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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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発展の兆し

 俺たちはヘイズさんたちと別れて、久しぶりに森へ転移した。

 まだ完全に陽が沈んでいない時間に此処へ来るのは初めてだ。おかげで、いつもより森の様子が良く見える。


「「「フェイル様、お待ちしておりました(~)」」」

「みんなも元気そうですね」

「はい。これもフェイル様のおかげでございます」


 フェイルさんとガロアとアイネラが森へ転移した俺たちを迎え入れてくれる。

 この感じも久しぶりだ。


「それで、妖鬼の方はどんな感じなんだ?」

「はい! 時折、ガロアさんの縄張りの近くまで来ますが、私たちが空を飛んでいるのを見ると、それ以上近づいてくることはありません!」


 俺がアイネラの方に視線を向けて問うと、アイネラが敬礼をして報告してくれる。

 報告によると、アイネラたちが常に飛んでいるため、それを警戒しているように思われる。


「そうか。高度は一定以上に保ってるんだよな?」

「はい。魔法の届く距離より高く飛んでます」


 それなら、取り合えずは大丈夫か。

 相手がアイネラたちを警戒しているなら、逆に彼女たちが高度を下げるのを狙っている可能性もある。


「それならいいけど、絶対、高度は下げないようにな。油断した時が一番危ないから」

「はい! 分かりました!」


 油断を誘うために、敢えて見つかって引き上げる、を繰り返している可能性もあるので、油断は禁物だ。

 相手の方が強いことは彼女たちも知っているので、油断することはないと思うが、気の緩みは避けられない。時々、こうやって注意しておくのも大事だろう。


「フェイル様。お食事の方は如何いたしましょうか? すぐにお出しすることもできますが、もう少し後がよろっしければ、それまであちらでお寛ぎいただければと思います」


 俺が、フィリエさんが『あちら』と言った先に視線を向けると、そこには天幕のようなものが造られてあった。

 森に転移した時に、目にはついていたのだが、挨拶と報告を優先して尋ねるのを忘れていた。


「あれは、フィリエさんが造ったんですか?」

「はい。手の空いた樹木の精たちに準備させました。急ごしらえでご不満かと存じますが、雨風は凌げるようにしておりますので、無いよりはあった方が良いかと思いまして」

「いえ、充分凄いですよ。助かります」

「そう言っていただけると、皆も喜びます」


 その天幕は、人の背丈より高さがある円柱状の壁体の上に、三角錐のような屋根がついている。

 見た目は天幕だが、大きさはかなりある。

 中を見てみないことには、はっきりしたことは言えないが、四、五人が余裕で寝られそうだ。

 俺たちが森へ来ていた時に雨が降ったことはないが、森の天気は移ろいやすく、いつ雨が降ってきてもおかしくない。そんなところまで気遣って準備してくれた天幕に、感謝こそすれ文句を言うなど、あり得ない。

 しかも、此処で二泊ほどするとは言ってあったものの、野晒しで寝ることを想定していたので、その心遣いが身に染みる。


「じゃあ、食事は陽が沈んでからで良いので、それまであそこで待たせてもらいますね」

「はい。では、ご案内させていただきます」


 折角なので、中を見学するついでに寛がせてもらうことにした。

 フィリエさんの後に続いて天幕に近づいて分かったが、外装は綺麗に葉を織り込んで造られているようだ。

 遠目から緑色をしていたので、草などを使っていることは分かっていたが、まさかここまで丁寧な造りになっているとは思わなかった。

 そして、フィリエさんがその天幕の前に立つと、以前預けた箱が仕舞ってある祠のように、フィリエさんの正面部分の葉が解けて、入り口のように開いていった。


「フェイル様、どうぞお入りください。靴を脱いでお上がりいただければ、よりお寛ぎいただけるかと存じます」


 フィリエさんが入口の前で、丁寧にお辞儀をして俺たちを中に誘ってくれる。

 俺はそれに倣い、天幕の入り口までいくと再び驚かされた。

 俺の目に飛び込んできたのは、天幕の中の地面がむき出しの状態ではなく、一面に外装と同じように葉で織られた敷物が敷かれている光景だった。しかも、その織り込みは外装よりも細かく、織り目も揃っている。

