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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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魔物からの貢物

 俺たちが森へ転移すると、そこにはネルビアと白狼たちが俺たちを待っていた。

 白狼たちは既に獲物を取ってきたようで、魔物と植物が積み上がっていた。


「お前たち、ありがとう」

「いえ、フェール様のお役に立てて何よりでございます」


 俺が白狼たちの働きを労うと、白狼が恭しく礼をする。

 うん。白狼の言葉も聞き取れている。

 練習していた時よりも実感が湧いて嬉しさが込み上げてきた。頑張った甲斐があるというものだ。


「そんなに畏まらなくていいぞ」


 俺が白狼にもっと肩の力を抜くように促すと、白狼が驚いたように俺を見上げてくる。


「ああ、練習してお前たちとも話せるようになったんだよ」

「それは、おめでとうございます」


 俺が頭を掻きながら恥ずかしそうに告げると、白狼も嬉しそうに尻尾を振っている。


「さすがフェール様です。もう念を聞き取れるようになられたんですね」


 俺と白狼の会話を聞いていたネルビアが俺を褒めてくれる。

 こいつは俺が起きたらもういなかったので、こいつの前で話すのは今回が初めてだ。


「ああ、ありがとう。で、ネルビアは森で何をしていたんだ?」

「うふふ。それは食事の後のお楽しみです」


 ネルビアはどうやら食事の後まで秘密にするようだ。

 それほどのことなのか? 俺はなんだか無性に知りたくなったが、ネルビアが楽しそうなのでぐっと我慢する。


「それで、何も問題は起こさなかっただろうな?」

「はい。もちろんです」


 う~ん。本当かなぁ? こいつの問題がどの程度からを指すのか、今ひとつ確証が持てない。


「白狼。本当か?」

「はい。大きな問題は起こされておりません」


 俺の突然の確認に、白狼は俺とネルビアの顔を交互に見た後、教えてくれた。

 今、なんだか不穏な言葉が紛れていたように思うのだが、気のせいか?

 今後のことを考えても、こいつらの問題の定義をちゃんと理解することが必要な気がする。


「それより、フェール様。お食事にしましょう」


 ここで、ネルビアが話題を変えてきた。

 こいつの目的が、早く俺に贈り物を見せたいのか、それとも話題を逸らせたいのかが、分からない。

 後者のような気もするけど、問い質しても真面な答えも返ってこないだろうな。

 それに問題が起こっていたら、時既に遅しだ。今は、追及するより食事の準備をする方が建設的だと思える。


「ああ。でも、これから食事の準備をするんだから、まだ食べられないぞ」


 こいつが料理できれば、もっと早くに食事ができたんだが、ないものねだりをしてもしょうがない。

 俺はネルビアにそう告げると、ベルファのもとまで向かった。


「ベルファ。昨日と同じものを造ってくれるか?」

「それなら、もう準備してございます」


 ベルファは解体作業の手を止めて、焚き火の方を指差した。

 そこには既に鍋などの調理器具や食器が並べられていて、その横に桶のような物に洗ったと思われる植物が入っている。

 早いな! ベルファからできる男の気配が漂ってくる。

 時々馬鹿になることがなければ、絶対に優秀なんだけどな。残念さが否めない。


「さすがだな。ありがとう」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 この自分を自慢しないところも、ベルファの美徳だと思える。

 これがネルビアなら、間違いなく胸を張っている。まぁ、あれはあれで憎めない可愛さなのだが。

 俺はベルファに少しばかりの褒め言葉をかけてから、礼を言って、焚き火の方へ移動した。


 うん。整ってるな。あとは鍋を火にかけて具材を入れて塩で味付けするだけだ。

 俺は手順を確認し終えると、手早く作業に取りかかった。

 オルディスは余った獲物を積み上げているし、ベルファは解体作業を行い、白狼は辺りの警戒をしている。

 完全に作業の分担ができあがっていて、全員で協力して作り上げている一体感を感じる。

 ただ、ネルビアだけは俺の後ろから、俺の作業を見ているだけだ。こいつはいったい何をしているのだろう? どこかで注意しないととは思うが、俺も今は料理をしていて話す時間はない。注意するのは次の機会だな。


