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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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新たな配下

 オルディスの提案を話し合ってから、今後のことをいろいろと考えて時間を潰していると、作戦決行の時間になった。


「フェール様。そろそろ時間です」

「ああ、もうそんな時間か」


 考え込んでいた俺に、オルディスが作戦決行を告げてくる。

 ゆっくりするつもりだったのに、思考に没頭していたようだ。

 今後のことは今考えても、その通りに行くとは思えないのだが、どうしても考えずにはいられない。

 まぁ、いく通りか想定しておけば、役に立つことがあるだろうし、無駄になることもないだろう。


「はい。では、ネルビア。幻術を頼むぞ」

「ええ、任せなさい」


 昨日と同様にネルビアが幻術を展開させる。

 ただ、昨日と一点だけ違うのは、ネルビアの寝姿まで幻術で映し出されていることだ。

 オルディスの提案では、今日もネルビアは留守番だったのだが、ネルビアがここでごねたのだ。肉を土産に持ってくるといっても納得してくれず、それではベルファを留守番にしろと言い出した。だが、ベルファを残して調理のできないネルビアを連れていくと、解体と調理をオルディス一人でやることになるので、それは絶対に許可できない。

 こうした結果、ネルビアを連れていくことになったというわけだ。

 本当なら誰か一人残って、寝込みを襲ってくる者がいれば、そいつを特定したかったのだが、諦めるしかない。

 特定したとしても、牢屋にいる俺たちに何かができるわけじゃないしな。


「じゃあ、俺は結界を張りますね」

「ああ」


 俺はオルディスの言葉に頷きで返す。

 これはオルディスのもともとの提案にあったので、なんの問題もない。

 これは、寝込みを襲いに来た者に幻術がばれて騒がれないようにするためだ。

 そういう意味では結界を張ると牢の中に入れなくなるので、幻術同様、騒がれる可能性はあるのだが、俺たちが牢屋にいないことがばれるよりは良いだろうという結論に至った。


「それでは、フェール様。俺に摑まってください」

「では、ネルビアは私に掴まってください」


 オルディスに俺が、ベルファにネルビアが掴まる。

 ネルビアは俺と一緒にオルディスに掴まりたかったようなので、かなり不服そうな顔をしている。

 先程の留守番をしない代わりに、こちらは却下した。オルディスとベルファがいるのに、わざわざオルディスだけに負担を強いる必要はないし、転移の一瞬だけなので、ネルビアの我儘を許す必要もない。


「では、飛びますね」

「ああ」


 オルディスのその言葉で視界が切り替わる。

 今回は上空ではなく、昨日訪れた森の少し開けた場所に直接転移したのだ。

 そこには魔物一匹いない。昨日、オルディスが張った結界を維持していたらしい。

 もしかしたら、また俺が強さの見極めのために、魔物を狩りに来るかもしれないと思って消さずにいたそうだ。

 維持するのも大変だろうと聞いたら、発動さえしてしまえば、魔素を自動で取り込むようにしているため問題ないとのことだった。そういう手段があるから、今も牢屋に幻術と結界を張ったまま、全員が森に来ることができている。


