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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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検証方法の提案

 う~ん。どうすかな?

 俺は腕を組んで思案する。

 今までの話を纏めると、こいつらは冥界の王で魔王級だが、俺の魔力の器が特殊なために、こいつらを召喚したことで、俺の方が強くなってしまった。こいつらが俺との戦闘時に出していた覇気も俺には見えなかった。これは、特殊な要因があるのではという曖昧なものだが、俺の特殊な魔力の器を考えればあり得ないことはなさそう。という感じか…


「う~ん。一応、筋は通ってるようだけど、でもなぁ~、実感がないんだよな…」


 理論上は理解できても、それが納得できるかは別の話だ。

 何しろ、この話の信憑性として、まず、俺が本当に強くなっているかが分からない。そこが一番の問題だ。

 俺が強いのか、こいつらが弱いのかの論点において、俺たちの戦闘は全く意味をなさないしな。


「それなら魔物でも狩ってみますか?」

「は? 此処は牢屋だぞ。そんなこと無理だろ」


 俺がオルディスに顔を向けて反論すると、オルディスは牢屋の小窓を眺めながら、そちらを指差した。

 俺もそれにつられて、小窓に視線を向ける。


「あの上空に転移して、そこから森にでも飛べば、魔物が狩れると思いますよ」

「うん?」


 俺はオルディスの言葉の意味が理解できずに、オルディスの方に視線を向けなおす。

 何? どういうこと? 次から次に新たな情報が飛び出してくるんですけど?


「え~っと、オルディス君。転移って何?」

「ああ、転移というのは、俺たちの能力の一つで、指定した場所まで瞬時に移動できる能力のことです」

「でも、あんなに小さな窓しかないぞ? 人が通るのは無理だろ?」

「それなら大丈夫です。間にどんな障害物があっても関係ないんですよ。指定できる場所には制限がありますけど、一度行った場所や見える範囲ならどこでも移動できますよ」


 え? 何、それ? 反則じゃない?

 戦闘においても、逃走においても無敵じゃん。


「あ、でも、俺がその転移ってやつができないだろ?」


 先程、オルディスが服従させた魔物の能力が還元されると言っていたが、使える気がしない。

 でも、もしこの能力が還元されるなら、願ってもないぐらいに嬉しい。

 さっきの他人の魔力が分かる能力の件もあるし、ここを出たら紙に欲しい能力一覧を纏めないとだな。


「ああ、それなら俺がフェール様を抱えて転移しますんで、大丈夫ですよ」

「え? そうなの? でも、あんな上空に転移したら落ちるだろ?」

「ああ、それも大丈夫です」


 オルディスは、そう言うと、自分の背中から蝙蝠のような黒い翼を出した。

 左右二枚、合計四枚の翼がオルディスの背中に生えている。


「え? 何、それ?」

「翼ですね。これで空を飛べますんで、落ちることはありません」


 え~っと、こいつら本当に何でもありだな。

 最早、俺が何故、こいつらに勝てたのか不思議になってきた。

 まぁ、それはそうと、これは流石に還元されることはなさそうだ。人間に翼が生えるとか想像できないしね。


「でも、俺たちがここからいなくなったら、騒ぎになるだろ」

「それも大丈夫ですよ。幻術で俺たちの影を残しておくので、触れられない限り問題ありません。もし、それでも気になるようなら、夜中の寝静まった頃にいけば、ばれることはないでしょう」

「あ、っそ」


 またまた新たな情報が出てきたが、最早、何の感慨も湧いてこない。

 人間、ここまで情報過多になると慣れるものなんだな。まぁ、思考を放棄したとも言えるけど。


「ええ、ですので今晩にでも、魔物を狩りに行って、お力を確認されては如何ですか?」

「う~ん。そうなだな…。そうするか…」


 今、喫緊で必要なのは、俺の力の確認だしな。

 俺が強くなっているのなら、オルディスの推論が正しいことになるし、そうでなければ、俺の考えが証明されるので、いずれにしても確認すべきだろう。


「承知いたしました」


 オルディスは、恭しく頭を下げると了承の意を示した。

 こういうところは、まだ固いんだよな。


「ところで、その転移とかいうやつを使ってれば、俺に勝てたんじゃないか?」


 俺は話の途中で思ったことを尋ねてみた。

 ところが、オルディスは訝し気に半眼で俺を見返してくる。


「使ってましたよ。全て防がれましたけどね」


 ああ~、そう言えば、突然、消えたように見えたのがあったけど、あれは本当に消えてたのか。

 一瞬で移動してきたと思っていたけど、違ったようだ。


「ああ~、ごめん。避けるのに夢中で気付かなかった」


 俺は頭を掻きながら、苦笑いで返すことしかできなかった。

 だって、オルディスが『こいつ何言ってるの?』って顔で見てくるんだもん。


「あ、でも、飛ばなかったのは、なんでだ?」

「それは、あんな狭い空間では、転移の方が有効だからですよ。飛んでも動き辛いですし、視認されたら意味ないですからね」


 確かに、それもそうか。

 俺が注意しないといけない範囲は増えるかもしれないが、訓練場の中なら確かに視認はできそうだ。


「なるほど。いろいろ考えて闘ってたんだな」

「ええ、でも、負けましたけどね。まぁ、それも当然ですけど」


 オルディスは負けたことを悔しがる様子もなく、爽やかに笑っている。

 俺もつられて笑顔になる。


 俺も、もっといろいろな事を考えて闘えるようにならないと駄目だな。

 今回はギリギリで勝てたけど、もっと磨いておかないと、この先どんな魔物と対峙するか分からないしな。

 死んでから、ああしておけば良かったなど、通じないのだ。

 これからも、オルディス先生に教わろう。


「じゃあ、俺は今晩に備えて、もう一度寝るわ。ああ、ベルファとネルビアも、もう喋っていいぞ。あ、でも俺は寝るから程々にな」


 俺はそう言うと、立ち上がってベッドへと潜り込む。

 今晩のこともそうだが、情報過多で既に頭が疲労困憊になっている。

 本当に昨日から情報が多すぎないだろうか? 完全に許容範囲を越えている。

 ベルファとネルビアは、喋ることを許されたにも関わらず、俺がベッドに入ったことで、悲しそうな顔をしているが、今は許してもらおう。今の俺にこいつらに付き合う元気はない。夜まで我慢してくれ。

