表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/34

【ロイラン視点】難航する調査・中上

 騎士団長から向けられた、その眼差しの意味は分かる。


「俺じゃありませんよ」


 俺は騎士団長の視線に首を振り、俺ではないことを否定する。

 しかし、俺がこれから続けて語ることに必然、俺の顔が歪む。


「俺は昨晩、訓練場の鍵を持って帰りました。でも、それまで鍵はギルドに保管されてましたし、何より鍵は二本あります…」

「ああ、お前のことは疑っておらん。しかし、そうなればギルド職員も仲間の可能性があるのか…」

「うむ。そうなるの。ちと、やっかいじゃの…」

「ええ、アゼルを調べるにしても、ギルド職員まで仲間だとすると、かなり動き難くなります」


 最悪だ。物的証拠までなくなり、それでなくともアゼルの調査がし難くなったというのに、ギルド職員まで仲間だとすると、俺の動きが向こうに筒抜けになる可能性まである。

 もし今、こちらの動きを悟られれば、アゼルが冒険者や民衆を煽って、彼らが一気に反感の声を上げることが予想されるだけに、絶対にこちらの動きを知られてはならない。


「まぁ、それでもやるしかないんでしょうがね…」

「ああ、そうだな。何としても冒険者の勲章は与えるわけにはいかん」

「ええ、それだけは絶対、阻止する必要がありますね」

「ふむ。ロイランには悪いが、其方が頼りだ。もちろん儂らも出来る限りのことはするが、儂らまで動けば目立ち過ぎてしまうからの」

「ええ、分かってますよ」


 ああ、なんて損な役回りだ。

 こんなことならギルド長など成りたくはなかった。

 冒険者のみならず、共に働く職員まで疑わないといけないとか、なんの拷問だよ。

 こうして会議は終わり、俺は肩を落としながら冒険者ギルドへと戻って行った。


 ◇ ◆ ◇


 冒険者ギルドの執務室で、昨日から何もできていない書類に目を通す。

 魔法師団長の執務室から帰ってきてから処理しているが、一向に減らない書類に遠い目になる。


「ギルド長! そんな顔をしていないで処理してください。でないと終わりませんよ」

「手伝ってもらってるのは感謝するが、俺は昨日の件で疲れてるんだ。この書類の山を見たら、嫌にもなるだろ」


 俺の執務室の前のソファーでは、副ギルド長も一緒に書類の処理を手伝ってくれている。

 建前上、副ギルド長には感謝と言い訳を返したが、実のところ、書類仕事に加えて副ギルド長も俺の精神を蝕んでいる。

 ギルド職員にアゼルの仲間がいることを考えれば、副ギルド長もその可能性があり、書類仕事を助けてもらっているとはいえ、俺を監視しているのではと疑ってしまうのだ。

 なんとか一人の時間を作って、ここから出ないことには調査もできない。

 こんなことをしている間に、どんどんと市民の感情がアゼルに傾いていってしまう。

 時間ばかりが過ぎていき、焦りだけが降り積もっていく。


 それからも、せっせと書類を片付け、終業時刻を回り陽が落ちてしばらくした頃、俺は声を上げた。


「ああ、もう駄目だ! 俺はこれから飲みに行く! でないと、やってられるか!」

「……」


 副ギルド長が冷たい視線を向けてくる。

 そんな目をされても、俺も譲る気はない。何しろこのままでは今日が終わってしまう。


「分かりました。では、明日は頑張ってくださいね」


 副ギルド長は『はぁ』と溜息をつくと、仕方なさそうに許可をくれる。


「ああ、任せろ」


 正直なところ、明日も時間を取る必要があると思っているので約束はできないが、こうでも言わないと抜けられそうにない。明日の俺が明日の言い訳を考えてくれるだろう。

 こうして俺は、ギルドを抜け出すことに成功した。


 そして、冒険者が集う酒場を目指して冒険者ギルドを後にする。

 今朝、魔法師団長の執務室で会議をしたので、今日の夜の会議はなくなっている。

 この時間を利用して、口が緩くなった冒険者たちから情報を集めることに使いたい。


 俺が酒場に着くと、酒場は大勢の人で賑わっており、中には既に酔い潰れている者までいた。

 少し出遅れたか? そうは言っても、これ以上早くに来れなかったので仕方ないが。

 俺は酒場を見渡して、お目当ての冒険者がいないか探す。


「あれ、ギルド長じゃないですか?」

「おお、ゲイル。それにヘルドとベールも一緒か」


 俺に声を掛けてきたのは、中級の冒険者。昨日の訓練場にいたので、俺の目当ての冒険者でもある。

 俺は早速、お目当ての冒険者に出会えたことを喜んで、三人の元へ近付いていく。


「俺も一緒に飲ませてもらってもいいか?」

「ええ、ギルド長の奢りなら歓迎しますよ」

「あははは。ほどほどに頼むぞ」

「「「よっしゃー!」」」

 

 俺は椅子を引いて腰を下ろす。

 予定外の出費だが、機嫌よく情報提供に協力してもらうには、必要な出費だろうと割り切る。

 時間があればこのような出費は避けるが、時間と情報をお金で買ったと思えば、どうということもない。


 俺は店の給仕にお酒を一杯頼む。

 それが届くとジョッキを持って、乾杯の挨拶をする。


「昨日は、お前らも大変だっただろうし、今日は疲れを癒すために飲むぞ! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 さり気なく昨日の件を持ち出して、これから行う情報収集の布石にする。


