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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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追放作戦会議

 アイネラを筆頭に飛妖女(ひようめ)たちが配下に加わった翌日、俺はのんびりと牢屋で魔法師団長が訪れるのを待っている。

 森の魔物たちには、これ以上俺の配下になりたい者が増えないように釘を刺したので、少しは落ち着くだろう。

 あとは、国外に移住さえできれば、完全に元通りとはいかなくても、当初の目的通り、冒険者として過ごすことができる。


 そして、夕刻になり陽の光も赤味を帯びてきた頃、カツカツとここへ近づく足音が聞こえてきた。


「フュール、待たせたの」


 魔法師団長は、以前通りの態度で俺に声を掛けてきてくれる。

 うん。これだよ、これ。落ち着くなぁ~。

 それにして、『フェール』という名に何故か懐かしさを感じてしまう。まだ一日も経っていないのに、すでにオルフェスたちが新しい名前を使い始めたせいで、誰も俺を『フェール』と呼ぶ者がいなくなっている。

 オルフェスたちや森の魔物たちは、嬉々として新しい名前を呼ぶからな。


「いえ、俺はここで寛いでいただけなので、大丈夫です」

「ほっほっほっ。余裕じゃな。それじゃあ、行こうかの」

「はい。よろしくお願いします」


 その後俺は、昨日と同じ通路を通って、王様の書斎へと辿り着いた。

 昨日は王様との面会ということで緊張していて気にしていなかったが、この道順って、かなり遠回りしている気がする。

 恐らくだが、王様の書斎への最短の通路を隠したいのかもしれない。

 王様となれば、身の安全は何より重要だし、その程度の気は使っていそうだ。


「陛下、お待たせしましたのじゃ」

「ああ。フェイル殿、オルフェス殿、ネルフェア殿、ベルフェ殿、今日もよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 俺は昨日と同じように、給仕服を着た侍女に部屋へ迎え入れてもらい、王様に対峙した。

 それから簡単な挨拶を交わして席に着く。

 給仕服を着た侍女は、俺たちの前にお茶を置くと、部屋から退室している。


「では早速ですが。アルノルト、例のものをフェイル殿にお渡ししろ」

「はい、かしこまりました」


 王様は、簡単な前置きをして、騎士団長に指示を出した。

 騎士団長はその指示に従い、俺の前に数枚の紙と小さな金属板、その横に革袋と一冊の本を置いた。

 紙は、大きさは人の顔くらいで数枚重なっている。一番上の紙に俺の名前が記載してあるので、恐らくこれが国民証だろう。

 そして、俺の掌くらいの小さな金属板も数枚ある。これにも俺の名前が刻まれているので、こちらは冒険者登録証で間違いないと思える。気になるのは、それが銀の金属板ということだが。

 本当に魔法師団長とギルド長は一日で準備してくれたんだな。これには感謝するばかりだ。

 ただ、この二つは分かるのだが、その横に置かれたものが分からない。 

 騎士団長が革袋を置いたときにジャラリと金属がすれる音が聞こえたが、中身はいったいなんだろう?


「それをお受け取りください」

「あの…、これは何でしょうか?」


 王様から収めるように言われたが、それに手を付けずに、俺は革袋と本を指差して問い返した。

 先日の森でもそうだが、俺は他人から物を貰い慣れていないので、どうしても警戒してしまう。

 まだ話を聞いてからなら受け取れることもできるかもしれないが、その前に渡されると尚更だ。


「それは、フェイル殿が他国へ移住するまでの路銀と冒険者に必要な情報が記載された本です」

「あ、いや。そんなものは受け取れません」


 俺は慌てて王様の申し出を丁寧に拒否した。

 本も路銀もあれば非常に助かることは分かっているが、どちらも高価過ぎて受け取るには抵抗がある。

 路銀は金品なので言うまでもないが、本にしても本来庶民が一生賭けても買えるものではないのだ。

 それに、冒険者に必要な情報が記載された本は、門外不出と言ってもいい代物である。

 普通であれば、冒険者に必要な情報は、冒険者登録するとまず最初に冒険者ギルドの講習会で教えられる情報であって、その情報が記された本は、この世の中のどこを探しても売ってはいない。

 恐らく、俺がこの講習会に参加できないことを考慮して贈られたのだろうが、扱いに困ってしまう。


「ははは。そう遠慮なさらずとも、王の矜持とでも思って受け取ってくだされ」

「矜持ですか?」

「左様です。我が国が至らぬばかりにフェイル殿を国外へ移譲させることになるのです。国王として何もせぬまま送り出すのは、王の名折れというものですのでな。私の顔を立てると思って受け取ってくだされ」