 それからしばらくの後、各々が自分の作業を終えて食事ができあがると、楽しい宴が始まった。


「そういえば、白狼たちって名前はないのか?」

「名前ですか? どうでしょう? 強い魔物は名前を持つことがありますが、そうでない者はすぐに死んでしまうので、ほとんどの魔物に名前はないと思いますよ」


 オルディスが、魔物の名前について基本的な知識を教えてくれる。

 確かに弱肉強食の世界に生きる魔物に死者を弔う習慣はないだろうし、すぐに死ぬなら名前はつけないか。


「フェール様。我の名前は、ガロアと申します」


 俺たちの会話が聞こえたのか、白狼が俺のもとまで走ってくると、嬉しそうに尻尾を振りながら名乗りをあげた。

 灰色狼たちを纏める長だけあって、白狼には名前があるようだ。


「名前があるのはガロアだけか?」

「いえ、我以外にも、あちらにいる者たちにも名があります」


 ガロアの視線の先を追うと、そこに白と灰色が混ざった毛色をした狼が二頭いる。

 見た目からすると、白狼とも灰色狼とも言い難い。


「あいつらの種族はなんになるんだ?」

「白毛が混ざり始めた時点で、我と同じですね」


 白狼の話では、元は灰色狼だが、今は白狼の幼体みたいなものらしい。もちろん、灰色狼よりも強いが、白狼よりは弱いそうだ。


「なるほど。お前たちは進化するのか」

「はい。我ら以外にも進化する魔物は多くおります」


 魔物って凄いな。人間はどこまでいっても人間のままだが、魔物は強さによって進化する種族が多いようだ。

 もし、人間が進化したら何になるんだろう? 全く想像できないが、進化しても人間として扱われるのだろうか? 人間が定める魔物の定義を考えると微妙な気がする。


「なぁ、お前たちや天使って進化しないのか?」


 俺は、オルディスたちのことが気になって、尋ねてみた。

 こいつらから話を聞いている限り、進化とかしなさそうな感じだけど。


「種族的には進化しませんね。基本的に俺たちには上限がありませんから」

「強さの上限がある魔物が、その上限を超えると進化するってことか?」

「はい。基本的にはそうですね」


 俺はオルディスのより具体的な説明に納得する。

 『基本的に』と言う以上は例外もあるのだろうが、例外は何処にでも存在する。例えば、俺みたいに。

 そんな例外を聞いても、『はぁ、そうですか』となるだけなので、今は置いておこう。


 こうして俺は新たな知識を得ると共に、仲間たちとの食事を終えた。


「それでは、フェール様。食後のお楽しみです」


 ネルビアが、この時を待ってましたとばかりに声を発した。

 食事中から俺のことを見ながら、そわそわしていたので、心待ちにしていたのだろう。


「ああ、そうだったな。で、楽しみってなんだ?」

「はい。少しお待ちください」


 ネルビアはそう言うと、すっと立ち上がって、森の方に向かって何やら合図をしている。

 すると、ネルビアの前に数百体の人型の魔物が何処からともなく跪いた状態で現れた。

 その魔物たちは、全員が女性のように見受けられる。全員が模様は違うが黄緑色の衣装を纏っている。


「ネルビア、その方たちは誰なんだ?」


 跪いていることからネルビアの配下のようにも見えるが、どう見てもネルビアの種族とは異なっている。

 単に礼節を取って、跪いているだけか?


「彼女たちは樹木の精(じゅもくのせい)です」

「樹木の精?」


 俺は初めて聞く種族名に疑問符を浮かべながら、オルディスとベルファの方を窺い見る。

 オルディスとベルファは冷徹な表情で樹木の精たちに視線を送っていた。


「こいつらは、樹木が意思を持った存在です。ただ、此処にいるのは単なる思念体ですけどね」


 オルディスが俺の視線に気付いたのか、彼女たちについて説明してくれる。

 しかし、その説明で俺の頭の中に疑問符が増えた。


「思念体ってなんだ?」

「思念で造った操り人形みたいなものですね。遠隔操作できる俺たちのような存在と考えていただければ良いかと思います」

「この者らの本体は樹木でございます。それを倒さない限りは、この者たちをいくら倒しても復活してまいります。その上、魔法や物理攻撃までしてくるため、非常に煩わしい魔物どもの代表格といえる存在でございます」


 俺の疑問にオルディスとベルファが答えてくれる。

 オルディスの説明によると、魔素を集めて造られている操り人形で、それに思念で操っているそうだ。

 俺はその説明を聞いて、若干引いてしまった。だって、倒しても有効打にならない魔物とか反則過ぎるだろ。そんなの一方的に攻撃されて終わりだ。


「で、その樹木の精さんたちが、どうして此処にいるんだ?」

「はい。それはこの者たちに、フェール様への御贈り物を持って来させたからです」


 そう言うと、ネルビアは樹木の精たちから何やら受け取って満足そうにしている。

 ネルビアはそれを持って俺のところまで来た。


「フェール様。こちらをどうぞ」


 ネルビアは両手で大事そうに包み込むようしながら、それを俺に差し出してきた。

 ネルビアの手には、薄い黄色に淡い赤味を帯びた、微かに煌めきを放つ果実がある。


「これは?」

「はい。これは月桃(げっとう)です」


 俺はその名前を聞いて驚きふためいてしまう。

 月桃と言えば、伝説の果実だ。一個、金貨数十枚~百枚で取引される幻の果実である。

 当然、俺なんかが目にしたことはないが、もしこの果実が取引されたりしたら、間違いなく市井でも話題になる。

 ただし、俺が産まれてから取引されたという話は聞いたことがない。それでも俺が聞き及ぶほどには有名な果実として知られている。


「そんなもの、どうしたんだ?」

「昨日、こちらに来た際に月桃の木らしきものを見掛けたので、フェール様のために取ってきました」


 冥界にいたのに、よく月桃の木を知っていたな。ネルビアもこの生界に来たことがあるようだし、知っててもおかしくないのかもしれないが、それでも驚いてしまう。

 それに、見掛けたから取ってきたって、そんなに簡単に取れる物なのか? 伝説の果実だよ?

 って、あれ? 樹木の精から受け取ってたし、持って来させたって言ったよな? 取ってきてないよな?

 これはどう考えても、ネルビアの言うような簡単な話じゃない気がする。


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