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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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魔物の望み

 跪いている魔物たちは、女性の人型で背中に鳥のような羽が生えていて、鳥のような鉤爪の脚をしている。

 その先頭の一体は淡い虹色の羽を携えており、その横にはいつの間にか、フィリエさんとガロアが並んで跪いていた。

 う~ん。面倒な話じゃなきゃいいけど。ただ、今更何も聞かずに引き返すわけにも行かないよな。

 それならそれで、此処へ来る前に教えておいて欲しかったが、恐らく、その時点で俺に断れるのを避けたかったのだと思える。でなければ、此処まで黙って連れてくる必要がない。それだけに、少し身構えてしまうのは勘弁してほしい。

 俺は、その先頭の一体とフィリエさんに向かって歩みを進めた。


「フィリエさん、状況を説明してもらっても良いですか?」

「はい。実は彼女たちが、フェイル様にお願いしたい議があるということで、フェイル様にこのような場所に足を運んでいただいた次第でございます」


 此処へ足を踏み入れて魔物たちを見た時点で、なんとなくそんなことだろうと思っていたが、その予想は正しかったようだ。

 俺はフィリエさんの返答を聞いて、魔物たちの先頭の一体に視線を向ける。


「それで、俺にお願いしたいことって何でしょう?」

「はい。是非とも私たち飛妖女(ひようめ)もフェイル様の配下にお加えいただけないでしょうか?」


 う~ん。配下ってなんで?

 なんだか、この流れはフィリエさんの時を彷彿とさせる。

 普通、自由を捨ててまで誰かの配下になろうとは思わない。


「それで、何を望んでるんですか? 俺には大した力なんてありませんよ」


 フィリエさんの時は月桃の木に結界を張って欲しいという要望だった。

 それと同じように、配下になる以上の利点を望んでいるはずだ。

 しかし、目の前の女性は、首を横に振っている。

 なんだか、この光景は夕方にも見た気がするな。また、俺の予想が外れるのか?


「私たちの望みは、フェイル様の配下に加えていただくことでございます」

「それって、他にはないってことですか?」


 配下になりたいから配下にしてくれと言われても、全く理解できない。

 俺は彼女たちのことを知らないし、彼女たちも俺のことを知らない。それなのに、突然俺の配下になりたいと言われても、なんで?となる方が普通だと思う。


「敢えて言うなら、私たちはガロア殿とフィリエ殿との協力関係を望んでおります」


 あれ? 魔物って普通は他種族で協力しないんじゃなかったっけ?

 昨日、オルフェスが俺の影響だとか言っていた気がする。

 それなのに、何故、俺の配下でもない彼女たちが、俺の配下になってまで協力を望むんだ?


「え~っと、フィリエさん、昨日彼女たちと出会った経緯や話した内容を教えてもらえますか?」


 俺は、彼女たちへの質問を止めて、フィリエさんに問い掛けた。

 このままでは、彼女たちの目的が理解できない。

 彼女たちの話だけでは利点が見えてこない以上、他のところから探るしかないと思ってのことだ。


「はい。彼女たちと出会ったのは―――」


 そこからフィリエさんが語った内容は、以下の通りだ。

 先日、ガロアとフィリエさんたちが協力して砂蜥蜴を狩っているところを、彼女たちが見ていたらしい。その様子を見た彼女が今朝、ガロアとフィリエさんたちの元を尋ねてきたそうだ。当然、彼女は結界の中には入れないので、結界の外で敵意がないことを示すために膝を折り面会を求めた。これにガロアとフィリエさんが応対したとのことだ。

 彼女たちの話を聞くと、彼女たちはこの森の山脈に縄張りを持っていたが、他種族に襲われ此の地まで逃げてきたという。そして、此処で再起を図るため、仮の縄張りとなる場所を探している途中で、ガロアとフィリエさんたちが砂蜥蜴を狩っているところに遭遇したということだった。

 彼女は、どうして他種族が協力しているのかを疑問に思い、それが頭から離れず、それを解消するためにガロアとフィリエさんを尋ねて来たみたいだ。そこから彼女の怒涛の質問攻めにあったらしい。それら全てに重要な情報は隠しながら答えを返したところ、満足して帰って行ったので、ガロアとフィリエさんもこれで終わりだろうと思っていたそうだ。

