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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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組別対抗戦勃発

 アイネラは自分の掌を見つめながら、眉間に皺を寄せて『うぅぅぅ』と唸りだした。


「アイネラ殿は魔法陣に意識を向け過ぎでございます。もっと自分の魔力を意識してみてくださいませ」

「フィリエちゃん、ありがとう。やってみるね」


 横でアイネラを見ていたフィリエさんが、たまらずアイネラに魔法陣の描き方を教示し始めた。

 俺には他人の魔力が見えないので、アイネラが皺よ寄せて唸っていた理由が分からなかったのだが、どうも魔法陣を描こうとしていたみたいだ。


「あはは。アイネラが魔法陣を描けるようになるのが先か、俺が魔晶石より小さな魔法陣を描けるようになるのが先か、どっちが早いか勝負だな」


 俺はアイネラが魔法陣に苦戦しているのを見て、それに共感を覚えてしまった。

 だがそのために、つい口に出してしまった言葉が、予想外の結果を招いてしまう。


「え!? それって私が勝てば、フェイル様が何かご褒美をくださるんですか!?」


 俺の言葉に、アイネラが目をキラキラさせながら身を乗り出して問うてきた。


「お、おう…、何かあるのか…?」


 アイネラの勢いに押されて、俺は望みがあるのか問い返してしまう。


「はい! 私はフェイル様と空のお散歩がしたいです!」

「なっ!」


 アイネラの希望を聞いて、俺の横でネルフェアが眼を見開いて絶句している。

 そう言えば、以前、ネルフェアにも夜空の散歩に誘われたっけ。あの時は、ネルフェアに抱きかかえられるのが恥ずかしくて断ったが、それを思い出させてしまったようだ。


「あ~、アイネラ。申し訳ないけど、俺は空を飛べないので、他のにしてくれ」


 今回のアイネラの要望を受けてしまうと、俺が負けた時に、俺はアイネラに抱きかかえれることになる。

 それは、ネルフェアの時と同様、恥ずかしさに耐えられない。

 それに、もしそんなことになれば、きっとネルフェアが黙っていないだろう。


「そうですか…。あ、じゃあ、私はフェイル様が魔物を狩っているところを見たいです!」


 俺が望みを却下すると、アイネラは少し寂しそうに俯いたが、すぐに気を取り直して別の望みを告げてきた。

 こういう立ち直りが早いところもネルフェアに似ている。

 俺もうじうじ悩まれるのは好きではないので、この切り替えの速さには好感が持てる。


「ああ、それならいいぞ」

「フェイル様。なら、我も参加してよろしいでしょうか?」


 そこへ、何故かガロアが尻尾を思いっ切り振って、参戦表明をしてきた。


「ガロアも魔法が苦手なのか? 」

「はい。我はフェイル様が砂蜥蜴を狩るところを見たいです!」


 ガロアにはまだ許可を出していないのに、勢いあまって自分の望みまで言ってきた。

 そう言えば、ガロアは以前、オルフェスが砂蜥蜴を狩ったのを見て、えらく感動していたな。

 砂蜥蜴は少し硬そうだけど、あれなら俺でもなんとかなるだろう。もし力加減を間違って吹き飛ばしても、頭を狙っておけば、食べられる部分は残りそうだしな。


「ああ、いいぞ」

「ありがとうございます。アイネラ殿、共に頑張りましょう!」

「うん。ガロアさん、頑張ろうね! フィリエちゃんも魔法陣の描き方をもっと教えてね!」

「ははは。フィリエ殿。我もお願いする」

「はい。分かりました」


 俺が許可を出した途端、どういう訳か、ガロア、フィリエ、アイネラの共同戦線ができあがってしまった。


「オルフェス。俺たちも負けないように頑張るぞ」

「はい。分かりました」

「では、わたくしはフェイル様を応援します!」

「ええ、フェイル様の実力を皆に見せる良い機会でしょう。私も応援させていただきます」


 俺がガロアたちに負けないようにオルフェスに声を掛けると、ネルフェアとベルフェも加わってきた。

 とはいっても、ネルフェアとベルフェは応援だけだけど。それでも心強い気分になる。


「さて。それじゃあ、勝負だ!」

「「「はい。負けません!」」」


  こういう勝負も、なんだかわくわくして楽しい。

 どうせやるなら、楽しんだ方が遣り甲斐も出て、力も入る。

 今は妖鬼の件もあるので、これにばかり集中されても困るが、だからといって楽しみがないのも虚しいからな。

 俺は特にガロアやアイネラに望むものはないが、この楽しさをくれるだけで充分だ。

 こうして予想もしていなかった森組と牢屋組の対抗戦が始まりを告げた。


 ◇ ◆ ◇


 対抗戦が開始した翌日、俺は夕方近くに起きると、早速、魔法陣の縮小化に取り組んだ。

 まずは、魔法陣を意識せずに綺麗に描くところから始めてみる。

 これができなければ、魔法陣の線を細くすることに集中できないのではと思ったのだ。

 意識をせずに描くためには、慣れるのが一番だと考えて反復練習に専念する。

 しかし、これが意外と難しい。


「なぁ、オルフェス。魔法陣を意識せずに描く秘訣とかないのか?」

「秘訣ですか? そういうのは、あまり意識したことがないですね」


 オルフェスに秘訣を聞いてみるが、素っ気ない返事が返ってきてしまった。

 特に意識していないからこそ、あれだけ早く描けるとも言えるので、ごもっともという感じの返答だ。


「そうか。やっぱり繰り返し描いて慣れるしかないよな…」

「う~ん。慣れとも違う気が気がすんですけど、慣れと言えばそうなんですかね?」


 なんとも曖昧な答えで、良く分からない。

 言語化できない何かがあるということなのだろうか?

