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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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仕事の悩み

 う~ん。これは少し見直した方が良い気がする。でないと、そのうち俺が要らない子になってしまいそうだ。

 そう思って考えてみるが、何も思い浮かばず、益々、気が滅入りそうになってきた。


「フェイル様。どうされたのですか?」

「いや、俺ってここでは何もしてないな~っと思って、何か出来ることはないか考えてたんだよ」


 俺が気落ちしていることを感じたのか、ネルフェアが尋ねてきた。

 俺はそれに対して、思ったことを素直に言ってみる。言ってどうなるというわけでもないのだが、何か案でも出てくれば俺としては助かる。


「フェイル様は、おられるだけで役に立っておられますよ?」

「ええ、フェイル様がいるから、皆、このようにしていられるのですから、充分じゃないですか?」


 ネルフェアとオルフェスが俺の期待とは異なった答えを返してくる。

 しかも、俺がなんで悩んでいるのかすら分かっていない様子だ。


「いや、俺は別に偉いわけじゃないのに、なんだか最近、何もしてない気がしてさ。これって妙に居心地が悪いんだよ」


 そう。俺はそもそも庶民でも下っ端の方なのだ。

 それなのに、オルフェスたちを従えてからは、王様を初め魔物たちまで周りが俺を持ち上げてくる。

 まぁ、それに慣れ始めている俺もいるのだが、ふとこれって俺の力じゃないよなと冷静になる時があるのだ。


「それは、フェイル様も何か仕事をされたいということですか?」

「まぁ、そういうことだな」

「しかし、それは難しいと思いますよ。フェイル様が仕事をされると、あいつらは、自分が役に立たないから、フェイル様が仕事をされるのだと思ってしまうでしょうからね」

「そうですね。フェイル様のお役に立てないのは、何よりも辛いです」


 オルフェスが、俺の返答に難しい顔をし、フィリエさんたちの方を見ながら意見を述べてくれる。

 そして、ネルフェアはそれを自分のことのように同意している。


 ええ~、何それ? なんでそうなるの?

 ごめん。全く意味が分からない。

 確かに誰かのために何かをしてあげたいという気持ちは分かるけど、仕事は仕事であって、それとは別のものじゃないのか?


「それじゃあ、俺のために仕事をしているみたいじゃないか」

「まぁ、そうですね。それが生き甲斐みたいなものですからね」

「そうですね。フェイル様のお役に立てないなら、死んだ方がましですからね」


 ネルフェアの発言がどんどんと過激化していく。

 ああ、駄目だ。俺に尽くすことが生き甲斐とか言われても、俺には全く分からない世界過ぎる。

 これでは、俺のできる仕事を見つけても、それをするためには、自死禁止を同時に命じないといけなさそうだ。

 そういうことじゃないんだよな。


「分かったよ。じゃあ、今は諦めるよ」

「申し訳ありませんが、そうしてやってください」

「オルフェス。それだと、仕事がないことをフェイル様が我慢されることになるので間違ってませんか? って、あ、でも、フェイル様が仕事をされるのは、配下の者として間違ってますよね? ん? これって、どっちが正しいんでしょうか?」


 俺が諦めて肩を落とすと、オルフェスが苦笑いしながら宥めてくれる。

 しかし、俺が我慢することに難色を示したネルフェアが、自ら勝手に谷底に落ちて行った。

 だが、これもネルフェアらしいと言えばネルフェアらしい。

 これはそもそも、間違いか間違いじゃないか、正しいか正しくないかの話ではないのだ。

 基本的にネルフェアに限らず、オルフェスもベルフェも俺を一番に考える傾向がある。しかし、そこに若干の違いがあったりする。ネルフェアの場合は、俺が絶対的な一番であり、他者はそれを受け入れる者と考えている。オルフェスは、俺が一番であるが故に、俺が満足することを一番に考えている。ベルフェもどちらかと言えばネルフェア寄りだろうか。ただ、ベルフェは時折、俺の意を汲もうとしているようなので、完全にネルフェアと同じとは言い難い。

