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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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勢力拡大再び

「なぁ、お前たち、どう思う? 配下にしてもいいと思うか?」


 先程オルフェスの意見は聞いたが、ベルフェとネルフェアの意見も聞きたい。


「フェイル様の望むままにされればよろしいかと。ただ、食材が充実するのと、フィリエが肉の調理までしてくれるのは、私としては歓迎いたしますが」

「ええ、そうですね。大勢で賑やかな方が、フェイル様が楽しそうなので良いと思います」

「俺は、先程述べた通りです。それに、前にも言いましたが、フェイル様が話を聞かれた時点でこうなることは予想していましたから」


 俺の問い掛けに三者三様の答えが返ってくるが、どうやら概ね全員、配下にしても良いと思っているようだ。

 ベルフェは自分の仕事が減るし、俺も此処へ来てすぐに食事を食べられるのは嬉しいので、異論はない。

 ネルフェアは、常日頃から俺を見ているせいか、悔しいけど当たっている。

 オルフェスだけが、なんだか勝ち誇ったように微笑んでいる。


「オルフェス。俺も話を聞いたからと言って、誰でも配下にするわけじゃないからな」

「ええ、それは理解しています。でも、ガロアとフィリエが、フェイル様に害のある者や利がない者を会わせたりはしないでしょう。こいつらがフェイル様に紹介しても良いと判断して連れてきているんですから、こうなることは予想できますよ」


 俺はオルフェスに言い返してみるが、正論を返されてしまった。

 確かにガロアとフィリエさんが、そんな者を連れてくるとは思えない。

 それに、ここまで話を聞いて、拒む理由がないのことも、オルフェスの言葉の裏付けになっている。


「オルフェスは、ガロアとフィリエさんをえらく信用してるんだな?」

「フェイル様は違うんですか?」


 問いに問いで返されて、俺は言葉に詰まってしまう。

 俺は自分だけが悔しいのが恥ずかしくて、オルフェスも少しは気まずさを感じればいいと思って言っただけなのに、それを真顔で返されたら、『俺もだよ』とはとても恥ずかし過ぎて言えるわけがない。


「ああ、分かったよ。俺の負けだ」

「いや、俺は勝負をしていたつもりはありませんよ! ただ、単にそう思えるってだけですからね!」

「あはは。そんなに慌てなくても、怒ってるわけじゃないから安心していいぞ。単に俺が先読みされて悔しかっただけだし」


 俺が負けを認めると、オルフェスが予想外のことを言われたかのように慌てだした。

 それを見て、俺の溜飲が下がり笑い出してしまった。

 少し性格が悪いようにも思えるが、時にはこういうふざけたやり取りをしたくなる時もあるのだ。


「そこは、俺がフェイル様のことを理解していると思ってくださいよ…」

「いや、そこは理解してるから心配しなくもいいぞ」

「あ、いや、それを真顔で言われると、ちょっと恥ずかしいですね」


 オルフェスが照れ臭そうに頭を掻いている。

 こうやって照れられると純粋に言って良かったと思える。

 さて、でも今はこういう話をしている時じゃないな。結論が出たなら、それを告げるべきだろう。

 俺はオルフェスたちとの話を切り上げて、魔物たちの先頭にいる一体に視線を戻した。


「分かりました。あなたたちの望みを受け入れます」

「ありがとうございます。ここに控える我ら全て者の身命を賭して、フェイル様に忠誠を誓わせていただきます。どうぞ、これからよろしくお願いいたします」

「「「忠誠を誓います。これからよろしくお願いいたします」」」


 はぁ、またもや配下が増えてしまった。

 今日は早く戻れると思っていたのに、俺の与り知らないところで次から次に予想外のことが起こっている。

 これだけは切実に何とかしたい。


「え~っと、良い機会なので、みんなに言っておくけど、俺とオルフェス、ネルフェア、ベルフェはしばらく此処へ来られなくなる。それに、俺はこれ以上勢力を拡大する気もない。だから、もし今後、配下にしてほしいという者がいても断ってくれ。お前たちが信用して、お前たちが配下として受け入れるのまでは止めないけど、もし、それで仲間たちに迷惑や危害が及んだら、その時は責任を取るつもりでいてくれ。以上だ」

「「「はっ! しかと承りました!」」」


 これだけ言っておけば、今後は増えることはないだろう。

 そろそろ本当に平穏な日々を送りたい。それでなくとも、まだ王国での騒動も完全に収まっていないのに、王国と森の両方で騒動が起きるのは、俺の身が持たない。


「あ、それと呼び辛いので、名前があれば教えてもらえるか?」


 俺は再び、魔物たちの先頭にいる一体に視線を戻すと、名前があるか尋ねてみた。

 彼女たちも俺の配下になったので、口調も他の者たちと話す時に合わせることにした。でないと、またオルフェスたちが気にしてしまう。彼女たちには、フィリエさんように他に仕える主がいるわけでもないしね。


「はい。私はここにいる飛妖女たちを取り纏めております飛艶女(ひえんめ)のアイネラと申します。フェイル様の配下に加えていただけました感謝の印として、どうかこれをお受け取りください」


 アイネラの種族は飛妖女というらしい。アイネラだけは飛艶女とのことなので、飛妖女の進化系だと予想できる。他の全員は黄桃色の羽色なのに、アイネラだけが淡い虹色をしているので、それが進化の証なのだろう。ガロアの毛色の違いによく似ている。

 そして、名乗りと同時にアイネラが葉で編んだ小袋を差し出してきた。


「いや、そんな気を遣わなくても大丈夫だぞ」


 俺がそう言って断りを入れるも、アイネラは差し出した手を引っ込めようとはしない。

 これは受け取らないといけないやつか?

