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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第二章

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婚約の祝い

 俺たちが外の騒めきを聞いていると、幌馬車の骨組みが外から二回叩かれた。

 それに答えるように、ヘイズさんも中なら骨組みを二回叩く。

 それを合図に、外の騎士から『フェール、出てこい!』という声が聞こえてきた。


「フェイル様。では、行きましょうか」

「はい。分かりました」


 俺は外からの声と、ヘイズさんの言葉に従い立ち上がると、馬車から外へ出る。

 そこには見渡す限り広大な草原に、大きな天幕が二つ設営されていた。

 空は赤く染まりかけているが、まだ陽は沈んでおらず、それなりに明るい。

 俺はもう一度草原を見渡してみる。だが、見える範囲に、此処にいる騎士以外の人影は見当たらない。


「フェール、歩け!」


 俺は騎士の言葉に従い歩みを進めた。

 連れて行かれたのは、設営されている天幕のうちの一つだ。

 天幕を開け、俺たちが天幕に入ると其処には数人の騎士と四人の男女がいた。

 四人の男女の内、男性が三人、女性が一人。男性の一人は冒険者然とした服を着ており、残りの男性は黒の燕尾服と白のカソックを着ている。そして、最後の一人の女性は赤いドレスを身に纏っていた。


「フェイル様。先程は失礼いたしました」


 俺の背後から一人の騎士が進み出てきて、頭を下げてきた。

 彼は、先程俺に『歩け』と命じた騎士だ。


「いえ、お気になさらないでください。俺は何も気にしていませんので」

「そう言っていただけると、助かります」


 俺の言葉に、その騎士が『ほっ』と息をつく。

 これも魔法師団長の考えた作戦の一つだし、巻き込んでいる俺が不愉快に思うことなど一切ない。

 それが分かっていても、オルフェスたちがいるので、緊張してしまうのだろう。

 天幕の中にいる他の人たちにも張り詰めたものを感じる。


「俺たちの代役は、この方たちですか?」


 俺は天幕の中にいる四人を視認しながら、ヘイズさんに尋ねた。

 見た目に間違いないのだが、この張り詰めた空気をなんとかしたかったために、無難な言葉を選んだ結果、こうなってしまった。


「はい。彼らが此処からフェイル様方の代役を演じる者たちです」

「この度、フェイル様の代役を仰せつかったガルフと申します。第三部隊に所属しております」

「オルフェス様の代役を仰せつかったペリズと申します。同じく第三部隊に所属しております」

「ベルフェ様の代役を仰せつかったポルグと申します。同じく第三部隊に所属しております」

「ネルフェア様の代役を仰せつかったシリエと申します。私は第四部隊に所属しております」


 彼らは、俺の方に向かって一歩踏み出すと、名乗りを上げて頭を下げてきた。

 頭を下げてもらう必要はないのだが、これを言っても今更な気がする。

 ただそれより、俺はシリエさんだけ所属が違うことに首を傾げた。

 他の人たちは第三部隊と言ったので、ヘイズさんの部下だと理解できるが、何故、彼女だけ所属が違うのだろう? 他にも所属が違う人がいるのだろうか?


「私の部隊は男性ばかりでして、女性がいないのです。このため、彼女だけ第四部隊より借りしました」


 俺が不思議そうしているのを見て、ヘイズさんが答えてくれた。

 第四部隊は女性のみで構成された部隊で、それ以外の部隊には基本的に女性がいないらしい。

 このため、女性が必要な任務の時は、第四部隊から招集されることになっているそうだ。


「それじゃあ、第四部隊長にも情報が知らされてるんですね」

「いえ、今回の件は第四部隊長には知らせておりません。第四部隊は特殊な部隊となるため、情報が知らされない場合も多いのです。この場合は、騎士団長自ら人選を行い招集されることにます」


