認識の摺合せ
描かれた図は、大きな部屋が一つに、それに隣接するように三つの部屋があり、その大きな部屋と三つの小部屋が扉で繋がっている。
「この大きな部屋が服従主の魔力で、この小さな部屋が服従した魔物の半分の魔力です。通常、服従した直後は、こういう風に扉で繋がっていて、部屋の全部が繋がった状態ではないんです。ですので、服従直後はこの扉の大きさの分しか服従した魔物の魔力を使えません。それが時間が経つにつれ、魔物との繋がりが濃くなり、それに合わせてこの扉も広がっていくことで、いずれは扉が無くなり服従主の魔力と一体化して、全てが使えるようになります」
なるほど。分かり易い。
人間はこの部屋自体が小さいために、部屋の大きさに比べて扉の大きさが大きくなり、服従直後でも使える魔力が多くなるということらしい。このため、人間は服従直後には扉で繋がっていることを意識していないのだろう。
そういう意味では、人間もいきなり強くなると言えなくもないが、こいつらからしたら、人間はそもそもの魔力量が少ないために、強さ自体に大きな変化がないので、いきなり強くなったとは思っていないそうだ。
ちなみに、この扉が無くなるまでに服従した魔物との主従が切れた場合は、服従した魔物の魔力も消えて使えなくなってしまい、逆に、扉が無くなった以降に主従が切れても服従主の力として残るということらしい。
「へぇ~。じゃあ、その羽虫というのは、どうなんだ?」
俺としては、そのいきなり強くなるという事例の方こそが今、重要なことなのだ。
今までの話から、大体の予想はついているが、誤った推測だった場合、後々困ることになるので、このまま終わらせたくない。
「はい。その羽虫というのは天使なんですが、その王に特殊な個体がいまして、そいつは服従直後も服従した魔物の半分の魔力を全て使えたんですよ」
「それって、服従直後なのに、扉がなくて、いきなり全てが一体化するってことか?」
「ええ、そうですね」
なるほど。それは魅力的な能力に思える。
でも、疑似的にそれと同じことは出来そうなので、絶賛するほどではない気がする。
「でもそれなら、一度に多くの魔物を服従させて扉の数を増やせば、いきなり強くなったように見せることもできるんじゃないか?」
「ああ、それは無理です。この小部屋の広さの合計が、大きな部屋よりも大きくなると、服従主は繋がった魔力に耐えられなくなり、身体が崩壊してしまいますからね」
なんと! 服従させた魔物の魔力を一体化させてからじゃないと、新たに服従させるは危険ってことか。
そう考えれば、いきなり一体化するというのは反則だな。時間をおかずに服従させればさせるだけ、どんどん強くなるとか最早、敵なしだろ。
「ということは、その天使の特殊な個体と俺の体質が同じ可能性があるってことか?」
「はい。そうですね。そう考えないと筋が通りません。通常、人間が俺たちの一柱だけでも召喚した場合、召喚主は俺たちの魔力に耐えられずに身体が崩壊して死んでしまいます。しかし、フェール様は俺たち三柱を同時に召喚して、崩壊どころか闘って俺たちを降したじゃないですか。普通は中級冒険者に負けるような者に、そんなことができる筈がないんですよ」
う~ん。一見筋は通っているように見えるが、本当にそうなのか?
なんだか釈然としない部分がある。俺はその原因を探るべく、オルディスの説明を思い出しながら考えてみた。
「でもさ、いきなり一体化するにしても、最初の俺の魔力量がお前たちより低ければ、俺はお前たちの魔力に耐えられずに崩壊していないと、おかしくないか?」
俺は、オルディスからの説明をお浚いして、疑問に思った点を問うてみた。
そもそもの話、俺の魔力量が少なければ成立しない気がしたのだ。
「はい。その辺までは、俺も良くは分かりません。ただ、可能性があるという話で、その話自体、俺自身の能力でもありませんしね」
オルディスも俺の疑問には答えられずに首を振っている。
「そういえば、どうしてそれをお前たちが知ってるんだ?」
俺はふとした疑問を口にする。
オルディスにしてもそうだが、ベルファもネルビアも知っていそうな感じだが、有名な話なのか?
「ああ、羽虫と俺たちって対極の存在なんで、仲が悪いと言いますか、敵対してますんで、あの羽虫が事あるごとに俺たちを見下すように自慢してたんですよ」
ああ、そういうことか。
道理で羽虫呼ばわりする筈だと納得する。
天使とは、人間と魔物が争った際に、人間が危機的な状況になると人間を助ける存在として認識されている。ただし、人間同士の争いには絶対に介入してこないし、魔物との争いにしても必ず助けに来るわけでもなく、助けてもらえるかは運次第という、なんとも微妙な存在で、このため、助けられた人間もそれほど多くない。
とはいえ、人間以外を魔物と定義している人間からしても、天使だけは魔物から除外されているので、人間から見た天使というのは、それなりに有用な存在なのだ。
「う~ん。その天使の王に話が聞ければ良いんだろうけどな…。会うのも難しいか…」
「ああ、難しいというより無理だと思いますよ。何せ、あの羽虫は堕天してから消息不明ですからね」
「え? 堕天って、どういうこと?」
真っ先に浮かんだ疑問を口にする。
初めて聞く言葉に、躓いてしまったのだ。
「天使は、人同士の争いや魔物に加担することが禁じられてるんですよ。それを破ると天使の座から降ろされて、天界から追放されるんです。所謂、人間の世界で言う魔物になる感じですね」
え? そんな縛りがあるの? それって天使だけ?
