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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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通信の魔晶石

「それほど重要な情報なんですか?」

「機密情報ですのでな。とはいえ、今はその通信の技術も失われて、残っているのは少量の魔晶石だけですがな」

「え? 失われたんですか?」


 てっきり俺が知らなかっただけで、念話自体は使えると思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 孤児院や俺の周りに関係なく、そもそも誰も知らないのなら、教えられていなくても当然だ。


「ええ、通信をご存じであれば隠しても仕方ないので、お話しましょう」


 そこから、通信の魔法が失われた経緯や機密情報になっている事情を王様が教えてくれた。

 通信の技術は、百数十年程前に此の世から失われているらしい。そもそもの原因は魔晶石が採取できなくなったことが原因のようだ。それ以降、通信は王族が独占することになったが、それにより、その技術を持つ者が次々に減っていったということだ。その上、通信は犯罪者や他国から忌み嫌われるものであるため、その技術を持つ者の命は当然の如く常に狙われる。数が減れば狙う的も減る。その結果、百数十年程前にその技術を持つ者がいなくなり、継承されることもなく途絶えてしまったみたいだ。

 しかし、世の中は広い。もしかしたら、何処かに生き残っている者がいる可能性もある。その者を国が保護できればいいが、もし、犯罪者や他国に流れれば国としては目も当てられない。ただし、救いもある。それは通信には魔晶石が必須だということだ。その魔晶石は現在確認されている限り、他国を含めても十個にも満たない数しか現存しないそうだ。それを奪われない限り、少なくとも犯罪者に悪用される可能性は低くなる。それを踏まえると、これを秘匿するのは当然の流れというわけだ。


 うん。俺はとんでもない物を貰っていたようだ。

 しかも、王様が確認できている数より多くの魔晶石を、だ。

 俺はアイネラから受け取った小袋の中身を思い出してみる。どう考えても二十個はあったよな。

 しかも、オルフェスたちは通信の魔法陣を知っているに違いない。それを教えてもらえば、俺も魔晶石に魔法陣を刻むことができる気がする。

 あら不思議。俺の手の中に失われたはずの通信の魔晶石がありました、なんて、どう考えても笑えない。

 とはいえ、俺が国外に行くために協力してくれる人たちが、万が一危険に晒された際に、それを救う術があるのにそれを使わないなど、到底俺にできるはずもなく。


『なぁ、オルフェス。お前は通信の魔法陣を知ってたりするか?』


 俺は念のためオルフェスに念話で確認してみた。

 恐らく、昨日の感じでは知っていると思っているが、確認しておいて損はない。

 そもそもオルフェスが知らなければ、魔晶石に通信の魔法陣を刻めないしな。


『はい。存じております』

『分かった。ありがとう』


 やっぱり知っていたようだ。

 俺は端的にそれだけ確認すると念話を切って、王様に向かって口を開く。


「そのような重要な情報を教えていただいて、ありがとうございます。それじゃあ、俺がその通信の魔晶石を準備してみます」

「なんですと!? フェイル殿は、通信の技術をご存じなのか!?」


 俺の提案に王様が驚愕の表情を浮かべている。

 後ろにいる魔法師団長や騎士団長、ギルド長も一様に目を見開き、驚きを露にしている。

 百数十年も前に失われた技術が突然目の前に現れれば、誰でもそうなるだろう。

 オルフェスたちが通信を知っていても、まさか魔法陣まで知っているとは思わなかったようだ。

 人間が使っているところを見ても、こいつらがそれを使うかと言うと、それはまた別の話なので、そう思っても不思議はない。


「いえ、まだ手元にあるわけじゃないので、確約はできないんですけど、でも、大丈夫だと思います」


 実際には魔晶石はあるが、通信の魔法陣が刻まれているわけではないので、嘘ではない。

 本当なら通信の魔法陣を刻んでから言うべきなのだろうが、それだと王様やここにいる皆さんに伝えずに騎士の方たちに渡すことになりそうなので、ここで言っておいた方が良いと判断してのことだ。


「それは、大変ありがたいことですが、本当によろしいのですかな?」

「ええ。それで協力していただける騎士の方たちの危険が減るのなら、何の問題もありません。それに、もし通信が知られても、狙われるのは俺ですしね。今更です」


 俺はすでに狙ている身だ。国内にいるうちは通信を知られても大きな差はない。

 それに、国外に出てしまえば、フェールは行方不明になるので、追いたくても追えなくなる。


「しかし、まだ襲われると決まったわけではございませんぞ」

「それならそれで、使わなくても、その後はガレリックさんにでも持っておいてもらってください。どの道通信できる相手は俺なんで、ガレリックさんが持ってる分には安心です。それに、まだ準備できるかは分かりませんので」


 魔法師団長には、最初の事情聴取の時から良くしてもらっている。

 そういう意味では、騎士団長でも良かったのだが、俺との話し合いを仕切っていたのが魔法師団長なので、その方が良いと思っただけだ。

 それにまだ、魔法陣があってもそれを俺が刻めるかは分かっていない。たぶん、大丈夫だろうけど。


「そうでしたな…。分かりました。それでは、その際はガレリックに持たせておきましょう。ガレリック、聞いた通りだ。通信の魔晶石を持つ騎士を厳選し、決して情報が漏れぬようにせよ。その後、其方が厳重に所持するのだ」

