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世界の基点にいる平民とは?  作者: 御家 宅
第一章

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事情聴取の始まり

 騎士団庁舎の前まで辿り着くと、庁舎の門の両脇に立っていた騎士の一人が、足早に騎士団長の方に駆けてきた。


「騎士団長、御無事で何よりです」

「ああ、こちらも問題なかったか?」

「はい」


 走り寄ってきた騎士が騎士団長に声を掛け、短いやり取りが交わされる。

 騎士の安心した表情と言葉から、俺が召喚した魔物たちが、かなり凶悪な魔物だと思われていることが窺える。

 騎士団長と言葉を交わしていた騎士は、一瞬、こちらに鋭い視線を向けた後、踵を返して先程までいた門を警備するための所定の位置に戻っていく。既に門は残っていたもう一人の騎士によって開かれていた。

 俺たちは、その門をくぐり、騎士団庁舎の中へ入っていく。


 俺は、アゼルとギルド長が騎士団を招集したことの意味の重さを感じて、今更ながらに不安が大きくなる。

 憧憬を集めるアゼルと冒険者を纏める頂点が、騎士団を招集する。言葉にすれば簡単だが、彼らの信用があってこそ、証拠がないにも関わらず彼らの通報というだけで騎士団が動いたのだ。

 そしてそれは、瞬く間に街中に広がる。いや、もう既に広まっているだろう。『アゼルが凶悪な魔物を未然に防ぐために騎士団を招集した』と、アゼルの功績を称えるように。

 実際は、凶悪でもなんでもなく、俺が無抵抗で投降したわけだが、それを見ていたのは冒険者と騎士たちのみになっている。そして、その騎士や冒険者たちはアゼルの言葉を今尚信じている。

 もちろん、俺が魔物たちを従えていたことも広まるだろうが、既にアゼルの賞賛が広まっているところに加えて、彼らは『騎士とアゼルさんに恐れをなして投降した』『たまたま召喚魔術の服従術式が効いただけで、凶悪な魔物に違いない』といったアゼルの正当性を添えて広めることが容易に想像できてしまう。

 あの場では、こうして騎士団庁舎に赴くことが最善ではあったが、今となっては、あの場で無実を完全に証明できていればと思ってしまう。それでも、どれだけ改善されるか分からないが、少しはましだった気がする。