 俺が思ったことを口にすると、ヘイズさんがそれを正してきた。

 確かに、女性の騎士が必要な作戦の全てを第四部隊長が知るのは問題なのかもしれない。

 相手からすれば、第四部隊長を抑えれば情報を得放題ということになる。これでは常に第四部隊長の身が狙われてしまう。


「そうですか。それじゃあ、シリエさんは極秘任務で同じ部隊の方がいらっしゃらないんですね。こんな危険な任務に就かせてしまってすみません」

「あ、いえ、頭をお下げにならないでください! 私はこの任務に選出されてことを誇りに思っております。それに、第三部隊とは時折合同演習もしておりますので、顔見知りも多いですから、どうか頭をお上げください」


 ここにいる人たちもそうだが、俺はいろいろな人たちを巻き込んでいることを実感して、居ても立っても居られず頭を下げた。

 しかし、慌てたようにシリエさんがそれを止めてくる。

 ヘイズさんも言っていたが、彼女たちからすれば誉ある仕事なのだろうが、俺からすればそうではない。


「フェイル様。頭を上げてください。本来なら、フェイル様方にはこの国にいていただきたいのです。フェイル様方のようにお強い方たちが味方なら安心できますからね。しかし、この国の腐った者たちの所為で、フェイル様を他国へ追いやらねばらぬ、私たちの方が不甲斐ないのです。ですからどうか、その頭を上げてください」


 一向に頭を上げない俺に、ヘイズさんがシリエさんに追随する。

 その言葉から、王様にしてもそうだが、騎士団長や魔法師団長、それにヘイズさんを含め此処にいる人たちの、この国に対する憂いが伝わってくる。

 俺たち底辺の庶民が国の憂いを感じることがないのも、きっとこういう人たちに守られていたからなのだと、今なら分かる。だからこそ、頭が上げられない。


「それに、寧ろシリエは、ポルグと一緒の任務で喜んでるくらいですから、本当に気にしないでください」

「え? あ? へ、ヘイズ隊長! そ、それは、言っちゃ駄目なやつです!」


 俺がその言葉に驚いて顔を上げると、シリエさんは顔を真っ赤にして右往左往していた。

 周りの騎士たちが、それを見て笑っている。


「こいつらは、この任務が終われば式を挙げるんですよ。ですから、絶対に生きて返します。そのためには、例え暴漢が襲ってきても、絶対返り討ちにしてみせますから、安心してください」


 ヘイズさんが二人を茶化しているように聞こえるが、その言葉からは強い意志を感じる。

 彼女たちの結婚が決まっているなら、尚更、生きて返ってもらいたい。

 本当なら、結婚前の二人をこんな危険な任務に就かせないでくれと言いたいが、これが彼らの任務だというのなら、俺には止めることはできない。ただ、どうか彼らの生きるという強い意志に、天が応えてくれることを願うばかりだ。