 このまま要らないと言い続けるのも、相手の好意を無碍にしているように思われそうだ。

 こういうのって、意外と判断が難しいんだよな。

 そう思っていたのも束の間。ベルフェがアイネラの前に進み出ると、その小袋を彼女の手から持ち上げて、さっと中身を確認してから俺に差し出して来た。


「フェイル様。お気になさらず受け取られればよろしいかと」


 恐らくベルフェは、俺が袋の中身を気にして受け取らないでいると思ったのだろう。

 さすがに今し方配下にした者を疑う気はない。しかし、今日王様から聞いた『王の命に従わない貴族も多い』という話を思い出してしまい、一瞬、疑うべきかという考えが頭を過る。

 う~ん。でも、それって仲間を疑うようで嫌なんだよな。それにそんなことを考え続けて生きるのも楽しくない。


「ああ、ありがとう。でも、中身を疑ったわけじゃないし、彼女はもう仲間なんだ。だから、これからは必要ないからな」

「は! かしこまりました」


 俺はベルフェに感謝と方針を伝えると、小袋の中を覗き込んだ。

 受け取ってしまった以上は、中身を確認しないと失礼だろう。

 小袋の中には小指の先の大きさ程度の小石が入っていた。

 俺は、その小石を一つ指で摘まむと、小袋から取り出して眺めてみる。その小石は赤く綺麗に透き通ってキラキラと輝いている。

 これは宝石か何かか?

 宝石といえば、孤児の俺にとっては無縁の存在の一つだ。当然、俺が知っているわけもない。


「それは魔晶石ですね」

「魔晶石?」


 俺が不思議そうにその小石を観察していると、オルフェスが小石の正体を明かしてくれた。

 だが、残念ながら、俺は魔晶石というものも知らない。

 魔晶石というぐらいだから、魔法なり魔力なりが関係していることは想像できるが、そこまでだ。


「はい。その石に魔法陣を刻んでおけば、魔力を通すだけで魔法が発動するんですよ。ただ、低級の魔法陣しか刻めないので、ほとんど使い道はないですけどね。…あ、そういえば、人間がその石を通信用に使ってましたね?」

「うん? 通信ってなんだ?」


 オルフェスが魔法石の用途を説明している最中に、思い出したことを併せて教えてくれた。

 確かに低級の魔法陣しか刻めないのであれば、緊急時くらいにしか仕えないかもしれない。それでも、充分に需要はありそうだが、それ以上に、気になる言葉が出てきた。


「通信とは念話のことですよ。ただ、念話と違うのは、主従の繋がりがなくても使える点ですね。とはいえ、魔法陣を刻んだ者としか通信できませんし、しかも、魔法陣を刻んだ者からは使用者へ繋げられないんですよ。その上、人間の魔力だと、使う時に馬鹿ほど魔力を使うみたいで、一言二言しか話せない欠陥品です」

「あ、いや、それでも充分凄いだろ」


 オルフェスは欠陥品だというが、俺たち人間からすれば、これだけも充分過ぎるほど役に立つ。

 例えば、僻地の村や町で盗賊なんかに襲われても、これがあれば即座に救援が呼べるようになる。

 この国は端から端まで移動するのに馬車や馬でも数十日は掛かる。村や町から大きな街へ移動するだけでも数日を要するのも普通のことなのだ。そんな中で、この魔晶石があれば、多くの人間の命が救われることになる。その需要は計り知れないものになるだろう。