「では、フェール様。失礼しますね」


 オルディスはそう言うと、ひょいっと俺を抱きかかえた。

 俺も慣れてきたので、なんの抵抗もなく抱きかかえられる。

 ネルビアがまたもや羨ましそうにオルディスを見ているが、こちらもすでに却下済みである。

 女性に抱きかかえられるのは、さすがに慣れたとはいえ、抵抗がある。


「では、飛びますね」

「ああ」


 オルディスは言葉と共に上空に飛翔し始めた。

 ベルファもネルビアも後を追ってきている。

 上空では、昨日同様、綺麗に無数の星々が輝いている。何度見ても感動する。無理だと分かっていても、俺も空を飛びたくなってくる。


「オルディス。あれですか?」

「ああ、そうだ」


 上空でさっと森を見渡したベルファが、森のある部分を指しながら、オルディスに確認を取ってきた。

 オルディスもベルファが指差した先を見ている。


「では、行くぞ。ネルビアもちゃんと付いてきてくれ」

「ええ、分かっているわ」


 オルディスは号令を掛けると、俺を抱きかかえたまま一気に森に向かって降下し始めた。

 その途端、俺の股間がひゅっとする。昨日はなんともなかったのだが、少し油断していたかも知れない。

 オルディスが『大丈夫ですか?』と小さな声で問い掛けてきたので、『問題ない』と返しておく。

 少し恥ずかしいので、気にしないでいただきたい。


 それからオルディスは物凄い速度で木々を縫うように飛翔する。

 ベルファとネルビアの姿は見えない。彼は別方向から目的の場所に向かっているはずだ。

 そして、木々を抜けると、少し開けた部分に数十頭の灰色狼の群れが現れた。

 上空から見た時は、大きな木に遮られていたので分からなかったが、これほどの数がいると壮観だ。

 オルディスはその灰色狼の群れに目もくれず、一気に奥にいる一際大きな白狼(はくろう)の傍まで飛翔して着地する。

 俺たちと同時に、俺の左前方からはネルビアが、右前方からはベルファが飛翔してきて着地した。

 丁度、白狼を取り囲むような位置に、俺たちはそれぞれ着地したことになる。白狼から見て正面にベルファ、左後方のオルディスと俺、そして、右後方にネルビアという布陣だ。


「ガルゥルゥゥゥゥ」


 俺たちを目にした白狼が牙を剥き出して唸り声を上げる。

 それに呼応して、周りにいる灰色狼たちも唸り声を上げ始めた。

 その瞬間、柔らかなそよ風が俺の頬を撫でる。

 それを合図にするかのように白狼がびくっと体を強張らせて地面に這い蹲った。

 これは恐らく、ベルファたちが覇気を発したのだろう。俺にはその覇気は見えないが、訓練場で彼らと対峙した時にも風を感じたので、これが覇気だと思われる。

 その証拠に周りの灰色狼たちも吠えるのやめ怯えたように這い蹲っている。

 ただ、一頭、何を思ったのか、俺に向かって飛び掛かってきた。

 俺は慌てることなく、その灰色狼の顎を優しく小突いてやる。すると灰色狼は口から泡を吹いて地面に倒れ伏した。


 実のところ、この作戦には俺も参加を表明したのだが、オルディスたちに却下されてしまった。理由は、慣れていない状態で覇気を発すると、覇気が全開になる可能性があるからだ。そして俺の場合、この森に広い範囲で影響を与えてしまって、怯えた魔物が大量に森から人里に流れ出るかもしれないとのことだった。俺も興味本位で人里に影響を与えたくないので、今は、やむなく諦めて傍観者に徹している。


「フェール様。力加減が上手くなりましたね」

「ああ、昨日、散々魔物を狩ったからな。それにしても何故こいつは俺を襲ってきたんだ?」

「それは我々の覇気を見て恐慌状態になったんでしょう」


 頭が錯乱して本能のまま、覇気を発してない俺に飛び掛かってきたということらしい。


「知能が低いですからね。仕方ありません」

「ああ、そうだな」


 まぁ、殺してはいないので、起きたら真面に戻るだろう。

 俺たちの様子を横目で見ていたベルファが落ち着いたのを見て、白狼に対峙した。


「そう怯えなくとも、お前たちを殺そうとは思っていませんよ」

「クゥーン」

「ええ、その代わりと言ってはなんですが、フェール様に服従して御役に立ってもらうことが条件ですがね」

「クゥーン」

「何、簡単なことですよ。フェール様に毎夜魔物を狩って献上するだけです」

「クゥーン」


 俺はベルファと白狼の様子を見て、なんとも言えない違和感を覚える。

 牢屋でのオルディスの案では、森にいる灰色狼たちを従えて、食用となる獲物を彼らに狩ってこさせるという話だったが、俺はてっきり覇気を見せて一方的に魔物を従えるものだと思っていた。


「なぁ、オルディス。ベルファと白狼が会話しているように見えるんだけど、気のせいか?」

「いいえ、会話してますよ」

「え? 魔物って会話できるの? 獣型でも?」


 俺は驚いて目を見開く。

 今まで魔物と会話をしている冒険者など見たこともないし、聞いたこともない。

 服従させた魔物が人間の言葉を理解して行動するのは知っていたが、それは魔物討伐などで、餌などを与えながら覚えさせるからできるのであって、まさか会話ができるとは思っていなかった。


「どうやって会話しているんだ?」


 どう見ても、白狼は『クゥーン』と鳴いているようにしか見えない。

 それを言葉として聞き取るのは絶対に不可能だ。


「それはお食事の時にしましょう。それよりも今は白狼を従えて、獲物を狩らせるのが先決です。ほら来ますよ」

「あ、ああ、そうだな」


 俺もオルディスの案を受け入れて、顔を正面に戻した。

 そこには白狼を伴いながら俺のところに歩いてくるベルファたちがいた。

 いつしかネルビアもベルファに合流している。


「フェール様。この白狼がフェール様に服従したいそうです」


 ベルファは白狼の望みのように言っているが、彼から服従したいって言ったわけじゃないよね。

 どう見ても覇気で脅していたし、最初は牙を剥き出して唸っていたからね。

 それは『服従したい』ではなく、『服従させた』の間違いだと思うよ。

 牢屋での話では、オルディスが白狼と対峙するという案だったのだが、ベルファが俺にいいところを見せたくて、交渉は自分の分野だと我儘を言った結果なので、ベルファとしては穏便に交渉が上手くいったことを誇示したいのだろうが。それでもねぇ…