「は! かしこまりましたですじゃ。それにしても、大変な任務を授かってしまいまたの…」

「そう言うでない。これは我が国においても最重要事項だ。それにフェイル殿のご指名でもあるのだぞ。名誉なことと思え」

「そうでござりますね。心してことに当たらせていただきますじゃ」


 これで通信手段の目途も立ったので、あとは、いつ出発するかだ。

 これを決めておかないと、ガロアやフィリエさんたちも困るだろう。

 食事の準備は意外と手間だし、それに俺たちが森へ行くと彼女たちの気も休まらないと思える。


「それで、いつ出発すことになりますか?」

「ふむ。ガレリック、いつになりそうだ?」

「はい。諸々の準備を含めると、四日後の明朝が妥当だと考えておりますじゃ」

「四日後か。それまでフェイル殿たちに牢屋にいてもらうことになる。もう少し早められんのか?」

「あ、俺たちは四日後でも問題ありません。作戦を考えても慎重に動いた方が俺たちも安心できますので」


 魔法師団長が提示した日時に、王様が不満を口にした。

 俺たちへの気遣いもあるのだろうが、王様としても早く俺たちに国外へ行って欲しいと思っているのだろう。

 ただ、今回の作戦を考えると、早急にことを進めない方が良い気がする。

 それに俺たちの牢屋暮らしもそれなりに長くなっているので、今では一番落ち着ける場所になっている。

 街には噂が蔓延っているだろうし、森は楽しいが、何故か日常的に騒動が起きている。それに、ここには王様がいて終始気が抜ける状況じゃない。俺の考え得る限り、牢屋以上に静かな場所が見当たらないんだよな。


「分かりました。フェイル殿がよろしければ、四日後といたしましょう」

「はい。よろしくお願いいたします」


 これで一通りの話は済んだだろうか?

 国民証と冒険者登録証もあるし作戦も理解した。通信の魔晶石による保険も目途が立っている。

 うん。大丈夫そうだな。


「そ…」

「あ、そうであった。もう一つ、確認しておかねばならぬことがございました」


 俺が退室の言葉を発しようとした途端、王様はそれを遮るように声を出した。

 まだ何か確認事項があるようだ。


「はぁ…、なんでしょう?」

「フェイル殿たちが冒険者として使用する武器や服装を決めておかねば、準備ができませんのでな。どのようなものをご準備すればよろしいですかな?」


 俺はオルフェスたちの服装を見て、確かに、と思う。

 オルフェスはカソックで、ベルフェは燕尾服を着ている。ネルフェアに至ってはドレスだ。

 これでは冒険者に見えない。どこかの豪商かお貴族様だと言われる方が納得する。

 ただ、実のところ、ベルフェたちは物質創造を使えるので、それほど心配もしていなかった。

 だが、物質創造を使えるというのは、あまり口外できるものではない気がする。不必要に情報を開示して、それが何の問題を招くかも分からない以上、可能な限り伏せておいた方が良い。

 どうしても代替案がないのなら、開示することも厭わないが、武器と服装は準備する方法があるのだ。

 そうなると、牢屋にいる俺たちには準備ができないので、お願いするしかないか。


「それでは、俺は剣と簡易鎧をお願いします。あと、オルフェスは防御系の魔法士、ネルフェアは攻撃系の魔法士で、ベルフェは…探索系で接近戦を主体に、それに見合う武器と服装をお願いできますでしょうか?」

「ふむ。ガレリック、ロイラン。それで準備はできそうか?」

「「はい。問題なくご準備いたします(のじゃ)」」


 今は、オルフェスたちに確認することなく、武器と服装を適当に俺が決めておいた。

 後で気に入らなけば、物質創造で好きなものを造ってもらえばいい。

 それよりも、今の衣装をなんとかすることの方が先決だ。


「それでは、フェイル殿。武器と衣装は移動の際の馬車に準備しておきますので、そこで受け取ってくだされ」

「はい。ありがとうございます。…あ、それなら、この路銀と本、それに国民証なども、その時に一緒に受け取ることはできますか?」

「ふむ。そうですな。確かに牢屋で保管すのは些か不自然ですな。これは気づかず申し訳ございません」

「あ、いえ、お気になさらないでください」

「お心遣い感謝する。それではガレリック。これらも一旦お預かりして、馬車の中でお渡しするように」

「はい。かしこまりましたのじゃ」


 王様の言葉で気づいて良かった。

 別に牢屋に持っていくのは良いのだが、これを牢屋に置きっぱなしにはできない。そうなると、森で保管しておくことになりそうだが、それはそれで、またフィリエさんが大事にしそうなんだよな。

 あいつら、すぐに死のうとするから、気が気じゃないのだ。

 それに、どの道移動の際には、持ち物は一時的に騎士に回収されることになると思うので、事前に渡しておいても問題ないだろう。寧ろ、その方が安心できる。


「それでは、俺たちは牢屋に戻ろうかと思いますが、よろしいですか?」


 俺は最後の確認も終わったことを見定めて、退室を申し出た。

 昨日よりも幾分上手く切り出せたのではないだろうか。

 一回目は王様に遮られたけど、今度は大丈夫だと思う。


「うむ。それでは今しばらくご不便をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。アルノルト。フェイル殿をお送りしてくれ」

「はい。かしこまりました。では、フェイル様、行きましょうか?」

「はい。よろしくお願いいたします」


 今回の話し合いで、作戦も準備も整ったので、これ以上、王様に会うこともないだろう。

 それに、四日後にはこの王都から離れることになるので、不慮の事故が起きても出会うことはない。

 俺は少しばかりの安堵とこれからへの不安を胸に抱いて、席を立って王様の書斎から退室した。

 夜には、フィリエさんたちに出発の日時を教えて、魔晶石に通信の魔法陣を刻むのを忘れないようにしないとな。


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