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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第一章

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【フィリエ視点】不思議な主・前

 わたくしは、この度フェール様の配下に加わらせていただいたフィリエと申します。

 本日、フェール様が森にいらっしゃり、月桃の種をお植えになりました。


「ガロア殿、少しお話をよろしいでしょうか?」

「フィリエ殿、どうされた?」


 フェール様がお帰りになった後、勇気を出してガロア殿に声を掛けると、忌避感もなく応じてくださいます。


「本日は、わたくしのご提案にご賛同いただき、ありがとうございます」


 わたくしが、フェール様に此処に月桃の種を植えることを提案した際に、ガロア殿が賛同してくださったことへの礼を述べます。


「うん? そんなことですか? 当然のことをしたまでなので、礼には及びませんぞ」


 ガロア殿は、至極当然のことのように、礼は不要だと述べられました。

 それにわたくしは、驚いてしまいます。


「フィリエ殿は不思議に思われているようだが、あのお方たちの方が不思議であろう?」


 ガロア殿が仰る『あの方たち』というのは、フェール様、オルディス様、ネルビア様、ベルファ様のことだと容易に察しがつきます。

 わたくしは、ガロア殿の言葉の意味を理解するために考えてみます。


 フェール様は、オルディス様、ネルビア様、ベルファ様のお三方を従えているのに、王ではないと仰る変わったお方です。

 それに、わたくしたちにも分け隔てなく接してくださる点も変わっています。

 通常、他種族の者を従えた場合、下僕や家畜のように扱うのが普通なのに、フェール様は、種族が異なるわたくしたちにも丁寧に接されるのです。


「確かに不思議なお方たちですね」

「うむ。そうであろう。大体、あのお方たちが仲良くされているのを見ることはあっても、争っておられるところを見たことがない」


 ガロア殿にそう言われて、わたくしも先程までとは違う意味で不思議に思ってしまいました。

 わたくしたちの世界において、複数の種族が協力し合うことなど、ございません。

 強い者に、他の複数の種族が従属することはあっても、その種族同士が協力することはないのです。

 どちらかというと、下僕の中でもより優位な立場を得ようと、種族同士が競い合うのが普通です。優位な立場になれば、より過酷な労働から逃れることができるのですから、当然の行為です。

