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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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召喚の魔法陣

 俺は受付嬢の後について、冒険者ギルドと訓練場を繋ぐ渡り廊下を歩く。

 他の冒険者は冒険者ギルドの正面玄関を一旦出て訓練場の正面玄関から入り直すようだが、冒険者登録をする俺だけは渡り廊下を通ることが許されているようである。


「どうして他の冒険者はこの通路を利用しないんですか?」


 何気なく受付嬢に質問すると、受付嬢から「今日は冒険者の数が多いですから」との答えが返ってきた。

 俺は先ほどまでロビーにいた冒険者の数を思い浮かべ、なるほど、と納得する。

 恐らくは、他の冒険者は既に訓練場の観覧席にいるだろう。とすれば、俺はその観衆の視線の中に入っていくことになる。さながら闘技場に入場する戦士のような緊張感が俺の身体を駆け巡った。

 嫌だな~。衆目が集まる中で魔法陣を魔力で満たせなかったら、と考えると胃が痛くなってくる。


 そんな想いを抱きながら歩いていると、程なく訓練場に辿り着いた。

 少し薄暗い通路を抜けると視界が開ける。俺の前には、かなり広さがある訓練場が現れた。

 冒険者ギルドから繋がる渡り廊下は観覧席を通ることなく直接訓練場に繋がっていたようだ。

 俺は周囲から聞こえる声に誘われて、ぐるりと視界を巡らせた。訓練場を取り囲むように壁があり、その外側を囲うように階段状になったせり上がる観覧席が広がっており、そこに冒険者たちが思い思いに座って歓談している。

 そして、それらを囲うように石造りの頑丈な壁と天井が聳えている。恐らくは防音対策や魔物が外に出ないようにするための安全対策だろう。

 それから俺は再度、訓練場に視線を戻した。訓練場の俺から向かって右側、正面の入口から向かって奥側にあたる床には大きな石板が埋め込まれており、その上に魔法陣が描かれていた。その床は砂埃一つないほど綺麗に磨かれている。

 うん。大きい。受付嬢が言っていた魔法陣の大きさは誇張でもなんでもなく見事にその大きさを示していた。

 訓練場を取り囲む観覧席には多くの冒険者がおり、そして目の前には想定外の大きさの魔法陣。それらを視界に収めた俺の口から『日を改めませんか?』という言葉が出そうになり、思わずその言葉を飲み込んだ。結局のところ日を改めたところで状況が変わるとも思えない。安全対策であり、同時に娯楽という名目上、観覧する冒険者の数が減るとは思えない。寧ろ冒険者登録をする者がいると事前に知られた分、もっと増える可能性がある。それに魔力が数日で増えるとも思えない。

 俺は目を瞑り深呼吸を数回繰り返して、気持ちを落ち着ける。うん。やるか。


「それでは、この後の流れを説明してもよろしいですか?」


 受付嬢が、俺が落ち着いたのを見計らったように声をかけてきた。

 俺はそれに首肯で答える。


「では、召喚石を持って私の後についてきてください」


 受付嬢は軽く頷いて俺に指示を出すと、魔法陣の方に向かって歩き出した。

 俺は鞄の中の召喚石を確認すると、受付嬢の後を追う。

 受付嬢は魔法陣の上を埃を立てないよう静かに進むと、魔法陣の中に描かれていた、訓練場の入口側を頂点とした正三角形の文様の左奥側の角で立ち止まった。そしてその角に描かれている小さな円状の窪みを指差す。


