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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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初めての朝食

 森に来た翌朝、俺は目が覚めると見慣れない光景に戸惑いを感じた。

 ぼんやりと見える葉で作られた天井に、ふかふかの寝床。

 うん? ここはどこだ?

 そう思ったのも束の間。視界がはっきりしてくるにつけて見えたものに、ここが何処か思い当たる。


「フェイル様。おはようございます!」


 ここ数日間、馬車の中での睡眠が続いていたので、これも久方ぶりの光景になっている。

 牢屋で目覚めた時には当たり前にあったネルフェアの顔が、俺の顔のすぐ傍にある。

 しかも、ベッドでなく、床の敷物の上に直に寝ているため、ネルフェアの顔が近いこと近いこと。

 どうも、床にうつ伏せになり、肘を立てて顔を手の上に乗せた状態で俺の顔を見ているらしい。

 上から見たら、俺とネルフェアの顔を起点に、直角を描く線が見えているはずだ。


「ああ、ネルフェア。おはよう」


 だが、流石に見慣れ過ぎた光景に、動揺などしない。というか、ときめく要素が微塵もない。

 寧ろ、まだ飽きてなかったのかと感心してしまうくらいだ。

 俺はネルフェアの顔を横目に上体を起こした。いつまでも顔を見られているのは流石に少し恥ずかしい。


「「フェイル様。おはようございます」」

「ああ、オルフェスもベルフェも、おはよう」


 オルフェスたちはすでに起きていて、床の上に座っていた。


「フェイル様。朝の食事ができているそうですので、お顔を洗ってきてください」

「うん? 朝の食事?」

「はい。フィリエが、準備しておりました」


 起き上がった俺に、ネルフェアが布巾を手渡しながら、朝食ができていることを告げてきた。

 俺はそれに不思議な感覚を覚える。

 俺は生まれてこの方、一日一食の生活をしてきた。思い出しても二食以上食べた記憶が出てこない。

 貴族や親のいる平民などは、一日二食か三食食べるということは聞いたことがある。

 俺が鍛冶屋で働いていた時も、確かに親方や同僚だったガイルは昼にも食事をしていたが、冒険者登録費用を貯めるのに必死だった俺は、夜以外に食事はしなかった。

 また、牢屋でも、ヘイズさんたちとの旅でも食事は夜の一食しか食べていない。牢屋では囚人扱いだし、旅では途中で補給できないための節約という理由によるものだが、それでも一食だけだったことには変わりない。


「フェイル様。どうかされたのですか?」

「あ、いや、なんでもない。それじゃあ、顔を洗ってくるよ」

「はい」


 不思議な感覚に呆然としてしまったが、折角準備してくれたなら食べないわけにはいかないだろう。

 ただ、こんな贅沢をして大丈夫だろうかという不安はある。これに慣れてしまうと、以前の生活に戻れなくなるのではないだろうか。ヘイズさんたちとの旅で、森の食事が恋しくなってしまったことを考えると、充分あり得るだけにどうしても不安は拭いきれない。

 俺が立ち上がると、ネルフェア、オルフェス、ベルフェも立ち上がった。


「「「フェイル様。おはようございます(~)」」」

「ああ、ガロア、フィリエさん、アイネラ、おはよう」


 俺が天幕の外に出ると、 ガロア、フィリエさん、アイネラが待っていた。

 俺が辺りを見廻すと、至る所に数体ずつが寄り集まっている姿が目に入る。


「フェイル様。こちらでお顔をお洗いください」

「ありがとうございます」


 俺がそんな光景を眺めていると、フィリエさんが俺に水瓶を差し出してくれた。

 俺はその水瓶を受け取って、顔を洗い、ネルフェアに渡された布巾で顔を拭く。

 なんでもかんでも用意周到、至れり尽くせりで、このままだと駄目人間になってしまいそうだ。


「それでは、お食事を運びますので、いつもの席でお待ちください」

「ありがとうございます」


 なんだか陽が昇り明るいうちに食事をすると思うと、悪いことをしている気分になる。

 まぁ、そう思えるうちは、元の生活に戻っても恋しく思うことはなさそうだが。

 俺は周囲を眺めながら、いつもの席に移動する。


「「お待たせしました(~)」」


 俺がいつもの席で待っていると、フィリエさんとアイネラが食事を運んできた。

 朝から元気なアイネラの声が良く響く。

 俺は運ばれてきた食事に目を向ける。


「それは、千病薯(せんびょうしょ)を練って薄く焼いたものに薄切りにした肉と茹でた神楽人参(かぐらにんじん)の葉を挟んだものでございます。本当はパンをご準備したかったのですが、妖鬼の件もあり、パンの材料となる麦が運べず、代わりに薯を使っております」


 朝の起き立てなので、軽いものを準備してくれたらしい。

 その心遣いに感謝する。

 ただ、これを食べる前に一つ確認したいことが出てきた。


「えーっと、麦を運ぶって、森にも麦があるんですか?」


 麦は農家によって栽培されているので、野生で自生しているものもあるだろうが、森に自生しているとは思えない。

 まさか魔物たちも栽培していたりするのだろうか?


