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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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冒険者の娯楽

「分かりました。やります」

「そうですか…。分かりました。では、召喚についての説明ですが、魔法陣が発動したとしても必ず召喚されるというものではありません。そのために三つの召喚石を同時に発動し、一体以上の魔物が召喚できて、そのうち一体以上を従えられれば冒険者の資質ありと判定されます」


 受付嬢は俺の気合を感じ取ったのか、表情を微笑みに変えて召喚についての説明をしてくれた。

 これは事前に聞いていた内容とほぼ一致する。


「あの、ちなみにどうして一体ずつじゃなくて、三体同時に召喚するんですか?」


 さっきの件もあるので、些細なことでも聞いておいた方が安全かと思い確認する。


「それは魔力量の問題が一番ですね。三回召喚するより、一回の方が魔力量が少なくて済むんです。あとは、一度に召喚する方が召喚率が高いと言われています」


 その回答に納得の意を示す。それでなくても不安なのに使う魔力は少ない方が良いに決まっている。

 それに召喚率が高くなるならそれに越したこともない。恐らくだが、一度に三個の召喚石を使った方が確率が上がるということなのだろう。技術があればの話だが、弓でも一度に三本の矢を射た方が的に当たりやすいと聞いたことがあるので、同じようなことだろうと納得する。


「分かりました」

「それでは、最後に冒険者ギルドの規約の説明ですが、これは冒険者試験に合格してからでよろしいでしょうか?」


 受付嬢は爽やかな顔で告げてくるが、これはきっと先ほど俺が見せた不安な顔が影響しているのだろうと推測できる。できてしまう。

 もし俺が冒険者試験に落ちれば説明が無駄になるので、当然といえば当然なのだが、なんだか落ちることも想定されているようで、再度入れた気合が少し萎んでくるような気がする。

 そんなことを受付嬢に言っても、何も変わることもなく、俺が冒険者試験に合格すれば済む話なので、俺は「はい」とだけ返答した。


「では、隣の訓練場に移動しましょうか。そろそろ準備も出来ている頃合いだと思いますので」


 受付嬢がそう言って席を立った。恐らく先ほど奥へ移動した時に準備の手配を済ませていたのだろう。

 俺もその言葉を聞いて、召喚石を途中でなくさないように鞄に入れてから席を立った。


 さて、これから訓練場に移動だと思っていた矢先、受付嬢が受付の中から少し身を乗り出し大きな声を出した。


「それでは、冒険者の皆さんも訓練場の観覧席に移動してください」


 俺はその言葉を聞いて、目を見開いた。

 え? どういうこと? まさか、ここにいる冒険者全員に俺の登録者試験が見られるってことか?

 冒険者たちは受付嬢の指示を聞いて、『いよいよか。楽しみだな』『どんな魔物が召喚されるんだろうな』『あまり期待すると期待外れに終わるぞ』などと思い思いに語り合いながら、訓練場に向かう。


「え~っと、何故、冒険者の皆さんが訓練場に移動するんですか?」


 俺は恐る恐る受付嬢に確認する。

 受付嬢は俺の質問に目をぱちぱちさせながら不思議そうに、こちらを見た。

 俺、何か変なこと言った? 言ってないよね?


「安全対策のためですが…?」


 受付嬢の対応が先ほどまでの丁寧な対応とは異なっている。

 寧ろ、『説明が必要か?』というくらいの対応である。


「すみませんが、もう少し詳しくお願いできますか?」


 説明を拒否されているようにも感じられるが、俺は怯むことなく再度お願いした。

 こういう時は、得てして流してはいけないのだ。何か説明しにくい内容が隠されている可能性がある。

 俺が食い下がったことに機嫌を損ねたのか、受付嬢が目を細めてこちらに視線だけを向けてきた。

 いや、笑顔、笑顔! お願いだから取り返して!


 受付嬢は『はぁ~』と一つ溜息をつくと、『分かりました』と再度、席に着いた。

 俺もそれに倣い席に座る。


「安全対策というのは、召喚者が魔物を従えることができなかった場合に備えて冒険者に待機してもらっているんです」


 なるほど。そういう意味での安全対策か。そういうことであれば納得できるのだが…。


「これほど多くの冒険者が必要なんですか?」


 俺は先ほどまでいた冒険者の数を想い浮かべながら、さらに踏み込んで聞いてみる。

 だって明らかに受付嬢の態度がおかしかったしね。絶対、他に何かあると思うんですよ。


「それは、どんな魔物が召喚されるか分からないので、多いに越したことはないからですね」


 ここで、俺の頭に事前に聞いていた情報が浮かび上がり、若干の疑問が湧いてくる。


「でも、他の冒険者から事前に聞いてた話だと、召喚される魔物は召喚者の技量にあわせた魔物が召喚されるんですよね? 訓練場に向かった方たちの中に、どう見ても高位の冒険者の方々もいたような気がするんですが…?」


 俺は自分の実力を知っている。俺は孤児院出身の冒険者に時折訓練をつけてもらっているが、今まで一度も勝てたことがないし、その冒険者も中級に成りたてで下から数えた方が早いらしい。

