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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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森の食事

 こうして、俺たちは食べられる植物を探しながら森を移動した。

 普通なら、野生の食べられる食物など知らない者の方が多いが、食べるものが少なかった俺たち孤児には必須の知識だ。数少ない俺の強味でもある。


「フェール様。結構、取れましたね」

「ああ」


 ネルビアが取れた植物を抱えて、楽しそうにしている。

 何種類かの草や木の芽などが取れたので、肉と一緒にスープにするのも良いかもしれない。

 これでパンでもあれば言うことはないのだが、ないものは仕方ない。

 それでも日頃食べている食事よりは余程豪華だ。


「ベルファはスープは作れるのか?」

「申し訳ございません。肉を焼くだけならば調理できるのですが、御役に立てず申し訳ございません」

「気にしなくていいよ。俺ができるし、肉は焼いてくれるか?」

「はい。もちろんでございます」


 俺たちが最初に転移してきた場所に移動して、調理の準備をしていると灰色狼たちが獲物を取って戻ってきた。

 それを順番に確認していくと、魔物は問題ないが、はやり植物は食べられそうにない物がほとんどだった。

 うん。俺たちが取ってきておいて正解だ。


「お前たち、なっていませんね。いいですか。これがフェール様がお食べになることができる植物です。次からはこれと同じものを取ってくるのですよ」

「ウォーン」


 ネルビアが、俺たちが取ってきた植物を少しずつ並べて、灰色狼たちに教えている。

 こういうところは王なんだな、と思わなくはない。日頃からこうならいいのに。

 ただ、ネルビアは俺の横で取った植物を抱えていただけだから、指導できる立場かというと微妙だけど。


 それを横目で見ながら、俺とベルファは調理に取り掛かる。

 鍋をベルファに造ってもらい、中の水も魔法で入れてもらった。

 あとは植物もベルファに水の魔法で綺麗にしてもらったので、俺が実質やったのは、鍋に植物を千切って入れて、塩で味を調えることぐらいな気もするけど、そこはまぁ、ご愛嬌ということで勘弁してもらおう。


 こうしてできたあがった料理を全員が手にすると、岩に座っている俺の前にベルファたちも腰を下ろした。

 ベルファたちの後ろには白狼を筆頭に灰色狼たちが控えている。

 今日は食事までに少し時間が掛かったが、明日からはもっと早めに食べられるだろう。


「お前たちも、余っている獲物を食べていいぞ。残り物で悪いけど」

「ウォーーーン」


 俺は白狼たちに、残った獲物を食べるように促した。

 このまま捨てるのは勿体ないし、森の中で保存が効くとも思えない。白狼たちが食べてくれるなら助かる。

 白狼たちは俺の言葉を理解したのか、オルディスが山積みにした獲物に群がると、それを食べだした。

 もちろん、彼らは植物には手を出していない。肉一択だ。


 なんだかこれだけの大所帯で食事をするのも、賑やかでいいものだな。

 まぁ、白狼たちの食事は少々血生臭いが、見なければいいだけだし。


「それで、オルディス。魔物たちとの会話だけど、どうやるんだ?」

「ああ、はい。それですね。それは言葉自体ではなく、言葉に込められた念を聞き取るんです」


 オルディスは、突然振った俺の話に戸惑いながらも、すぐに理解して答えてくれる。


「言霊とかいうやつか?」

「はい。言霊も原理は同じですね」


 言霊は、言葉に想いを込めて、強く発するとそれが現実になると言われている。

 俺は迷信だと思っていたのだが、オルディスの話だと実際にあり得るのかもしれない。


「そうなのか。とうことは、魔物はみんな言葉に念というのを載せているのか?」

「いえ、わざわざ念を載せなくても、少なからず言葉には念が込もってますよ」

「え? 俺の今の言葉にもか?」

「はい。ですから白狼たちはフェール様の御言葉を聞いて魔物を食べ始めたじゃないすか」


 ああ、言われてみれば、その通りだ。

 彼らに残り物を食べていいと言ったのは俺だし、念というのを意識したわけじゃない。

 無意識でも言葉には念が込もっているということなのか。


「でも、念ってどうやって聞き取るんだ?」

「それはですね…」


 俺の質問にオルディスは顎に手を当て考えている。

 それだけ説明が難しいのだろう。もしかしたら感覚的なものかもしれないし、それなら習得するのも難しいかもしれない。


「フェール様は、他者の言葉に感銘や感動とか、あとは畏怖といったものを感じたことはありませんか?」


 オルディスは考えが纏まったのか、顔を上げると口を開いた。


「ああ、あるな」

「それが念を感じるということです。言葉以上のものが込めれているのを感じ取っているんですよ」

「確かに、他者の言葉を聞いて、そこに込められた想いを感じることがあったが、あれが念なのか?」

「はい。そうです。恐らく、フェール様も強い念は感じ取られているようですが、普通の言葉にも念は込もっているので、それを感じ取れれば、魔物とも会話ができるようになりますよ」


