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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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国王陛下との謁見

 魔法師団長たちが訪れた翌日、俺はいつもより少しだけ早くに起きて、魔法師団長たちを待っていた。

 上手くいけば、今日で今後の方針が決まるかもしれないと思うと、期待も高まる。

 しかし、魔法師団長が訪れて発した言葉に、俺の驚きは最大限に膨れ上がった。


「え? 今から俺たちが王様に会うんですか?」

「ふむ。その通りじゃ。国王陛下自ら、お会いして話をしたいそうじゃ」


 いや、それは待ってほしい。

 俺は孤児で一介の庶民以下の存在なので、国王陛下にお会いできるような身分じゃない。


「いや。俺は礼儀作法も知りませんし、恐縮してしまうので、なんとかなりませんか?」

「それは難しい相談じゃな。儂も呼んでくるように言われただけじゃし、今から国王陛下に『無理です』とは言えんからの」


 俺の懇願は素気無く却下されてしまう。

 確かに国王陛下の命ならば、魔法師団長が意見を言うのは難しいだろう。俺ではもっと無理だ。


「分かりました。でも、無礼があっても罪には問わないでくださいね」


 俺は最後の悪足搔きに少しばかり我儘を言ってみる。


「それなら心配はいらん。国王陛下も分かっておられるし、何より儂らが何かできる立場でもなかろう」


 魔法師団長は、オルディスたちの方を気にしながら、罪に問わないことを確約してくれた。

 ただ、魔法師団長の視線を考えると、俺に何かした場合のオルディスたち報復を恐れているように思う。

 これも昨日、オルディスが変なことを言ったせいだが、それで確約が取れたなら今は良しとしておこう。


「昨日、オルディスたちには言い聞かせましたので、あまり心配しないでください」

「ああ、それは助かる」


 『あまり』と付け加えたのは、俺が死んだ後では保証できないからだ。

 昨日は俺の言葉を理解してくれたが、今後何が起こるか分からない以上、確約はできない。


「それでは、すまんが、今から儂と一緒に国王陛下の書斎に来てくれ」

「謁見の間とかいうところじゃなくて、書斎ですか?」


 俺は行き先を聞いて、首を傾げる。

 基本的に庶民が王様に会うことはないが、王様が他者と会う時は、謁見の間という場所を使うと聞いたことがある。


「ああ、仮にも一国の王が三名もおられるのじゃ。さすがに謁見の間では失礼じゃろう。それに今回のことは非公式じゃからな。応接室も使えんとなれば、書斎しかなかったのじゃ」


 なるほど。王侯貴族にもいろいろ込み入った事情があるようだ。


「分かりました。おい、お前たち。これからガレリック様と一緒に王様に会いに行くので一緒に来てくれ」


 俺は魔法師団長に了承の言葉を返して、オルディスたちに付いてくるように指示を出す。


「「「はい、承りました」」」


 魔法師団長に牢屋の施錠を解除してもらうと、俺たちは魔法師団長に付いて移動し始めた。


「ちなみにじゃが、フェール様。ここからは、儂のことは『ガレリック様』ではなく、『ガレリック』と呼んでくださるか」


 移動途中に魔法師団長が予想だにしない要望を告げてきた。

 しかも、口調が丁寧になっており、俺の名前に敬称までついている。


「どうしてですか? それは俺にはちょっと難しいんですが…」


 一般庶民にいきなりそんなことを言われても困ってしまう。

 大体、俺が丁寧な口調で、様付で呼ばれる理由がどこにもない。


「フェール様は、すでに三柱の王を従えたお方ですからの。そのようなお方に『様』付けされては、他の者たちが勘違いしてしまうやもしれませんので、ご理解くだされ」


 って、ここでもか! なんでみんな、俺が従えてる者たちを見て、俺も同じように見ちゃうのかな?

 そもそも、勘違いじゃないしね? 俺はれっきとしたこの国の庶民だし、間違ってないと思うんだけど。


「そう言われても…。う~ん…、それじゃあ、頑張って、ガレリック『さん』と呼びますので、それでいいですか? その代わり、俺のことも『様』を付けるのは止めてください」

「ほっほっほっ。本当にフェール様は、欲のないお方ですな。では、フェール『殿』と呼ばせていただきます。ただし、公式の場では、フェール『様』とお呼びすることは、ご容赦くだされ」

「努力して耐えてみます…」


 なんとか最悪は回避できた気がするけど、でも、本当に『さん』で呼んでいいのかな?

 あとで不敬罪に問われたりしないよね? 『嘘でした~』なんて、言わないよね?

 なんだか王様に会うのが怖くなってきた…。今のうちにトイレに行っておいた良い気がするな…。


 その後俺は、魔法師団長の名前を極力呼ばないように口を閉ざし、魔法師団長に導かれながら、王城の迷路のような豪華な通路を進んでいった。

 途中騎士団庁舎でトイレを借りることもできて、すっきりした今は、お上りさん気分で王城の中を見渡すくらいの余裕はできている。

 それにしても、一体何回角を曲がったんだろう? 今、何処を歩いているのかさっぱり分からない。分かることと言えば、たくさんの扉があって、所々に高価と思われる絵や壺が置かれていることぐらいだ。

 後ろを歩くオルディスたちは退屈そうにしているので、彼らの冥界での城もこんな感じなのだろうか?


