買えるんですか?」

「ケイス、食べながら喋るな!」

「うむ。ケイスよ。買えぬから口外禁止なのじゃ。それしか残っておらんのじゃ。ゆっくり味わって食べよ」


 ケイスさんが口に入れては喋りを繰り返しているので、バルアさんがそれを咎めている。

 それだけ美味しかったということだろうが、流石に慌ただしいので、ここはバルアさんを称賛したい。

 魔法師団長も釘を刺しながら、味わうように促している。


「えぇ…、買えないんですか…。分かりました。味わって食べます」


 売っていないことを告げられたケイスさんが、肩を落としながら、それでも黙々と食べているのが面白い。

 フィリエさん。皆さんにも喜んでもらえましたよ! 次に森に行った時に教えてあげよう。


「くふふ。皆さんお気に召されたようですね。これは、千病薯(せんびょうしょ)と沼蜥蜴、それに神楽人参(かぐらにんじん)の葉と、香辛料に深藍実(しんらんじつ)を使った甲斐があると言うものです」

「「「え?」」」


 俺は食材の説明をしたベルフェを思わず半眼で睨みつけた。

 俺がわざわざ言わなかったのに、なんと、ここでベルフェが食材をばらしました。

 それを聞いた、魔法師団長とバルアさんとケイスさんが、大きな目を見開き驚き固まっている。


「え? え? え? バルア隊長! お、俺、金貨なんて持ってませんよ…」

「ケ、ケイス、落ち着け! 俺も持ってない」

「ふむ。そうじゃな…」


 驚きから立ち直った三人が、挙動不審なことを言い出した。

 うん。立ち直ってないな。

 ケイスさんは慌てふためいて、バルアさんと一緒に料理の料金の話をし出したし、魔法師団長は腰に下げている革袋の中を探り出した。


「あぁ、お金は入りませんよ。それより、このことは口外しないでもらえれば、それで充分です」

「ほっ…。それは助かりますじゃ。それに、これが国王陛下に知られれば、後が怖いですからの。良いな、バルア、ケイス。これは墓場まで持っていくのじゃぞ。でなければ、国王陛下のどのような仕打ちが待っているか、分かるの?」


 俺もお金を取ろうと思っていないし、流石に食べた後でそれはないだろう。

 魔法師団長が俺の言葉を聞いて、革袋の中から手を出すと、安堵の息をついた。

 バルアさんもケイスさんも、魔法師団長の脅しに、こくこくと頷いている。

 それにしても、高級食材だとは聞いていたが、これ一つで金貨の話が飛び出してくるとは思わなかった。 

 これからはもっと注意しないと、王様まで絡んできたら大変なことになりそうだ。

 折角、人間と魔物が一緒の食卓を囲めたと思っていたのに、とんだ影が射したものだ。


 この後、ケイスさんはこちらをちらちらと振り返りながら退室していった。

 最後に予想外のことが起こったが、作戦のお浚いも、夜食も食べ終わったので、後は寝るだけだ。


「ふむ。では、そろそろ休みますかの。外は交代で見張りを立てておりますので、ご安心くだされ」

「ええ、私も見張りについておりますので、ご安心ください」


 俺が思ったことを察したのか、魔法師団長が就寝を促してくれる。

 バルアさんはこのまま寝ずに見張りを続けるそうだが、交代と言っていたし、俺が心配しても始まらなさそうだ。


「そうですね。では、休ませてもらいます」

「うむ。では、バルア。フェイル殿たちに敷物をお渡ししてくれるか」

「はい。かしこまりました」


 俺たちはバルアさんから敷物を受け取ると、思い思いに空いてる場所にそれを広げて横になる。

 ネルフェアは、此処でも変わらず俺の顔を眺めるように、俺の顔が見える位置に敷物を引いている。

 何処でも関係なく安定の行動を取るネルフェアに少し感心してしまった。うん。ネルフェアだわ。

 そして、テオたちが俺たちに添うように地面に横になったところで、バルアさんが天幕の中の灯りを消してくれた。外の灯りが薄っすらと天幕を透かして見えているが、気になるほどではない。

 こうして、俺たちの再会は無事に終わり、明日から新たな旅立ちが始まる。

 さてはて、どんな旅になるのか、わくわく半分、不安半分で俺は目を閉じた。


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