 俺は陰鬱な気持ちで騎士団に囲まれながら、庁舎の中を進んでいく。

 そうして辿り着いた先、目の前には大きく頑丈な石造りの建物が聳えていた。


「フェール」


 騎士団の先頭から俺を呼ぶ大きな声が聞こえる。

 それに合わせ、俺を取り囲んでいた騎士たちがざっと左右に移動し、俺の前に一本の道が出来あがった。

 俺の隣に立っていた騎士が、俺に向かって無言で顎を振って、できあがった道の方を指し示す。

 俺はそれに従い、騎士の鋭い視線に晒されながら、その中を進んでいく。

 俺が道を抜けると、そこには騎士団長が待っていた。その横にはアゼルとギルド長とニールがいる。


「フェール、ここは魔物を収容する施設だ。ここにお前の魔物たちを収容させたいが、良いか?」


 騎士団長は苦い顔をしながら、申し訳なさそうに問い掛けてきた。

 この問い掛けに対して俺に選択権はないが、騎士団長の表情に不思議な気分になる。


「はい。あいつらを連れてくればいいですか?」

「ああ、頼む」


 俺は騎士たちの中を引き返し、魔物たちを引き連れて戻ってくる。

 騎士団長はそれを確認すると、数人の騎士を伴い建物の中に入っていく。

 俺も魔物たちを連れて騎士団長の後に続いた。


 中に入ると、そこには檻が等間隔に綺麗に並べられていた。

 収容施設と聞いて俺の勝手な想像で、厳重な扉が備え付けられた牢屋のような部屋が並んでいると思っていたためか、その檻に少しばかり首を傾げてしまう。

 しかし、よく考えると人を収容するわけではないということに気付いて納得する。

 俺の従えた魔物たちが人型で綺麗な衣装を纏い言葉を喋るために、魔物という意識が薄れているようだ。


「すまんが、獣型の魔物用の収容施設しかないのだ。我慢してくれ」


 俺が檻を見て首を傾げたことに反応したのか、騎士団長が気遣った言葉を掛けてくれる。

 それに騎士たちが目を見開いて驚いた顔をした。

 普通に考えれば、騎士たちの反応が当然なのだろう。騎士団長の気遣いには嬉しく思うが、一方で騎士たちには少しばかり不愉快な気分になる。

 騎士団長が建物の前で申し訳なさそうにしていたのは、これが原因かと思い至り、俺は首を横に振って『ありがとうございます。でも、気にしないでください』と返答した。


「ふむ。では、この中に彼ら、…魔物たちを入れてくれるか」

「はい」


 騎士団長は一番奥にある一際大きい檻の扉を開いて、檻の中を指し示した。

 俺は魔物たちに指示を出して、檻の中に入るように促す。

 魔物たちが俺の指示に従い檻の中に入ると、騎士団長が檻の扉を閉め施錠した。


「ここで、おとなしく待っててくれ」

「「「は! お気をつけて行ってらっしゃいませ」」」


 俺が去り際に魔物たちに声を掛けると、魔物たちは、檻の中から俺の方に向かって深々と跪き、俺を見送ってくれる。

 こうやって接せられると、やはり魔物と思いながらも、人への感情と同じものが湧いてくる。

 目の色が違うだけで、それを除けば見た目は人間と全く区別がつかない。そのことも後押ししているのだろう。

 俺たちのやり取りに、騎士たちも怪訝な表情の中に不思議そうな顔を覗かせている。


 余談ではあるが、フェールが去った後、彼らがフェール談議に花を咲かせるのは、また別の話である。


 騎士団長を先頭に、俺たちが収容施設から出てくると、そこで待っていた騎士たちに向かって騎士団長が次々に指示を出す。


「では、数人の騎士を置いて解散しろ。アゼルとギルド長とニールの三人は俺の後についてくるように。先にこの三人から事情を聴くので、それが終わるまでフェールは別室で待っているように」


 騎士団長から指名のあった数人を除いて、騎士たちが散会する。

 その中で一人だけ、悔しそうに顔を歪めて拳を力強く握り込んでいる騎士がいる。彼は訓練場で騎士団長の隣にいた騎士だ。彼は騎士団長の隣にいたので、それなりに位の高い立場だと思うが、騎士団長に指名されなかったのか、去り際に俺の方を睨みつけて去っていった。

 いや、俺が睨まれても困るんですが…。完全な逆恨みに陰鬱な気分になり肩が落ちる。


 その後、俺は指名された騎士数人に導かれ別室に案内された。

 着いた先の部屋には、重厚な扉が備え付けられており、その扉には鉄格子が嵌った小さな窓がついている。

 騎士がその扉を開き、中に入るように促される。

 部屋の中には小さな木製の机と、その机を挟むように手前と奥側に椅子が置かれていた。

 騎士から奥側の椅子に座るよう指示されて、俺は静かに頷き椅子に腰掛ける。

 俺の背中側の壁にも鉄格子が嵌った小さな窓があり、そこから光が差し込んで、俺の影を机に映し出している。

 それを見届けると、『おとなしく待っていろ』と告げて、騎士たちが部屋から出て行った。


 一人残された俺は、椅子に座ったまま今日のことを思い返してみる。

 よくよく考えなくても、想定外のことばかりだな。

 順調だったのは、せいぜい魔法陣に魔力を込めるところまでだろうか。それにしても、予想以上に魔法陣が大きかったり、冒険者たちが観覧したことも想定外だった気がする。

 この後は、想定通りに進むだろうか?

