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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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導かれる推論

 回答として欲しいものは得られたので、一旦、気持ちを切り替える。

 相変わらず、騎士団長と魔法師団長の表情は険しいままだが、これ以上の議論は話が逸れるだけなので、次の質問に移らせてもらう。


「分かりました。難しいということですね。それだけ分かれば今は充分です。それでは二つ目の質問ですが、俺は人型の魔物は見たことがないのですが、俺が召喚した魔物たちは珍しいんですか?」

「ああ、そうじゃの。今から十五年前にベルグリス教国で悪魔が現れたとの話は伝わっておるが、幽鬼や死霊はもう少し遡ることになるじゃろうのぅ。いずれにしても我が国では、数十年は現れておらんな」


 今度は魔法師団長が答えてくれた。

 この辺は魔法師団長の専門分野ということだろうか。

 質問を切り替えたためか、魔法師団長の顔からは少し険しさが薄れている。

 それにしても、珍しいとは思っていたが、それほどとは思ってもみなかった。

 道理で、騎士団庁舎の収容施設に人型の魔物を収容するための設備がないわけだ。

 ちなみに、ベルグリス教国とはこの国の西ある大森林を隔てたさらに西側に存在する国だ。


「ありがとうございます。相当珍しいみたいですね。それじゃあ、三つ目の質問ですが、冒険者が引退したり、亡くなった場合、残された魔物はどうなりますか?」


 これは至極簡単な質問だ。今までにも事例はあるだろうから、それを教えてもらえれば良い。

 ころころと質問が変わるせいか、俺の意図が分からないとばかりに、三人が眉を顰めている。

 それでも、質問に答えてくれるのは助かる。この質問には専門職のギルド長が回答してくれた。


「その冒険者が犯罪者ならば、騎士団預かりになって殺処分されるが、そうでない場合はギルド預かりになるな」


 俺の予想通りの応えに満足する。

 これは、ニールからも聞いていたので、その情報とも符合する。

 俺が子供の頃にニールの魔物が欲しいと強請った際に、彼がそれは無理だと教えてくれたのだ。


「では、最後の質問ですが、ギルド預かりになった魔物はどうなりますか?」


 この質問がもっとも重要な部分だ。

 今までの質問が実を結ぶと言っても過言ではない。


「それは適切な冒険者を見極めて、その冒険者に譲渡…」


 ここでギルド長が言葉を止めて、はっとしたように大きな目を見開いて俺の顔を見る。

 ギルド長は俺が何を言いたいのか察したようだ。

 騎士団長も魔法師団長も一瞬遅れて気付いたのか、ばっと顔を上げると大きな目を見開いた。


「そんな…、まさか…」


 俺が冒険者になれなければ、俺の魔物たちは冒険者ギルド預かりとなり、適切な冒険者に譲渡される。

 凶悪な魔物と評される俺の魔物が譲渡される先は必然的に決まっている。この国で一番最高峰の冒険者はただ一人しかいない。そして、その冒険者は、俺の魔物たちが覇気を放っていたと証言した人物。


「冒険者の勲章か…」

「うむ。充分あり得る話じゃ…」


 騎士団長が厳しい顔で呟き、魔法師団長が追随する。

 ギルド長は放心状態だが、騎士団長が呟いたことにも気付いているだろう。


 そう。希少種で強い魔物を従えることは、冒険者の実力を示す指標とされている。『より希少で強い魔物を従えるのは、冒険者の勲章だ』という言葉があるくらいだ。

 そして、俺が召喚した魔物は強さは別として、希少性は群を抜いているだろう。その上、騎士団を招集するほどの凶悪な魔物という箔が付けば、それが噂であろうと、どれだけの賞賛を集めるのかは言うまでもない。勲章としても最高峰といえる。

 英雄級一歩手前とはいえ最高峰の冒険者に最高峰の勲章。これだけで英雄級に匹敵する。


「あの…、これはあくまでも可能性の話です…。俺はまだアベルさんが見間違えた可能性も残っていると思っていますし、何より証拠もありませんから」


 三人の顔が今まで以上に厳しさを増しているのを見て、俺は可能性であることを再度強調した。

 これでは、俺がアベルさんを犯人に仕立て上げた気分になってしまう。

 だから言いたくなかったのだが。『あっ』と声を発してしまった俺を殴り飛ばしたい気分だ。


 そんな時、部屋の扉を数度叩く音がして、騎士が入室してきた。

 入ってきた騎士は部屋の雰囲気に、たじろいて仰け反る。しかし、直ぐに気を取り直すと、一瞬俺の方を見てから、騎士団長のもとまで行き、彼の耳元に口を近付けた。そして口元を手で隠しながら、何やら騎士団長に報告を始める。