「ああ、さすがベルファだな」

「はっ。お褒めに頂き、恐悦至極にございます」


 ベルファが右手を胸に当て、恭しくお辞儀をする。

 まぁ、心とは裏腹にはなるが、ここは褒めておいてやろう。戦闘にならなかったのは事実だしな。

 俺はベルファを褒めると、白狼に視線を向けた。

 白狼は俺の前で地面に這い蹲っている。


「さぁ、白狼。フェール様に忠誠を誓いなさい」


 ベルファが命じると、白狼が俺に向かって『ウォン、ウォン、ウォーーーン』と遠吠えにも聞こえる鳴き声を上げた。

 ベルファはそれを見て、満足そうに頷いている。

 俺には鳴き声にしか聞こえないので、言葉を発せずに頷きだけを返すことしかできない。


「おめでとうございます。これで白狼はフェール様の従僕です」


 うん。やっぱり良く分からない。

 オルディスたちの時もそうだったが、何故、忠誠を誓うだけで服従が成立するのか全くの不明だ。

 オルディス曰く、誓いには力が籠っており、それを受け入れることで、魂の繋がりができるとのことだが、そう言われても全く実感が湧いてこない。恐らく、俺の特殊な魔力の器のせいかもしれないが。


「さて、フェール様。この者らに獲物を取ってくるよう命じてみてくださいますか?」

「ああ、そうだな。お前たち、人間が食べられる魔物と木の実や植物を取ってきてくれ」


 俺の指示で白狼が『ウォーーン』と一鳴きすると、周りにいた灰色狼たちが森へ一斉に散っていった。


「では、俺たちも転移してきた場所に移動しますか?」

「ああ。ただ、歩いて移動したいんだけど、大丈夫か?」


 ここもそれなりの広さがあるが、灰色狼たちが帰ってきたら手狭になる。

 そう考えると、調理や食事をするには転移してきた場所の方が最適だろう。あそこの結界も俺に連なる者が出入りできるように、俺たちが転移してきた時に、オルディスが変更しているはずだ。

 ただ、少しばかり思うところがあってできれば徒歩で移動したい。上空から見ていた限りは、最初に転移してきた場所からそう離れていないと感じたのだが、果たしてどうなのだろう?


「ええ。灰色狼が獲物を狩ってくるまでに時間が掛かるでしょうから、大丈夫だと思いますよ。しかし、何故、歩いて移動するんですか?」

「ああ。灰色狼たちには人間が食べられるものを獲ってくるように言ったけど、たぶん、あいつらには分からないんじゃないかなと思うからさ。まぁ、肉は大丈夫だとしても、植物は難しいんじゃないかと思うんだよ。だから、採取しながら移動できたら、いいかなって」


 とりあえず、灰色狼たちには人間の食べられる物とはいったが、間違いなく難しいだろう。

 そもそも彼らと人間が接触したら戦闘になるはずなので、彼が人間の食べ物を知っているとは思えない。

 ただ、だからといって何も言わなければ、それはそれで彼らの食べている物だけを獲ってきそうなので、それを食べられなかったら、今晩の御飯がなくなってしまう。それよりは雑草が含まれていても良いので、種類を取ってきてもらう方が良いと思ったのだ。


「なるほど。確かにそうですね」

「さすが、フェール様です。従えたばかりなのに、もうそこまで彼らのことを理解してるんですね」

「ええ、全くです」


 いや、理解してないよ。

 理解してなくても、普通に考えれば分かることだろ。

 どうしてネルビアとベルファは毎度、俺を称えることだけに全力なんだ?

 こいつらとの会話にも慣れてきたけど、何故かネルビアとベルファとは意思疎通ができている気がしない。

 どこかで、ちゃんと考えるように言った方が良いな。通じるかは分からないけど。


「じゃあ、移動するか。方角はこっちでいいんだよな?」

「ええ。そっちで間違いありません」


 俺は方向が合っていることを確認すると、森の中へ歩き出した。

 オルディスはそのまま俺の横に陣取り、俺の後ろにネルビアとベルファが、最後方に白狼がついてくる。

 後ろでネルビアが『何故、オルディスが横なのですか』とぶつぶつと呟いているが、軽く無視しておく。だって、オルディス先生が傍にいないと俺が困るからです、とか言ったらネルビアがどの方向に暴走するか分かったものじゃないしな。


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