 それなのに、あのお方たちは、協力するだけでなく、皆様、楽しそうに仲良くされておられます。


「フィリエ殿も気付かれたようだな」

「はい。しかし、どうして皆様は、あのように楽しそうに協力されておられるのでしょう?」


 なんとも不思議なことでなりません。今まで考えたこともないのですから、それも当たり前なのですが。


「フィリエ殿は、あのお方たちを見て、不快に思われたか?」


 その質問には簡単にお答えすることができます。


「いいえ。寧ろ好ましく思います」

「そうであろう。我も最初は不思議だったのだ。ところが、あのお方たちを見ていても一向に不快にはならず、寧ろ仲間に入れて欲しいと思ったのだよ」


 その言葉を聞いて、頭に衝撃が走るのを感じました。

 もし、あの輪の中に入れれば、なんと幸せなことでしょう。是非ともお仲間に加えていただきとう存じます。


「はい。わたくしも加わりとうございます」

「うむ。そうことじゃよ。だから、我もフィリエ殿に賛同したのだ」

「なるほど。そういうことでございましたか。理解いたしました」


 ガロア殿は、わたくしの言葉に微笑んでおられます。

 今日は思い切ってガロア殿にお声を掛けて正解でした。

 今までに感じたことのない高揚感が溢れてきます。


「恐らくは、フェール様がそのように仕向けられておられるのじゃろうがな」


 ガロア殿のお言葉は、正にその通りだと思います。

 下僕の種族をどのように扱うのかは、王の一存によって決まるのですから、当然のことです。

 ガロア殿は森の外、人間の国の方を見つめておられます。わたくしも自然とそちらに視線が向きました。


「ええ。フェール様のご意向に依るもので間違いないと思います」

「うむ。であるならば、仲間に入れてもらう以上、我らも恩を返さねばならぬと思わないか?」


 その言葉に反論はございません。全くその通りです。

 命令に従うだけはなく、自らの意思で恩を返しとうございます。

 この感情は、普通なら、例え王であっても他種族の者に向けて抱く感情ではありません。


「フェール様の周りには種族の壁はないのですね」

「ああ。正にフィリエ殿の言う通りだ。あの方の傍にいると、種族など取るに足らぬものに思えてくる」


 それは、今まで経験したことがない世界にも関わらず、素晴らしいことのように思えました。

 もし、全ての種族が手を取り合えば、この森はきっと今のように争いではなく、笑いで満ち溢れるでしょう。

 なんとも夢のある世界です。同胞も苦しまず、死ぬこともありません。いえ、同胞だけではありませんね。仲間と認め合った者たち全てがそうなるのです。


「ガロア殿。わたくしたちも協力して、何かいたしませんか?」


 わたくしは胸が高鳴り、思わずガロア殿に提案をしてしまいました。

 しまったと思い、咄嗟に口に手を当てます。些か先走ってしまったかもしれません。

 しかし、ガロア殿は片方の眉を上げて、少しばかり口の端を持ち上げました。


「うむ。それには大いに賛同するが、何かとは、なんですかな?」


 ガロア殿に問い返されて、わたくしは何かないかと考えます。

 そこで、ふと良い案を思い付きました。


「それでしたら、ガロア殿たちと、わたくしたちが協力して、砂蜥蜴を狩ってみるのは如何でしょう?」


 正直なところ、砂蜥蜴は、わたくしたちだけで倒せる魔物ではないのです。

 もしろん、それはガロア殿たちも同じでしょう。

 しかし、ガロア殿たちとわたくしたちが協力できれば、倒せる気がいたします。


「なるほど。それは面白い案だな」


 ガロア殿にも、わたくしの考えが伝わったのか、面白そうに微笑んでおられます。


「はい。協力して砂蜥蜴を倒せれば、ガロア殿とわたくしの同胞たちにも、この喜びが理解できると思うのです」


 わたくしは、賛同してもらえた嬉しさのあまり、矢継ぎ早に思ったことを口にします。

 ガロア殿とわたくしの同胞たちは、フェール様方と接する機会がないので、此処にいても、交わることなく種族同士で固まっています。この喜びを皆で共感できれば、異なる種族が共に語らう姿も夢ではありません。