 そのことからも分かる通り、正直、俺は弱い。誇張も卑下もなく客観的に見て弱い。そんな俺が召喚する魔物などたかが知れている。

 召喚された魔物の強さ以前に、俺としては魔法陣を魔力で満たせるかも不安なのだから。


「それは…、フェール様の技量もまだ不明ですから…」


 受付嬢はすっと俺から視線を外した。

 うん。やっぱり受付嬢さんも俺が弱いと思ってますよね。完全に返答に困っている。

 受付嬢という職業柄、冒険者に弱いなどと言い難いのかもしれないが、明らかに態度に出ている時点で言っているも同然なのである。


「ちなみに、今まで召喚した魔物を服従できなかった方はいたんですか?」


 俺が弱いのは今更拘ることでもないし、拘ったとて誰も幸せにはなれないので、ここは無難に見過ごすことにして、俺は他にも聞きたいことがあったために先にその質問をした。


「全ての魔物を殺してしまった方ならおられますが、それ以外で服従させられなかった方はいませんね。そもそも先ほどフェール様が仰ったように召喚者の技量に応じた魔物が召喚されるうえに、召喚した魔物の魔力の半分が召喚者に上乗せされるので、まず負けることはありませんから」


 受付嬢は話題が逸れたためか、俺の方に視線を戻し丁寧に教えてくれた。

 俺はこの受付嬢は素直で分かりやすいな、と内心で呟く。

 魔力量が上がれば基礎能力が向上する。これはこの世界で冒険者になる者ならば誰でも知っていることだ。だが、それを測る方法など知らないし、俺の強さから考えて俺の魔力量はそれほど高いとは思えない。だから、自分の魔力量を知ろうと思ったことも、当然ながら測ったこともない。そのことが今、俺を窮地に立たせているのだが。

 技量に応じた魔物が召喚されるだけでは負けることはあるかもしれないが、召喚した魔物の半分もの魔力が増えるのだから、確かに負けることはないだろうと思える。

 ということは…


「冒険者の方たちが観覧するのって、やっぱり娯楽が目的ですよね?」

「え…?」


 俺はいきなり話題を戻して、直接的な言葉で問いかけた。

 それに対して受付嬢は、目を大きく開いて言葉も発せず固まっている。

 核心を突く際には、油断したところに、こうやって直接的な言葉で伝えるのが意外と有効だと思っている。特にこの受付嬢のように素直な人には効果覿面なのだ。きっと今頃、頭の中ではフル回転で思考を巡らせていることだろう。

 この国に限らず、この世の中に娯楽というものは少ない。確かに芸術や舞踏会、はたまた、観劇や読書などといった娯楽があることは知っているが、それらは貴族や富裕層の娯楽であって、日々生きることに心血を注いでいる平民以下の者には当て嵌まらない。精々が仕事終わりに酒場でお酒を飲むことぐらいが関の山だ。

 そんな者たちにとって、冒険者登録試験というのは数少ない娯楽の一つだということも想像に難くない。

 とはいえである。俺の冒険者登録が多数の冒険者に見られることに思うところがないと言えば嘘になる。

 もし万が一。ありえないとは思うが万が一、俺が魔法陣を起動できなかった場合、笑われるのは俺だけではなく、同時に孤児と孤児院が笑われることになるのを俺は知っている。

 人というのは何故だか個人ではなく集団に置き換えて評価する傾向がある。

 これが国同士の戦争であれば理解はできる。俺は相手国から敵国の住民というだけで敵視されることは致し方ないことだと思っている。それが嫌なら戦争を止めるか、その国を出るしかない。立場や生活を考えれば難しいことも理解できるが、それでも、その国から恩恵と安寧を享受している以上、国同士の戦争において他人顔は通じないし、自分は敵ではないと言っても信じてもらえるはずがない。

 しかし、こと個人的なことに集団を絡めて評価するのは間違っていると思っている。確かに孤児院で教育を受けてはいるし、孤児であることも間違いではないが、だからといって孤児院で教育を受けた者が全員同じ志向性で、同じ選択と判断をすることなどありえないのだ。もし、そんな事が起こるのなら、孤児は全員冒険者になっている。それにそんなことを言い出したら、そもそもの話、この国で育った以上、この国の方針が根底にあるはずなので、この国の国民全員が同一視されなければならなくなる。都合よく孤児や孤児院といった囲いを作ることすら間違っているという話だ。


 俺はここで溜息を一つついて頭を左右に軽く振る。


「分かりました。安全対策ということで理解します」


 俺は考えるのをやめて、受付嬢に理解の言葉を告げた。

 俺がとやかく言っても改善も是正もされないことは分かっている。全く無駄とは言わないが、言ったところで冒険者の観覧がなくなるわけでもないし、実際問題、安全対策が損なわれるのも好ましくないことも分かっている。


「あ、あの…、ご理解、感謝します」


 俺の言葉がきっかけになったのか、受付嬢がはっとして我に返り、苦笑い気味にお礼を述べてきた。

 さて、それじゃあ、冒険者登録試験に挑みますか。楽しい人生を目指して。俺はそんな想いを秘めて再度自ら席を立った。


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