 そして今回の場合、ネルフェアの考え方だと、配下の者は俺の役に立てないという思いと、俺が満足していないという思いの中で揺れ動くことになる。これはどちらを選んでも、彼ら自身の望みを排除しない限り成立しないのだ。

 当然のことながら俺はそんなことを望んではいない。

 では、どうするかと言えば、俺が仕事をするのは彼らが役に立たないからではないことを彼らに納得させるか、俺が仕事を諦めるかの二択になる。前者は時間が掛かり、後者は即座に実行ができる。この結果、俺は今の状況を考えて後者を選んだ。オルフェスはそれを理解したが、ネルフェアは前述の通り沼に嵌ったというわけだ。

 ただ、だからと言って、ネルフェアが間違っているとも思わない。俺のことを想ってくれているのは痛いほど良く伝わってくるし、生きとし生ける者は皆、それぞれの考え方があり、それを尊重し合って生きてる以上、否定するものでもないからだ。だからこそ、その意見が真っ向からぶつかった場合、争いに発展したりしてしまうのだが。


「ネルフェア、考えてもそこに答えはないから戻って来い」

「ええ、そうですよ。それにネルフェアの仕事はフェイル様を守ることで、考えることではないでしょ」


 いや、オルフェス。少しはネルフェアにも考えさせた方が良いだろ。

 俺はそう思うものの、ネルフェアの性格を考えたら、オルフェスの言葉は極端だが合っている気もする。


「はっ、そうでした! わたくしの仕事はフェイル様を守ることでした!」


 最近思うのだが、本当にネルフェアはオルフェスたちと同格の冥界の王だったのだろうか?

 力自体は同格でも、王としてネルフェアが国をどう維持していたのかを疑問に思う時がある。

 まぁ、こいつも今はこうだが、きっと王としても優秀だったのだろう。ただ、それを俺の前でも見せて欲しい。

 オルフェスは、自分で言っておきながら、ネルフェアの反応に肩を竦めて首を振っている。


「「お待たせいたしました(~)」」


 俺たちが他愛もない話をしていると、フィリエさんとアイネラが食事を運んできてくれた。

 今日のスープは沼蜥蜴のスープだ。

 端的に言うと、味は砂蜥蜴と大きな差はなかった。それは逆に言えば、美味しいということでもある。

 こうなってしまえば、あの中の物が見えて気持ち悪かった沼蜥蜴も気にならない。やっぱり持って帰って正解だったな。

 俺は沼蜥蜴のスープにも満足して、まったりとした食事の時間を終えた。


「次は是非とも、フェイル様が砂蜥蜴を狩るところを見たいです!」

「我も是非とも、お供させてください」

「ああ、次にゆっくり森の来られる時にでもな」

「「はい。その時を楽しみに、お待ちしております」」


 アイネラとガロアが沼蜥蜴の亡骸を見て興奮したのか、それとも前回の魔法陣での対決の賞品を思い出したのか、一緒に砂蜥蜴を狩りに行きたいと言い出した。

 明日は夕刻には此処を立つので、狩りに興じている暇はない。そのため、次回の時間がある時ということで了承してもらう。その時は、砂蜥蜴でも沼蜥蜴でも狩ってあげよう。


「それで、ガロア。人間の国に行ってもいいって灰色狼はいたか?」

「はい。選別は終了しています」


 その後、俺は人間の国に連れて行く灰色狼をガロアから紹介してもらった。

 明日には連れて行かないといけないので、それまでに少しは仲を深めておきたい。このため、明日はこの灰色狼たちと共に過ごそうと思っている。

 ガロアに弱い灰色狼を選んでもらうように頼んでいたが、ガロアが連れてきた灰色狼が、本当に弱いのかどうかは俺には分からない。だが、この四体がやる気を漲らせていたので、無理強いをしたわけではないことが分かり安心する。やっぱり弱い者が人間の国へ行くのは不安だろうしな。

