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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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冒険者ギルド

 今、俺の瞳には大きな建物と、それにふさわしい重厚な扉が映し出されている。

 今日はいよいよ冒険者登録をする日だ。そのために俺は冒険者ギルドの扉の前に立っている。

 俺は中に入る前にもう一度、自分が持っている物を確認する。確認すると言っても剣に防具に登録費用、この三つさえあれば登録に支障はないので、鞄の中に登録費用が入っていることを確認するだけで終わる。この行為も昨晩から幾度となく行っているのだが、一向に安心した心地になれない。ここまで来るのに三年の月日を要したと思うと、多少の緊張感や不安も仕方ないことだと割り切ってはいるのだが、我ながら少し情けない気分になる。

 こうして俺は何度目かの確認を終えて冒険者ギルドの扉を開いた。


 俺が冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、喧騒が耳に入ってくる。

 やはり時間帯が悪かった。朝一番は避けたのだが、それでもまだ多くの冒険者がギルドに残っている。

 ここに魔物はいない。基本的に冒険者ギルドには魔物を連れてきてはならないことになっている。冒険者ギルドでは依頼を受けるだけなので、この場に魔物を連れていなくとも問題ないのもあるが、主には他の冒険者の迷惑や、魔物同士が争うことを避けるためらしい。

 それでも、ロビーの半分近くを埋めるぐらいの冒険者がいる。

 昨晩は昼過ぎにギルドに行くつもりでいたが、どうしても気が急いてしまい、この時間に来てしまった。


 でも、これって仕方ないよね。三年間待ち侘びた冒険者登録ともなれば一刻も早く登録したくなるというものだ。

それに来てしまったものは仕方ない。一旦、帰って再度昼過ぎに来るというのも縁起が悪い気がするし。


 俺は覚悟を決めて受付に向かって歩みを進めた。

 見慣れない者が入ってきたからだろうか、冒険者たちが俺の方を窺うように視線を向けてくるが、俺も今日から冒険者の仲間入りだと思うと、ここで怯むわけにもいかない。

 俺は親方とガイルが送り出してくれた時の事を頭に思い浮かべて、向けられる視線を流しながら、一歩一歩、着実に受付を目指す。

 それにしても扉から受付まで遠くないか? ここにいる冒険者の数を考えればロビーの広さはそれなりに必要だとは思うが、この広さは初心者に優しくない気がする。ほんと勘弁してほしい。


 そんな他愛もないことを考えつつ気を紛らわしながら歩みを進め、ようやく受付に到着した。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付嬢が優しく微笑みながら問いかけてくる。

 孤児院出身の冒険者から、受付嬢は気立てが良い可愛い女性が揃えられていると聞いていたが、まさにその通りだと感心する。俺は今日初めて受付嬢と対面し、まだ一言目の言葉しか聞いていないが、それでも先ほどまでの緊張が解れて心が穏やかになる。


「今日は冒険者登録に来ました」


 俺は目的を端的に告げた。

 その途端、先ほどまで向けられていた視線に鋭く刺されるような感覚が加わり、俺は思わず肩に力が入る。

 それを見た受付嬢が、「大丈夫ですよ」とにっこりと微笑んできた。俺はその微笑みで再び身体の緊張を解く。

 刺すような視線は特定の誰かからのものではなく、ここにいる全ての冒険者から感じるので、恐らくはこれから冒険者登録をする俺のことを値踏みでもしているのだろう。俺としては注目して欲しくはないのだが、この時間に来た俺も悪いので我慢するしかない。

 受付嬢は俺が少し落ち着いたのを感じ取ったのか、続きを口にした。


「それでは本日は冒険者登録ということですが、説明は必要ですか?」


 受付嬢の言葉から察するに、事前に情報を得ている者が多いのだと推測できる。

 さすがに命を懸けた職業に就くのに、事前情報もなく飛び込みで来る者は少ないだろうと思う。もし、そういう者がいたとしたら、明日の生活に困って致し方なしに冒険者ギルドの門を叩いた者か、もしくは、よほど腕に自信があって冒険者を天職ぐらいに思っている者ぐらいではないだろうか。さすがに興味本位で登録に来ましたなどという輩はいるはずがない、と思いたい。