 なるほど。なんとなくだが理解した。

 差し当たって念を感じ取れなくても問題はないが、聞き取れた方が今後の役に立つ気がする。

 少しでも感じ取れてるなら、見込みはありそうな気もするし。


「でもそれって、言語と念を別ものとして聞き取らないといけないんだよな?」

「ええ、そうですね。それは慣れるしかないですね」


 まぁ、そうだろうな。そんな簡単に身に付くなら、全員が習得しているし、孤児院でも教えてもらえた筈だ。


「う~ん。でも、言葉と念が同じ内容なら、言葉の方に意識が向きそうだから、それが課題そうだな…」


 基本的に日常の会話では言語を用いて意思疎通できてしまうので、念を感じ取とれても、念と言葉のどちらを聞き取っているのかの判別ができない。


「それなら、牢屋に帰ってから、俺たちが冥界の言葉で話すので、その念を感じ取る練習をされては如何ですか?」


 俺は冥界の言葉があると聞いて、少々驚いてしまう。

 普通に考えれば、彼らの言語が人間の言語とは異なると想像できるはずだ。彼らが目の色以外は人間と見分けがつかないことと、数日間だけだがオルディスたちと会話して違和感を感じなかったので、まさか別の言語があるとは思わなかったのだ。


「ああ、それができるなら、やってみるのもありだな」

「ええ、それに念を聞き取れれば、念話も可能になりますよ」

「念話?」


 わざわざ念話というぐらいだから、言葉に込めたられた念を感じ取ることとは違うのだろう。

 言葉だけを取れば、言葉を発せずに念だけで話をするように思えるが、そんなことが可能なのか?


「はい。念話ができれば、言葉を喋らなくても相手に意思を伝えられるようになります。ただ、主従の関係か、同じ主人を頂点に仕える配下の者たちの間でだけ、という制限はありますけどね」

「なるほど。なんらかの繋がりが必要ってことか」

「はい。そうです」


 言葉を発しないということは、内緒話がし放題ということである。

 会話の最中に分からないことがあっても、秘密裏にオルディス先生に聞けるということだ。

 これは是非とも習得したい。


「って、あれ? そうすると、お前たちも念話ができるってことか?」

「ええ、ベルファもネルビアもフェール様に服従したので、今は俺たちの間でも使えますよ。というか、先程も使ってましたよ」

「え? いつ?」

「白狼を襲撃する際に、三方向に散った際にですね。あの時にベルファとネルビアと襲撃の時間を合わせるために念話してましたよ」


 ああ、道理でみんな息が合ったようにぴったりと白狼に接敵できたわけだ。

 こんな絡繰りがあったとは思わなかった。

 って、待てよ? でも、あいつら目の前にいなかったよな?


「もしかしてだけど、念話って離れていても伝わるのか?」

「ええ、この生界と冥界では不可能ですが、生界の中であれば、何処にいても伝わりますよ」


 原理としては、主従の繋がりを使って伝達するので、距離は関係ないらしい。

 ただし、繋がっていても界を跨ぐと使えなくなるので、今は彼らも冥界にいる配下の者たちとは念話できないそうだ。まぁ、彼ら曰く、繋がると四六時中煩くて仕方ないので、繋がらない方が良いみたいだけど。それって、本当に帰らなくて大丈夫なんだろうか?