「その円の中心に召喚石を、魔法陣が繋がるように嵌め込んでください」


 俺は受付嬢に言われるまま、鞄から召喚石を一つ取り出すと、そこに嵌め込む。


「はい。大丈夫です 。同じように、この三角形の文様の残りの二つの角にも召喚石を嵌め込んでください。わたしはこの魔法陣の入口側の端でお待ちしておりますので」


 俺が召喚石を嵌め込むのを見守っていた受付嬢は、嵌め込まれた召喚石を見て一つ頷くと、続けて魔法陣の各箇所を指差しながら次の指示を出してきた。

 俺はその言葉で、もう一度魔法陣を見回す。

 確かに三角形の文様の各々の角には小さな召喚石を嵌め込む窪みがあるのが見て取れた。

 俺はそれを確認すると各角に向かって静かに移動し、円の中心に召喚石を嵌め込んでいく。

 特に難しい作業でもなく素早く召喚石を嵌め込み終えると、三つの召喚石がちゃんと嵌っていることを再確認した後、受付嬢が待機している場所に向かった。


「今から、この後行っていただくことを全て説明しますので、聞き漏らさないようにしてください」


 その言葉で、俺はこれから魔物を服従させるまでの全ての手順が説明されることを理解し、頷きで返す。

 同時にここからが本番だという緊張感が襲ってきた。

 受付嬢の顔も先ほどまでの優し気な笑顔とは異なり真剣な表情になっている。

 これから行うことは、娯楽を兼ねているとはいえ、安全対策を講じるほどの作業だということを再認識させられる。俺にはその前に乗り越えるべき大きな壁が立ちはだかっていることさえ忘れそうになるほどに。


「まず最初に、魔法陣に掌を当てて、この魔法陣を魔力で満たしていただきます。魔法陣に魔力が満ちると一瞬、魔法陣が白く眩く輝きますので、それが魔法陣が発動した合図となります。その合図を確認した後、素早く魔法陣から手を放して、魔法陣から距離を取った位置で武器を持って魔物の襲撃に備えてください。しばらくして魔法陣から光が失われると同時に召喚石が嵌め込まれた場所に魔物が現れます。基本的に魔法陣には召喚した魔物が服従する術式が組み込まれていますが、召喚された直後の魔物は気が立っていますので、フェール様を視界に収めた途端、フェール様に襲い掛かってくると思います。ですから、その魔物を弱らせれば服従するはずですが、もし、魔物が最後まで抵抗するようなら殺してください。くれぐれも生きたまま放置しないようにお願いします」


 俺は受付嬢が説明してくれた内容を頭の中で反芻する。

 魔法陣に手をついて魔力で満たす。魔法陣が白く輝いたら即座に離れて剣を構える。魔物が襲ってきたら弱らせる。もし、服従せずに最後まで抵抗するようなら殺す。うん。大丈夫だ。


「理解しました。あ、あと、終わるまで鞄を預かっておいてください。中には何も入っていないので大丈夫です」


 俺は理解したことを首肯とともに告げて、肩に掛けていた鞄を受付嬢に手渡した。

 受付嬢は俺から鞄を受け取り、念のために鞄の中を確認すると、一つ頷く。


「では、魔物を従えさせられれば晴れてフェール様も冒険者の仲間入りとなりますので、頑張ってください」


 最後に優しそうな笑顔で応援の言葉を紡ぐと、受付嬢は観覧席の方へ移動していった。

 俺は受付嬢を見送りながら大きく息を吸って最後の気合を入れる。


 俺は訓練場の入口を背に向けて魔法陣の端に跪き、先ほど受付嬢が示した場所に手をつく。ここからは自分との勝負だ。

 そして、一旦、自分の中の魔力を意識してから、その魔力を魔法陣に流し始める。

 掌からじわりと魔力が流れ出るのを感じると、それと同時に掌の周りが淡く光り出した。

 俺は魔法陣にちゃんと魔力が流せ始めたことを確認して少し嬉しくなる。


 だが、俺はこの喜びに飲まれることなく、努めて慎重かつ冷静に魔力を流していくことに集中した。魔力を少しでも無駄にすることなく。

 魔法陣に魔力を込める際、最も重要なのは、適切な量を乱れることなく継続して流し続けることだと教わった。弱すぎても強すぎても駄目。弱ければ魔法陣が満ちているように見えても、発動に必要な魔力量には至っておらず魔法が発動しない場合があるらしい。逆に強すぎると魔力が飽和状態を超えて、超えた分の魔力が拡散する。そして、これほど大きな魔法陣ともなると、満たした個所から飽和状態を超えた魔力が拡散してしまい、全体を満たす前に魔力の無駄遣いをすることになる。

 この強弱の目安となるのが、魔法陣が放つ光の強さだ。魔法陣から発せられる光が暗すぎる時は流している魔力が弱く、逆に明るすぎる時は強すぎるため、魔法陣から発せられる光を頼りに魔力を流さなければならない。