 その報告に耳を傾けていた騎士団長が突然、大きな声で笑い出した。

 その後、騎士に向かって『ははは。それぐらい大目に見てやれ!』と掌をひらひらと振って騎士に退室を促した。そんな返答が来るとは思っていなかったのか、騎士は驚きと共に困惑の表情を浮かべたが、騎士団長の態度が変わらないことを悟り、『分かりました』という言葉を残して退室していく。


 俺を含めて、突然笑い出した騎士団長に、全員が目をパチパチと瞬かせながら騎士団長に視線を送る。


「アルノルト、何があったのだ?」


 全員の気持ちを代表して、魔法師団長が問い掛けてくれる。

 騎士団長は、俺の方に視線を向けると、楽しそうに口を開いた。


「ああ、フェールの従えた魔物たちが、収容施設の檻の中で、フェールの話で盛り上がってるみたいでな。他の魔物たちが落ち着かないので、静かにするように言ったそうだが、完全に無視されたらしい。預かっている魔物なので、騎士たちも手を出すのが躊躇われるということで、フェールに静かにするように命じてもらえるよう頼みに来たようだ」

「ほっほっほっ、それはそれは。フェールは余程魔物たちに好かれているようじゃな」


 騎士団長の話を聞いて、全員が笑い出した。

 俺は思わず掌で顔を覆う。


 って、何してんの、あいつら!

 俺の話で盛り上がるとか、意味不明なんですけど!

 というか、その話、騎士に聞かれてんじゃん!