 確かにこれは、靴のまま入るのは気が引けるな。

 それを見た俺は、敷物を汚さないように入口で靴を脱いで、足を踏み入れた。


「ふぇ!?」


 足を踏み入れて、最初に出た俺の言葉がこれである。

 何故、こんな声が出たかと言うと、敷物に足が沈み込んだからだ。しかも、ふわっという感じで沈み込み、適度に弾力性まである。

 敷物が地面より少し高くなっているとは思ったが、流石にこれは予想外だった。


「あ、フェイル様、申し訳ございません。ご説明を忘れておりました」


 俺が驚いたことを見たフィリエさんが、慌てて頭を下げて謝ってきた。


「いや、謝る必要はありませんよ。それより、これってどうなっているんですか?」

「寛大なお心遣い、感謝いたします。それは、皆様が座られたりお休みされた際に、痛くないよう、浮遊草(ふゆうそう)の葉を敷き詰めてあるのでございます」


 俺が足元を踏みしめながら尋ねると、俺が聞いたことがない草の名前が返ってきた。


「浮遊草?」

「はい。浮遊草というのは人間が乗れるほどの大きな葉を持ち、その葉は弾性が強く、その上に乗ると浮いているように感じることから、そのような名が付いております」


 なるほど。それは是非とも乗ってみたい。

 この葉の織物の下にも、適度な細さに切った浮遊草が敷き詰められているらしいが、人間が乗れるなら乗ってみたいと思うのは、絶対に避けては通れない道ではないだろうか。


「それは面白そうですね。その浮遊草は、この辺りにも生えてるんですよね?」

「はい。此処より少し北に行った沼地に群生しております」


 うん。思った通りだ。

 この下に浮遊草が敷かれているので、近くに生えていると思ったが間違いなかった。

 明後日の夕刻まではこの森にいるので、その間の楽しみが一つできた。

 俺がそんな楽しみを見出し、天幕の中心まで進んで腰を下ろすと、オルフェスたちも俺の前に座る。

 そこで、改めて天幕の中を見廻してみた。

 天幕の構造は、中央に一本の主支柱があり、それよりも低い何本もの柱が主支柱を取り囲むように設置されている。そして、これらの柱の先端から主支柱の先端へ向けてと、柱同士を結ぶように横木が渡されていた。その骨組みの外側を囲むように外装が張られているといった構造だ。

 天幕というには頑丈な造りで、少し凝り過ぎている気もするが、その分快適な空間になっていた。


「それでは、お飲み物をお持ちしますね」


 俺たちが座って落ち着いことを見計らって、フィリエさんが一旦、外に出ていく。

 そして、少し大きめの盆に飲み物を乗せて持ってくると、俺たちの前に置いてくれた。


「これは、山猿梨(やまさるなし)という果実を絞った飲み物になります」


 山猿梨は俺も知っている。これは森に入ればそれなりに見かける木で、その実は甘く庶民でも手の届く値段で売られていたりする。ただ、俺は甘味などの贅沢品は買ったことがないので、味までは知らないが。


「ありがとうございます。いただきますね」


 俺はフィリエさんに一声お礼を言って、それを口にする。

 山猿梨の飲み物を口に含むと濃、厚な甘みが口の中に広がってくる。ただ、濃厚な甘みといっても、しつこくもなくすっきりとした後味になっている。

 うん、これは美味しい。初めて飲んだが、これは疲れた時に飲んでも良いと思う。


「これも美味しいですね」

「お気に召していただけたようで、何よりでございます」


 俺の満足そうな顔を見て、フィリエさんも嬉しそうにしている。

 それにしても、フィリエさんにはいつも、いろんな飲食物をご馳走になっている気がする。

 いや。飲食物だけじゃないな。

 妖鬼の関係で遠出ができない中でも、こんな立派な天幕や飲み物を準備してくれているのだ。そこにはきっとガロアやアイネラも協力してくれているのだろう。

 これは何かお返しを考えた方が良いかもしれない。


「フェイル様~。フィリエちゃんたちが造った此処の居心地はどうですか~?」


 俺がこいつらに何かできることはないか、と考えていたところに、アイネラが外から覗き込んできた。

 俺に声を掛けたアイネラは、繁々と中の様子を見廻している。


「うん? アイネラは中を見たことがなかったのか?」

「はい。フェイル様たちより先に見ることはできませんし、それに私は靴も履いてなくて、脚の爪もこの通りですから」


 アイネラは苦笑しながら自分の脚を見て、ここへ入れない理由を告げてきた。

 なるほど。アイネラの脚の爪は鉤爪のように鋭利なので、この敷物を傷付けるとでも思っているのだろう。

 しかし、フィリエさんたちがこれだけの物を造ってくれたのに、俺たちだけしか利用できないのは勿体ない。


「なぁ、ベルフェ。アイネラの脚に合うような靴って造れないか? できれば底が硬くなくて、この敷物を傷付けないものを頼みたいんだけど?」

「はい。もちろん造れます」


 ベルフェは俺の言葉に、ちらっとアイネラの脚を見てから答えてきた。

 さすがベルフェだ。今回も、こういうことはベルフェに頼めば何とかなる、という俺の期待を裏切らなかった。


「じゃあ、頼めるか?」

「はい。お任せください」


 ベルフェは素早く立ち上がると、アイネラの方に向かって歩いていく。

 そして、アイネラの脚の先を前と横から何度か見た。

 その後、その場にすっと屈むと、アイネラの前に靴を置いた。ただ、それは靴というよりは縦長の巾着袋みたいな形状をしている。


「これでいいでしょう。履いてみてください」


 ベルフェに声を掛けられたアイネラは、状況に付いていけていないように見受けられる。

 不思議そうな顔で、俺とベルフェと目の前の靴を何度も順番に見ている。


「アイネラ。それを履いて入って来たらいいぞ。それなら脚の爪を気にしなくても良いだろ」

「フェイル様、本当にいいんですか?」


 俺の言葉に、アイネラはまだ不安を拭いきれないのか、今度は、俺とフィリエさんを交互に見始めた。

 そんなアイネラに対して、フィリエさんは微笑みながら頷いた。

 それを見たアイネラの顔が、ぱぁっと明るくなっていく。


「フェイル様、ベルフェ様、ありがとうございます。フィリエちゃんも、ありがとう」


 アイネラは俺たちに一度頭を下げると、素早く靴を履いて、爪がちゃんと隠れていることを確認してから、中に入ってきた。


「うわぁ、ふわふわ!」


 アイネラはふわふわな敷物が面白いのか、敷物の感触を確かめるように歩いてくる。

 しかし、それを見ているフィリエさんが、先程の笑顔とは一転、アイネラの靴を見ながら難しい顔をしている。

 アイネラの後ろにいるので、アイネラからは見えていないはずだが、俺からははっきりとその顔が見えた。

 アイネラが中に入ったことに対してではないだろうが、このまま放置するのも良くない気がする。

 この顔をアイネラが見たら不安に思ってしまうだろう。


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