 そんな観光気分で歩いていると、魔法師団長がある扉の前で立ち止まった。

 その扉の前には、騎士が二人、扉の両脇に立っている。

 魔法師団長がその騎士に視線を送ると、その騎士が扉を軽く『コンコン』と二度叩いた。

 それを合図に扉の内側から、『ご用件をお教えくださいませ?』という声が聞こえてきた。


「魔法師団長がお越しになれました」

「承りました。今、扉を開けますので、そのままお待ちください」


 その声が聞こえるとすぐに扉が開いて、部屋の中から給仕服を着た女性が、綺麗な所作で入室を促していた。

 それを見て、魔法師団長が再び歩みを進めた。俺たちもそれに続く。

 部屋の中に入ると、右側にそれなりの大きさの円卓があり、奥には一際豪華な衣装を纏った男性が座っている。

 その後ろには、騎士団長とギルド長が立っていた。

 座っているのが、この国の王様だろう。


 それにしても、書斎と聞いていたのにやたらと広い。

 部屋の左側の奥には、書机と本がぎっしりと詰まった本棚が置かれ、その手前には卓を挟んでソファーまで置いてある。

 そして、右側には、王様座っている円卓の後ろの壁に酒瓶が並べれている棚があり、その隣には別の部屋に繋がる扉まであった。

 いや、これ、もう住めるだろ。ベッドは置いてないけど、これだけの広さがあれば、どこにでも置ける。というか、この部屋だけで庶民なら十人は余裕で住めてしまう。王様って凄いな。


 俺のそんな感想を他所に、魔法師団長が円卓まで行くと、王様の後ろにいる騎士団長とギルド長の間に移動した。


「フェール様。オルディス様。ベルファ様。ネルビア様。皆様方も、あちらの円卓にお座りください」


 俺が扉を入ったところで、部屋の大きさと豪華さに圧倒されていると、先程、扉を開けた給仕の女性が声を掛けてきた。俺は礼儀作法も分からないため、不要なことは口にせずに『はい』とだけ返すと、給仕の女性も心得ているのか、『では』と短い一言だけを発して、俺たちを円卓の方に導いてくれた。

 俺たちは、給仕の女性に促されるまま円卓まで行くと、指定された席に腰を下ろす。

 俺の席は王様の向かい側で、俺の左側にオルディス、右側にネルビアとベルファが座っている。


 俺たちが席に着くと、給仕の女性が俺たちの前にお茶を出してくれた。

 俺はそのお茶を見て、背筋に冷たいものが走ったのを感じる。

 いや、だって、こんな高そうなカップを、手を滑らして割ったりでもしたら、確実に俺の首が飛んでしまう。俺は孤児で、親兄弟がいないので、親類を巻き込まないことだけは救いだが、それでも俺も死にたくない。

 うん。絶対に手を付けないぞ。


「冷めないうちにお飲みください」


 給仕の女性は、いらぬ言葉を残して、さっさと退室していってしまった。

 これ、絶対虐めだわ。昨日、オルディスが脅したから報復する気に違いない。


「本日は、ここまでご足労いただき感謝する。私はこのフランシア王国で王をしている、セイルッド・フォン・フランシアと申します。どうぞ、セイルッドとお呼びください。ちなみに、フェール殿たちのことは、ガレリックたちから聞いて存じているので、自己紹介は不要です」


 うん。セイルッドさんね。って、呼べるかぁ! こいつ、絶対俺の立場を分かってないだろ!

 もう絶対、王様で押し通してやる。


「え~っと、俺、いや、私は庶民ですので、そのように接してもらえれば助かります」

「あはは。俺で結構ですよ。確かにフェール殿は、我が国に席を置いているとは伺っておりますが、すでに王を三柱も従えておられる方を、庶民と同様になど扱えません」


 いや、だから、それはこいつらの話で俺じゃないんだよ。

 なんでみんな分かってくれないのかな?


「はい…。では、もうそれで良いです。…ただ、私は礼儀作法も知らないので、無礼があっても許してもらえると助かります」

「それはもちろん。一切責を問うことはございませんから、ご安心くだされ」

「はい。よろしくお願いいたします」


 妥協点としては、これが精一杯だろう。

 俺がそんな風に半ば諦めの境地にいると、王様は表情を一変させて、背筋を伸ばし襟を正した。


「それと、此度の件で、事情があったとはいえ、フェール殿たちを牢屋で過ごさせたこと、また、その間に、我が国の騎士がフェール殿に毒を盛ったこと、これらを深く謝罪させていただきたい」


 そう言うと、王様は深々と頭を下げた。

 俺は慌ててそれを止めに入る。


「あ、いや、止めてください。そもそも俺がこいつらを召喚したことが事の始まりですし、それについては、こいつらにもちゃんと言い聞かせてますので。それに毒も事前に回避できましたから」

「そう言ってもらえると、助かります」


 慌てたせいで、言葉遣いが戻っているが、それは許してほしい。

 王様は、俺の言葉で顔を上げると、少し安堵の表情を浮かべて、一口お茶を飲んだ。

 いや、逆に俺の方から安堵がなくなってるから、もう終わりにしませんか?


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