「隊長。それは嬉しいですけど、それだけじゃなくて、俺たちの存在意義を見せつけるためだと言ってください」

「ああ、そうだな」


 ポルグさんは、シリエさんとは異なり恨めし気な顔で、茶化すヘイズさんに苦言を呈している。

 これにはヘイズさんも返す言葉がないのか、頭を掻きながら苦笑いした。


「ポルグ、照れるな照れるな」

「なっ! ぺリズ、煩いぞ!」


 ポルグさんの正論を照れているからと思ったのか、ぺリズさんがポルグさんの肩に肘を載せて茶化し始めた。

 それに焦りを見せたポルグさんが応戦している。

 周りではそれを見て、みんなが笑いを堪えていた。


「おい、お前たち、フェイル様たちの前だぞ。騒ぎ過ぎだ。フェイル様、すみません」

「あ、すいませんでした。ほら、ぺリズ、お前も頭を下げろ」

「ああ、そうだな。騒いでしまい、すみませんでした」


 この二人を止めたのは、ガルフさんだ。

 二人の返答から、どうもガルフさんは彼らより先輩のようだ。

 ガルフさんが頭を下げたことで、そのガルフさんに咎められた二人も、俺に対して頭を下げてきた。


「あ、いえ、気にしないでください。そんなことより、皆さん仲が良さそうですね」

「はい。大切な仲間です」

「はい。少し能天気でちょっとお節介な奴ですが、…いい奴です」

「おい。そこは、いい奴だけでいいだろ」

「いや、そこは、ちゃんと言っとかないとだろ」

「あ、いて」「いて」


 また騒ぎ出した二人を、ガルフさんが拳骨で頭を軽く叩いて黙らせている。

 彼らの会話から、気心が知れた仲なのが窺える。

 周りの騎士たちもついに堪えきれなくなって、笑い出してしまった。

 うん。なんとも微笑ましい光景だ。

 そこには俺の目指す先があった。俺もこんな風に、分かり合える仲間たちに恵まれて、共に楽しく生きられたら幸せだろう。そう思わずにはいられない景色が繰り広げられていた。

 俺にも魔物の仲間ならいるのだが、人間の国で暮らすことを考えれば人間の仲間が欲しい。

 俺は改まって、みんなに祝福されている二人の方に体を向ける。


「ポルグさん、シリエさん、おめでとうございます。結婚式の時は、是非とも俺からも何か贈らせてください」

「ありがとうございます。その時は是非、赤髪猪の肉をお願いします」

「ええ、分かりました。その時は、魔法師団長か騎士団長を通じて、こっそりとお贈りします」

「はい。楽しみにしております」


 ポルグさんも赤髪猪の肉を食べたいらしい。いい笑顔で求められてしまった。

 俺は行方不明になるので大っぴらに贈り物はできないが、騎士団長か魔法師団長経由なら可能だろう。

 この作戦の途中にでも、魔法師団長と渡し方を詰めればいい。

 それにしても、俺の森での食事はどこまで広がっているのだろう? そっちの方が不安になるな。


「それじゃあ、お前たち。赤髪猪を食べるためにも、暴漢を蹴散らして帰るぞ!」

「「「分かりました!」」」


 何故か、これに気を良くしたヘイズさんが、みんなに向かって気合を入れた。

 なんだか赤髪猪が目的に摺り替わっている気がしないでもないが、彼らの強い意思だけは伝わってくる。

 これは結婚式に関係なく、他の食材も贈った方が良いかも。

 俺は心の中で苦笑しながら、贈る食材を見繕っておいた。


「それでは、俺たちは此処で失礼します。皆さんも気をつけてください。また、何処かで会えることを楽しみにしています」

「はい。それでは、フェイル様もお気をつけください。また、何処かでお会いした際は、こっそりとお声掛けしてくだされば、いつでもお付き合いしますので」


 ヘイズさんは、片眼を閉じながら、手で酒を飲む仕草をする。

 俺は今までお酒を飲む余裕なんてなかったが、これは楽しいお酒が飲めるようになっておかないと、ヘイズさんに付き合えそうにないな。


「はい。ありがとうございます。その時は、美味しい物を準備して、冒険者のフェイルとして堂々と声を掛けられるようにしておきますね」

「ええ、楽しみにしております」


 俺たちの代役が準備されていることからも分かる通り、俺たちは此処で皆さんとお別れすることになっている。

 彼らは『フェール』という人間を行方不明にするための偽装として準備された。

 俺は此処で馬車を乗り換えて、彼らの向かう先とは別の場所に向かう。

 こうすることで、俺が別の国に現れても、俺が『フェール』だと結び付かないようにするための工作だ。

 ただ、俺としては、より安全に俺を国外に導くための囮として彼らが用意されたと思っている。

 だからこそ、皆さんの無事を祈り、再会を別れの言葉にした。


 こうして最後の挨拶を交わした後、俺たちはそのまま森へ転移する。

 此処へ戻ってくるのは二日後だ。俺たちが二日後に此処へ戻って来た時に、魔法師団長が乗った馬車がいる手筈になっている。

 それまで俺たちは森で生活をすることになる。これだけ長い間森で生活するのは初めてなので、少しばかりワクワクもするが、森は森で妖鬼の件があるので、きっと落ち着いてはいられないだろう。

 それにしても、俺が森で食事をしていることまで含めて、この作戦を立案した魔法師団長には脱帽しかないな。


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