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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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新たな疑惑

「ちょっと待ってください! それじゃあ、アゼルが嘘を吐いていると言うんですか!」


 ギルド長の横槍に騎士団長と魔法師団長の鋭い視線が向けられる。


「ロイラン、貴様の感情など聞いておらん!」

「ふむ。ロイランよ。其方は公平な立場でこの場におるのではなかったか?」


 うん。まぁ、そうなるよね。

 二人に咎められたことで、ギルド長が『うっ』と呻く。


「もう一度聞くぞ。お前はどういう立場でここにいるのだ?」


 これは最終勧告だ。一度、公平な立場での参加を表明しておきながら、ここで違う返答をすると、間違いなく罪に問われる。

 それを悟ったのか、ギルド長は『申し訳ありません』と謝罪を口にし、肩を落としながら席に腰を下ろした。


「うむ。それではもう一度問おう。其方はフェールの話を聞いて、どう思う?」


 ここで答えは間違えられない。

 ギルド長も腹を括ったのか、伏せていた顔を上げると、真剣な表情で答えた。


「俺も騎士団長や魔法師団長の言うことに同意します。…もし仮に、彼が殺される前に服従術式が発動したのだとしても、覇気を浴びた後では怖くて魔物に命令なんてできないでしょう」

「確かにそうだな。フェールは怯えることなく堂々と魔物に命じていたな…」


 ギルド長は、俺が考えたことと同じことを口にした。

 一時は感情に流されたが、冷静になれば、ちゃんと考えられるようだ。

 まぁ、ギルドの長だしね。当然といえば当然だ。

 では何故、冒険者の聴取の際に気付かなかったのかという話だが、その聴取に参加していない俺には、アゼルの言葉を前提に疑うことなく、それに答えを合わせた結果なのだろうと推測するしかない。


「うむ。であれば、アゼルが嘘を吐いたということになるが…」


 魔法師団長は、顎に手を当てて再び考え始めた。

 俺はそれに対して、『あの~』と小さく手を挙げる。


「ふむ、フェールよ。なんじゃ?」

「もしかしてですけど、アゼルさんが覇気を見間違えたとかないですか?」


 別段、アゼルさんを擁護するわけでもないが、可能性の一つとして挙げてみる。

 恐らくだが、アゼルさんも今まで覇気を見たことなどないだろう。であれば、見間違いということもあり得る。

 これに対して、ギルド長が首を左右に振った。


「アゼルは高位の冒険者だ。これまで多くの魔物に対峙してきている。その都度、冷静さを求められる彼が見間違うことなどないだろう。それこそ、彼が嘘を吐いていると言う方が信じられる…」


 ギルド長の顔には何とも言えない悲しそうな諦めの表情が浮かんでいた。

 確かに魔物と対峙している最中に冷静さを失えば、それは即ち死を意味する。

 う~ん、そうなると、アゼルさんは嘘を吐いているのか?


「うむ。とりあえず、その判断を行う前に、フェールが魔物を従えるまでの話を聞かせてもらえるか?」


 ああ、それを忘れていた。そもそも経緯を話している最中だったことを思い出す。

 危うく、お互いの認識を合わせる前に、いきなり結論に行くところだった。

 もしかしたら、俺が服従させるまでの中で、彼らが疑問に思うところもあるかしれないしな。後から、わざと黙っていただろうと問い質されても、逆に俺の方の分が悪くなるだけだ。俺に疚しいところがないのであれば、今ここで全てを話しておく方が良い。


 それから俺は、訓練場で繰り広げられた闘いについて語り始めた。

 召喚魔法の発動時に風の渦が発生し、その中から魔物が現れたところから始まり、ベルファが戦闘の口火を切り闘いが始まったこと。その後、戦闘を繰り返す中で俺の剣が折られ、苛立った俺がベルファを殴り肩を弾き飛ばしたら、残りの二体が服従したこと。ベルファの腕を治したらベルファも服従したこと、まで全て包み隠さずに。

 もちろん、彼らが使う武器や魔法を使うことなども漏らさずに話した。

 あ、でも、ベルファを直す際に俺の覇気を吸い出したことと、あいつらが冥界の王というのだけは伏せたけど。だって、魔物と人間の言葉の意味が異なることまで説明するのは面倒だし、何より言葉だけが勝手に先行するのも避けたいしね。どう考えても、俺の覇気とか、冥界の王とか勘違いされそうだし。


「ふむ。フェールの話通りだとすると、特におかしな点は見当たらんの。召喚時の風の渦も、悪魔や幽鬼や死霊を召喚した際に発生する現象と一致する。その後の闘い方についても伝承と合致しておるしな。まぁ、フェールが魔法陣を消滅させた事には驚いたが、それだけ脆弱な魔法だったと考えれば、おかしくはない」

