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悪役令嬢、残機3。  作者: 黒猫ている


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6/20

6:結ばれる絆。

一度目の人生で、我がウィズダム家を襲った悲劇。

それが誰によって引き起こされたものか──ようやく、明らかになった。


明らかにはなった……けれど、これからどうすればいい?

今の私は、十歳の子供だ。

書簡を証拠に助けを求めることも考えたが、握り潰されるのがオチだ。

ましてや、相手は王妃陛下。

下手をすれば、不敬の罪に問われかねない。


──慎重に動かなくてはいけない。

どうすればいい?

どうやったらお父様とお兄様を助けられる?


あの襲撃事件が起きたのは、領都でお祭りが開催されていた日だ。

公爵邸の騎士達が見回りの為に出払い、警備が手薄になった隙に、賊が侵入した──そう言われていた。


屋敷の中は、叔父様の息の掛かった使用人ばかりだ。

彼が本気になれば、警備体制などどうとでも変更出来る。


せめて、一人でも信頼出来る人が居てくれたらいいのに──。

こんな時ほど、幼い自分が恨めしく感じたことはなかった。




「レイ?」


声を掛けられ、はたと現実に引き戻される。

穏やかな朝の光が差し込む食堂。

豪華な机に向かい合って座るのは、大好きなユージーンお兄様。

毎日の朝食風景だ。


「また考え事?」

「あー……そうみたいです」


同じ色の瞳でじっと覗き込まれて、苦笑を零す。

どうも、お兄様には嘘が吐けない。

心配そうに見つめるお兄様の瞳に、心の奥底まで覗き込まれているような気がした。


「おいで、食後のお茶は僕の部屋でいただこうか」

「はい」


食事を終え、お兄様の部屋へとてくてく歩く。

差し出された手を取れば、自然と掌が繋がれる。


お兄様は私に歩幅を合わせて、ゆっくりと歩いてくれている。

……やっぱり、優しいなぁ。

お兄様ともお父様とも、ずっとこうして一緒に居られたらいいのに。


「で、何を悩んでいるの?」

「えぇと……」


お茶を並べてすぐ、侍女達は部屋を辞した。

後に残されたのは、私とお兄様の二人。

真っ直ぐに見つめられて、もはや逃げることは叶わない。


「お兄様は……もし危険から身を守りたいと考えたら、どうなさいますか?」


仕方ないので、素直に聞いてみることにした。

お兄様の意見は、きっと参考になるから。


「それは勿論、護衛を付けるけれど」

「……その護衛が、頼りにならないとしたら?」


私の言葉に、お兄様の眉毛がピクリと跳ねる。

それが何を意味しているか……お兄様なら、既に勘付いているのではないだろうか。


「レイは、今の護衛では不安?」


お兄様の言葉に、ゆっくりと頷く。

王妃陛下の命が出ている以上、叔父様が何かしら行動を起こすことは確実だ。

きっと、決行は──領都で祭りが行われる日。

他領から訪れる人も多い為に外部の人間の仕業にしやすく、かつ、領都の見回りで最も屋敷の警備が手薄になる日だ。


ただでさえ、この屋敷には叔父様に忠誠を誓っている人が多い。

そんな中で、叔父様が行動を起こした場合──どの程度の人が、私達を守ってくれるだろうか。


「んー、そうか。それなら、今日は一緒にお出かけをしようか」

「お出かけ……ですか?」


首を傾げる私に、お兄様が優しく微笑みかけてくれる。

お兄様がそんなに優しくて、頼もしいから……つい、甘えてしまいそうになるんだ。




「ここは……?」


お兄様に案内され、公爵家の馬車で向かった先は、領都の外れにある小さな一軒家だった。

ガタン、ゴトンと揺れる馬車の中から、外の景色を眺める。

この家で、誰かが暮らしているのだろうか。


「家に居てくれると良いのだけれど」


馬車が停まった後、お兄様が先に降りて、私に手を差し出してくれる。

エスコートまで完璧だなんて、流石はお兄様。

きっと社交デビューしていたなら、さぞかしモテたことだろう。


「誰の家なのですか?」

「ああ、ここは……」


言いかけて、お兄様の足が止まる。

ガチャリと扉が開いて、家の中から誰かが出てきたからだ。


「誰だ……って、公爵家の馬車!?」


姿を現したのは、三十過ぎくらいの騎士らしき男性だった。

短く刈り込んだ赤毛と、引き締まった身体付き。

隙のない身のこなしからは、相当に鍛えているのだろうと窺える。


彼は馬車を目にして一瞬緑色の瞳を瞬かせた後、こちらに視線を向けた。


「一体、どうして……って、ひょっとしてユージーンお坊ちゃまですか?」

「ああ、久しいな、ヒギンズ卿」


男性に向けられたお兄様の声は、親しみが籠もっていた。

どうやら彼はヒギンズ卿というらしい。


「……ということは、ひょっとしてこちらの女性は……」

「ああ。僕の妹、レイチェルだ」


彼の視線が、私を貫く。

まん丸く見開かれた瞳は、驚きとも、喜びとも、悲しみともつかない……その全てが綯い交ぜになったかのような、複雑な色を浮かべていた。


「ヒギンズ卿とおっしゃるのかしら。初めまして、レイチェル・ウィズダムと申します」


優雅に一礼すると、彼は驚いたように息を呑んだ。

何をそんなに驚くことがあるのだろう。

不思議に思いながらも、顔を上げて彼の様子を窺う。


「そう、ですか……あの小さかったお嬢様が、こんなに大きくなって……」

「あら、初めましてではなかったかしら」


首を傾げたなら、彼はふわりと表情を綻ばせた。


「覚えていないのも、無理はありません。私が最後にお会いしたのは、お嬢様が三歳くらいの頃でしたから」


私が三歳の頃……というと、もう七年も前だ。

流石にその頃に会った人のことは、あまり良く覚えていない。


「ヒギンズ卿は、お母様の護衛騎士だったんだ」

「そうなのですか」


お兄様の話に、合点が行った。

私達のお母様が亡くなったのが、丁度七年前。

馬車の事故に巻き込まれて亡くなったと聞いている。


七年前を最後に、屋敷を後にした護衛騎士……ひょっとして、彼はお母様の死に責任を感じて、職を辞したのだろうか。


思い立って、彼のステータスを覗いてみる。

表示されたステータスは、彼がかなりの戦闘力を有していることを表していた。


それより何より、もっとも気になった項目──。


『忠誠心:S(対象:ダニエル・ウィズダム、ミラベル・ウィズダム)』


初めて目にする『忠誠心:S』の文字。

そして、その対象には──お父様と、亡くなったお母様の名前が書かれていた。



間違いない。

彼こそ、今、私が最も必要としている人物だ──!

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