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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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牢屋の食事

 ロイランたちが相打ち覚悟の策を検討するより、少し前。フェールが事情聴取の後、牢屋に入った直後まで、少し時を遡る。


 俺は事情聴取を終えて、牢屋に入り、設置されているベッドの一つに腰掛けて一息ついた。

 魔物たちは、俺の前に跪いて頭を垂れている。


 この牢屋には、二段重ねのベッドが二つと、簡素なトイレが一つ。あとは、トイレの横とベッドの脇に水甕が各々一つずつ置かれている。ベッドの横の水甕は飲料用で、トイレの横のものは洗浄用だろう。

 ベッドも中身は藁で、その上にシーツが被せられている質素なものだ。


「お前たちも、いつまでもそうしてないで、適当に崩して座っていいぞ」


 わざわざ座るように促さないと、いつまでも跪いたままでいそうなので、気持ちが落ち着かない。

 彼らは、互いの顔を見合わせ、誰から座るかを牽制し合っている。


「え~っと、さっきまではお前たちが服従していることを示すために命じたけど、今は牢屋の中だし、おとなしくしている限り、自由にしていいから。俺もその方が落ち着くし、自由にしてくれ」

「「「御心のままに」」」


 いや、だから固いんだって。

 漸く彼らは、俺の言葉に従い座ってくれる。


「口調も普通でいいから。仲間に話すみたいに話してくれ」

「仲間ですか? それは不敬ではございませんか?」


 口を開いたのはオルディスだが、他の魔物たちも首を傾げている。

 もしかして、こいつら友達いない系? それなら申し訳ないことをしたかもだな。


「ああ、不敬とか気にせず、気さくに話してくれたらいいから」

「いや、そういうわけには………」

「あぁ、もう…。じゃあ、命令な! 俺しかいないところでは、気さくに話すこと! いいな!」


 気さくに話すことを躊躇う魔物たちが、少し面倒になってしまい、結局、命じることになってしまった。

 命じた話し方を気さくと言うのかは、甚だ疑問だが、とりあえず今は、良いことにしておく。

 そのうち、こいつらも慣れるだろう。でないと、俺がしんどい。


「「「御心のままに」」」

「だから、違ーーーう!」

「「「あ、え、あ、申し訳ありません…」」」


 俺が声を荒げたせいか、彼らが焦りだす。

 はぁ、もういいか。少し、いや、物凄く疲れてきた。


 俺が、彼らとの接し方に肩を落とした時、丁度、守衛が食事を運んできてくれた。


「ほら、飯だ。食え!」

「あっ、ありがとうございます」


 守衛は、牢屋の鉄格子の下の隙間から、盆の乗った食事を押し込んでくる。

 俺は、守衛に礼を言うと、ベッドから立ち上がり、盆を取りに鉄格子に向かって歩き出した。

 魔物たちの『フェール様、わたくしたちが~』という声が聞こえるが、自分で動く方が早いので軽く無視して、盆に手を掛ける。

 食事の乗った盆は四つ用意されており、魔物たちの分まである。

 ここに来る途中。騎士団長から魔物たちの食事は生肉か人間用の食事か、どちらが良いか聞かれたので、魔物たちが人型であることを考慮して、人間用にしてもらった。

 通常、召喚される魔物は獣型なので、食事は生肉になるらしいが、人型の魔物が生肉を食べている姿を見るのは、俺の精神衛生上、良くなかったのも少なからずある。

 もし、生肉が良ければ、次から生肉にしてもらえばいいしな。今日のところは我慢してもらおう。


「ほれ。お前たちの分もあるから、受け取ってくれ」

「うぅ…、フェール様にこのようなことをさせてしまいました…。これは死んでお詫びしないと…」


 俺がこいつらの分の盆を取って手渡そうとしたら、ネルビアが泣きそうな顔で、自分の爪を鋭利な刃物に変えて、自分の胸を突き刺そうとする。


「やめろぉぉぉーーー!」


 俺はとっさにそれを止めにかかる。

 あっぶねー! こんなことで死なれてたまるか! 寝覚めが悪過ぎるわ!


「いや、死ななくていいから! 重いって! って、お前らもだ!!」


 横に目をやると、ベルファもオルディスも武器を出して、胸や首に添えていた。

 いや、真面目に勘弁してくれ! なんで俺が気を遣わなきゃならないんだよ!


「はぁ…、俺は気にしてないから、早く受け取れ」


 俺は溜息をつくと、肩を落として、盆を魔物たちに突き出した。

 彼らは、恐る恐るそれを受け取っていく。

 俺は自分の盆を手に取ると、何もない床に腰を下ろして、自分の目の前に盆を置いた。

 牢屋に机や椅子など気の利いたものはないので、地べたに置くしかない。

 俺の前に遠慮がちに魔物たちも座っていく。


「あの~…、フェール様はいつもこのようなものを召し上がられているのですか?」


 ネルビアが盆に乗った食事と俺とを交互に見ながら尋ねてきた。

 盆の上には、固いパンと具がほとんど入っていないスープが入った器が乗っている。

 スープと言っても塩味しかついていないが、これでも立派なスープだ。


「あ、もしかしてお前ら、生肉の方が良かったか?」


 俺は騎士団長に、こいつらの食事を聞かれた時のことを思い出して、失敗したかと問い返す。

 この問いに、目の前の魔物たちがパチパチと眼を瞬かせている。


「あ、いえ、俺たちは生肉は食べませんし、そういう意味ではなくて、フェール様はこんなに質素なものを食べているのですか? ということです」


 まだ、俺の質問に首を傾げたままのネルビアではなく、オルディスが代わりに答えてくれる。

 うん。やっぱり、オルディスは頼りになる。


「うん? 質素か?」


 俺は盆の上に乗っている食事を見ながら考える。

 確かに、質素と言われれば質素だが、孤児院では普通の食事なので、牢屋の中なら、これでも贅沢な方じゃないだろうか?