「はい。この森の山脈の麓に、湧水穂(ゆうすいほ)という麦が自生しております。それを栽培している種族もおります。ただ、開けた土地が必要となるため、わたくしたちも栽培しておりますが、山脈の麓であるため、この状況では運ぶことが難しくなっております」


 いやはや、まさか自生も栽培もされているとは思わなかった。

 魔物は必要な都度、食料を捕獲しているものだと思っていたが、その認識が覆るとは思ってもいなかった。

 だが、考えてみればそうなのかもしれない。

 それなりの種族が暮らしていくためには、相応の食料が必要になる。それを毎日捕獲していれば、森の恵が豊富と言えど、いずれは枯渇する。これを回避するには縄張りを広げるしかないが、それでも、広げた先がすでに枯渇しているなんてこともあるだろう。それに、全ての種族が縄張りを広げられるわけでもない。

 そう考えると、フィリエさんたちのように知能や感情がある者が、それを想定して自分たちで栽培していないと思う方が無理がある。

 それによく考えると、北の大地には魔王がいる国がある。オルフェスたちは冥界だが、彼らも国を持ち、そこには城もあれば、服も着ている。フィリエさんはスープの作り方のみならず、天幕を造ることも知っていた。アイネラだって肉を調理することや武器に対する知識も持っていた。その上、種族を越えて協力したり、気遣いや心遣いをすることだってできる。そして、自ら麦を育て自給することを知っているとなると、最早、見た目や考え方、生活の水準が違うだけで、人間としていることは何ら変わらないのではないだろうか。

 だからこそ、俺は彼らを仲間だと思えたのだ。

 これは先入観を完全に捨てて、認識を改めなければ、魔物だ人間だと区別している場合ではないのかもしれない。

 ただ、俺は将来、ささやかでも結婚して、子供たちと賑やかに笑って暮らせる生活を望んでいるので、此処で生活をしようとは思わないが、人間も人間という種族だけに拘わらず、魔物たちと協力して、もっと知識や視野を広げていくべきだと思う。俺の力でどうこうできるわけではないが、そう思わずにはいられなかった。


「フェイル様。どうかされましたでしょうか?」

「あ、いえ、少し考え事をしていただけで、大丈夫です」

「そうでしたか。それでは、どうぞお召し上がりください」

「はい。いただきます」


 思考に耽った俺を心配して、フィリエさんが声を掛けてくれる。

 俺が考えても仕方がないことなので、俺はそれを頭から振り払った。

 今は初めての朝食というものを楽しもう。

 俺は改めてそう思い、食事に齧りついた。


「うわぁ、なんですか、これ!? 美味しいです」


 俺は噛りついた途端、思わず声を上げてしまった。

 俺は硬いパンとスープやたまに肉の切れ端といったものが常食で、このように物を挟んで食べたことがない。

 此処へ来てからは、その水準が大幅に上がったが、それでもこういう物は初めてだ。

 これは、今までと違って、噛んだ時に様々な食感が訪れる。

 そして、それを更に噛んでいくと、様々な味が混然一体となって口の中に広がってくる。

 それに、手に持って食べられるので、食べやすいのも魅力だ。

 うん。これは好きかも。


「うふふ。それほど喜んでいただけるとは、作った甲斐がございます」


 フィリエさんは、俺が一心不乱に食べる姿を見て、嬉しそうに微笑んでいる。

 いつもの食事も十二分に美味しいが、これは別の意味でも美味しい。


「いやぁ、朝からこんな食事が食べられるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます」

「そう言っていただけると、わたくしたちも嬉しくございます。フェイル様がこちらにおられる間は、心を込めて、毎日作らせていただきますね」

「はい。よろしくお願いいたします」


 あぁ、これは駄目だ。もう俺は戻れないかもしれない。

 そう思えるほどに、朝から食べた食事が美味し過ぎた。

 俺はお腹を擦りながら、気になっていた周囲の様子に目を向ける。


「早速短剣の訓練をしているんですね」

「はい。一刻も早く使い熟せる様になるのが、せめてもの恩返しですので」


 恩返しはベルフェが造ったことに対するものだろうが、そこまで思い詰めなくてもと思ってしまう。

 フィリエさんは、こういう重いところがあるので、もう少し軽く肩の力を抜いてほしいところだ。

 ただ、早く使い熟せる様になりたい気持ちは分かる。俺も新しい剣を手に入れた時は早く使ってみたくなったし。


「あっちは魔法の訓練ですか? で、あっちは弓ですね?」

「はい。どうしても教え合う関係上、全員が同時に学べませんので、交代で訓練を行っております」


 魔法の訓練は樹木の精が講師になって、灰色狼と飛妖女(ひようめ)が生徒になっている。一方、短剣の訓練は飛妖女と灰色狼が講師で樹木の精が生徒となっており、弓の訓練は全員で試行錯誤しているように見える。


「なぁ、ベルフェ。お前から見て、彼女たちの訓練はどうだ?」


 ベルフェが渋い顔で、短剣の訓練をしている者たちを見ていたので、何か思うところでもあるのか、と思い聞いてみた。


「短剣に見合った教え方ができておりませんね」

「そうか…。じゃあ、お前ならできるのか?」


 俺から見てもベルフェの言い分は正しいと思える。

 灰色狼と飛妖女が教えているが、彼らが教えているのは爪の使い方であって、短剣の使い方ではない。切るという意味では同じでも、使い方は全く異なる。

 ただ、それを見て批評するのは誰でもできる。見るのとやるのとでは全然違う。言うは易く行うは難しなのだ。

 俺がそれを指摘すると、ベルフェではなく、フィリエさんが目をキラキラさせて口を開いた。


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