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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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【ロイラン視点】難航する調査・前

 フェールからの事情聴取の翌日、俺は陽が昇り始める前に起き上がり、最低限のことだけを済ませ、急いで冒険者ギルドまで赴いた。

 訓練場の魔法陣の確認は、今後の方針を決めるためにも、できるだけ早く済ませた方が良いという思惑で、この時間になったのだが、辺りはまだ薄暗く、まだ冒険者ギルドも開いていない。

 今は、冒険者ギルドの訓練場の前で、騎士団長と魔法師団長を待っている。

 もうすぐ陽が昇り始めるだろうが、さすがに眠い。これは、疲れが抜けきっていないな。

 俺が欠伸を噛み殺しながら、待っていると、こちらに近付いてくる豪奢な馬車が見えた。

 その馬車から降りてきたのは、騎士団長と魔法師団長。彼らの顔にも疲れが残っているように見受けられる。

 丁度その時、陽が昇り始めた。


「騎士団長、魔法師団長、お待ちしておりました」

「ふむ。丁度、陽も昇り始めたようじゃし、直ぐにでも魔法陣を確認するか」


 挨拶もそこそこに、魔法師団長の言葉に従って、訓練場に歩みを進める。

 俺もだが、この二人も日頃の業務に加えて、昨日の件の後処理や今後の調査など、やるべきことは山積みなのだ。

 無駄話などせず、テキパキと進めていかないと仕事が溜まる一方になってしまう。


 俺は足早に訓練場の扉まで行くと鍵を開けて、扉を開いた。

 そして、訓練場に足を踏み込むと、予想とは異なる光景が目に飛び込んできた。


「ふむ。えらく荒れておるの」


 俺の後ろから訓練場に入ってきた魔法師団長が、中の様子を見て声を上げた。

 そこには戦闘の痕跡が所々に残っていた。

 俺たちは、フェールが闘わずに服従させたというアゼルの言葉が頭の中に残っていたのか、訓練場は綺麗なままだという思い込みがあった。しかしそこには、踏み込んだ際の足跡や、武器による傷が床のあちこちにあり、ここで戦闘が繰り広げられたことを物語っている。


「うむ。これは剣…、いや、鎌か…」


 騎士団長が床にある傷跡を見て呟いた。

 俺も騎士団長の隣まで移動すると、その傷跡を覗き込んだ。

 それは傷というより、剣が刺さった跡のように思うが、その形状から、両刃ではなく片刃であることは分かる。


「ええ、この跡の形から片刃ですし、鎌のようにも見えますね。…死霊が使う武器とも、フェールの話とも一致するので、そう考えても問題ないんじゃないでしょうか?」

「ああ、そうだな…」


 俺は騎士団長の返答を受けて、もう一度、訓練場を見渡してみる。

 ここで、戦闘があったことは間違いないようだ。

 そして、鎌が刺さった傷跡と併せて考えると、それはフェールと魔物たちの戦闘で間違いないと思われる。

 これでフェールの話の信憑性がグッと増したことになる。


 そんな中、俺と同じように一通り周りを見渡していた魔法師団長が、徐に魔法陣の方へ脚を向けた。

 本日の目的である魔法陣の確認に向かったのだろう。俺と騎士団長も後を追う。


 これで魔法陣が正常に機能していればフェールの話の裏付けもできる。

 そう思って魔法陣に向かったのだが、魔法師団長が魔法陣の上で脚を止めて視線を向けた先を見て、全員の眉間に皺が寄った。

 そこには、先程と同じような鎌で刺された痕跡が残っていたからだ。


 俺たちは慌てて魔法陣にある戦闘の痕跡を見て廻る。

 その確認の結果、魔法陣全体に鎌による傷跡が五箇所、ナイフのような鋭い刃物による傷跡が一箇所確認できた。幸い石板には踏み込んだ際の抉れなどの足跡までは刻まれていなかったが、それでもこれだけ傷ついていては、既に魔法陣そのものが起動しなくなっている。