 斯く言う俺も孤児院出身の冒険者から事前に情報を得ている。だからこそ三年の歳月を掛けて登録金を貯めてからここに来ているのだから。

 とはいえ、事前情報を得ていることと、受付嬢の説明を割愛することは別ものである。


「事前に話は聞いてますが、食い違いがあるといけないので、説明をお願いできますか」


 そう。俺が話を聞いたのはあくまで冒険者からの視点の話であって、大事な情報が漏れていたり、曲がって伝わっている可能性がある。後でそんな情報は知らなかったと言っても時すでに遅しなのだ。

 幸いまだ日が昇り始めてから時間もそれほど経っていないし、時間なら掃いて捨てるほどある。後悔するくらいなら聞いておいて損はないと俺の心も告げているので、ここはその心に素直に従うことにする。


「では、まずは登録に関するお手続きと、登録金についてご説明しますね」

「はい、よろしくお願いします」


 そう言うと受付嬢は一枚の紙を俺の方へ向けて取り出した。

 その紙の内容にさっと目を通す。氏名や年齢を記載する欄があることから登録用紙だと分かる。


「文字の読み書きは大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」


 この国での平民の識字率は高くないらしい。しかし、俺がいた孤児院では読み書きと算術を教えてくれたので、孤児院の出身者は読み書きができるようになっている。

 これは孤児院の出身者から教えてもらったことだが、孤児院長は孤児たちが社会に出た後、孤児であることの不利を少しでも和らげるために考えてくれた結果なのだそうだ。そういうこともあり、孤児院の孤児たちは感謝こそすれ不満など一切言うことなく、読み書きと算術を学ぶようになる。

 俺は間違いなく人の縁に恵まれている。この感謝を返せる日が来るよう、頑張らないとな。

 俺はそんなことを考えながら登録用紙への記載を終えた。


「はい。大丈夫ですね。それでは登録金ですが、銀貨十一枚になります」


 俺が登録用紙に記載した内容に誤りはなかったようだ。

 それを確認した後、俺は鞄の中から銀貨十一枚が入った袋を取り出して受付嬢の前に置く。

 このお金には様々な想いが詰まっている。それが手元から離れると考えると少し寂しくなる。絶対、冒険者にならないとな。そして恩返しをしなければ。そんな想いが胸を突く。

 受付嬢はそれを受け取ると袋の中身を確認した。


「はい。確かに銀貨十一枚ございます。それでは、登録試験や冒険者ギルドの規約についてご説明させていただきますね。まずはその前に召喚石を持ってまいりますので、しばらくお待ちください」


 受付嬢はそう言うと席を立ち、受付の奥へ姿を消した。

 いよいよだ。冒険者になるためにはこの最初の登録試験で資質があることを示さないといけない。逆に言えば、資質さえ示せば冒険者になれるのだ。

 しっかりと受付嬢の説明を聞いて、間違ったことをしないように挑まなければ。


 俺はふと、先ほどまでの視線が気になりロビーの方に顔を向けた。

 …て、え? 冒険者の人たち、明らかに増えてない?

 今の時間は朝の早い方だとはいえ、朝一番の時間帯は過ぎている。冒険者とは、日が昇る前に起き、日が昇るころには依頼を受けて仕事に出る者が多いと聞いている。だからこそ今日も朝一番は避けたのだ。

 それなのにどうして増えるの? 減ることはあっても増えることはないでしょ?

 そういえば、夜遅くまで酒場で飲んでいる冒険者が多いと聞いたことがある。これってもしかして、そういう人達が遅れてやってきた第二陣なのだろうか?

