19:隠せぬ輝き。
楽しい学園生活。
これから三年間を過ごす学び舎。
今回はエルトン殿下との婚約もお断りして、ごく普通の生徒として、目立たず、静かに過ごす……はずだったというのに。
教室に入るなり、クラス中の視線がこちらに集まった。
令息達はどこか浮つき、令嬢達は鋭い視線を投げかけてくる。
それもこれも、全てはエルトン殿下のせいだ。
彼が午餐会で私に婚約を断られたことを仄めかしたものだから、すっかり噂の的になってしまった。
さらには、その後にアイヴァン殿下と席を並べて話し合っていたものだから、たちが悪い。
“二人の殿下を手玉に取る悪女”──なんて、見事な脚色だこと。
どうして私が、そんな三文芝居の主役みたいに扱われなきゃならないのかしら。
ま、所詮は噂。
そのうち薄れていくものでしょう。
殿下達もそのうち婚約者を決めて、発表されるのでしょうし。
我が家は初志貫徹、どちらの味方に付くでなし、中立を貫き通すのみ。
その為には、私も片方に肩入れしていると誤解されないように気をつけなければいけないわね。
私の行動一つで、周囲に誤解を与えてしまうこともある。
今回のことは、良い勉強になったと思いましょう。
勉強と言えば、この世界のアカデミーでは魔術の授業がある。
魔法が使えるファンタジー世界とはいえ、誰もが使える訳ではない。
とはいえ、貴族の子弟は魔術の素養がある者が多いんですって。
アカデミーで教えてくれるのは、基礎的な四大属性の魔術。
いわゆる地水火風の、四つの属性ね。
大勢の生徒に教える都合上、授業では四大属性に絞られている。
けれど、例外もある──ルイザの付与属性のように。
四大属性以外に才能がある者は、その才能を伸ばすことを認められるけれど、それ以外の者達は、まずは四大属性を使いこなすところから始める。
前の人生、私はこの魔術の授業が苦手だった。
どれだけ集中しても、どれだけ魔力を練っても、まともに術を発動出来ないんだもの。
自分には魔術の才能が無いんだと、落ち込んだこともある。
何度も何度も挑戦しては、結果が出ずに涙を堪え続けていた。
でも、時間が巻き戻って、自分のステータス画面を見られるようになって──気付いたんだ。
魔術の授業が苦手だったのは、私の得意属性が四大属性では無かったから。
ただそれだけの理由で、自分を落ちこぼれだと思っていた。
当時の私に、教えてあげたいくらいだわ。
エルトン殿下の婚約者でありながら、苦手な教科があることに、酷く胃を痛めていた。
否定されることに敏感で、何でも完璧にこなさなきゃいけないって、常に気を張り続けていたから……今思えば、馬鹿みたい。
一方面で否定されたからといって、自分の全てが否定される訳では無いというのに……もっとも、あの頃は王子の婚約者である私の足を引っ張ろうとする人達が多かったから、少しでも欠点を見せてしまえば、徹底的にあげつらわれた。
面倒な話だわ。
今世では、そんな煩わしさからは解放されて生きていくつもりだけれど……あの時の私に、教えてあげたい。
貴女は、落ちこぼれなんかじゃなかったんだよって。
ちゃんと、才能に恵まれていたんだもの。
「先生、四大属性以外の属性魔法を使いたいのですが、そちらでも構いませんか?」
初めての魔術の授業。
生徒達の魔力を測定する為に、まずは簡単な魔術を発動させる。
「ほう、ウィズダム公爵令嬢は、自分が得意な属性を既に知っているのかい? だったら、好きに発動してみるといい」
「ありがとうございます」
担当教師に許可を取って、魔力を練る。
魔力の練り方、魔術の発動については、前世で嫌というほど練習したもの。
そのほとんどが、実にならなかったけれど……今は、違う。
自分のステータスを知った今なら、魔術だって、好きに扱うことが出来る。
「ほぉ……」
拳を握り、胸の奥から魔力を練り上げる。
空気がピンと張りつめ、訓練場の喧騒が一瞬で遠のいた。
次の瞬間──眩い雷光が、両手の間から空高く迸った。
耳の奥を打つ轟音と、焦げた空気の匂い。
訓練場が一瞬、静まり返る。
「雷魔法か、これは珍しい!」
魔術科の教師が、顎を撫でて感心する。
そう、私が得意な魔術は──雷属性。
メジャーな四大属性からは外れた、レアな属性と言える。
魔術による攻撃だけではなく、相手を感電させることも出来る為、防御にも優れた属性だ。
こんな便利な魔術が使えることを知らなかった前世は、実に勿体ないことをした。
とはいえ、レアな属性過ぎて、習う相手を探すのも大変そうだけれど。
「君は他の生徒達とは別のカリキュラムを用意した方が良さそうだ。考えてみるから、少し待っていてはくれないか」
「承知いたしました」
先生に頭を下げて、訓練場の端へと移動する。
他の生徒達から向けられる視線が、心地よい。
……前は馬鹿にするような視線ばかりだったものね。
二度目のアカデミー生活、なかなか良いスタートが切れたのではないかしら。
もっとも、向けられる視線は、羨望ばかりではない。
中には突き刺すような視線も、含まれている。
目立ち過ぎるのは、悪手……ってことなのでしょうね。
午餐会の時といい、魔術の授業といい、少々やり過ぎてしまったのかもしれない。
出る杭は打たれるとならないように、気をつけなければ。
そうして、始まったアカデミー生活。
最初に行われる行事は、春の林間合宿──皆でキャンプをして、集団生活を学ぶ為の行事だ。
貴族子弟ばかりのアカデミーでは、この林間合宿で初めて自炊をする生徒も多いという。
四人一組となって、班ごとに行われるこの林間合宿。
ルイザと一緒の班を希望したのは当然だが、残る二人──なんとセシリアと、彼女の取り巻きでもあるエマ・マッソン子爵令嬢と同じ班になってしまった。
山中で行われる、二泊三日の合宿……何も起きなければ良いのだけれど。
「同じ班になれて嬉しいですわ、ウィズダム公爵令嬢」
いつになくにこやかなセシリアの笑顔が、やけに空々しく感じられた。
春の陽光の下でさえ、その瞳だけは鈍い光を帯びている気がした。









