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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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久しぶりの再会

 二日振りに野営地に転移すると、そこにはすでに天幕が二つ設営されていた。

 その傍らには豪華な馬車と荷物を運ぶ馬車が二台停まっていて、その周りには数十頭の馬と、数十人の騎士や魔法師が慌ただしく行き交っている。

 俺たちは、その騎士たちにぶつからないよう注意しながら、入口の幕が開いている方の天幕へ足を踏み入れた。

 そして、その天幕に設置されている机を二度軽く叩く。

 それを合図に、天幕の中にいた騎士が、天幕の入口の幕を降ろした。


「フェイル様。お待ちしておりましたじゃ。もう姿を現されても大丈夫ですじゃ」


 幕が降りたことを確認して、魔法師団長が幻術を解くよう促してくれる。

 これを受け、俺が掴んでいるオルフェスの腰を軽く引っ張ると、俺たちの幻術が解け姿が見えるようになる。

 姿が見えない俺たちは、念話で会話してこの天幕へ入ったので、ネルフェアとベルフェの姿も同時に見えるようになっている。


「分かっておっても、突然姿が現れると驚くものですな」


 魔法師団長が驚きを露わにしながら呟いている。

 その横では、先程天幕を降ろした騎士がこくこくと首を縦に振っている。


「ガレリック様、お待たせしてすみません」

「フェイル様、敬称が違いますぞ」


 俺は遅れたつもりはなかったが、話題を他に逸らしたかったため、挨拶も兼ねて敢えて謝罪した。

 しかし、魔法師団長が触れたのは、俺の呼び方だった。


「それなら、ガレリック様も違いませんか? ここは公式の場じゃないですよね?」


 俺はわざとらしく天幕の中を見渡した。

 ここには、俺、オルフェス、ネルフェア、ベルフェ、灰色狼、それ以外だと魔法師団長と騎士が一名しかいない。


「ほっほっほっ。確かにそうですな。それでは改めまして、フェイル殿、お待ちしておりましたじゃ」


 魔法師団長の口調がまだ硬いようにも思うが、この辺が妥協点だろう。

 これ以上、この話題を議論しても埒が明かないし、話すことはもっとある。


「はい。ガレリックさん、改めてよろしくお願いします」

「ふむ。それではまずはここにいる者を紹介させてくだされ。この者は騎士団第二部隊長のバルアでございますじゃ」

「私は騎士団第二部隊を預かるバルアと申します。この度の護衛を務めさせていただきます」


 魔法師団長の紹介を受けて騎士が一歩前に出てきて、自己紹介をしてくれる。

 俺は牢屋にいる時に、この騎士を一度見ている。ヘイズさんと共に騎士団長に付き添っていた人物だ。


「俺はフェイルと言います。今回はこんな任務に巻き込んでしまい、申し訳ありません」


 ヘイズさんの時にも思ったが、今回の件では多くの人を巻き込んでいる。

 彼らはこの任務が自分たちの職務で誉だと言うが、俺としては迷惑を掛けているという思いが強い。


「いや、お止めください。今回の任務に就けるのは騎士として誉なことですから。それに正直なところ、フェイル様方を国外に追放するなど心苦しい限りなのです」


 俺の謝罪に対して、バルアさんもヘイズさんたちと同じことを口にした。

 俺は今まで職務や誰かのために生きてきたことがないので、こういった感情が今一つ分からない。

 そういえば、フィリエさんたちが俺の頼みに命を賭けようとするのは、バルアさんたちのこの感情と同じようなものなのだろうか? ふとそんなことが頭を過った。


「ふむ。フェイル殿。その点については国王陛下も仰られた通りですじゃ。どうか儂らの矜持と思い、頭を下げるのはご勘弁くだされ」

「…はい。分かりました。でも、俺も巻き込んでいると思っているのは本当ですので、気持ちだけは受け取ってください」

「うむ。仕方ありませんの。それは承りましたのじゃ」


 矜持と言われれば、それ以上は何も言えなくなる。

 取り敢えず、俺の気持ちは受け取ってもらえたので、これで良しとしておくしかないだろう。


「それでは、俺からも紹介をさせてもらいますね―――」


 そう言って、俺はオルフェスたちを紹介する。

 彼らもバルアさんに倣い、自己紹介をしてくれた。

 ただ、魔法師団長もバルアさんも念話はできないので、テオたちは、俺からの紹介だけになっている。ちなみにテオたちの名前は伝えずに、俺に従属する灰色狼だとだけ伝えた。魔法師団長たちがテオたちを呼ぶことはないと思ったので特に必要ないと思っただけのことだが。


「ふむ。それではフェイル殿。まずはこれに着替えてくだされ。あちらに衝立を用意しておりますので、その向こうで着替えてくだされば良いですじゃ」


 魔法師団長が机の上に置かれている服や装備と武器を差し出してくれる。

 魔法師団長の言う通り、まずは着替えた方が良さそうだ。

 俺たちの代役としてガルフさんたちが別動隊として動いているので、すでに俺たちはここに存在しないことになっている。

 俺は最初、国境を越えてからフェイルになると思っていたのだが、魔法師団長が立案した作戦では、俺たちはここから冒険者のフェイルとして国境を越えることになる。理由としては、俺たちがこの国から移住先の国へ移動したことを残しておくことが目的とのことだ。このため、行方不明になるフェールは、ガルフさんたちが代役として別の国へ向かうことで偽装しているというわけだ。