「ふむ。それは良いな。では、まずどのように倒すかを話し合うところから協力するか…」

「はい。そうでございますね。しかし、いきなり全員でとなると場が混乱してしまうのではないでしょうか?」


 わたくしは話し合いの場を想像して、各々の種族が主張し合って曲げない姿が浮かんできました。これではいけません。


「うむ。それもそうだな。では、話し合いに何名かを選出して、そこで纏まった作戦によって、闘いに参加する者を選ぶのはどうですかな?」

「そうでございますね。それが良いと思います」


 ガロア殿と話していると、今まで経験したことのない達成感が湧いてきます。

 話しているだけでこれなのです。砂蜥蜴を倒せればきっと、もっと凄い感情が湧いてくることが予想できます。

 なんて満ち足りた時間なのでしょう。

 これを、わたくしの同胞たちにも感じて欲しいと思います。


 それから、わたくしたちは一旦、自分の同胞たちのところへ向かいます。

 そこで、共感を得られそうな者を二名選出しました。

 わたくしは、その二名を連れて、皆から少し離れた位置まで移動します。

 彼女たちは、連れていかれる理由が分からず、不思議そうにしていますが、それも今の間でしょう。


「エリュナ、ユシェル、あなたたちに大切な話があります」


 わたくしが改まって真剣な顔で話し出したせいでしょう、自分たちが怒られると感じたのか、右往左往し始めました。


「少し落ち着いてください。怒っているわけではありません。それよりも、あなたたちに協力をお願いしたいのです」

「協力ですか?」


 彼女たちは、それを聞いて落ち着きはしたものの、首を傾げながら小さな声で問い返してきました。

 彼女たちだけを連れてきたので、内密なことだと思っているようです。

 少し違うのですが、今は彼女たちだけに話したいので、それに感謝しておきます。


「はい。実はですね。ガロア殿と相談したのですが―――」


 わたくしは先程、ガロア殿と話した内容を彼女たちに告げます。

 しかし、彼女たちは、ガロア殿たちと協力して砂蜥蜴を狩るということに難色を示してしています。

 彼女たちの反応も当然でしょう。今までは種族間で協力することは禁忌とされてきたのですから。


「では、ユシェル。もし、種族が協力し合った場合の利点と欠点を考えてみてください」


 わたくしが説明しても良いのですが、種族間の協力については自ら考えることが大事なのです。

 納得しない者に命じてやらせても、近い将来、破綻します。

 わたくしの問い掛けに、 ユシェルは言葉にしながら考えを纏めていきます。


「利点は…、他種族が協力し合うのなら、自分たちの不得手を補い合って弱点をなくし、得手を組合せて、より強力な武器にできると思います…。欠点は、今までと考え方が変わる点でしょうか。他種族に恨みを持つ者も多くおりますから」

「ユシェル、良い着眼点ですね。では、その利点を踏まえて、わたくしたちだけが協力しなかった場合、わたくしたちの種族がどうなるか考えみてください?」


 利点が考えられたなら、次は、それに伴う結果です。

 わたくしは、彼女たちを導くように、問い掛けていきます。


「利点を考えると…、わたくしたちより弱かった種族が、わたくしたちより強くなる可能性があります。そうなれば、協力していないわたくしたちの種族は、その種族たちに負けてしまい、滅んでしまう可能性がある気がします…」


  ユシェルは自分で言葉にしながら苦い顔をしています。


「ユシェル、ありがとうございます。わたくしもその通りだと思います。今までは他種族より自種族の優位性を示すことが、自種族の繁栄に繋がると考えられていました。しかし、種族が協力し合う世界では、今までのやり方では逆に自種族を滅ぼしてしまうということです。しかも、協力し合っている種族たちは、種族間での争いもなく、それによる犠牲者や取り残される者もいなくなり、より繁栄の道を辿ります」


 わたくしがユシェルの回答を補足すると、ユシェルとエリュナが大きく目を見開いています。


「フィリエ様。それは…、そんなことが本当に可能なのですか…?」


 エリュナが、慌てたように言葉を発します。

 ただ、言葉ではこう言っていますが、その顔には、明らかに期待が満ち溢れています。


「はい。これはフェール様のお望みでもあります。そして、あなたたちも知っての通り、フェール様のお傍にはオルディス様、ネルビア様、そしてベルファ様がおられるのです。他種族が協力し合う世界は必ず訪れます。例え、それが遠い未来の話であったとしても、わたくしたちだけでも先に協力し合うことは、わたくしたちのみならず、ガロア殿たちの種族の繁栄にも繋がることは確約されているのです。その結果、延いては、フェール様の繁栄にも繋がるのですよ。であれば、その世界が訪れない未来が考えれますか?」


 わたくしが、この夢のような話の根拠を語った途端、彼女たちの目が希望で輝き始めました。

 彼女たちは既に、人間であるフェール様と、複数の種族で構成されたオルディス様たちが仲良く協力し合っている姿を見ているのです。そして、あのお方たちは、この森、いえ、この世界でも敵う者がいないのではと思えるほどの強者です。あのお方たちを見て知っている者が、これから訪れる世界を想像できないはずはないと思います。

 フェール様は、勢力を拡大することを考えておられない節はございますが、だとしても、わたしたちだけでも繁栄の道を辿れば良いのです。そこに破滅が存在する道理はないのですから。


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