 それと、共に暮らす上で、名前がないと不便なので名前を付けてやることにした。

 体躯が一番大きい個体が『テオ』、目の上が黒毛になっている個体が『テグ』、脚先が黒くなっている個体が『テラ』、そして、体が一番小さい個体が『テナ』と名付けた。

 この名前にしたのは、咄嗟の時の呼び易さと、なんとなくの直感だ。本人たちも不満はなさそうだったので、この名で落ち着いた。


「テオ、テグ、テラ、テナ。フェイル様に名まで付けていただいたのだ。日頃のご恩と併せて、フェイル様のお役に立つのだぞ」

「「「は! 心得ております」」」

「いや、そんなに気負わなくていいから、もっと気を楽にしてくれ。それに、俺たちが何か指示するまで大人しくしていてくれる方がありがたいから」

「「「寛大なご配慮、ありがとうございます」」」


 ガロアが発破を懸けているが、あまり気合を入れられても困る。

 俺は人間の国では底辺なので、常日頃から理不尽が付き纏う。こいつらは俺の役に立つことを考えるあまり、こういった理不尽に真っ向から挑みそうで心配になる。

 なにしろ、名前を付けただけで恩だとか言い出すし、ちょっとしたことで命を賭けるので、油断できない。


 こうして、俺たちは自由行動の一日を終え、森での最終日を迎えることになった。

 最終日は、夕刻には此処を去るため、特に目立った行動もせず、ガロアたちの訓練に付き合って過ごした。

 その間、見回りをしている飛妖女(ひようめ)たちから、一度だけ妖鬼を見たとの連絡が入ったが、妖鬼は飛妖女の姿を見て引き返したので、取り敢えず、様子を見ることにした。


「それじゃあ、みんな、暫く此処へは来れないだろうけど、何かあったらすぐに連絡してくれ」

「「「は! かしこまりました」」」

「フェイル様。今晩のお夜食にと作りましたので、お持ちください」


 俺が森を去る挨拶をすると、フィリエさんが夜食にと箱を差し出してきた。

 その時、箱と一緒に、葉で織られた平たい厚手の四角い物も渡される。

 夜食は、陽が沈む前に晩御飯を食べたので、夜中にお腹が空くことを予想して気を利かせてくれたのだろう。ただ、どうやって魔法師団長たちに見つからずに食べるかが問題だが、フィリエさんの気遣いを無駄にしたくないので受け取っておく。

 それに、箱はベルフェが用意した物だろうから、ベルフェにその辺りの案があるのかもしれないしな。


「この葉で織られた物はなんですか?」

「それは、ベルフェ様から場所の乗り心地が悪いとお聞きしましたので、浮遊草で敷物を作らせていただきました。もしよろしければ、お使いください」


 あぁ、これは助かる。

 馬車の床は板張りで、その上舗装されていない道を走るため、どうしてもお尻が痛くなるのだ。

 これがあれば、馬車の中でも快適に過ごせる。

 俺がそれを眺めていると、ベルフェが俺の横に進み出てきて、フィリエさんから受け取った箱と敷物を預かってくれる。よく見ると、オルフェスとネルフェアがすでに彼らの分の敷物を持っているので、彼らは事前に渡されていたのかもしれない。


「ありがとうございます。それじゃあ、テオ、テグ、テラ、テナも行こうか」

「「「はい。お供させていただきます」」」


 俺の言葉で、テオたちがオルフェスたちの隣に駆け寄っていく。

 此処からの旅は数十日を要するため、本当に此処とは暫くお別れだ。

 俺は最後にもう一度、みんなの顔を見ておこうと、俺の前に跪く魔物たちを見渡してから、静かに最後の言葉を口にした。


「それじゃあ、行ってきます」

「「「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」」」


 俺が最後の挨拶をすると、オルフェスが姿が見えなくなる幻術を掛けてくれる。

 転移した際に、まだ魔法師団長が到着していなかったり、天幕が設営されていなかった時のために、他の者たちに見られないようにするための対策である。

 この幻術を合図とするかのように、俺たちは二日前にヘイズさんと分かれた野営地へ転移した。


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