 矜持とか名折れとか言われても分からないが、顔を立ててくれと言われれば受け取らないわけにはいかない。

 もし、受け取らなければ、王に恥を掻かせたと言われて罰せられても文句が言えなくなる。

 今の状況では、まずそういったことは起こらないとは思うが、心証が悪くなるのは避けておきたい。


「はぁ…、分かりました…」


 俺は気が進まぬまま、革袋と本に手を伸ばした。

 そして、革袋を持ち上げてその重さに驚いてしまう。

 これ、中身金貨じゃない? しかもかなりの量が入っている。

 俺の背筋に冷たいものが滴り落ちていいく。こんなものを持ち歩くのは、さすがに心臓に悪過ぎるだろ。

 今すぐにでも何処かに埋めて、見なかったことにしたくなってくる。

 だから受け取りたくなったんだが…

 すでに受け取ったものは仕方がないけど、後悔だけは避けられないのが辛い。


「あの、それでもう一つお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「うん? 何でしょう?」


 俺は気を取り直して、一旦、路銀と本から目を離すと、別の質問の許可を取った。

 いつまでも悩んでいても先には進まないし、こういうことは、さっさと頭の外に追いやるのが最善手と決まっている。


「え~っと、これって冒険者登録証ですよね? 銀の金属板に見えるんですけど、間違ってませんか?」


 冒険者は初級、中級、上級と大まかに括られることが多いが、実際にはもう少し細かく階級分けされている。

 その中でも銀は、中級冒険者の中での最上位階級だったはずだ。

 通常、冒険者に成りたての者には鉄の金属板が渡される。しかし、俺の目の前には何故か銀の金属板が置いてあった。


「ロイラン、説明しろ」


 俺の質問に王様がギルド長の方に視線を向けて、説明を命じた。

 俺も王様に倣い、ギルド長に視線を向ける。


「はい。かしこまりました。フェイル様、オルフェス様、ネルフェア様、ベルフェ様の実力を考えると、最高位の英雄級が妥当なのですが、それでは目立ち過ぎてしまいます。かといって、従える魔物が灰色狼となると、初級や銅級では釣り合いが取れません。四体の灰色狼を従えるとなると本来であれば、金級か白金級が望ましいのですが、こちらも上級となるため、目立ち過ぎます。そこで、やむを得ず金級に近い冒険者という設定で、中級最上位の銀級といたしました」


 俺はギルド長の説明を聞いて、心の中で驚いてしまう。

 灰色狼は中級冒険者で対処可能と聞いていたので、俺の中では銅級程度だと思っていたのだが、まさか金級や白金級が出てくるとは思わなかった。

 あいつら、そんなに強かったのか。通りで冒険者が森の結界のある場所まで到達できないわけだ。


「では、銀級であれば目立たぬのか?」

「その…、銀級はそれなりにおりますので、それほど目立つことはないと思いますが、灰色狼はどうしても目立つと思われます。ただ、従えている者もいなくはございませんので、偶然、瀕死の状態の四体に遭遇して服従させたということにすれば、銀級でも説明は可能かと思われます」

「ふむ。それであれば、可能か…。フェイル殿、如何ですかな?」

「分かりました。灰色狼以外に連れていける魔物もいませんので、その設定でお願いします」


 樹木の精や飛妖女もいるけど、彼女たちは人型なので、どうしても灰色狼より目立ってしまう。

 しかも、冒険者登録証にも、すでに従属する魔物に灰色狼と刻まれているので、今更変更も難しい。

 そうなれば、ここは冒険者をよく知るギルド長の案に乗るのが、一番堅実だと思える。


「ふむ。それでは、今後の方針なのですが、これはガレリックから説明させてもらってもよろしいかな?」

「はい。お願いいたします」


 俺からの質問が終わったことを察して、王様が次の議題に移っていく。

 俺もそれに異論はない。どちらと言えば、今日の主題は王様が口にした今後の方針なので、寧ろ、俺が話の腰を折っていたと言える。


「ふむ。では、今後の方針と段取りについて、ご説明させていただきますじゃ」


 魔法師団長はそう言って、一枚の大きな地図を円卓の上に広げた。

 そこから、魔法師団長はその地図を指し示しながら、俺が国外へ移動する際の方法や注意事項を説明してくれる。

 一通り魔法師団長の話が終わると、俺はそれを頭の中で復習してから、確認事項を口にした。


「そこまで慎重にする必要があるんですか?」


 魔法師団長の説明を聞いて、俺が真っ先に思ったのはこれだ。

 気軽に他国にまでいって、名前を変えて登録すれば良いだけと思っていたが、魔法師団長の段取りはそうではなかった。


「国内にいるうちは、どうとでもなりますのでな。例えば、国外に出る前にフェイル様に罪を着せれば、国外追放ではなく、フェイル様を処分せざるを得ない流れを作られるかもしれませんのじゃ。それは、絶対に避けたいですからの」


 なるほど。国外に出てしまえば、罪人を連れ戻すことはできないが、国内にいるうちは俺を処分するための口実は用意できるというわけか。

 オルフェスたちを従えたいと思っている者や、俺を殺そうと思っている者がいることを考えれば、魔法師団長の作戦は当然の考慮だと言える。


「でも、これって危険過ぎませんか?」

「ふむ。心配には及びませんですじゃ。騎士団からも魔法師団からも精鋭を付けますでな」

「それならいいですけど…。その方たちも、通信の魔晶石とか持ってるんですよね?」


 これだけ危険な作戦ともなると、いざという時の連絡手段ぐらいは準備しているだろう。

 そう思って尋ねた俺の質問に、王様を含めた全員が、驚きと険しさを混ぜ合わせたような表情をした。


「フェイル殿、その情報はどこから…」


 王様は情報の出処を俺に聞こうとして、俺の隣にいるオルフェスたちを見て言葉を止めた。


「はい。お察しの通り、こいつらに聞きました」

「そうでしたか。オルフェス殿たちならご存じなのも当然ですな」


 王様は情報の出処を知って、ほっと胸を撫で下ろしている。


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