 俺は、今の話で疲れが溜まったのか、そのまま今日二度目の眠りについた。


 ◇ ◆ ◇


 俺が目覚めると、既に辺りは暗くなっていた。

 かなり眠っていたようだ。

 俺が体を起こすと、そこにネルビアが涙目で俺のところに寄ってきた。


「フェール様、聞いてください! オルディスとベルファが、私は留守番だと言うのです!」


 ネルビアは、俺の手を握って懇願したように告げてくる。

 俺はネルビアが何を言っているのか分からず、オルディスとベルファに視線を向けた。

 しかし、オルディスとベルファは呆れたように首を振っているだけで、口を開こうとはしない。

 丁度、その時、晩御飯の食事を持って、守衛がやってきた。

 とりあえず、食事を食べながら何があったか聞こうかと、俺が立ち上がろうとした瞬間、ネルビアが俺の手を放して、鉄格子の方に駆けていく。守衛は一瞬それに驚いて一歩後退ったが、ネルビアの『早く、食事を』という言葉に慌てて食事を鉄格子の下から押し込むと、そのまま踵を返していった。

 今のは脅してない? っと思いながら見ていたのだが、ネルビアはふふんっと嬉しそうに食事が乗った盆を二つ手に取ると、俺の前まで帰ってきた。


「フェール様、食事です」


 ネルビアは満面の笑顔で俺に盆を差し出してくる。


「ああ、ありがとう」


 俺が礼を言うと、ネルビアは勝ち誇ったような顔で、オルディスとベルファの方を振り返った。


「どうです! わたくしはフェール様のお役に立つのです! こんなわたくしを置いていくなどあり得ません!」


 俺は、それでなんとなく察することができた。

 恐らく、今晩、魔物を狩りに行くのに、ネルビアはここに残るように二人に言われたのだろう。

 オルディスとベルファもネルビアの言葉に非常に疲れた顔をしている。

 盆を運んできた程度で役に立ったというのも、どうかと思うが、ネルビアの気持ちは伝わってきた。


「とりあえず、飯でも食べながら話を聞こうか」


 俺はそう言うと、盆を持ったままベッドから立ち上がると、床に座って目の前に盆をおく。

 彼らもそれに倣い、昨晩と同じように俺の前に腰を下ろした。

 俺はパンを千切るとスープに浸して一口口に入れ、それを呑み込んでから、徐に口を開いた。


「で、ネルビアを連れて行かないのは、どうしてだ?」


 俺は、オルディスとベルファの方に視線を送る。


「何かあった場合に備えて、誰かは残った方が良いかと思いまして。まず、ベルファはフェール様に体を吹き飛ばされているので、フェール様が比較し易いかと思うので、連れて行った方が良いと思うんです。ですが、そうなると、俺かネルビアのどちらかが残ることになります」


 オルディスが代表して答えてくれる。

 そういうことか。

 今回の件については、オルディス先生には俺の傍にいてもらった方が良い。

 確かに、ネルビアだけを残していくのも心配だが、幻術も使うし、夜中の寝静まった時間帯というのも加味すると、何も起こらないことの方が可能性が高い。


「ネルビア、お留守番で」

「え? そんなぁ~」


 俺は、即決でネルビアの居残りを決めた。

 ネルビアは泣きそうな顔をしているが、ここは諦めてもらうほかない。


「ネルビア。これは重要な任務だ。もし何か起こった場合は、お前だけが頼りだしな」

「そうですが…、でも、わたくしはフェール様のお傍にいたいです」


 う~ん。駄目かぁ。

 たぶん、オルディスもベルファも既に同じようなことを言って説得しているだろう。


「じゃあ、もし引き受けてくれるなら、ネルビアには、俺の寝顔を眺める権利をやるぞ」

「え? 本当ですか! それなら、留守番します!」


 ネルビアはキラキラした眼差しで二つ返事で了承してくれた。

 いや、本当にそれでいいのか?

 オルディスもベルファも半眼でネルビアを見ている。

 今朝、嬉しそうに俺の顔を眺めていたから、冗談半分で言ってみたのだが、何故だかネルビアのお気に召したようだ。

 寝顔を見られるのは少し恥ずかしいが、もう既に見られているし、別に許可を与えなくても勝手に見るだろうと予想できるので今更だしな。なんだか騙した気分になるが、本人がいいならいいだろう。


「ああ、だから頼むな」

「はい。分かりました!」


 よし。これで今晩の体制は決定だな。


「ところで、フェール様。魔物がいそうな森は、どちらになりますか?」

「ああ、それなら西の方にあるぞ」

「西ですね。分かりました」


 ここから西に向かうと大きな大森林が存在する。

 そこなら、こんな夜中に誰も来ないし、目立つことはないだろう。

 俺たちは、今晩の打ち合わせも兼ねて些細な情報交換を行いながら食事を終えて、森へ出かけるまでの時間を待ったりと過ごした。

 その間、ネルビアが俺の傍から一切離れなかったのは、言うまでもない。なんで飽きないんだろ?


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