 ただ、こう言われると聞こえはいいが、俺たちの代わりに狙われることになるのは、ガルフさんたちとなるため、俺としては、素直に受け取れない部分もあったりする。この負い目もあって通信の魔晶石をヘイズさんに渡したのだが、それが俺にできる精一杯だった。


 俺たちは魔法師団長から着替えの衣装を受け取り、魔法師団長が指し示す衝立へと向かう。


「あ、ネルフェア。お前は後だぞ」

「え? わたくしはフェイル様の護衛として…」

「オルフェスもベルフェもいるから大丈夫だ。いいな、お前は後だ」

「うぅ…。分かりました…」


 俺たちが衝立を向かおうとしたら、何故かネルフェアまで付いてきた。

 俺は、何か言い募ろうとするネルフェアを制し、食い気味に待ったを掛ける。

 いや、護衛とか知らんし。流石に幽鬼だとはいえ、女性に着替えを見られるのは憚られるだろ。

 牢屋では体を拭くこともできず、ベルフェに水流で服を着たまま丸ごと洗ってもらっていたが、あれは息が出来なくて辛かった。それに、流石に着替えではそんな方法は使えないので、遠慮してもらう。

 こうしてネルフェアを除く俺たちは衝立に隠れて着替えを済ませた。

 この時、同時にオルフェスに、幻術で俺たちの顔を別人の顔に擬態してもらってもいる。


「ほぉ、これはまた見事なものですな」

「ええ、これを見てフェイル様だと思う者はいないでしょうね」


 俺たちが着替えて衝立から出てくると、魔法師団長たちが感嘆の言葉をついた。

 オルフェスが幻術で顔を変えてくれた時に、傍にいたテオたちも不思議そうな顔で俺たちを眺めていたので、魔法師団長たちの反応は、凡そ予想通りの反応だったりする。

 俺は自分では見れないので分からないが、オルフェスもベルフェも別人に見えるので、きっと俺もそうなっているのだろう。当然のことだが、オルフェスもベルフェも人間の特徴を真似て黒髪と白い眼球に黒の瞳になっている。


「じゃあ、ネルフェアも着替えてきてくれ」

「はい。分かりました」


 俺たちと交代するようにネルフェアが衝立の奥へ移動していった。

 それを追うようにテナが後についていく。ちなみにこのテナは雌だったりするので、何の問題もない。

 これは、ガロアがネルフェアに気を遣ってくれた結果だと言うことらしい。

 その間に、魔法師団長は俺に預けておいた鞄を差し出してくれた。中身を確認するように魔法師団長に促されて鞄の中を確認すると、預けた時とは異なり、傷薬以外に本と路銀の入った袋が増えていた。それを見て、あぁ、そういえばこれがあったな。と俺は少し気が重くなる。できれば忘れていたかった。

 そんなやり取りがあり、この後、ネルフェアの着替えと擬態が完了すれば、魔法師団長がこの作戦のお浚いをしてくれることになっている。はずだったのだが…


「なぁ、ネルフェア。もう少しなんとかならなかったのか?」

「え? 何か問題がありましたでしょうか!?」

「いや、そういうわけじゃないけど…」


 ネルフェアが衝立から出てきて、俺は自分の目を疑ってしまった。

 ネルフェアはそもそも妖艶な容姿だったのだが、それに拍車が掛かっている。

 黒髪と白い眼球に黒い瞳は俺たちと同じなのだが、逆に派手さが無くなり柔らかさが加わったことで、影が射したような魅惑が増したように見える。

 う~ん。もっと町娘風にできなかったのだろうか?

 バルアさんなんて、ネルフェアを直視できずに眼が泳いでしまっている。


「フェイル殿。よろしいではござりませんか。旅には華がある方が良いですしの」

「わ、私もそう思います!」


 俺の思惑とは違い、魔法師団長とバルアさんがネルフェアを擁護してきた。

 これ、魅惑の魔法とか使ってないか?

 そんな魔法があるかは知らないが、バルアさんが完全に魅了されている気がするのは、きっと俺の間違いではないと思う。バルアさんの顔が真っ赤だし。


「まぁ、お二人がそう仰られるのでしたら…」


 俺は二人の言葉に渋々ネルフェアの擬態を了承した。

 ネルフェアが別人に見えるのは間違いないし、ネルフェアの容姿からいって町娘風にならないのも確かだ。

 先のことは思い遣られるが、こいつのことだから、寄ってくる男は自分でなんとかするだろう。


「ふむ。では、作戦の確認をさせていただいてもよろしいですかな?」

「はい。お願いします」


 魔法師団長の言葉で、バルアさんが大きな地図を机の上に広げてくれる。

 この地図は王様との話し合いでも見たものと同じものだ。

 魔法師団長は、その地図を指し示しながら、これからの経路や途中で立ち寄る街などについて教えてくれた。

 地図を見ると、此処より少し行ったところに、街道が二手に分かれる分岐点がある。

 俺たちが進む経路は、その二手のうち右側になる。すでにそこを通り過ぎているヘイズさんたちは、左側を進んでいるはずだ。

 この分岐点の右側と左側では辿り着く国が異なる。簡単に言うと、右側はこの国の最西と隣接する国へ、そして左側はこの国の最南東と隣接する国へ繋がっている。

 この国は、弓のように湾曲した三角形のような形をしており、弓の両端が最西と最北東、弓の先端が最南東の位置になるような領土となっている。そして、王都はその三角形の最北東の端にあるため、俺たちは弓の端から端に移動する予定だ。


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