「それにしても、昨日は本当に大変だったよな」

「ああ、まさか覇気を発する魔物が召喚されるなんてな。考えただけでもゾッとするぜ」

「ああ、アゼルさんがいてくれて助かったぜ」


 早速、俺の布石が効果を発動させたようだ。ゲイルとヘルドとベールの三人が昨日のことを話題にし出した。

 しめしめと心の中で北叟笑む。


「お前たちも覇気を見たのか?」

「ああ…、いえ、俺たちは風の渦を見て、そこで逃げ出しました…」


 ゲイルは恥ずかしそうに、頭を掻いている。

 風の渦とは、悪魔や幽鬼や死霊が召喚される際に起こる現象だ。

 冒険者ギルドでも、悪魔や幽鬼や死霊を見たら闘わずに逃げろと教えているので、その教育が行き届いているということだ。


「いや、それで正解だ。何も恥ずかしがることじゃない。ていうことは、誰かから聞いたのか?」

「あ、ええ、アゼルさんから覇気を発する魔物だって聞きました」


 ここでアゼルの名を聞いて、心の中に皺が寄る。

 アゼル自ら吹聴しているとは、あまり時間がないかもしれない。


「ああ、アゼルか。それなら納得だな。ちなみに、他にも見た奴とかいるのか?」

「う~ん、どうでしょう? ほとんどは風の渦を見て逃げ出しましたしね…」

「あ、でも、アゼルさんと『蒼の龍』の皆さんが一緒に訓練場から出てきたので、『蒼の龍』の皆さんは見てるんじゃないですかね?」


 『蒼の龍』か。その名を聞いて俺の警戒心がさらに上がる。

 『蒼の龍』は、アゼルが依頼を受ける際によく組んでいる冒険者仲間たちの総称だ。

 冒険者ギルドが管理しているのは基本的に個人登録のみで、後は誰と組んで依頼を受けるかは本人たちの自由だ。

 依頼には一人で受けるのが難しいものが多く、このため気の合った仲間たちで寄り合って受けることが多い。

 こうして常日頃から組んでいる依頼を受けている冒険者たちには、往々にして名称が付けられる。

 その一つが『蒼の龍』で、アゼル、アイル、レイグ、ベイゼ、フォルフの五人のことを指す。


「ああ~、そうだな。…そういえば、『蒼の龍』の皆さんが訓練場から出てくる時、新人の冒険者を何人か肩に担いでましたし、そいつらも見たんじゃないですかね?」


 これは嬉しい情報だ。『蒼の龍』以外に覇気を見た者がいるなら、それを手掛かりに調査が進められる。

 ヘルドとベールの情報に心の中で感謝する。

 正直、『蒼の龍』の動向を直接調べるのは難しいため、それ以外の者がいることは助かる。

 もし、その新人冒険者たちが覇気を見たと言うなら、彼らをアゼルの仲間と見做して、彼らの動向を追うことで何か掴めるかもしれない。見てないと言えば、それはそれで、アゼルの証言が嘘であることの裏付けにもなる。


「うん? それは誰だ?」

「う~ん、誰だったかな? お前ら知ってるか?」

「「う~ん」」


 ゲイルの問い掛けに他の二人が腕を組んで唸り始めた。

 情報は欲しいが、思い出せないのであれば仕方ないと思いながら彼らを眺めていると、ヘルドがポンと手を叩いた。


「あ、ほら、え~っと、そうそう。ボルフとネトラと、…カミズですよ」

「あ、そうだそうだ。ぐったりしてたから顔が良く見えなかったけど、間違いねえ」

「ああ~、あの馬鹿三人組か」


 ヘルドから出た名前にベールが同意して、ゲイルが苦笑を浮かべている。

 馬鹿三人組とは酷い言われようだが、その三人なら俺の耳にも届いている。それは功績ではなく、講習をちゃんと受けないというギルド職員からの苦情だが。

 その三人なら、動向を追うことも簡単そうだ。


「それにしても、そんなこと知って、どうするんですか?」

「ああ、覇気を見たなら仕事にも影響しているかもしれんしな。ギルドからもなんらかの支援が必要かと思ってな」


 俺は無難な答えを返しておく。調査のためだなんて決して口にできない。


「う~ん、それは分かりますが、あの馬鹿三人組なら、どうせ魔物の情報も知らずに最後まで残ってたんでしょうから、自業自得ですよ」


 ゲイルが辛辣な言葉を口にする。

 確かに冒険者は全てに自己責任が求められる。だが、今回は事情が違うので、彼らを追っていることが自然に見られるような状況を作り出しておく必要がある。


「まぁ、そう言ってやるな。さすがに覇気は予想できんだろう」

「まぁ、そうですね…」

「ゲイル、そうだぞ。そんなギルド長だから俺たちも安全に依頼を受けられるんだからな」


 ゲイルは若干不服そうだが、ヘルドが俺の援護をしてくれる。

 しかも、嬉しい誉め言葉を添えて。


「ヘルド。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。まぁ、飲め飲め! 今日は俺の奢りだ!」

「「「おー!」」」


 そこからは飲めや歌えやの大盛り上がりで、新たな情報もなく、酒場全体を巻き込んでの大宴会となった。

 翌朝、目覚めた俺が財布の中を見て後悔したのは、言うまでもない。

 これ、必要経費で騎士団か魔法師団に請求できないかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