「ああ、動きが速くて連携したことには驚きだが、それでもなお、フェールが避け続けられたことを考えたら、対処できないほどではなかったようだしな」

「ええ、剣が斬られたということにも驚きましたが、安価で貧弱な剣だったようですし、あり得ない話ではないですね。ただ、気になるとすれば、殴った程度で体が弾け飛んだということぐらいでしょうか…」


 魔法師団長、騎士団長、ギルド長が思い思いに感想を述べる。皆、驚く点はあったようだが、概ね俺の話を肯定してくれている。

 そしてそれは、俺が魔物と闘ったことと、俺が恐慌状態でなかったことの裏付けでもある。


 それにしても、俺が知らなかっただけで、召喚時の現象も、彼らが使う武器や彼らが魔法を使うことも既知の事柄だったようだ。最初から知っていれば、あれほど苦労はしなかったのにと思わなくはないが、基本的に魔物の情報は秘匿されているので仕方ない。

 これは民衆に不要な不安を与えないための処置だそうだ。普段、見ることのない魔物の脅威まで知ってしまうと、無駄に怯えて生活することになる。どの道、一般市民が魔物に襲われれば一溜りもないのだから、未来の恐怖まで抱く必要はない。それよりも、魔物には自分で対抗せず、冒険者や騎士団に頼るように意識を向けさせる事の方が有意義である。

 このため、冒険者になれば、まず最初に魔物についての知識が教えられる。新人冒険者は、定期的に冒険者ギルドで開催される魔物講習会に参加することが義務付けされており、これに合格する必要があるそうだ。

 当然、教わったことを冒険者以外に話すことは固く禁じられており、これを破ると重い罰則が与えられる。


 まぁ、それはこれからのことだ。今、この場を乗り切らなければ訪れない未来に気を馳せても仕方ない。

 それより、最後にギルド長が呟いた点は、俺も不思議に思ったことなので、ここで俺の見解を補足しておく。


「俺も最初は、体が弾け飛んだのを不思議に思ったんですが、今は、召喚される魔物の技量が召喚者と同等だと考えれば納得できるかな、と思ってます。でなければ、速さにしても連携にしても魔法にしても、全てにおいて魔物たちの方が上でしたからね。殴って弾けるぐらいでないと負けていたのは俺の方だったと思うんで…」


 騎士団長、魔法師団長とギルド長の三人は俺の説明に一瞬、目を見開いた。


「ふむ。なるほどのぉ。確かにそうじゃな」

「ええ、魔物の体の脆さが弱点で、それが上回る強さと相殺されているということであれば、あり得そうですね」

「ああ、召喚者と同等の技量を持つ魔物が召喚されるように魔法陣が構成されていると聞いているからな。おかしなことではないな」


 俺の補足にも全員が同意を示してくれる。

 当然のことながら、ここにいる全員が魔法陣に組み込まれている術式を知っている。

 それに照らし合わせても、不自然さは見当たらないと考えていることが窺える。


「だが、そうだとすると…」

「ええ、そうですね…」

「ああ、そうであれば、召喚された魔物が覇気を発することは、あり得ないな…」


 全員が眉間に皺を寄せて思案顔で、一つの結論に辿り着いた。

 俺が召喚した魔物たちが魔王級ではなく、覇気など発することができないことに。

 もし、魔王級であるとするならば、魔法陣に構成されている『召喚者と同等の技量を持つ魔物を召喚する』という術式が機能しなかったことになる。この場合、『服従術式』だけが正常に機能したとは考え難い。それ以前に、魔物の召喚術式すら機能してないはずだと思われる。

 というか、俺が魔物を服従させている事実こそが、全ての術式が正常に機能したことを証明している。


「ちなみじゃが、今まで魔法陣に組み込まれている術式が機能しなかったことはないんじゃな?」


 魔法師団長がギルド長に視線を向ける。そこに特段の感情は込められていない。単なる確認だろう。

 これに対して、ギルド長は軽く首を振って、口を開く。


「ありませんね。もし、そんなことが起こっていたら、騎士団長や魔法師団長の耳に届いてるでしょうし」


 確かにその通りだ。

 今回も騎士団長に通報が行ったし、冒険者だけで対応できたしても、魔法陣が正常に起動しなかったことで、魔法陣の調査や修復を行う時点で、魔法師団長の耳には入っているはずだろう。