 意識していないものを、説明するのが難しいというのもあるかもしれない。


「ありがとう。取り合えず、繰り返してみるよ。それで何か分かるかもしれないな」

「ええ、そうですね。俺も考えてみて何か思いついたら、お教えしますね」

「ああ、頼む」


 それから、森へ行くまでの時間を魔法陣を描くことに費やした。

 その間、オルフェスも考えてくれていたが、良い方法は思いつかなったようだ。

 ネルフェアとベルフェは、俺の隣で応援してくれていたが、正直、技術的な面では役に立っていない。まぁ、いつも通りというやつである。


「フェイル様、そろそろ森へ行きますか?」

「ああ、もうそんな時間か」


 俺はオルフェスに声を掛けられて、小窓の外を見る。

 すでに日も暮れて、外の喧騒も聞こえてこなくなっていた。

 これは、もしかしてガロアとアイネラに負けたかも。と思いながら、俺たちは森へ転移した。


「「「フェイル様、お待ちしておりました(~)」」」

「ああ、今日もよろしく頼みますね。それで、アイネラ。妖鬼に何か動きはあるか?」

「今日のところはありません!」


 見回り担当のアイネラがびしっと敬礼しながら報告してきた。

 急ぎ気になったことを確認してみたが、アイネラの返答で少し気を楽にする。


「そうか。なら良かった。でも、油断せずにな」

「はい! 了解しております!」


 アイネラが元気過ぎて少し不安になるが、『ああ、それならいい』と一言返しておく。

 こいつも一度、縄張りを奪われているので、油断をすることはないだろう。


「それでは、フェイル様。食事をお持ちしますので、お席の方でお待ちくださいませ。皆様方もご一緒にお席の方でお待ちください」


 いつもの通りの簡単な挨拶と状況報告を聞いて、俺は席へ移動して食事が運ばれてくるのを待つ。

 これもすっかり慣れてしまった。俺も意外と順応性が高いな、と心の中で自画自賛してみる。

 この順応性が魔法陣の縮小化にも役立てられれば良いのだけど。


「「お待ちしました(~)」


 程なくすると、昨日と同じように王室の給仕と酒場の給仕が食事を運んできてくれた。

 フィリエさんとアイネラを見て、アイネラの順応性が高いことに感心する。こいつは間違いなく俺以上だな。


「今は妖鬼の件もあり、あまり遠出ができないもので、代り映えがございませんがご容赦ください」


 フィリエさんが俺に食事を差し出しながら、謝罪してきた。

 これも、俺が昨日言った指示をちゃんと守っている結果なので、寧ろ、それが安心できる。


「いえ、いつもの食事でも充分過ぎるほどなので、気にする必要はないですよ。それよりも、みんなの安全が守られている方が俺にとっては大事ですから」

「過分なお心遣い、感謝いたします」


 今日は、見慣れた食事になっている。

 これは赤髪猪かな。これでも俺にとっては充分過ぎるご馳走だ。

 それに、スープには相変わらずたくさんの具材が入っている。

 俺は出された食事を残さず綺麗に胃袋に収めた。うん。大満足。

 俺たちが食事を終えて寛ぎ始めた頃に、ガロアも合流してきた。


「それで、ガロアとアイネラは魔法陣が描けるようになったのか?」


 俺は早速とばかりに敵情視察を開始した。

 実際のところは、こいつらが少しでも早く魔法陣を描けるようになることを期待していたりもする。

 というのも、妖鬼対策には役に立たなくても、いざという時の武器にはなるので、身を守るためにも身につけておいて欲しいと思うからだ。


「うぅ~。まだです~」

「我もまだです」


 俺の問い掛けに、アイネラとガロアがしょんぼりと肩を落とした。


「フェイル様はどうなんですか?」

「う~ん。俺も駄目だな。少しは早く描けるようになったけど、縮小化はまだまだだ」

「フェイル様も苦労されているんですね。魔法陣って本当に難しいですよね…」

「ああ、同感だな。これを意識しないで描いている方が、おかしいんだよ」

「ですよね! フェイル様もそう思われますよね!」

「ああ、もちろんだ。アイネラ、俺たちも負けないように頑張ろうな!」

「はい。フェイル様、頑張りましょう!」


 俺とアイネラはお互いを励まし合って、じっとりとした眼差しをオルフェスたちの方へ向けた。


「フェイル様。それだとフェイル様とアイネラたちの対抗戦じゃなくて、できてる者とできていない者の戦いになってますよ」


 オルフェスは俺たちの視線を受けて、呆れたように苦笑しながら指摘してくる。

 そんなことは分かってますよ。でも、この気持ちはできない者にしか分からないんだよ。


「そう言えば、お前たち以外も魔法の練習を始めたのか?」


 俺は結界内に散らばっている魔物たちの方に視線を向けながら尋ねてみた。

 魔物たちは、樹木の精一体か二体に、灰色狼と飛妖女(ひようめ)が一体ずつで一組になって、散らばっている。


「はい。我とアイネラ殿に触発されて皆が始めたようです」

「へぇ~。みんな頑張ってるんだな。俺たちも頑張らないと」

「はい。彼らに負けるわけに行きませんからね」


 俺たちの対抗戦が、此処にいる魔物たちにも広まっているようだ。

 ガロアの言う通りだ。言い出した俺たちが負けるわけにはいかない。

 その後俺たちは、みんなの様子を窺いながら、森でも魔法陣の練習をしてから牢屋に帰った。


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