「フェイル様は別として、人間にとってはそうかもですね」


 魔物は基本的に主従の関係があるか、フィリエさんのように念話が使える種族で纏まっているので、この魔法石は不要なのだとオルフェスが補足してくれる。


「いや、俺にも必要だぞ。お前たちとは問題なけど、俺は人間の世界で生きてるんだ。これがあるのとないのとでは雲泥の差がある」


 これがあれば、遠く離れた仲間とも緊急時に連絡ができるようになるんだ。

 その連絡があれば、相手がいる場所にもよるが、オルフェスたちの転移を使ってすぐに駆けつけることもできる。


「でも、フェイル様がそこまでして通信されたい相手とかおられるんですか?」

「何を言っているんだね、オルフェス君。将来は分からないと言ったのは君だろう」

「はぁ…。まぁ、そうですね…」


 オルフェスが俺の心を抉るなんとも残酷な一言を投げ付けてきた。

 俺はそれに耐えるために気丈に振る舞った結果、変な口調になってしまいオルフェスが困惑しているが、それはオルフェスが悪いので、無視しておく。

 それよりも、俺もお年頃の男性なのだ。将来は素敵な伴侶と仲睦まじい生活を送りたいと思っている。

 今はまぁ、そういう相手はいないけど、いつかきっと必ず、そういう相手に巡り合えると信じている。何時いかなる時も希望を捨ててはいけないのだ。


「って、あれ? 通信があるってことは、人間も普通に念話を使っているということか?」


 俺はオルフェスに念話のことを聞くまで知らなかった。もちろん、誰からも噂ですら聞いたことがない。

 しかし、通信があるということは、念話を使っているということだ。

 孤児院や俺の周りでは使うものがいなかっただけで、意外と普通なのかもしれない。もしかしたら、冒険者はみんな、従属させた魔物たちと会話しているのだろうか?


「さぁ、どうでしょう? 俺たちは人間の世界に詳しくないですからね」


 俺の質問は空を切った。当然と言えば当然だ。

 オルフェスたちが知るわけはない。寧ろ魔晶石を通信に使っていることを知っている方が驚くべきことなのだ。


「そうだよな。オルフェスたちが知ってるわけないよな。変な質問をして悪かった」

「いえ、お役に立てず、すみません」

「いや、いいって。気にしないでくれ」


 オルフェスからは情報を得られなかったが、使えると思っておいた方がいいだろう。

 現に通信をしている事実がある以上、疑う余地もない。

 まぁ、だからなんだということだが。


 この小石の正体も分かったので、小石を小袋に戻して、俺はアイネラの方に視線を向け直した。


「アイネラ、ありがとう。感謝するよ。これは大切に使わせてもらうな」

「は! フェイル様のお役に立てましたこと、この上なき喜びにございます」


 これだけの物を貰ったら、お礼に加えて感謝の言葉を伝えるのは当然だ。

 さて、俺の将来の伴侶って、どんな人だろう。これを身に付けらる様にして渡すのがいいな。


「え~っと、それじゃあ、フィリエさん、これを預かっておいてもらえますか?」


 さすがにこれを牢屋に持って行くわけにもいかない。

 ここへ置いておくのが一番安全だろう。


「はい! この身に代えましても、傷一つつけることなく保管させていただきます」


 フィリエさんは、俺の手から小袋を受け取ると大事そうに抱え込んだ。

 フィリエさんに限らず、オルフェスたちにしても、すぐに命を賭け過ぎではないだろうか。

 傷をつけたら本当に自死してしまいそうだ。


「傷がついても良いので、死ぬことは禁止でお願いします」

「え? しかし………」


 うん。思った矢先からこれである。

 俺が自死を禁止したことで、どうして良いのか分からず困惑し出した。

 しかも、小刻みに手が震えている。なんで死ぬことを前提にしないと、そうなるんだ?


「フィリエ殿。傷をつけなければ良いのです」

「あ、ああ、ガロア殿。そうでございますね…」


 見かねたガロアが、フィリエさんに助け舟を出しているが、そこじゃないんだよな。

 それじゃあ、傷をつけたら死ぬことが有効のままになってしまっている。

 うん。これは駄目だな。


「ベルフェ。悪いがあれが入りそうな箱を造ってくれるか。できれば頑丈なやつで頼む」

「はい。かしこまりました」


 ベルフェが俺の頼みに応じて、すぐに箱を造ってくれた。

 しかも、俺、オルフェス、ネルフェア、ベルフェしか開けられないという、おまけ付きだ。

 俺はその箱を受け取ると、フィリエさんから先程渡した小袋を回収して、その箱の中に入れる。

 ついでに、残っていた月桃の種も鞄から取り出して、一緒に入れておいた。


「これで問題ないと思いますので、お願いしますね」

「はい。過分なご配慮、感謝いたします。確かにお預かりいたしました」


 あの結界の中なら誰かに奪われることもないし、これで問題ないだろう。

 それにガロアもいるので、何かあったら俺たちの誰かに連絡をしてくれるに違いない。


「それでは、フェイル様。そろそろ戻りますか?」

「ああ、そうだな。それじゃあ、みんな。また明日な」

「「「は! お気をつけてお戻りください。明日のお越しをお待ちしております」」」


 ここでの話も終わりを告げるように、オルフェスが帰宅の言葉を投げ掛けてくる。

 なんだかんだで仲間が増え、皆の想いや優しさを知った。

 魔物の世界は未だ漠然としか理解できていないが、魔物自体は人間と大差ないように感じる。

 この世界の生きとし生きるものは皆、笑って過ごせる世界を求めているのではないだろうか。

 そんな確信にも似た思いに包まれる夜だった。

 こうして牢屋に戻った俺は、希望を胸にこれからの人生に想いを馳せて、眠りに就いた。


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