 しかし、夕方になって彼女が配下の者たちを引き連れて再び現れると、『フェイル様の配下にして欲しい』と真摯に願い出てきたとのことだ。自分たちでは判断もできず、かといって無碍にもできず、彼女たちからは害意も敵意も感じなかったため、ひとまず、俺に判断を委ねようという結論に至ったとのことだった。


「フィリエさん、ありがとうございます」


 なんとなくだが、彼女たちの事情が理解できた。

 ただ、それならそれで事前に聞いておきたかったと思わなくはない。


「いえ。わたくしたちの未熟さ故で、ご迷惑をお掛けし申し訳ございません」

「…いや。気にしないでください」


 俺の判断に委ねると決めた以上、事前に情報を与えるのかどうかは、正直分かれるところだ。

 事前に与えた情報により、間違った先入観を与えることにも繋がるので、それを避けようと思えば、この魔物たちの前で、俺の必要としている情報を与える方が純粋に俺が判断できるのも確かだからな。

 それに今はそれを議論している場合じゃない。


 フィリエさんから情報を得た俺は、魔物の先頭にいる一体に視線を戻した。


「まず先に一つ言っておきますけど、俺は勢力を拡大する気はありませんし、この森の魔物たちと争いを起こすつもりもありません。当然ながら、あなたたちの報復に協力する気もないですよ」

「はい。それはフィリエ殿からもお伺いしております」

「それは、此処で力をつけたら、自分たちだけで縄張りを取り戻すつもりということですか?」


 俺は争いは好まない。守るためなら戦うが、そうでない以上、望んで争いを起こそうとも考えていない。

 俺は楽しくみんなで笑ってすごしたいだけなのだ。そこに争いなど不要だ。

 当然、争いを持ち込む者を歓迎する気もなければ、関わりたいとも思わない。


「確かに私たちは再起を願っておりました。縄張りを取り戻したと考えていたことも確かです。ですが、ガロア殿とフィリエ殿のお話をお聞きして、その考えが浅はかであることを悟りました。当然のことながら、私の配下にも未だ再起を望む者がおりましたが、そのような者たちには、私の配下から抜けて独立を認めることで、すでに袂を分かっております。このため、此処にいる者たちは、フェイル様に感銘を受け、その夢を共に歩ませていただきたく純粋にフェイル様の配下になることを望んでいる者たちでございます」

「え?」


 彼女の返答が斜め上過ぎて、それを聞いた俺は困惑のあまり、絶句してしまった。

 いや、だって、ガロアとフィリエさんが砂蜥蜴を狩ったのは昨日で、今朝話を聞きに来たんだよね?

 なのに夕方には配下の者たちと袂を分かってきたって、急すぎない?

 判断と行動が早過ぎでしょ。ガロアとフィリエさんから話を聞いただけでそれは危う過ぎないか?

 それに、ガロアとフィリエさんが語った夢ってなんだよ!? それを信じたのかよ!?


「なぁ、オルフェス。これって普通なのか?」


 俺は思わず、自分の考えがおかしいのか、オルフェスに尋ねてしまった。


「いえ。さすがに普通じゃないですね。ただ、こいつらの気持ちも分かりますけどね」

「え? 分かるのか?」

「ええ、まぁ、そうですね。それだけこの森での生存競争が激しいということですよ。こいつらも生きていく上で、自らの力と種族の結束が唯一の拠り所なんです。そこに種族の壁を越えて協力することで、身を守る術や争いがない暮らしがあることを知ったら、飛びつきたくもなるんじゃないですか?」