 去り際の冒険者や騎士たちの顔や、ここへ来る途中に見掛けた受付嬢の顔を思い出して、無理だろうなぁ…っと溜息をついてしまう。

 俺は何も悪いことはしていないと思うのだが、どうしてこうなっているのだろうか?


 俺がやるせない気持ちでどうしようもないことに思考を巡らしていると、俺の影が机の向かいの端に届きそうになった頃、徐に部屋の扉が開かれた。差し込む陽の光も赤味を増していた。

 入ってきたのは二人の騎士。彼らは黙って俺の対面に追加で二脚の椅子を置くと、そのまま退室していった。

 俺の向かい側には三脚の椅子が並ぶ。それは、これから俺と話をする相手が三人だということを暗示している。


 程なくして、再び扉が開かれ、三名の人が入ってきた。

 一人はこの部屋に通される直前まで一緒にいた騎士団長。二人目は、綺麗で繊細な装飾が施されたローブを身に纏った初老の男性。そして、最後の男性は…、俺はその男性を見て、少しばかり驚いてしまう。


 三人は俺の表情に気付かないのか、俺の向かいの席に腰を下した。左から騎士団長、真ん中にローブを着た初老の男性、右側に最後に入ってきた男性が着席する。


「フェール、待たせたな。これからこの三名でお前の話を聞かせてもらう。改めて、俺は騎士団長をしているアルノルトだ。そして俺の左側が魔法師団長のガレリック。その横がお前も知っているだろうが、冒険者ギルドのギルド長をしているロイランだ」


 騎士団長は着席すると、これから俺と話をすることになる自分と他の二名の紹介をしてくれた。

 俺は騎士団長に理解した旨を示すために頷いた後、右側に座る男性に視線を向けて、殊更不思議そうに首を傾げた。


「フェール、どうした? ロイランがどうかしたのか?」


 騎士団長が俺の仕草を見て、不思議そうに問い掛けていた。

 魔法師団長も不思議そうな顔をしている。

 ただ、俺の視線を向けられているギルド長だけは怪訝な視線を俺に向け返しているが。


「いえ、これって俺から事情を聴取するのが目的ですよね?」

「ああ、そうだな。事の顛末を明らかにする必要があるため、お前には正直に全てを語ってもらうことになる」


 俺がこの話し合いの趣旨を確認すると、騎士団長が予想通りの回答を丁寧に教えてくれる。

 俺は、それを聞いて再度、大きく首を傾げてみせる。


「だったら、何故、ギルド長がおられるのですか?」

「なっ!」


 ここで俺は、先程の騎士団長の質問の回答を、敢えて質問で返す。

 ギルド長は憤慨した表情を顔に浮かべ、残りの二人は俺の質問を見定めるように目を細めて見つめてくる。


「フェール、どういう意味だ? ギルド長はお前の統括者として同席してもらったが、何か不服でもあるのか? お前は冒険者になるために登録試験を受けたのだろう?」


 確かに騎士団長の言う通り、俺は冒険者登録試験を受けた。

 そこに何一つ間違いはないし、俺が冒険者になるならば、ギルド長が俺の統括者になることにも異論はない。


「ええ、確かにその通りなんですけど、今の状況を考えるとちょっと納得できないというか…。というのも、俺は冒険者登録のために試験を受けたんですけど、俺が魔物たちを従えた時に周りに誰もいなかったんですよ。で、ここからは俺の予想なんですが、俺が召喚した魔物が凶悪だと判断したために、冒険者の方々が騎士団を招集して訓練場の前で待機していたんですよね?」


 俺の質問に騎士団長が『ああ、そうだな』と俺の予想を肯定してくれる。


「だったら、俺は見捨てられたことになりませんか?」


 俺のこの質問は誰も予想していなかったのか、全員が目を見開いている。

 それは驚きというより、隠れていた事実を突き付けられた時の表情に見える。

 その証拠に、誰一人として俺の言葉を否定してこない。


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