 まぁ、今はそれを考えたところで答えは出ないし、冒険者になれば解るだろう。そう思い、俺は一旦この疑問を脇に置いて、受付の方に視線を戻した。


「お待たせしました」


 受付嬢が戻ってきて机の上に鉱石で造られた円盤状の物を三つ置いた。

 これが召喚石というやつだろうか。俺も初めて見るが、綺麗な円盤形をしている。その平らな表面には何かの魔法陣らしきものが刻み込まれているが、俺には何の魔法陣かは分からない。

 それにしても思っていたより小さいが、これで魔物を召喚できるのだろうか。召喚石は銅貨程度の大きさしかない。もしここで床に落としでもしたら何処かに転がっていってしまい、見つけるのが一苦労しそうである。


「この三つが召喚石になります。これを隣の訓練場に描かれている魔法陣に嵌め込み、その魔法陣に魔力を込めれば召喚石が起動し、魔物が召喚されます」


 なるほど。この召喚石は発動に必要な魔法陣の一部で、実際はそれを嵌め込んだ魔法陣に魔力を込めるのか。

 俺はその話を聞いて若干の疑問を抱くが、事前に召喚には魔力が必要とは聞いていたので、そうなのかと納得する。


「魔物を召喚するので、魔法陣はそれなりの大きさになりますが、魔力は大丈夫ですか?」


 ここで先ほどまでの『若干の疑問』が『大きな疑問』に変化する。


「え~っと、どれぐらいの大きさですか?」


 俺は即座に疑問を口にした。これは流していい内容ではないと、俺の頭の中で警報が鳴り響いている。


「そうですね。このロビーより少し小さいくらいでしょうか」


 受付嬢は目の前のロビーを見渡しながら告げてきた。

 そのロビーというのは、もちろん俺が冒険者ギルドの扉を開いた際に一番に目に飛び込んできた場所で、今、俺の背後に存在するロビーのことだと瞬時に理解した。

 へ~。このロビーより少し小さいくらいですか…。そうですか…。

 俺は背面の方に視線を向けてロビーを見渡す。そこには先ほどまでよりさらに増えた冒険者たちが、ちらちらとこちらを見ながら屯している姿がある。

 って、デカいわ! いや、魔力が必要とは聞いてたよ。だから小さな魔法陣に魔力を込める訓練もしてきたけど、召喚のための魔法陣がこれほど大きいとは聞いてない!

 あ、これ一気にスラム街が近づいてきた気がする…


「ちなみにですが、魔法陣に魔力が込められないと、どうなりますか?」


 そんな言葉が無意識に俺の口を突いて出た。


「その場合は資質なしと判定されて、冒険者にはなれません。…ただ、冒険者になろうという方は皆さんそれなりに魔力をお持ちなので、魔法陣を発動できない方は稀なのですが…」


 受付嬢の顔には困ったような表情が浮かんでいる。

 あ~、これ、絶対に『こいつ大丈夫か?』って思ってますよね…。俺の顔にもきっと不安の色が浮かんでいるだろうから、そう思われるのも自然というか当然というか…、はい、正解です。ちょっと不安になってます。

 事前に聞いていた話では、魔力がそれほど必要だとは聞かされていない。逆に召喚は難しくもなく召喚できない方が稀だと聞かされていたので、そこまで深くは考えていなかったが、受付嬢の話を聞いて納得する。

 そもそも魔力がない者が冒険者を目指すことなどないという話だ。親がいる子供は普通、親から紹介された職に就くので、冒険者を目指すことはないし、それなりに腕に自信がないと目指すこともしない。そこには魔力量も含まれているということなのだろう。

 魔力量とかどうやって測れば良いのかは知らないけど、できれば事前に教えておいて欲しかったな…。

 とはいえ、ここでできませんとは答えられない。そんなことをすれば、その時点で俺の生活場所がスラム街に確定してしまうのだから、言えるわけもない。やるしかないのだ。

 俺はここで再度気合を入れる。


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