 確かに魔物にも争いを好まない者もいるだろうし、分からなくはない。

 例えこちらがおとなしくしていても、向こうから攻めてきたら迎え撃つしかないのも分かる。

 弱肉強食の世界で、唯一信頼できるのが同じ境遇の同種族だけだというのも、想像ができる。

 そこに種族単体では敵わなくとも協力することで撃退できて、さらに争いがなくなるのなら、俺もそれに飛びつく自信がある。


「でも、従属してまですることか? もし、従属した相手が酷い奴なら本末転倒だろう? もっとこう、慎重に選ぶべきじゃないか?」


 ただし、もし、従属した主が暴君なら目も当てられない。

 例え協力して撃退できたとしても、その後に酷い扱いを受けるのなら、従属しない方がましだ。


「ええ、確かにそうですね。でも、フェイル様は配下に命を捨てさすような命令や、完全に自由を奪うようなことはされないでしょう?」


 まぁ、しないな。共同生活をする上で、最低限の規則は守ってもらうが、それ以上を強要する気はない。

 そんなことをしても楽しくないし、何より、みんなで笑って過ごせなくなる。

 俺の人生設計においては、尤も不要なものだと言っても過言じゃない。


「今はそうだけど、将来は分からないだろ? それに彼女たちはガロアとフィリエさんから話を聞いただけなんだぞ?」

「将来なんて誰にも分かりませんよ。そんなことを考えていたら、掴めるものも掴めなくなりますからね。それに、フェイル様は、ガロアとフィリエからしか話を聞いていないと仰いますが、それだけで充分じゃないですか? 昨日、ガロアとフィリエが協力して砂蜥蜴を狩れたことを喜んでいたのを見られましたよね。昨日も言いましたけど、それって自然界では起こりませんし、普通じゃないんです。こいつらを従えている者がそれを望んでいない限り、起こり得ないんですよ。この森に、いえ、魔物の世界に生きる者なら、少し話を聞いただけでそれを理解すると思いますよ」


 う~ん。これも育った環境の違いというやつなのだろうか。

 俺は特別なことをしているとは思っていないし、寧ろ俺からしたら、彼女らの方が普通じゃないのだ。

 普通じゃないことを見せられれば、それを成す者も普通じゃないって思うのは理解できるけど、その普通が俺の普通と違い過ぎて、漠然としか理解できない。


「う~ん。それにしても、オルフェスはやけに彼女たちの肩を持つけど、配下にした方が良いと思っているのか?」

「いえ。フェイル様のお好きなようにされれば良いと思ってますよ。こいつらを従えても従えなくても、特にフェイル様に害があるわけじゃないですからね。ただ、敢えて言うなら、フェイル様の食事を充実させるために配下にするのも良いとは思いますけどね」


 うん? 食事が充実? と、そこまで考えて合点がいった。


「フィリエさん。もしかして、今日の黒翼鷲って彼女たちが狩って来たんですか?」

「はい。左様でございます。黒翼鷲の調理も彼女たちから教わりました」


 それって、すでに賄賂を受け取ってるってことじゃないか?

 胃の中にあるものを今更返せないし、どうすればいいんだよ?

 大体、どうやって空を飛ぶ魔物を狩ったのか疑問だったが、翼を持つ彼女たちが狩ったというなら腑に落ちる。


「何故、それを言わなかったんですか?」

「フェイル様をご不快にして申し訳ございません。それは…、彼女たちから最後まで言わないで欲しいと、頼まれましたので…。フェイル様に、自分たちの想いを自分たちの言葉で伝えて配下になりたいと望まれましたもので、言えぜずにおりました。誠に申し訳ございません」


 俺に怒られたと思ったフィリエさんが種明かしをしてくれた。

 なるほど。それでフィリエさんは事前に何も言わずに俺を此処へ連れてきたわけか。


「あ、いや、怒っているわけじゃないので、謝らないでください。ただ、疑問に思っただけですから」

「は! ご配慮、ありがとうございます」


 普通賄賂は、贈る相手に分かってもらって意味を成すものなので、何故、今まで黙っていたのか気になっただけだ。

 それにしても、最後まで言わずにいてほしいかぁ。それは賄賂として受け取られたくないと考えている証左とも思える。『自分たちの想いを自分たちの言葉で伝えたい』と言った言葉の内容が先程の通りなら、賄賂と思われたくないというのも頷ける。そう考えると、彼女たちの言葉には、それだけの想いが込められているということだ。


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