「なあ、しつこいようだけど、本当に冥界に帰らなくても大丈夫なのか?」

「ええ、冥界は俺たちの配下だけでも問題ありませんし、四六時中と言っても何処にいるのか尋ねてくるだけですしね」


 それって配下の者たちが心配しているんだろうけど、場所を教えてこちらに転移して来られても困る。

 こいつらに帰る意思がない以上、繋がらなくて良かったと思う方が精神心に健全だな。


「ああ、分かった。じゃあ、もうこれ以上は何も言わないよ。でも、何かあったら言うんだぞ」

「はい。分かりました」


 とりあえず今は、彼らと共に過ごすことを考えよう。

 こいつらを召喚したのは俺の都合なので、責任は取るべきだ。


「ああ。それじゃあ、食事も食べ終わったし、そろそろ帰るか」

「そうですね。では、残った魔物の処分をしてきますね」

「では、私も食事の後始末をさせていただきます」

「それでは、わたくしは明日の獲物を取っておくように白狼たちに言い聞かせてきますね」


 魔物の死骸の周りでは、白狼たちが腹を満たしたのか、毛繕いをしながらくつろいでいる。

 こいつら、かなり食べたな。残っているのは骨などが主で肉はほとんど残っていない。

 これなら、オルディスが出した火焔で直ぐに燃え尽きるだろう。

 一方、ベルファは焚き火の火を消すと、鍋や器などを魔素に分解している。

 必要無くなれば魔素に戻せるって、物質創造って本当に便利だよな。旅や遠征の荷物が一気に減る。

 そして、残るネルビアは、白狼たちの前で腰に手を当てふんぞり返って偉そうに指示を出していた。


「明日も夜にフェール様が来られますので、それまでに獲物を取って、ここに持ってきておくのですよ。あと、植物は暮々もわたくしが説明した物だけです。良いですね」

「ウォーン」


 白狼の返事はきっと了承したってことなんだろうな。

 ネルビアの言葉と白狼の態度から予想はできるのだが、俺も早く話せるようになりたい。

 能力は時間が掛かるかもしれないが、念を聞き取るのならすぐにでも練習できるようなので、牢屋での時間も無駄にならない。俄然やる気が湧いてくる。


 一通り後片付けを終えると、みんなが俺の元に集まってくる。


「では、フェール様。牢屋に戻りましょうか? 俺に掴まってください」

「ああ」


 俺が了承を返してオルディスに掴まると、オルディスの姿が見えなくなった。

 たぶん、同時に俺の姿も見えなくなっているはずだ。


 これは幻術の応用で、体が透明になったように見せる能力らしい。

 牢屋に帰った際に、万が一、牢屋の前に人がいた場合に備えて姿を消しているのだ。

 もし、牢屋の前に人がいたら即座に全員がベッドに入って、それから幻術と結界を解く段取りになっている。

 他にも幻術の劣化版で、認識阻害という能力もあるのだそうだが、こちらは見破られる可能性が高くなるので、オルディスたちは使わないようだ。


 突然、俺たちの姿が消えて驚いた白狼たちが、きょろきょろと辺りを見回しているのが、なんとも可愛らしい。

 そういう俺も、オルディスに掴まっているので不安はないのだが、隣にオルディスがいると思うと不思議な気分になっている。


「じゃあ、俺たちは帰るけど、明日も頼むな」


 俺の声が聞こえて、白狼がはっとしたように『ウォーン』と一鳴きした。

 白狼の声を最後に、俺の視界が牢屋の中へと切り替わる。

 俺は素早く牢屋の外に視線を向けるが、そこに人の気配はなく、俺の体から緊張感が抜けていくのを感じた。


「誰もいないようですね」

「ああ」


 その言葉と共に幻術が解けた。恐らく結界も解けているだろう。

 これで明日の夜まで牢屋の中で過ごすことになる。


「今日はもう寝るか」


 これから念の練習をするのもありだが、中途半端になりそうだ。

 まだ陽が昇るまでには少しあるが、眠気もあるので、このまま寝てしまいたい。

 少しばかり昼夜が逆転しているので、このまま寝ずにいるのも手だが、それをすると食事にありつけなくなる。


「そうですね。明日もありますので、ゆっくりとお休みください」

「はい。フェール様の望まれるままに」

「フェール様。ゆっくりお休みなさいませ」

「ああ、お休み」


 俺はみんなに休みの挨拶をしてからベッドに潜り込んだ。

 俺が寝ると言ってもネルビアは楽しそうだ。きっと、俺の寝顔を見られるからだろうな。

 俺は横になって今日あったことを思い出しながら、『こんな日々も楽しくていいな』なんて考えているうちに、そのまま深い眠りに落ちていった。俺がこいつらと出会わなければ、こんな経験などできなかった。この日々がいつまでも続きますようにと願いながら。


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