 それに受付嬢からも、今まで服従できなかった冒険者はいないと聞いている。


 ここで沈黙が訪れた。

 全員が同じ結論に達したことで、誰もが口を閉ざしたからだ。

 恐らく全員が今、考えていることは、共通してある一点のことについてだろう。


 さて、ここからどうしたものか…

 これ以上は俺が関係するところではない。

 とはいえ、俺も被害者なので、何故、アゼルさんが覇気を見たなどと言ったのかは気になる。

 関係はなくとも気になることは考えてしまうのが人の性である。俺もそれに漏れることなく、思考を巡らせて原因を考えてみたのだが、その時、ふと、あることが頭を過ぎったことで『あっ』と声を発してしまった。

 この沈黙の中では小さな呟きでも大いに目立つ。失敗したと思っても後悔は返ってこないのだ。

 当然のことながら、三人の注目を集めることになった。


「フェールよ。どうしたのだ?」


 思わず頭を抱えそうになる。


「あ、いえ…、ちょっと気になることがあったもので…」


 必然、答えも支離滅裂となってしまう。

 三人からの視線は相変わらず注がれたままとなっている。寧ろ、今までと違い歯切れが悪いことで、尚一層、注目された気がする。

 仕方ないか…。できれば言いたくなかったのだが、腹を括って発言することにする。


「いや、可能性の話なんですが…、いいですか?」


 可能性と聞いて、三人が何を思い浮かべたかは、彼らの表情を見れば一目瞭然だった。

 眉間に皺を寄せて、俺の言葉を吟味する心積もりが見て取れた。

 目は口程に物を言うとは、このことだろう。


「その前に、幾つか確認したいのですが、いいですか?」


 三人は頷きで返してくれる。

 いや。喋って欲しいんですけど! 無言で頷かれると物凄く喋り難いんですけど!

 まぁ、あの静寂の中、声を発した俺が悪いんですけどね…

 俺は心の中で愚痴りながらも、話を続ける。


「まず一つ目ですが、俺は今回の件で、俺の無実が証明されても、この後、冒険者になれるのか不安に思っています。本当に俺は冒険者になれるのでしょうか?」


 アゼルの言葉の重さ、俺が拘束された後の冒険者や騎士団の態度、ここへ来る途中に見た受付嬢の顔などを考えると、俺の無実は本当に受け入れられるのだろうかという不安。そして、そんな状況下で、俺は冒険者として活動していけるのかを問うてみた。

 騎士団長と魔法師団長がギルド長に視線を送る。専門家が答えろということだろう。

 これにしばし、ギルド長が腕を組んで熟考する。


「正直、難しいだろうな。できなくはないが、恐らくフェールが護衛などの依頼を受けることはほぼ不可能だろう。素材採取や魔物討伐なら受けられるかもしれないが、これも一人で受けるには困難な依頼が多い。そうなれば、冒険者として行えるのは依頼に頼らない素材採取や魔物討伐ぐらいになるだろうな…」


 誰しも怖いものには近付きたくない。そんな中、凶悪な魔物を従えている俺を護衛として依頼する者はほぼいない。それは、冒険者として一緒に行動する者も同じだ。俺と組む者もいないだろう。冒険者の仕事は多岐に渡るが、こうなると、人と接することが必要な依頼は悉く受けるのが難しくなる。これが例え真実とは異なる噂だったとしてもだ。しかも、その噂の元がアゼルというのも拍車を掛けるだろうと、ギルド長が教えてくれる。

 この回答に、騎士団長と魔法師団長が、顔を顰めて不愉快さを露わにする。


「その、依頼に頼らない素材採取や魔物討伐だけでは、活動が難しいということか?」


 騎士団長の疑問は当然だろう。

 できることがあるなら、それをすれば良いと思うのは誰しも考えることだ。


「そうですね。依頼でないものは需要がないってことなので、報酬が少なくなるんですよ。しかも一人で採取や討伐ができる範囲でとなると、手軽なものに限られるので、下手をすれば市場が飽和状態を起こして、買い取ることすらできなくなります。当面はそれで食い繋ぐとしても、破綻する前に信頼を取り戻して依頼を受けられるようにならないと厳しいでしょうね」


 なるほど。かなり細い糸は残されているが、掴み取るのが非常に難しく思える。

 ただ、俺の場合は、この細い糸を掴み取るしか生きる道はないので、やるしかないのだが。

 これは、今考えても仕方ない。今はまだ細い糸でも残されていることに希望を抱けるだけで充分だろう。


皆様、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

さて、元旦からこれを読んでいただいている皆様、本当にありがとうございます。

昨年末から投稿し始めた物語ですが、明日からも投稿をしていきますので、引き続きお読みいただけたら幸いです。



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