「どうするんですか? これでは魔法陣が正常に機能したのか、確認ができませんよ」


 俺の問い掛けに、誰からも返答が返ってこない。

 騎士団長は魔法師団長の方に視線を向けており、魔法師団長は難しい顔で、魔法陣に残っている傷跡に幾度も視線を巡らせるだけで、一向に口を開こうとはしない。

 俺と騎士団長は魔法陣の専門外なので、魔法師団長が口を開くのを待つしかないのがもどかしい。

 魔法師団長が何かを考えているのは分かるのだが、早く答えを知りたい俺としては少しばかり苛立ちを感じる。


 それからしばらくして、漸く魔法師団長が声を発した。


「ここではなんじゃな。儂の執務室へ移動するぞ」


 そう言うと魔法師団長は、足早に訓練場の正面扉に向かって歩き出した。

 なんだか肩透かしを食らったような気分になるが、ここでは話せないことだと察し、俺たちも後を追う。

 そして、訓練場の前に停めてあった馬車に乗り込むと、三人で魔法師団長の執務室まで移動した。


 俺たちが魔法師団長の執務室に辿り着き、ソファーに腰を下ろすと、すかさず給仕がお茶を淹れてくれる。

 魔法師団長は給仕に退室を促すと、一つ息をついて、お茶を一口口にした。


「のお、ガレリックよ。そろそろ俺たちにも説明してくれんか」


 騎士団長が組んだ腕を指で叩きながら、魔法師団長に催促する。

 これは明らかに苛立ってるな。

 俺も騎士団長と同じ思いなので、静かに頷いて魔法師団長を眺める。


「まぁ、そう慌てるな。儂も正直なところ、推測しかできんのじゃ」


 魔法師団長から紡がれた言葉は、なんとも頼りないものだった。

 あの魔法陣を見れば、それも仕方ないのかもしれないが、明確なことが分からないことに少しがっかりする。

 とはいえ、推測すらできていない俺よりは遥かに良いのだが。


「ああ、それで良いから教えてくれ」

「ふむ。そうじゃな…。まず魔法陣についておった傷じゃが、二つの『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式と、その他に魔法陣全体に三箇所、計五箇所が鎌が刺さったような傷跡で切断されておった。あとそれとは別に、最後の一つの『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式は、鋭い刃物で切る様に術式が切断されておる」


 魔法陣は、召喚魔術を起動させるための術式の中に、三組の制御術式が組み込まれている。制御術式には『召喚石を基軸としてそこに魔物を召喚する』術式、『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式、服従術式の三つの術式を一組として、それが三組配置されている構造だ。

 魔法師団長の話によると、その三つの制御術式のうち、全ての『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式が壊れていることになる。


「でも、それって不自然ですよね…」


 魔法師団長の話を聞いて、思ったことが口を突いて出た。

 狙ったように三つとも、『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式が壊れていることなど、あるのだろうか?


「ふむ。その通り、不自然じゃ」


 魔法師団長は俺の言葉に同意した後、俺たちを見渡して続けて口を開いた。


「そして、恐らくじゃが、鋭い刃物で切断された傷跡は、フェールが魔物たちを召喚した後じゃ」


 魔法師団長から続けて語られた内容に、驚きを隠せず大きく目を見開いてしまう。

 訓練場の閉鎖をギルド職員に命じていたので、あの後、誰も訓練場に入っていない筈だ。


「それは、どういうことだ?」

「ふむ。鋭い刃物での傷は、微かに服従術式をも傷つけておった。あれでは、服従術式も発動せん」

「それが何故、傷が後から付けられたことになる?」


 騎士団長は、魔法師団長の推測を吟味しながら、根拠を問う。

 フェールが闘って服従させたなら、服従術式がなくとも服従させた可能性はある。

 魔物は自分より強いものに従う傾向があるため、最悪、服従術式がなくても服従させることは可能だ。服従術式はあくまで補助的な意味合いでしかないのだ。

 それに何より、訓練場は閉鎖されていたという実情もある。


「アゼルとの事情聴取を思い出してみよ。フェールは魔物と闘う前に服従した、という話であったであろう。もし、服従術式が発動していないならば、アゼルの話は間違っておることになる」

「ああ、それは分かるが、でも、フェールが闘って服従させたなら、問題ないだろ。寧ろ、アゼルを問い詰める証拠になるんじゃないのか?」


 俺も騎士団長と同じ意見だ。

 訓練場には戦闘の痕跡もあった。


「何を言うておる? 『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式も傷ついておったのじゃぞ。それでは、召喚された魔物がフェールより強い可能性が出てくるであろう。フェールの話にも信憑性がなくなってしまうではないか。それに、召喚されたのは悪魔と幽鬼と死霊じゃぞ。普通ならばフェールよりも強いはずじゃ」

「なるほど。アゼルの証言も、フェールの証言も両方成立するということか」

「そういうことじゃ。最初から両方が成立する傷が付いていたとは思えん。答えはどちらか一方しかないのじゃ。召喚された魔物をフェールが服従させていることと、あの戦闘の痕跡を考えれば、『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式が機能してなかったように見せ掛けるために、後から傷をつけたと考えるのが妥当じゃろ」


 確かに魔法師団長の説明には説得力もあり、辻褄も合っている。

 これを覆すのは難しいように思える。


「でも、それなら何故、服従術式まで傷を付けたんですか?」


 『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式に傷を付けた理由は分かった。しかし、服従術式まで傷つけてしまっては意味がない。


「ふむ。恐らくじゃが、暗くて良く見えなかったか、手が滑ってしまったか。あとはそうじゃな…。不自然さを誤魔化すために、敢えて服従術式にも傷を付けたということも考えられるかの」

「不自然さを誤魔化すためですか…?」

「ああ、そうじゃ。例え、全ての『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式が傷付いているのが不自然だとしても、服従術式にまで傷が付いておれば、言い逃れもできよう。今あるこれらは全て状況証拠じゃ。魔法陣が起動せん以上、全てが正常に起動していたのかは実証できん。全ての『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』術式が傷付いておれば、それだけでアゼルの証言を否定できなくなる。それに、あの戦闘の痕跡にしても後からつけたと言われれば、それを否定する術もない。フェールが魔法陣を起動させたのは確かじゃから、もし、制御術式のどれか一つでも傷ついておらず、綺麗な状態だったなら証拠として使えたかもしれんがな」

「そんな…」


 推論としては完璧でも、状況証拠と言われれば、それまでだ。

 魔法陣の制御術式が後から傷つけられたと主張しても、服従術式も傷付いており、戦闘の痕跡も後から付けたと言い返されれば、それ以上は何も言い返せなくなる。


「しかし、誰が、どうやって後から傷を付けたのだ? 訓練場は閉鎖されていたのだろ?」


 騎士団長の視線が俺を向く。


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