 穴を掘って今すぐそこに隠れたい衝動に襲われる。

 何故に俺がこれだけ恥ずかしい思いをしなければならないのか。真面目に勘弁してほしい。


 一通り笑って満足したのか、三人が朗らかな顔をしている。

 そこには先程までの張りつめた空気は霧散して綺麗に消え去っている。


「ほっほっほっ、フェールよ。そう照れるな。…それよりもじゃ」


 そこで魔法師団長が表情を引き締めた。ただし、そこには先程までの緊迫感はない。

 それに倣うように、騎士団長とギルド長も真剣な眼差しを浮かべる。

 まだ、立ち直れていない俺も、なんとか気を引き締めて表情だけは取り繕う。


「先程の続きじゃが、確かにフェールの言う通り、証拠はないな」


 証拠がないとはアゼルのことだと直ぐに理解する。

 魔法師団長の言葉に、全員が頷きで返す。


「ああ、しかし、証拠を見つけるのも容易ではないぞ」

「ええ、何せアゼルですからね。下手に気取られると少々厄介です」


 厄介というのは、アゼルの知名度もだが、彼が及ぼす影響も含めてだろう。

 証拠もなしにアゼルを疑うような言動をすれば、周りの冒険者も黙っているとは思えない。


「ふむ。水面下で進めるしかなかろう。それとじゃ、召喚の魔法陣が正常に機能したのかも調べる必要があるじゃろ」

「ああ、そうだな」

「ええ、そうですね」


 全員の同意が得られたことに魔法師団長が満足気に頷く。


「魔法陣の調査は儂自ら行おう。これはアゼルの言葉を肯定するための確認だと言えば、誰も不審には思わんじゃろう」


 確かに覇気を発する魔王級の魔物が召喚されたのであれば、魔法陣が正常に機能しなかったことになる。

 その裏付けの確認だと言えば、誰も疑うことはしないと思う。

 それに、俺の話が正しいのかの確認も同時に行えるので、確認を行わないという選択肢はない。

 もし、魔法陣が正常なら俺が正で、そうでないならアゼルが正。最も分かり易く、最も揺るがない証拠になる。


「後は、アゼルの調査じゃが。これはロイランに頼んで良いか?」

「ええ、私しかいないでしょうね…。少々気が重いですが…」


 まぁ、この調査はギルド長しかできないだろう。

 騎士団長と魔法師団長が動けば、目立ち過ぎる。しかも、アゼルの状況を逐一把握するのは、傍にいない騎士団長と魔法師団長には難しい。というか不可能に思える。


「ふむ。それは諦めてもらうしかないのぅ。其方の気も分かるが、ここまで大事になっておる以上、分かりませんでしたでは済まされん」

「ええ、分かってますよ…」

「ああ、それと騎士たちの態度が少し気になる。報告は直接、俺まで頼めるか」


 その言葉に騎士団長も、騎士たちが俺を敵視していることに気付いているようだと理解する。

 流石、騎士団長という感嘆と、騎士団長が把握してくれているという安心感が俺の中に芽生える。


「うむ。それが良かろう。…それなら、儂の執務室で定期的に行うのが、良いかもしれんの」

「ああ、不定期に行うよりも定期報告にしておく方が、こちらからの情報をロイランにも伝えやすいな」

「うむ。周りにも疑いを抱かせずに済むしの。では、こういう状況じゃ、業務後にはなるが、これから数日間は六の刻に儂の執務室に集まってくれるか」

「了解した」

「はい。分かりました」


 六の刻とは平民が寝静まる時間だ。冒険者たちはその時間はまだ酒場で盛り上がっている時間だが、裕福に夜に灯りを得るための蝋燭を使えない平民は六の刻に就寝する。


 日中、調査のために時間を割くなら、報告は夜になるのは仕方ないが、大変だなと少し同情する。

 というか、俺の前で相談しているが、良いのか?

 俺が知ってはいけない情報のような気がするんだが…


「ああ、ただ、そうなると、フェールには調査が終わるまでは騎士団庁舎で過ごしてもらうことになるが…」

「この状況を考えると、牢屋に入ってもらうことになるのか…」

「ああ。フェール、かまわんか?」


 俺の嫌疑が晴れたわけでもないので、これは仕方ないことだと納得するしかない。

 それに、アゼルの調査を行うというのであれば、変に疑問を持たれるのも困るので、俺が釈放されない方がいい。これを俺に理解させるために俺の前で相談していたのだろう。

 できれば一刻も早く俺の無実を周知したいが、証拠もなしに周知するのは逆効果だということも理解している。


「はい。分かりました。ただ、できれば魔物たちと一緒にいられるようにしてもらえませんか。その…、ご迷惑もかけているようですし…」


 本来ならば、別々に拘束されるのが当然だ。しかし、彼らを放置するのは余りにも俺の心身に良くない。特に俺の羞恥心が限界突破しそうな気がする。

 それに、あいつらからもいろいろと聞きたいことがある。この事情聴取で俺があいつらのことを知らな過ぎるということを痛感したので、俺もあいつらから情報を得ておきたい。

 情報は最大の武器なのに、俺にはその武器が不足している。今回の事情聴取は乗り切れたが、今後、今以上の情報を持たない俺には、これからを闘う術が欠如しているのだ。


 俺のこの嘆願に三人が見つめ合う。


「そうだな…。まぁ、良いだろう」


 騎士団長がしばらく思案した後、了承してくれた。

 これにギルド長が驚いた顔をしている。

 俺も正直、驚いているので、ギルド長の驚きも理解できる。

 駄目元でお願いしたので、まさか了承されるとは思わなかった。


「ふむ。まぁ、良いじゃろう。その方がフェールも安心できるじゃろうからな」


 魔法師団長も了承してくれたので、これで決定と考えて良いだろう。

 俺は心の中で、俺の平穏が守られたことにほっとする。


「それにしても、フェールは何故、アゼルを庇うような事を言うたのじゃ? 其方からすればアゼルは加害者であろう?」


 話が一段落したからだろうか? 魔法師団長が不思議そうに、思いもしていなかったことを質問してきた。

 突然の質問に俺は首を傾げる。そんなに不思議なことか?


「何故と言われても困りますが、敢えて言うなら、俺は楽しく笑って生きていきたいんです。それを妨げる理不尽が嫌いだからでしょうか。するのもされるのも。それって、楽しくないじゃないですか?」


 俺は至極当然とも思える答えを返す。

 これは俺にとって最も重要で守るべきものだ。そしてこれは、俺だけに限ったことではないと思う。


「ほっほっほっ。なるほど。実に愉快な答えじゃ」


 魔法師団長は楽しそうに笑い出した。

 そんなに愉快か? 普通だと思うのだが、どこに笑う要素があったのか全く理解できない。

 俺と魔法師団長が、微妙に噛み合わない会話をしていると、そこに騎士団長から声が掛かる。


「よし。それでは、魔物たちを迎えに行こうか」


 そう言うと、騎士団長が立ち上がった。

 魔法師団長とギルド長もそれに同意するように立ち上がる。

 俺も聴取が終了したことを察し、これに倣った。


 部屋を退出した俺たちは、騎士団長を先頭に、その左右に魔法師団長とギルド長、その後ろに俺、さらにその後方に部屋の前で控えていた二名の騎士が付き従って移動する。

 魔物の収容施設で魔物たちを引き取った後、俺の後ろに魔物たちを加えて、そのまま全員で牢屋まで移動すると、何事もなく牢屋に入った俺たちに向かい、『では、進展があればまた来る』という言葉を置いて騎士団長たちは 去っていった。

 こうして、俺の長かった波乱万丈の一日が終わりを告げるのであった。


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