あ、いや、冥界の強者も、弱者の心を折って浄化するって役割があるみたいだし、世の中には意外とそういう理が多いのかもしれない。
って、今はそれどころじゃないな。
「その天使の王が消息不明ってことは、もしかして俺がその天使の王の生まれ変わりってこともあるのか?」
先程の、オルディスとベルファたちの険悪な雰囲気から、もしかしてオルディスが、俺がその天使の生まれ変わりだと言ったと、ベルファたちが勘違いしたのかもしれないと思い、確認してみる。
「ああ、それはありません。天使が死ぬと次も必ず天使として復活しますし、堕天した天使が死ねば、その魂は天命に逆らった邪悪なものとして冥界に送られます。冥界にいる俺たちが、その魂を見逃すことはありませんから、あの羽虫は生きてると思います」
なるほど。死んでいないのであれば、生まれ変ることはないな。
堕天したのが恥ずかしくて、どこかに隠れてたりするんだろうか?
それを今、気にしたところで意味はないので、それより話を戻した方が良い気がする。
「じゃあ、結局のところ、可能性があるってだけの話になるのか」
「ええ、まぁ、そうなりますね…」
と、オルディスがそこまで言うと、何かに気付いたように『あっ』と、目を開いてポンと掌を拳で打った。
俺はそれを見て首を傾げる。
「フェール様、一つだけ調べる方法があります」
「え? どんな方法だ?」
オルディスは、なんだか自信ありげに告げてきた。
俺はというと、まさか調べる方法があるとは思わず、驚いてしまう。
「フェール様自身の魔力量と、俺たちを従えたことで追加された魔力量を測れば良いんですよ」
俺はオルディスが床に描いた図を眺める。
「この大きな部屋と小さな部屋の大きさを比べるってことか? でも、どうやって?」
俺は、床に描かれた図を指差しながら、オルディスに質問する。
もし、俺の理解が正しいとしても、自慢じゃないが、自分の魔力量の測り方なんて知らないし、やったこともない。
「それなら―――」
と、オルディスは床に描かれた図の大きな部屋に扉を描き足した。
その扉は、三つの小部屋が繋がっている大きな部屋の壁側とは反対側の壁に追加されている。
「この扉が魔力を出力する際の出口です。フェール様は魔力を放出できるので、この扉の周りにある魔力は知覚できてると思います。ですので、そこから自分の内側に魔力を辿ってもらえれば、この大きな部屋のような壁に突き当たります。今度はその壁を辿ってもらえれば、凡そのフェール様の魔力量が分かるかと思います。あとは壁を辿る途中に三つの小部屋と繋がった部分があると思いますので、そこから同じように小部屋の壁を辿って小部屋の魔力量を測ってもらえますか。ちなみに、小部屋は一つだけ測れば充分です。俺ら三柱の魔力量はそれほど違いませんから」
なるほど。この図は意外とそのままを図式化しているのかと感心する。
「俺が知覚している魔力から辿ればいいんだな?」
「はい。それで大丈夫です。普通の者なら魔力が漏れ出ているので、俺たちでも凡そ、その者の魔力量を推測できるんですけど、何故かフェール様は、一切魔力が漏れ出ていないんで、俺たちでは測りようがないんですよね」
うん? 俺が自分の魔力を測る前に、なんだが無視できない話題が出てきた。
これでは自分の魔力に集中できない。
「なあ、お前らって他人の魔力が分かるの?」
「ええ、分かりますよ。大体の魔物は上位になれば分かるようになりますしね。ただ、人間は確か、英雄級だとかいうのにならないと他の者の魔力が分からないとか聞いたような気がしますけど…」
恐らく英雄級というのは冒険者の階級のことだろう。
確かに、英雄級になると特殊な力を得ると聞いたことがあるけど、それのことかもしれない。
俺には他者の魔力が分かる力がないということに、少しばかり肩を落としてしまう。
「あ、いえ、でも、フェール様は、俺たちを従えたので、恐らく慣れてくれば分かる様になると思いますよ」
オルディスは俺が肩を落としたことで、慌てて慰めようとしてくれる。
ほらまた流せない話題をさり気なく出してくる。
慰めてくれるのは嬉しいのだが、これじゃあ、なかなか魔力に集中できないじゃないか。
「お前たちを従えたら、分かるようになるのか?」
「え、ええ。服従した魔物の能力は服従主に還元しますからね。ただ、適性がないものを除いてですが」
おぉ、これは、少し希望が出てきたんじゃないだろうか。嬉しくなってくる。
適性がなければ仕方ないが、是非とも欲しい能力なので、適性があることを切に望みたい。
だって、他人の魔力とか見れたら楽しそうだしね。
「慣れればって、どれぐらいだ?」
「それは、個体差とか、能力の適性度合いだとかがあるので、なんとも言えませんね。数年掛かることもありますし」
数年かぁ。
地道に探りながら鍛錬したりすれば、もう少し早くなるだろうか? やらないよりはやった方が良いよな。
よし! オルディスに教師役を頼んでみよう。
「ありがとう。また、習得するための秘訣とかあったら教えてくれ」
「はい。分かりました」
「じゃあ、俺の魔力量を調べてみるか」
俺は俄然やる気になって、自分の魔力に意識を集中させる。
これも他者の魔力を見るための訓練になるかもしれないしな。
今回の件が落ち着いたら、オルディスに教わることを夢見て気合を入れる。
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