「俺たちは、偶にしか食事をしないのですが、それでも食べるときは、もっとこうなんというか…」


 オルディスは、口籠りながら返答しようとしているが、言葉に詰まっている。

 自分たちの食事自慢にならないように、言葉を選ぼうとしているのが分かる。

 まぁ、こいつらは商会の主だからな。そりゃ、豪勢だろう。って、そこじゃないな。


「え? 偶にしか食事しないって、どういうことだ?」


 何故、偶にしか食事をしないのかが分からず、首を傾げる。

 魔王の国って死なない程度にしか食べるものがないとかか?


「あ、俺たちの体は魔素で出来ているんで、食べなくても死なないんですよ」

「うん?」


 俺の首が、さらに傾きを増す。

 俺の疑問を察してオルディスが教えてくれるが、俺の理解の範囲を超えていく。


「はい。人間のように物質でできてるわけではなく、魔素を集めて物質化して形造ってるんです。だから、魔素さえあれば、食べなくても死なないんですよ」


 え? 何? そんなことできるの?


 魔素というのは、魔力の元になるようなもので、空気中のどこにでもあるものだと聞いたことがある。

 人の身体は、時間を掛けてこの魔素を取り込み魔力に変換しているらしい。

 使った魔力が復活するのが、どうしてなのか分からず、ニールさんに尋ねた時に教えてくれたのだ。

 とはいえ、ニールさんも魔素を見たこともないので、どういうものかまでは分からないそうだが。


 あ、だから腕が再生できたのか!?

 でも、俺が殴った程度で体が吹き飛ぶんだから、意外といいことばかりではなさそうだ。

 俺は妙な得心がいった。


「でも、食べられるんだろう? まぁ、お前たちにとっては質素かもしれないけど、俺からしたら普通だし、食べられるだけいいと思うぞ。慣れれば、気にならなくなるしな」


 俺はオルディスの話に納得したので、話を元に戻す。

 俺といる限り、こういった食事に慣れてもらう必要がある。申し訳ないが以前のような豪勢な食事を期待されても困るのだ。


 俺は、パンを千切って、スープに浸してから口に運ぶ。

 正確に言えば、パンを引き千切ってだが、引き千切ってというと食事が悲しいものに思えてくるので、精神衛生的に使わないようにしている。言葉の使い方って大事。

 魔物たちも俺に倣って、食事を食べだした。


「あの~、それで、フェール様は、これからどうなさる御積もりなのですか?」


 食事をしながら、オルディスが今後について聞いてくる。

 どうなさるも何も、俺にはどうしようもないのだが?

 それを、彼らに教えるためには、今日の事情聴取の様子から説明を行う必要がある。


「その話は明日にしていいか? 今日はいろいろあり過ぎて疲れたから、できれば明日にしたいんだけど?」


 牢屋の壁には小さな窓がついていて鉄格子が嵌っている。

 そこから外に視線を向けると、陽は沈み、外は暗くなっていた。

 俺は今日、朝から冒険者登録試験を受けていたのだ。これからまた事情聴取の内容を説明する元気はない。


「分かりました。フェール様が宜しいのであれば、俺たちに否はありません」


 さっきから俺の意思を重要視しているようだが、俺がここから出たいとか言ったらどうする気なんだろう?

 少しばかり、訓練場での彼らの言動を思い返して不安になる。

 まぁ、だからといって何もできないのだが、俺の心労を減らすためにも、明日はうまく説明することを心の中で密かに誓い、食事を終えた俺たちは、ベッドに入って眠りについた。

 この際、魔物たちが寝ずに俺の護衛をすると言い出したので、強制的にベッドに入れたのは言うまでもない。


 ◇ ◆ ◇


 事情聴取の翌日、俺はベッドの上で大きな伸びをする。

 既に陽は昇り、牢屋の中にも光が差し込んで明るい。

 昨日はかなり疲れていたのか、かなり深く眠っていたようで、疲れも取れている。


「フェール様、おはようございます」


 ネルビアが嬉しそうに朝の挨拶をしてくる。

 ってか、顔が近い!

 俺が瞼を開けると、ベッドの脇から身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込んでいるネルビアの顔があった。


「え~っと、お前、何してるの?」

「はい。フェール様を見ておりました」

「いつから?」

「フェール様が眠られた後からです」


 あ、っそ。昨夜、俺がこいつらを無理やりベッドに入れたのに、起き出して見てたのね。

 疲れが取れたはずなのに、朝からどっと疲れに襲われた気分になる。

 確かに気さくに接しろとは言ったが、これはさすがに距離感が間違っている気がする。

 それに、昨夜、俺が命じた眠れとの命令を軽く無視してる気もするのだが、これ以上、朝から疲れるのは避けたいので、今は流しておいた方が良さそうだ。

 というか、そんな長い時間、よく飽きなかったな?


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