 俺は魔法陣に魔力を込める訓練を思い出し、魔法陣の光に集中しながら魔力を流し続ける。


 程なくして、魔法陣の半分程度が光を発したところで、俺は再度、自分の中の魔力に意識を向けた。

 本来は俺の中に残り半分を満たせるだけの魔力が残っているかを確認したいが、正直、魔力自体は感じられても何をもって魔力量を知ればいいのか、その方法も知らなければ基準も分からない。しかし、魔力切れを起こす直前は感じられる魔力が少なくなると聞いているので、このまま魔力を感じ続けられれば魔法陣を満たすことができるだろうと考えて、意識を向けてみた。

 その結果、俺が感じられる魔力に今のところ、魔力を流し始めた時と然程の違いは感じられない。

 まだ半分程度しか満たせていないので、ここで変化があっても困るのだが、それでも少しばかりの安堵を覚える。


 俺はその後も油断をせずに魔法陣の光と自分の魔力に交互に意識を切り替えながら魔力を流し、いよいよ魔法陣が満たされる直前まで辿り着けた。

 俺はその魔法陣を感慨深げに見つめながら、魔法陣を満たす最後の魔力を押し出した。

 その瞬間、魔法陣が一際眩く輝いた。


 やった! 魔法陣に流す前は不安に駆られていたのだが、なんとか満たすことができた。胸の奥から熱いものが込み上げてくる。第一関門にして最大の難関を超えられた喜びが心の中を駆け巡っている。


 しかしここで、受付嬢が言っていた『必ず魔物が召喚されるわけではない』という言葉を思い出す。

 その言葉を思い出した途端、俺の頭の中から喜びが霧散し、一気に冷える。

 そうだ、まだ魔物が召喚されるかも分からないし、たとえ召喚されても弱らせて、服従させなければならないのだ。


 俺は次の手順を思い出し、魔法陣が発動したことを再度確認すると、素早く魔法陣から手を放して跳び退り、魔法陣から距離を取って剣を構える。いつまでも感慨に浸っている場合ではない。

 一体でも召喚されればそれで良い。俺はそれ以上の贅沢を望まぬ思いで魔法陣を見つめる。その時間は実際には数秒にも満たない僅かな時間だが、俺には永遠にも感じるほど長い時間に感じられた。


 そんな思いで魔法陣に集中していると、徐々に魔法陣の光が収まり始め、それに合わせるように三つの召喚石を中心に小さな風の渦が発生し始める。

 それと同時に観覧席で騒めきが起こる。その内容までは分からないが、観覧席にいる冒険者が声を上げるということは、恐らくこの風の渦は魔物召喚の兆しなのだろう。彼らにとっては、これから娯楽が始まる。そう考えれば、彼らの気持ちも理解できる。


 ただし、三つの召喚石で風の渦は発生しているが、三つ全てで召喚されるのか、それとも予兆だけで終わるのかが分からない。受付嬢はこの風の渦について何も言わなかったし、孤児院出身の冒険者からも聞かされていないので、この風の渦が魔法の発動の延長線上だという認識に留めておくのが正解な気がする。まだ召喚されたわけではないのだから。


 その後、風の渦は強さを増し、このままいけば訓練場の天井に届きそうになったところで少しずつ弱まり始め、その風の渦が弱まるにつれ、渦の中に薄っすらと魔物の陰が浮かび始めた。

 その影は、三つの召喚石全てに確認できる。一体でも良いと思っていたところに三体全てが召喚されて、これは喜ぶべきことなのかと、微妙な心境になる。当然、一体の方が対峙しやすい。しかし、一体だと間違って殺してしまう可能性もあるため、本来であれば複数体が良い気がするが、三体だと荷が重くも感じる。


 俺は内心二体が良かったなと思いながら、風の渦が晴れるのを気を引き締めて待つ。

 そして、風が晴れた場所に現れた魔物を認識して、俺は驚きで目を見開いた。


 え? 人間?


 そこには魔物というよりは、人間と言われた方が納得できる者たちが立っていた。しかも三体とも。


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